やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 近年の歯科治療は,必要最小限範囲での治療(処置)で回復を図るMI(minimal intervention)という概念に基づき行われるようになってきた.一般歯科医院の治療においても一歯を大切にした(重要視した)治療が増加している.そこで歯科修復治療を行う際にも,対象歯が歯列という“一口腔単位“の形態・機能のベースの上に成り立つ“一歯”であるという認識で,口腔の機能・審美性の回復を考慮した修復装置を製作することが必要となる.すなわち,一歯の形態・特徴を基にして造形することが口腔全体の機能ならびに審美性の回復につながることとなる.
 人体を構成する全ての臓器・器官は,機能に適した形態をとっている.このことを常に念頭において,修復治療・修復装置製作にあたる必要がある.機能を踏まえた適切な修復装置により形成された生物学的歯冠形態“biological crown contour”は,歯周組織の健康を保ち,適切な発音・咀嚼・唾液分泌・嚥下などの口腔機能を回復することにつながるものと考える.
 本書では,歯冠形態のみではなく,歯根形態・歯周組織を含めた口腔としての機能と構造を探究した.それに基づいた治療・修復装置製作を行うことにより,本来あるべき口腔の生理機能を侵襲することなく,口腔健康を維持・向上させうると考えられる.さらに,歯冠修復装置を製作する際に,歯の形態を立体的にイメージできるよう各歯種の形態を三次元的に明示するとともに,チェアサイド・ラボサイドにおける手技にも留意し解説した.
 そこで,臨床の場で活躍されている歯科医師,歯科技工士,歯科衛生士のみならず,学生の方がたにも本書を活用していただけると幸いである.
 2008年8月
 編集委員(五十音順)
 井出吉信(東京歯科大学解剖学講座)
 桑田正博(愛歯技工専門学校)
 西川義昌(代々木上原デンタルオフィス)
 序(井出吉信・桑田正博・西川義昌)
 Graph 上下全顎の歯冠形態ワックスアップ(桑田正博)
 目次
 執筆者一覧
Part1 Proposal Talk 生体にとって本当にあるべき“生物学的歯冠形態”を探る
 1.Introductory Lecture 「生体の形態と機能」(井出吉信)
 2.Proposal Discussion 「臨床から見直す生体にとってあるべき“生物学的歯冠形態”」(桑田正博・西川義昌)
 ☆Standards for Biological Crown Contour
  (1)3プレーンコンセプト(桑田正博)
  (2)カントゥアガイドライン(桑田正博)
  (3)三角構造の理論(桑田正博)
  (4)骨格技法(桑田正博)
  (5)骨格技法および三次元的形成法による機能的ワックスアップ(桑田正博)
  (6)支台歯形成のポイント(西川義昌)
  (7)プロビジョナルレストレーションによるサブジンジバルカントゥアの決定(西川義昌)
Part2 Basic Bio Imaging ヒトの生体における歯周組織と歯冠形態
 1.歯周組織の解剖と生理(齋藤 淳・上松博子・井出吉信)
 2.上顎各歯の平均的形態(松永 智・大橋卓史・井出吉信)
 3.下顎各歯の平均的形態(松永 智・大橋卓史・井出吉信)
 4.単独歯の歯冠・歯根形態の解剖
  (1)上顎中切歯(井出吉信・松永 智)
  (2)上顎第一小臼歯(井出吉信・松永 智)
  (3)上顎第一大臼歯(井出吉信・松永 智)
 5.歯間乳頭部の解剖(井出吉信)
Part3 Clinical Bio Imaging 生物学的歯冠修復装置製作のための各歯の見方・とらえ方
 1.上顎中切歯の見方・とらえ方(桑田正博・西川義昌)
 2.上顎第一小臼歯の見方・とらえ方(桑田正博・西川義昌)
 3.上顎第一大臼歯の見方・とらえ方(桑田正博・西川義昌)
Part4 Clinical Practice 生物学的歯冠形態をつくる
 1.一歯の修復治療における生物学的歯冠形態構築のプロセス(大西一男)
 2.部位別各歯の修復例に見る生物学的歯冠形態構築のポイント
  (1)1修復症例(久木田昌隆)
  (2)5修復症例(久木田昌隆)
  (3)6修復症例(兒玉敏郎)