やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 歯科医療ではほかの一般医療に先行して,材料を多用してきた歴史があります.前世紀には各材料や成形加工技術が著しく進歩し,歯科医療を材料の分野が牽引してきたといっても過言ではありません.そのなかで,歯科技工士は歯科医療装置製作の専門職として発展してきました.
 20世紀の後半から「生体材料(バイオマテリアル)」が一般の医療でも注目されてきたことで,材料を使用するのは歯科の専売特許ではなくなり,広範な医療に応用されるようになってきました.生体材料から製作され,生体の一部に直接装着する装置は薬事法で安全性が審査されますが,歯科材料や修復物,補綴物もこの範疇に入ります.
 21世紀の医療は,従来の救急・救命の医療に代わり,生活習慣病に代表されるように,患者さんが病気と共存しつつ,生活の質(QOL=Quality of Life)を向上するための医療の比重が高くなります.また,わが国では超高齢社会を迎えて,歯科医療においては,口腔機能の保全により国民の長寿健康に貢献することが求められています.したがって,従来からの歯科医療に加えて,積極的に健康を育成していく医療(快適歯科医療,アンチエイジング歯科医療)と,障害に対する口腔機能回復のリハビリテーション医療が必要とされます.そのなかで,「歯科医療装置」の製作に携わる歯科技工士の重要性もますます高まるでしょう.ゆえに,その業務内容も,時代の要請に応じて変えていく必要があります.
 多様化する歯科医療装置の製作に歯科技工士が責任を持って対応するためには,
 (1)従来の技工技術の高度化,専門化
 (2)新しい製作システム,加工技術の修得と導入
 (3)歯科医師,歯科衛生士など他職種とのチーム医療の推進
 が必要になります.
 また,国民の視点に立てば,われわれ歯科医療従事者が供給する歯科医療装置にはより一層の質が求められるものと考えられますが,そのような状況のなかで,供給サイドには
 (1)個別の患者さんの要求にきめ細かく対応できること
 (2)安全性と一定の機能期間の保証ができること
 (3)特に保険適用の医療用具に関しては適正なコストで提供できること
 などが必要となります.したがって,歯科技工士はこれまで以上に歯科医療装置製作の専門家として,研鑽を積んで行かなくてはいけません.
 そこで本書は,歯科技工士が専門家として,歯科医療の現場で使用される材料と成形加工技術の基本を正しく理解し,新しい材料や技術に対して自ら正しい評価を行い,生涯にわたって積極的に新しい材料や技術の導入に挑戦していくことを援けるべく企画・製作されました.
 材料は正直です.その特性を正確に理解し,十分に生かす成形加工法を用いて,国民の健康に貢献する歯科医療装置を提供しましょう.
 本書が,現場で活躍する歯科技工士の生涯教育の一助として活用されることを期待します.
 2006年11月吉日
 昭和大学歯学部歯科理工学教室
 宮崎 隆
 玉置幸道
Part1 歯科材料とは?
 1.歯科材料の分類
 2.歯科材料の性質
  (1)歯科材料の力学的性質
  (2)歯科材料の生物学的性質
Part2 間接法による補綴物製作に用いる歯科材料
 1.印象材
 2.模型材
 3.パターン材
Part3 埋没と鋳造,研磨
 1.埋没材
  (1)石膏系埋没材
  (2)リン酸塩系埋没材
 2.鋳造
 3.研磨
  (1)除去加工のメカニズムと工具の特徴
  (2)表面の処理
Part4 歯科用合金と歯科技工
 1.金属の各種加工法
 2.歯科用合金
  (1)金属と合金のミクロの構造
  (2)金合金の構造と物性
  (3)金合金の展望と銀合金の位置付け
Part5 歯科用レジン材料と歯科技工
 1.歯科用レジンの基本と進歩
 2.新しいレジン系歯冠修復材料の特性
 3.レジン系歯冠修復材料の劣化と接着技術
Part6 歯科用セラミックス材料と歯科技工
 1.ポーセレン粉末の構造と焼成のメカニズム
 2.セラミックス材料の進歩と展望
Part7 新技術と新素材
 1.歯科用CAD/CAMシステム
 2.電鋳(エレクトロフォーミング)
 3.メタルフリーレストレーション
 4.ファイバーポスト
 5.新しい接着技法
Break
 (1)応力の単位はややこしい?
 (2)“粘性”とは?
 (3)印象の撤去はすばやく一気に!
 (4)印象材と模型材の親和性
 (5)硬石膏とは?
 (6)シリカとは!?
 (7)リン酸とその仲間
 (8)コロイダルシリカ