序
Preface
わが国の高齢社会が定着した昨今,国民が心身ともに健康であることは,個人の価値として最重要であるとともに,社会全体の質的向上にも大きな影響を与えはじめている.そして,そのなかで「口腔と全身の関連性」への社会的関心も高まり,メディアなどでもたびたび取り上げられるようになってきた.その例を挙げると,「咀嚼と全身の健康との関わり」「口腔(顎位)と姿勢との関わり」「笑うことと全身の健康との関わり」などであろう.これらの事柄を歯科の専門用語で表現するならば,「適正な顎位および咬合から得られる機能と,社会におけるコミュニケーションの発現元となる口腔,とりわけ歯牙を適正な形態と色彩により回復することは,全身の健康に大きく寄与している」ということになる.
2009 年に発刊された本誌別冊『Fundamentals of Esthetic Dental Technology ─審美歯科技工の原理・原則』では,“審美歯科とは「形態と色彩,機能」を調和させることである”という定義を確認した.本書では「総義歯」,また,インプラントを使用せずに構成する「部分床義歯」の形態・色彩・機能について再考し,これらを臨床の現場で,より調和した状態で再現するために必要な事項を,歯科技工術式を中心にまとめてみた.
前述の定義にあてはめてみると,形態・色彩・機能の調和が図られた総義歯や部分床義歯は,おのずと「審美的な義歯」となり,また,患者の心身の健康に大きな好影響をもたらす.適正な補綴装置を製作するためには,歯牙一本一本の解剖学的形態を理解し,それらの歯牙から構成される歯列をバランスよく配置し,さらに上下顎の歯牙の接触関係を作り出さなければならない.この最大規模の応用の一つが「総義歯」といえ,さらに口腔内での義歯の動きの抑制を図るための設計や構造体の製作が加わったものが「部分床義歯」となろう.これらはきわめて製作の難しい補綴装置ではあるが,それが成功したときには,その「審美的な義歯」が社会的に大きな役割を果たすことを,われわれ歯科技工士は深く認識すべきであろう.本書が,そのための一助になれば幸いである.
本書の編者は日本歯科審美学会の歯科技工認定士であり,執筆者は日本歯科審美学会の歯科技工認定士,歯科衛生認定士,認定医,そしてその取得のために日々努力をされている方がたで構成されている.本書を手にとられた若き歯科医療従事者の方がたにも,こうした学会活動への積極的な参画と,日本歯科審美学会をはじめ多くの学会で行われている認定制度の活用や称号取得を願ってやまない.
日本歯科審美学会 歯科技工認定士
石川功和
鍜治田忠彦
中込敏夫
巻頭言
本書は,総義歯および部分床義歯の製作にあたっての形態,色彩,機能,そしてこれらの相互の関係に関するさまざまな情報と,それを根拠にした操作を紹介する全く新しい切り口のマニュアルとして刊行された.「審美歯科技工 基本の叢書」の一環として,多くのエキスパートの熱心な執筆を得て刊行されたものである.
歯科医療・医学の発展は,歯冠,歯列の欠損修復治療の発展とともにあり,また,修復治療が歯科医療・医学の発展に大きく貢献してきたことは多くが認めるところである.患者から痛みを取り除き,咀嚼と外観を回復して患者を救うことは,歯科医療に関わるすべての従事者の基本的な責務であり,また,その責務が果たされたときの喜びはひとしおである.しかし昨今,この咀嚼,発音,外観などの最低限度の機能の回復のみでは,患者の身体的な苦痛と悩みを取り除き,健康を「かろうじて回復する」だけであって,患者の“心の健康”を含めたより質の高い健康生活への要望に応えることができなくなってきた.
「野戦病院のような一方通行で対症的な」診療でなく,綿密な検査や診断に基づいた治療および定期的なメインテナンスを伴う患者・疾病管理型の歯科医療こそが,患者の健康の維持と増進に必要であることが患者側,医療者側の両者に認識されてきている.すなわち「Drill & Fill(削って詰めるだけ)」あるいは「抜いて入れ歯を作るだけ」の歯科医療では,新しい時代に対応しきれなくなっている.本書で取り上げる床義歯は,その多くが壮年期以降の高齢者に用いられるものではあるが,「高齢社会=入れ歯,老人=入れ歯」という安易な考えのもとで作った「儼める」だけのものでは,もはや患者の満足が得られないことは明らかである.
より高い自然感を持ち,患者の心身両面の健康を表現するような,そして患者が笑顔を取り戻すことができるような,機能と審美性がバランスよく回復された高品質の総義歯を提供することが求められている.その結果として,患者の生活の質を一層高め,いわゆる「健康寿命」を伸ばすことが,われわれ歯科医療従事者の使命となっている.人びとの「美しい加齢」と「心豊かな生活」を支えることこそ,総義歯・部分床義歯を含めた歯質・歯列欠損修復の究極の目標が達成される.
本書では,日本歯科審美学会の教授要項にも掲げられている「顎口腔における形態美・色彩美・機能美の調和を図り,人々の幸福に貢献」する総義歯・部分床義歯について,特にラボサイドにおける技術解説が詳細かつ系統的に展開されている.歯科技工士のみでなく,歯科医療に携わるすべての者が,新たな時代の歯列欠損の修復治療のあり方と,そのための総義歯・部分床義歯製作の方法について,本書を参考にして学んでいただければ幸いである.
最後に,歯科審美学に基づいたこのような素晴らしい,示唆に富む一冊を製作されるにあたり,その企画から執筆に粉骨砕身の努力をされた編者各氏とすべての執筆者に心からの敬意を表し,日本歯科審美学会第九代会長に就く者として御礼申し上げたい.本書が,新たな時代の審美歯科治療,審美的な床義歯製作に必ずや大きな貢献を果たすものと強く信じている.
日本歯科審美学会副会長・次期会長
日本歯科審美学会認定医
愛知学院大学歯学部保存修復学講座
千田 彰
Preface
わが国の高齢社会が定着した昨今,国民が心身ともに健康であることは,個人の価値として最重要であるとともに,社会全体の質的向上にも大きな影響を与えはじめている.そして,そのなかで「口腔と全身の関連性」への社会的関心も高まり,メディアなどでもたびたび取り上げられるようになってきた.その例を挙げると,「咀嚼と全身の健康との関わり」「口腔(顎位)と姿勢との関わり」「笑うことと全身の健康との関わり」などであろう.これらの事柄を歯科の専門用語で表現するならば,「適正な顎位および咬合から得られる機能と,社会におけるコミュニケーションの発現元となる口腔,とりわけ歯牙を適正な形態と色彩により回復することは,全身の健康に大きく寄与している」ということになる.
2009 年に発刊された本誌別冊『Fundamentals of Esthetic Dental Technology ─審美歯科技工の原理・原則』では,“審美歯科とは「形態と色彩,機能」を調和させることである”という定義を確認した.本書では「総義歯」,また,インプラントを使用せずに構成する「部分床義歯」の形態・色彩・機能について再考し,これらを臨床の現場で,より調和した状態で再現するために必要な事項を,歯科技工術式を中心にまとめてみた.
前述の定義にあてはめてみると,形態・色彩・機能の調和が図られた総義歯や部分床義歯は,おのずと「審美的な義歯」となり,また,患者の心身の健康に大きな好影響をもたらす.適正な補綴装置を製作するためには,歯牙一本一本の解剖学的形態を理解し,それらの歯牙から構成される歯列をバランスよく配置し,さらに上下顎の歯牙の接触関係を作り出さなければならない.この最大規模の応用の一つが「総義歯」といえ,さらに口腔内での義歯の動きの抑制を図るための設計や構造体の製作が加わったものが「部分床義歯」となろう.これらはきわめて製作の難しい補綴装置ではあるが,それが成功したときには,その「審美的な義歯」が社会的に大きな役割を果たすことを,われわれ歯科技工士は深く認識すべきであろう.本書が,そのための一助になれば幸いである.
本書の編者は日本歯科審美学会の歯科技工認定士であり,執筆者は日本歯科審美学会の歯科技工認定士,歯科衛生認定士,認定医,そしてその取得のために日々努力をされている方がたで構成されている.本書を手にとられた若き歯科医療従事者の方がたにも,こうした学会活動への積極的な参画と,日本歯科審美学会をはじめ多くの学会で行われている認定制度の活用や称号取得を願ってやまない.
日本歯科審美学会 歯科技工認定士
石川功和
鍜治田忠彦
中込敏夫
巻頭言
本書は,総義歯および部分床義歯の製作にあたっての形態,色彩,機能,そしてこれらの相互の関係に関するさまざまな情報と,それを根拠にした操作を紹介する全く新しい切り口のマニュアルとして刊行された.「審美歯科技工 基本の叢書」の一環として,多くのエキスパートの熱心な執筆を得て刊行されたものである.
歯科医療・医学の発展は,歯冠,歯列の欠損修復治療の発展とともにあり,また,修復治療が歯科医療・医学の発展に大きく貢献してきたことは多くが認めるところである.患者から痛みを取り除き,咀嚼と外観を回復して患者を救うことは,歯科医療に関わるすべての従事者の基本的な責務であり,また,その責務が果たされたときの喜びはひとしおである.しかし昨今,この咀嚼,発音,外観などの最低限度の機能の回復のみでは,患者の身体的な苦痛と悩みを取り除き,健康を「かろうじて回復する」だけであって,患者の“心の健康”を含めたより質の高い健康生活への要望に応えることができなくなってきた.
「野戦病院のような一方通行で対症的な」診療でなく,綿密な検査や診断に基づいた治療および定期的なメインテナンスを伴う患者・疾病管理型の歯科医療こそが,患者の健康の維持と増進に必要であることが患者側,医療者側の両者に認識されてきている.すなわち「Drill & Fill(削って詰めるだけ)」あるいは「抜いて入れ歯を作るだけ」の歯科医療では,新しい時代に対応しきれなくなっている.本書で取り上げる床義歯は,その多くが壮年期以降の高齢者に用いられるものではあるが,「高齢社会=入れ歯,老人=入れ歯」という安易な考えのもとで作った「儼める」だけのものでは,もはや患者の満足が得られないことは明らかである.
より高い自然感を持ち,患者の心身両面の健康を表現するような,そして患者が笑顔を取り戻すことができるような,機能と審美性がバランスよく回復された高品質の総義歯を提供することが求められている.その結果として,患者の生活の質を一層高め,いわゆる「健康寿命」を伸ばすことが,われわれ歯科医療従事者の使命となっている.人びとの「美しい加齢」と「心豊かな生活」を支えることこそ,総義歯・部分床義歯を含めた歯質・歯列欠損修復の究極の目標が達成される.
本書では,日本歯科審美学会の教授要項にも掲げられている「顎口腔における形態美・色彩美・機能美の調和を図り,人々の幸福に貢献」する総義歯・部分床義歯について,特にラボサイドにおける技術解説が詳細かつ系統的に展開されている.歯科技工士のみでなく,歯科医療に携わるすべての者が,新たな時代の歯列欠損の修復治療のあり方と,そのための総義歯・部分床義歯製作の方法について,本書を参考にして学んでいただければ幸いである.
最後に,歯科審美学に基づいたこのような素晴らしい,示唆に富む一冊を製作されるにあたり,その企画から執筆に粉骨砕身の努力をされた編者各氏とすべての執筆者に心からの敬意を表し,日本歯科審美学会第九代会長に就く者として御礼申し上げたい.本書が,新たな時代の審美歯科治療,審美的な床義歯製作に必ずや大きな貢献を果たすものと強く信じている.
日本歯科審美学会副会長・次期会長
日本歯科審美学会認定医
愛知学院大学歯学部保存修復学講座
千田 彰
序……1
巻頭言 千田 彰……4
序章 床義歯と審美
義歯の形態・色彩・機能と,そのための技工術式(鍜治田忠彦)……6
第1章 総義歯の形態・色彩・機能
(1) 総義歯治療における歯科医師と歯科技工士の役割(向井道夫)……16
(2) 人工歯(石川功和)……28
(3) 排列(須藤哲也)……38
(4) 床(中込敏夫)……56
第2章 部分床義歯の形態・色彩・機能
(1) 部分床義歯の設計と生体支持組織の力学的構造(長岡英一)……68
(2) クラスプとコネクター(沖本祐真)……84
(3) アタッチメントデンチャー(大畠一成)……100
(4) コーヌスクローネ(澤畠孝重)……110
付録 高齢患者とのコミュニケーション
床義歯製作に携わる歯科技工士に知っておいていただきたいこと(黒岩紀子)……122
巻頭言 千田 彰……4
序章 床義歯と審美
義歯の形態・色彩・機能と,そのための技工術式(鍜治田忠彦)……6
第1章 総義歯の形態・色彩・機能
(1) 総義歯治療における歯科医師と歯科技工士の役割(向井道夫)……16
(2) 人工歯(石川功和)……28
(3) 排列(須藤哲也)……38
(4) 床(中込敏夫)……56
第2章 部分床義歯の形態・色彩・機能
(1) 部分床義歯の設計と生体支持組織の力学的構造(長岡英一)……68
(2) クラスプとコネクター(沖本祐真)……84
(3) アタッチメントデンチャー(大畠一成)……100
(4) コーヌスクローネ(澤畠孝重)……110
付録 高齢患者とのコミュニケーション
床義歯製作に携わる歯科技工士に知っておいていただきたいこと(黒岩紀子)……122