はじめに
関根龍一
未曾有の高齢多死社会を迎えたわが国では緩和医療に対するニーズが今後も増えることが予想される.本企画を担当するにあたり,成人の進行がんを対象に発展してきたわが国のホスピス・緩和医療に大きな変化の波が押し寄せている現状を説明する.
まず第1は,緩和医療の対象者の変化である.すなわち,今後の緩和医療は成人の進行がんのみを対象とするのではなく,年齢,疾患を問わず,重篤な病を持つすべての人とその家族のサポートの実践が求められる.この変化は,WHO(世界保健機関)が緩和医療をUniversal Health Coverageの一部とみなしていることに一致する.この目標の実現には,専門家による緩和医療の土台として,各疾患の治療にあたる現場の医療者が,自ら,疾患治療と並行して基本的な緩和医療(一次緩和医療)を実践する医療提供体制が不可欠である.
第2は,救急・集中治療領域と緩和医療の協働である.米国では,救命・集中治療に抵抗性の回復困難な病態と判断された場合に,延命目的の積極的治療から,Comfort Measures Only(CMO;苦痛緩和のみの方針)への治療方針へ変更となる.その際に主治医から緩和ケアチームへ連絡が入り,緩和ケアチームは,主治医と連携しながら家族面談を主導もしくは支援し,治療方針変更の過程で生じる困難なコミュニケーション場面の調整役や心理支援の役割を担う.わが国でも急性期治療の最前線で,ハイリスク患者が延命治療を一定期間試したものの治療抵抗性の病態に至るケースが今後増加することが予想され,同領域への支援体制強化が課題である.
第3は,各地域における施設間連携の強化である.がんのみでなく,さまざまな疾患を有する患者の晩年/最晩年の治療や療養の場の選択において,臨機応変に各地域の医療・介護資源を適切に分配し有効活用できることが重要である.そのためには,各地域で診療録を安全に共有できるシステムの構築や施設を超えた医療者間の顔の見える関係作りが課題である.
本書では,がんの進行期から看取りまでの緩和医療に必須なエビデンスのアップデートのほか,在宅における緩和医療,非がん疾患の各領域,救急・集中治療等の特定領域を含めて,これから重要性が増す分野についても,第1線でご活躍の先生方に執筆いただいた.本シリーズが読者の緩和医療の理解・実践向上に役立つことを願う.
関根龍一
未曾有の高齢多死社会を迎えたわが国では緩和医療に対するニーズが今後も増えることが予想される.本企画を担当するにあたり,成人の進行がんを対象に発展してきたわが国のホスピス・緩和医療に大きな変化の波が押し寄せている現状を説明する.
まず第1は,緩和医療の対象者の変化である.すなわち,今後の緩和医療は成人の進行がんのみを対象とするのではなく,年齢,疾患を問わず,重篤な病を持つすべての人とその家族のサポートの実践が求められる.この変化は,WHO(世界保健機関)が緩和医療をUniversal Health Coverageの一部とみなしていることに一致する.この目標の実現には,専門家による緩和医療の土台として,各疾患の治療にあたる現場の医療者が,自ら,疾患治療と並行して基本的な緩和医療(一次緩和医療)を実践する医療提供体制が不可欠である.
第2は,救急・集中治療領域と緩和医療の協働である.米国では,救命・集中治療に抵抗性の回復困難な病態と判断された場合に,延命目的の積極的治療から,Comfort Measures Only(CMO;苦痛緩和のみの方針)への治療方針へ変更となる.その際に主治医から緩和ケアチームへ連絡が入り,緩和ケアチームは,主治医と連携しながら家族面談を主導もしくは支援し,治療方針変更の過程で生じる困難なコミュニケーション場面の調整役や心理支援の役割を担う.わが国でも急性期治療の最前線で,ハイリスク患者が延命治療を一定期間試したものの治療抵抗性の病態に至るケースが今後増加することが予想され,同領域への支援体制強化が課題である.
第3は,各地域における施設間連携の強化である.がんのみでなく,さまざまな疾患を有する患者の晩年/最晩年の治療や療養の場の選択において,臨機応変に各地域の医療・介護資源を適切に分配し有効活用できることが重要である.そのためには,各地域で診療録を安全に共有できるシステムの構築や施設を超えた医療者間の顔の見える関係作りが課題である.
本書では,がんの進行期から看取りまでの緩和医療に必須なエビデンスのアップデートのほか,在宅における緩和医療,非がん疾患の各領域,救急・集中治療等の特定領域を含めて,これから重要性が増す分野についても,第1線でご活躍の先生方に執筆いただいた.本シリーズが読者の緩和医療の理解・実践向上に役立つことを願う.
はじめに(関根龍一)
第1章 総論
わが国の緩和ケアがユニバーサル・ヘルス・カバレッジに組み込まれるための今後の課題(M野 淳)
Keywords ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC),持続可能な開発目標(SDGs),緩和ケア・アプローチ
在宅における緩和ケア(平原佐斗司)
Keywords 在宅医療,地域緩和ケア,呼吸困難,疼痛,カヘキシー
第2章 各論
がん疼痛治療─この30年余で何が変わったか?(余宮きのみ)
Keywords オピオイド鎮痛薬,非オピオイド鎮痛薬,鎮痛補助薬,放射線治療,骨転移
便秘のエビデンスアップデート─医師・看護双方から発刊されたガイドラインを紐解く(結束貴臣)
Keywords 便秘,オピオイド誘発性便秘(OIC),エコー,高齢者,便意
進行性疾患患者の呼吸困難の緩和(山口 崇)
Keywords 呼吸困難,緩和ケア,薬物療法,非薬物療法
進行がんにおける食事摂取と食に影響する症状と食に関する苦悩のアセスメントとマネジメント(天野晃滋)
Keywords がん悪液質,食事摂取,食に影響する症状(NIS),食に関する苦悩(ERD)
がん患者における泌尿器症状の緩和ケア:エビデンスアップデート(河原貴史)
Keywords 泌尿器科症状,緩和ケア,肉眼的血尿,下部尿路症状,上部尿路閉塞
皮膚疾患のマネジメント─発汗・かゆみ・褥瘡・潰瘍性腫瘍(腫瘤)のアプローチとマネジメント(金石圭祐)
Keywords 発汗,かゆみ,褥瘡,潰瘍性腫瘍
せん妄の評価と治療:エビデンスアップデート(井上真一郎)
Keywords せん妄,がん,ガイドライン,終末期,抗精神病薬
精神症状(不眠,抑うつ,不安)エビデンスアップデート─変遷:今や,第一選択は“非薬物”治療の時代へ,そしてDX(大谷弘行)
Keywords 精神症状,がん,ガイドライン,非薬物治療,スマートフォン
第3章 疾患別の緩和医療
末期心不全が緩和ケア診療加算の対象となって以降の変化と今後の課題(大石醒悟)
Keywords 緩和ケア診療加算,ガイドライン,診療報酬改定,HEPT
非がん慢性呼吸器疾患:エビデンスアップデート(松田能宣)
Keywords 非がん慢性呼吸器疾患,緩和ケア,呼吸困難,オピオイド
末期腎不全─透析の見合わせの現状と課題(足立誠司)
Keywords 保存的腎臓療法,症状緩和,意思決定支援
非がんの肝疾患─最近の動向(村P樹太郎)
Keywords 非がん,肝疾患,肝硬変,緩和ケア
神経難病における緩和ケア─最近の動向(荻野美恵子)
Keywords 神経緩和ケア,Neuropalliative care,パーキンソン病,筋萎縮性側索硬化症,多系統萎縮症
認知機能障害を抱える虚弱高齢者とケアパートナーに対する緩和ケアの実践(樋口雅也)
Keywords 認知症,認知機能障害,トータルペイン
第4章 特定領域の緩和ケア
非がん性疼痛の評価と治療─がん性疼痛との違いは?(小暮孝道・他)
Keywords 病態,心理因子,痛覚変調性疼痛
小児緩和ケアのあゆみ(多田羅竜平)
Keywords 小児緩和ケア,発達段階,家族,ホスピス
AYA世代がん患者の療養支援の課題(石木寛人)
Keywords AYA世代,支持療法,がん,QOL
救急・集中治療と緩和ケア統合の現在と今後の展望(石上雄一郎)
Keywords コミュニケーションスキル,ケアのゴールの話し合い,withdraw
第5章 注目の話題
がん患者のサポーティブケアとサバイバーシップ─最近の国内外の動向について(松本禎久)
Keywords サポーティブケア,サバイバーシップ,がん治療
終末期の治療抵抗性の苦痛に対する鎮静─海外における適用の拡大と国内臨床でいま注意するべきこと(森田達也)
Keywords 終末期,鎮静,苦痛緩和,持続的鎮静,深い鎮静
アドバンス・ケア・プランニング─わが国における望ましいACPとは?(森 雅紀)
Keywords アドバンス・ケア・プランニング(ACP),エビデンス,論点,課題,地域連携
緩和ケア研究アップデート─同領域の研究手法の工夫と今後の課題(前田一石)
Keywords 緩和ケア,臨床研究,研究デザイン
サイドメモ
stop and go法
ガバペンチノイド
ホットフラッシュ(ほてり)と寝汗について
モルヒネ(オピオイド)によるかゆみ
皮膚損傷に関するアピアランスケア
せん妄のサブタイプ
睡眠衛生指導
2023年のノーベル生理学・医学賞の候補 日本人「オレキシン」を発見
睡眠制限療法とは
その他のセルフヘルプ:アプリケーション例
透析の見合わせ
欧米の非がんの緩和ケアの軌跡
「延命」が目的でない胃瘻の役割
第1章 総論
わが国の緩和ケアがユニバーサル・ヘルス・カバレッジに組み込まれるための今後の課題(M野 淳)
Keywords ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC),持続可能な開発目標(SDGs),緩和ケア・アプローチ
在宅における緩和ケア(平原佐斗司)
Keywords 在宅医療,地域緩和ケア,呼吸困難,疼痛,カヘキシー
第2章 各論
がん疼痛治療─この30年余で何が変わったか?(余宮きのみ)
Keywords オピオイド鎮痛薬,非オピオイド鎮痛薬,鎮痛補助薬,放射線治療,骨転移
便秘のエビデンスアップデート─医師・看護双方から発刊されたガイドラインを紐解く(結束貴臣)
Keywords 便秘,オピオイド誘発性便秘(OIC),エコー,高齢者,便意
進行性疾患患者の呼吸困難の緩和(山口 崇)
Keywords 呼吸困難,緩和ケア,薬物療法,非薬物療法
進行がんにおける食事摂取と食に影響する症状と食に関する苦悩のアセスメントとマネジメント(天野晃滋)
Keywords がん悪液質,食事摂取,食に影響する症状(NIS),食に関する苦悩(ERD)
がん患者における泌尿器症状の緩和ケア:エビデンスアップデート(河原貴史)
Keywords 泌尿器科症状,緩和ケア,肉眼的血尿,下部尿路症状,上部尿路閉塞
皮膚疾患のマネジメント─発汗・かゆみ・褥瘡・潰瘍性腫瘍(腫瘤)のアプローチとマネジメント(金石圭祐)
Keywords 発汗,かゆみ,褥瘡,潰瘍性腫瘍
せん妄の評価と治療:エビデンスアップデート(井上真一郎)
Keywords せん妄,がん,ガイドライン,終末期,抗精神病薬
精神症状(不眠,抑うつ,不安)エビデンスアップデート─変遷:今や,第一選択は“非薬物”治療の時代へ,そしてDX(大谷弘行)
Keywords 精神症状,がん,ガイドライン,非薬物治療,スマートフォン
第3章 疾患別の緩和医療
末期心不全が緩和ケア診療加算の対象となって以降の変化と今後の課題(大石醒悟)
Keywords 緩和ケア診療加算,ガイドライン,診療報酬改定,HEPT
非がん慢性呼吸器疾患:エビデンスアップデート(松田能宣)
Keywords 非がん慢性呼吸器疾患,緩和ケア,呼吸困難,オピオイド
末期腎不全─透析の見合わせの現状と課題(足立誠司)
Keywords 保存的腎臓療法,症状緩和,意思決定支援
非がんの肝疾患─最近の動向(村P樹太郎)
Keywords 非がん,肝疾患,肝硬変,緩和ケア
神経難病における緩和ケア─最近の動向(荻野美恵子)
Keywords 神経緩和ケア,Neuropalliative care,パーキンソン病,筋萎縮性側索硬化症,多系統萎縮症
認知機能障害を抱える虚弱高齢者とケアパートナーに対する緩和ケアの実践(樋口雅也)
Keywords 認知症,認知機能障害,トータルペイン
第4章 特定領域の緩和ケア
非がん性疼痛の評価と治療─がん性疼痛との違いは?(小暮孝道・他)
Keywords 病態,心理因子,痛覚変調性疼痛
小児緩和ケアのあゆみ(多田羅竜平)
Keywords 小児緩和ケア,発達段階,家族,ホスピス
AYA世代がん患者の療養支援の課題(石木寛人)
Keywords AYA世代,支持療法,がん,QOL
救急・集中治療と緩和ケア統合の現在と今後の展望(石上雄一郎)
Keywords コミュニケーションスキル,ケアのゴールの話し合い,withdraw
第5章 注目の話題
がん患者のサポーティブケアとサバイバーシップ─最近の国内外の動向について(松本禎久)
Keywords サポーティブケア,サバイバーシップ,がん治療
終末期の治療抵抗性の苦痛に対する鎮静─海外における適用の拡大と国内臨床でいま注意するべきこと(森田達也)
Keywords 終末期,鎮静,苦痛緩和,持続的鎮静,深い鎮静
アドバンス・ケア・プランニング─わが国における望ましいACPとは?(森 雅紀)
Keywords アドバンス・ケア・プランニング(ACP),エビデンス,論点,課題,地域連携
緩和ケア研究アップデート─同領域の研究手法の工夫と今後の課題(前田一石)
Keywords 緩和ケア,臨床研究,研究デザイン
サイドメモ
stop and go法
ガバペンチノイド
ホットフラッシュ(ほてり)と寝汗について
モルヒネ(オピオイド)によるかゆみ
皮膚損傷に関するアピアランスケア
せん妄のサブタイプ
睡眠衛生指導
2023年のノーベル生理学・医学賞の候補 日本人「オレキシン」を発見
睡眠制限療法とは
その他のセルフヘルプ:アプリケーション例
透析の見合わせ
欧米の非がんの緩和ケアの軌跡
「延命」が目的でない胃瘻の役割














