はじめに
貫名信行
同志社大学大学院脳科学研究科
神経変性疾患は神経難病ともいわれるように,その治療は困難と思われてきた.神経変性の過程で異常タンパク質の蓄積が認められること,病因遺伝子,疾患関連遺伝子が存在することなど,疾患の病態カスケードはかなり明らかになりつつある.その背景にはモデル動物の作製が容易となり,iPS細胞(induced pluripotent stem cells;人工多能性幹細胞)などヒト疾患を直接反映するような細胞モデルも可能となるなど,技術的進歩があることはいうまでもない.一方,治療に関してはこれらのモデル系をスクリーニングすることにより,あるいは病態を背景とした薬剤の開発が行われ,病態に基づく治療開発が可能となってきている.
遺伝を背景とした疾患に対しては,最も上流の病因遺伝子を標的とした治療が考えられるわけであるが,なかなか遺伝子を標的とすることは困難と思われてきた.ところが近年,核酸医薬の開発により特定の遺伝子の発現を制御することが現実的となり,治験が進んでいる.また,異常タンパク質の蓄積に対しては異常タンパク質の生成抑制,分解促進などの方向からの治療開発も進んできている.また,最近注目されている神経変性におけるRNA病態に対するアプローチも進んでおり,このような多角的なアプローチで従来困難だと思われてきた神経変性疾患の治療も夢ではないと思えるようになってきた.
本別冊は,2013年の特集「神経変性疾患―研究と診療の進歩」から7年間の進歩をみるものでもある.残念ながら,この間この治療は確実に効くといえるものは開発されてはいないが,主要な神経変性疾患に対してすでにさまざまな治験が行われていることがわかる.また,研究開発の背景となる技術や類似の分子メカニズムによるアミロイドーシスの治療開発,筋ジストロフィーの治療開発のために必要なレジストリの確立など,神経変性治療開発の参考となるものについても執筆していただいた.数年後,確立された治療法の萌芽となるものが本別冊に記載されていることを祈りたい.
貫名信行
同志社大学大学院脳科学研究科
神経変性疾患は神経難病ともいわれるように,その治療は困難と思われてきた.神経変性の過程で異常タンパク質の蓄積が認められること,病因遺伝子,疾患関連遺伝子が存在することなど,疾患の病態カスケードはかなり明らかになりつつある.その背景にはモデル動物の作製が容易となり,iPS細胞(induced pluripotent stem cells;人工多能性幹細胞)などヒト疾患を直接反映するような細胞モデルも可能となるなど,技術的進歩があることはいうまでもない.一方,治療に関してはこれらのモデル系をスクリーニングすることにより,あるいは病態を背景とした薬剤の開発が行われ,病態に基づく治療開発が可能となってきている.
遺伝を背景とした疾患に対しては,最も上流の病因遺伝子を標的とした治療が考えられるわけであるが,なかなか遺伝子を標的とすることは困難と思われてきた.ところが近年,核酸医薬の開発により特定の遺伝子の発現を制御することが現実的となり,治験が進んでいる.また,異常タンパク質の蓄積に対しては異常タンパク質の生成抑制,分解促進などの方向からの治療開発も進んできている.また,最近注目されている神経変性におけるRNA病態に対するアプローチも進んでおり,このような多角的なアプローチで従来困難だと思われてきた神経変性疾患の治療も夢ではないと思えるようになってきた.
本別冊は,2013年の特集「神経変性疾患―研究と診療の進歩」から7年間の進歩をみるものでもある.残念ながら,この間この治療は確実に効くといえるものは開発されてはいないが,主要な神経変性疾患に対してすでにさまざまな治験が行われていることがわかる.また,研究開発の背景となる技術や類似の分子メカニズムによるアミロイドーシスの治療開発,筋ジストロフィーの治療開発のために必要なレジストリの確立など,神経変性治療開発の参考となるものについても執筆していただいた.数年後,確立された治療法の萌芽となるものが本別冊に記載されていることを祈りたい.
はじめに(貫名信行)
各分野の動向
1.アルツハイマー病─アカデミアの開発戦略(富田泰輔)
KeyWord アミロイドβ,タウ,抗体医薬,核酸医薬,光酸素化触媒
2.アルツハイマー病─製薬企業の治療薬開発戦略(岩坪 威)
KeyWord 疾患修飾薬(DMT),抗Aβ抗体療法,BACE1阻害薬,プレクリニカルAD
3.タウオパチー研究の国内外の動向(石垣診祐・祖父江 元)
KeyWord タウオパチー,タウ,前頭側頭葉変性症(FTLD),進行性核上性麻痺(PSP)
4.タウ伝播を標的とした治療法開発(武田朱公)
KeyWord タウ,伝播,アルツハイマー病(AD),タウオパチー,治療法開発
5.パーキンソン病の分子病態とミトコンドリア品質管理の破綻─Parkinノックアウトマウスの解析から(佐藤栄人・服部信孝)
KeyWord パーキンソン病(PD),Parkin,PINK1,ミトコンドリア,神経細胞死
6.α-シヌクレインを中心としたパーキンソン病新規治療薬(田口智之・他)
KeyWord α-シヌクレイン(αS),パーキンソン病(PD),疾患修飾療法,臨床試験
7.シヌクレイノパチー ─多系統萎縮症(三井 純)
KeyWord 多系統萎縮症(MSA),コエンザイムQ10,酸化ストレス,ミエロペルオキシダーゼ(MPO),α-シヌクレイン
8.筋萎縮性側索硬化症─プロテイノパチーの観点から(引網亮太・他)
KeyWord 筋萎縮性側索硬化症(ALS),液-液相分離(LLPS),ストレス顆粒,抗体治療
9.筋萎縮性側索硬化症─RNAメタボリズムの観点からみたバイオマーカーおよび治療の開発(保坂孝史・郭 伸)
KeyWord 筋萎縮性側索硬化症(ALS),RNAメタボリズム,バイオマーカー,遺伝子治療
10.球脊髄性筋萎縮症の病態形成機構と標的治療開発(佐橋健太郎・勝野雅央)
KeyWord 球脊髄性筋萎縮症(SBMA),ポリグルタミン病,分子標的治療,リュープロレリン,医師主導治験
11.ハンチントン病の治療法開発への展望─遺伝子発見から四半世紀を経て(永井義隆)
KeyWord ハンチントン病(HD),ポリグルタミン病,タンパク質ミスフォールディング・凝集,分子標的治療法
12.脊髄小脳失調症(SCA)(石川欽也)
KeyWord 小脳,小脳失調,プルキンエ細胞,核酸医薬
13.リピート伸長とRAN翻訳関連疾患(石浦浩之)
KeyWord リピート伸長病,RAN翻訳,アンチセンス鎖
14.家族性アミロイドーシスの最新の知見(安東由喜雄)
KeyWord アミロイドーシス,トランスサイレチン(TTR),ポリニューロパチー,肝移植,疾患修飾療法
15.ダウンストリームを治療する─神経細胞死(田中ひかり・岡澤 均)
KeyWord 細胞死,ネクローシス,TRIAD,YAP,細胞内アミロイド
治療開発のバックアップシステム
16.ブレインバンク(村山繁雄・齊藤祐子)
KeyWord アルツハイマー病(AD),パーキンソン病(PD),アミロイドβタンパク(Aβ),タウタンパク,αシヌクレイン
17.神経変性疾患の疾患コホート研究(池内 健)
KeyWord コホート研究,疾患レジストリ,試料レポジトリ,J-ADNI,データシェアリング
18.疾患特異的iPS細胞(奥宮太郎・他)
KeyWord 神経変性疾患,疾患特異的iPS細胞,iPS細胞バンク,創薬
19.遺伝子治療(村松慎一)
KeyWord アデノ随伴ウイルス(AAV),バキュロウイルス法,筋萎縮性側索硬化症(ALS),脊髄小脳失調症(SCA),マイクロRNA(miRNA)
20.患者レジストリシステム─Remudyの経験(中村治雅・水澤英洋)
KeyWord 患者レジストリ,治療開発,リアルワールドエビデンス(RWE),クリニカルイノベーションネットワーク(CIN),Remudy
21.治療開発に関する国の支援(葛原茂樹)
KeyWord 神経変性疾患,治療,研究開発研究費,厚生労働省,日本医療研究開発機構(AMED)
サイドメモ
アミロイド特異的光酸素化触媒
家族性PD(PARK/PARK4)
グルコセレブロシダーゼ1(GBA1)
多系統萎縮症(MSA)の診断基準
液-液相分離(LLPS)とは
ALSと興奮性の神経細胞死
ALSのADAR2仮説
病態コピーマウス
アイスマンとアミロイドーシス
Amyloid death
ここまできたATTRアミロイドーシスの認知度─ドラマに描かれたドミノ肝移植
外殻タンパク質の改変
日本医療研究開発機構(AMED)
厚生労働科学・調査研究費(厚労科研費)とAMED関連経費の棲み分け
各分野の動向
1.アルツハイマー病─アカデミアの開発戦略(富田泰輔)
KeyWord アミロイドβ,タウ,抗体医薬,核酸医薬,光酸素化触媒
2.アルツハイマー病─製薬企業の治療薬開発戦略(岩坪 威)
KeyWord 疾患修飾薬(DMT),抗Aβ抗体療法,BACE1阻害薬,プレクリニカルAD
3.タウオパチー研究の国内外の動向(石垣診祐・祖父江 元)
KeyWord タウオパチー,タウ,前頭側頭葉変性症(FTLD),進行性核上性麻痺(PSP)
4.タウ伝播を標的とした治療法開発(武田朱公)
KeyWord タウ,伝播,アルツハイマー病(AD),タウオパチー,治療法開発
5.パーキンソン病の分子病態とミトコンドリア品質管理の破綻─Parkinノックアウトマウスの解析から(佐藤栄人・服部信孝)
KeyWord パーキンソン病(PD),Parkin,PINK1,ミトコンドリア,神経細胞死
6.α-シヌクレインを中心としたパーキンソン病新規治療薬(田口智之・他)
KeyWord α-シヌクレイン(αS),パーキンソン病(PD),疾患修飾療法,臨床試験
7.シヌクレイノパチー ─多系統萎縮症(三井 純)
KeyWord 多系統萎縮症(MSA),コエンザイムQ10,酸化ストレス,ミエロペルオキシダーゼ(MPO),α-シヌクレイン
8.筋萎縮性側索硬化症─プロテイノパチーの観点から(引網亮太・他)
KeyWord 筋萎縮性側索硬化症(ALS),液-液相分離(LLPS),ストレス顆粒,抗体治療
9.筋萎縮性側索硬化症─RNAメタボリズムの観点からみたバイオマーカーおよび治療の開発(保坂孝史・郭 伸)
KeyWord 筋萎縮性側索硬化症(ALS),RNAメタボリズム,バイオマーカー,遺伝子治療
10.球脊髄性筋萎縮症の病態形成機構と標的治療開発(佐橋健太郎・勝野雅央)
KeyWord 球脊髄性筋萎縮症(SBMA),ポリグルタミン病,分子標的治療,リュープロレリン,医師主導治験
11.ハンチントン病の治療法開発への展望─遺伝子発見から四半世紀を経て(永井義隆)
KeyWord ハンチントン病(HD),ポリグルタミン病,タンパク質ミスフォールディング・凝集,分子標的治療法
12.脊髄小脳失調症(SCA)(石川欽也)
KeyWord 小脳,小脳失調,プルキンエ細胞,核酸医薬
13.リピート伸長とRAN翻訳関連疾患(石浦浩之)
KeyWord リピート伸長病,RAN翻訳,アンチセンス鎖
14.家族性アミロイドーシスの最新の知見(安東由喜雄)
KeyWord アミロイドーシス,トランスサイレチン(TTR),ポリニューロパチー,肝移植,疾患修飾療法
15.ダウンストリームを治療する─神経細胞死(田中ひかり・岡澤 均)
KeyWord 細胞死,ネクローシス,TRIAD,YAP,細胞内アミロイド
治療開発のバックアップシステム
16.ブレインバンク(村山繁雄・齊藤祐子)
KeyWord アルツハイマー病(AD),パーキンソン病(PD),アミロイドβタンパク(Aβ),タウタンパク,αシヌクレイン
17.神経変性疾患の疾患コホート研究(池内 健)
KeyWord コホート研究,疾患レジストリ,試料レポジトリ,J-ADNI,データシェアリング
18.疾患特異的iPS細胞(奥宮太郎・他)
KeyWord 神経変性疾患,疾患特異的iPS細胞,iPS細胞バンク,創薬
19.遺伝子治療(村松慎一)
KeyWord アデノ随伴ウイルス(AAV),バキュロウイルス法,筋萎縮性側索硬化症(ALS),脊髄小脳失調症(SCA),マイクロRNA(miRNA)
20.患者レジストリシステム─Remudyの経験(中村治雅・水澤英洋)
KeyWord 患者レジストリ,治療開発,リアルワールドエビデンス(RWE),クリニカルイノベーションネットワーク(CIN),Remudy
21.治療開発に関する国の支援(葛原茂樹)
KeyWord 神経変性疾患,治療,研究開発研究費,厚生労働省,日本医療研究開発機構(AMED)
サイドメモ
アミロイド特異的光酸素化触媒
家族性PD(PARK/PARK4)
グルコセレブロシダーゼ1(GBA1)
多系統萎縮症(MSA)の診断基準
液-液相分離(LLPS)とは
ALSと興奮性の神経細胞死
ALSのADAR2仮説
病態コピーマウス
アイスマンとアミロイドーシス
Amyloid death
ここまできたATTRアミロイドーシスの認知度─ドラマに描かれたドミノ肝移植
外殻タンパク質の改変
日本医療研究開発機構(AMED)
厚生労働科学・調査研究費(厚労科研費)とAMED関連経費の棲み分け














