はじめに
村上正晃
北海道大学遺伝子病制御研究所分子神経免疫学分野
多くの日本人免疫学者が活躍した1980年代のサイトカインクローニングの隆盛期から40年近い年月が経過し,基礎研究から見出されてきたサイトカインシグナルを標的とする治療法が臨床的に効果を示すことが,いくつかのサイトカイン系で証明されている.抗インターロイキン(IL)-6受容体抗体を用いた創薬は,日本発の基礎研究が臨床の場に朗報を与えた代表的抗サイトカイン療法であり,関節リウマチやCastleman病患者に劇的な抗炎症効果を示す.現在も対象とする疾患の適用拡大の努力がなされている.
このような基礎研究から臨床への橋渡しの成功例をもって,サイトカイン研究は一区切りついたと考える読者の方も多々いるかもしれない.しかし,それは誤りである.ここ10年ほどで,慢性炎症が自己免疫疾患ばかりではなく,多くの病気の根底の病態誘導機構として存在することが明らかとなった.さらに,免疫系以外のさまざまな生体応答や臓器制御にもサイトカインが深く関わることが示されてきた.このような事実から,現在はサイトカイン研究の転換期,あるいは拡張期にあるといっても過言ではない.実際,新型コロナウイルス感染症COVID-19においてもサイトカインストームが死因であることが強く示唆されている.
前回,この『医学のあゆみ』でサイトカイン特集をIL-6の発見者の1人でサイトカイン研究の第一人者である平野俊夫先生とともに企画させていただいてから早9年が経過した.本別冊では,日本人研究者が大きく貢献したサイトカインの発見の経緯やそのシグナル伝達機構について再認識していただくとともに,サイトカインの発現調節機構や病態に対する最新の知見,さらに神経系や循環器系を含むさまざまな生命現象に対するサイトカインの役割について,4つの章の構成とし,それぞれの研究分野の第一人者の先生方に解説いただいた.
今後,生命現象全体を俯瞰したサイトカイン研究がますます盛んになり,新しいコンセプト,融合研究がうちたてられ,それらに基づいたCOVID-19を含めた新たな病気の予防法や治療法につながることを願って,本別冊の巻頭言としたい.
村上正晃
北海道大学遺伝子病制御研究所分子神経免疫学分野
多くの日本人免疫学者が活躍した1980年代のサイトカインクローニングの隆盛期から40年近い年月が経過し,基礎研究から見出されてきたサイトカインシグナルを標的とする治療法が臨床的に効果を示すことが,いくつかのサイトカイン系で証明されている.抗インターロイキン(IL)-6受容体抗体を用いた創薬は,日本発の基礎研究が臨床の場に朗報を与えた代表的抗サイトカイン療法であり,関節リウマチやCastleman病患者に劇的な抗炎症効果を示す.現在も対象とする疾患の適用拡大の努力がなされている.
このような基礎研究から臨床への橋渡しの成功例をもって,サイトカイン研究は一区切りついたと考える読者の方も多々いるかもしれない.しかし,それは誤りである.ここ10年ほどで,慢性炎症が自己免疫疾患ばかりではなく,多くの病気の根底の病態誘導機構として存在することが明らかとなった.さらに,免疫系以外のさまざまな生体応答や臓器制御にもサイトカインが深く関わることが示されてきた.このような事実から,現在はサイトカイン研究の転換期,あるいは拡張期にあるといっても過言ではない.実際,新型コロナウイルス感染症COVID-19においてもサイトカインストームが死因であることが強く示唆されている.
前回,この『医学のあゆみ』でサイトカイン特集をIL-6の発見者の1人でサイトカイン研究の第一人者である平野俊夫先生とともに企画させていただいてから早9年が経過した.本別冊では,日本人研究者が大きく貢献したサイトカインの発見の経緯やそのシグナル伝達機構について再認識していただくとともに,サイトカインの発現調節機構や病態に対する最新の知見,さらに神経系や循環器系を含むさまざまな生命現象に対するサイトカインの役割について,4つの章の構成とし,それぞれの研究分野の第一人者の先生方に解説いただいた.
今後,生命現象全体を俯瞰したサイトカイン研究がますます盛んになり,新しいコンセプト,融合研究がうちたてられ,それらに基づいたCOVID-19を含めた新たな病気の予防法や治療法につながることを願って,本別冊の巻頭言としたい.
はじめに(村上正晃)
サイトカインの発見と病態解析
1.IL-1ファミリーサイトカインのすべて(善本知広)
KeyWord IL-1ファミリー,カスパーゼ-1,炎症性疾患,子宮内膜症
2.共通γ鎖(γc)サイトカイン(石井直人)
KeyWord 共通γ鎖(γc),IL-2,IL-7,IL-9,IL-15,IL-21
3.Common βファミリーサイトカイン─IL-3,GM-CSF,IL-5(宮島 篤)
KeyWord コロニー形成因子,造血,免疫,クローニング
4.IL-6ファミリーサイトカインの機能多様性(内田萌菜・他)
KeyWord IL-6,gp130,STAT3,NF-κB,炎症アンプ,ゲートウェイ反射
5.IL-10ファミリーによる免疫制御機構(河野正憲・他)
KeyWord IL-10,自己免疫疾患,CD4+LAG3+制御性T細胞(Treg)
6.I型,III型インターフェロンファミリー(岡晃教・新谷紀享)
KeyWord インターフェロン,自然免疫,ウイルス感染
7.IL-12ヘテロダイマーサイトカインファミリー IL-12,IL-23,IL-35(片平泰弘・他)
KeyWord ヘテロダイマーサイトカイン,IL-12,IL-23,IL-35
8.IL-17ファミリー分子の生体における役割(岩倉洋一郎)
KeyWord IL-17,サイトカイン,自己免疫,感染防御,腸管免疫
9.TGF-βファミリー─その多彩な作用と疾患との関連(宮園浩平)
KeyWord TGF-β,Smad,上皮間葉移行(EMT),免疫抑制,潜在型TGF-β
サイトカイン信号の制御と病態
10.JAK-STAT経路とその制御系(吉村昭彦・永井 直)
KeyWord サイトカイン受容体,チロシンキナーゼ,シグナル伝達,負の制御
11.mRNA安定化・不安定化を介したサイトカイン産生制御機構(田中宏樹・審良静男)
KeyWord mRNA安定性制御,RNA分解酵素,Regnase-1
免疫病とサイトカイン
12.各種サイトカインで誘導される2型免疫応答による組織線維化のしくみ(平原 潔・中山俊憲)
KeyWord 気道粘膜,IL-33,IL-25,TSLP,好酸球,記憶型Tpath2細胞,IL-5,Amphiregulin
13.B細胞によるサイトカイン産生と免疫制御(伊勢 渉)
KeyWord B細胞,サイトカイン,自己免疫疾患
14.制御性T細胞とサイトカイン(三上統久・坂口志文)
KeyWord 制御性T細胞(Treg),サイトカイン
15.コレラ毒素による炎症性サイトカインIL-1β産生誘導機構(佐々木 泉・改正恒康)
KeyWord コレラ毒素,腹腔マクロファージ,Pyrinインフラマソーム
16.疾患特異的マクロファージの機能的多様性─線維化に関わるマクロファージサブタイプ(佐藤 荘)
KeyWord 疾患特異的マクロファージ,自然免疫,線維症,アレルギー,メタボリックシンドローム
17.自然リンパ球とサイトカイン(渡部貴秀・澤 新一郎)
KeyWord 自然リンパ球,抗原非特異的,可塑性
生命現象とサイトカイン―病態との関連
18.サイトカイン・ケモカインと造血(長澤丘司)
KeyWord CXCL12,SCF,TPO,IL-7,骨髄
19.がんの微小環境とケモカイン(中島拓弥・松島綱治)
KeyWord がん微小環境,白血球浸潤,炎症,ケモカイン
20.炎症性腸疾患とサイトカイン(村上真理・竹田 潔)
KeyWord 炎症性腸疾患,サイトカイン,腸管免疫
21.皮膚疾患におけるサイトカインの役割(野村尚史・椛島健治)
KeyWord 乾癬,Th17サイトカイン,アトピー性皮膚炎,Th2サイトカイン,そう痒
22.多発性硬化症・視神経脊髄炎の病態とサイトカイン(山村 隆)
KeyWord 多発性硬化症(MS),視神経脊髄炎(NMO),GM-CSF,IL-6,抗IL-6受容体抗体
23.骨免疫学とサイトカインRANKL(浅野達雄・高柳 広)
KeyWord 破骨細胞,RANKL,関節リウマチ,がん骨転移
24.心血管代謝疾患とサイトカイン(大石由美子・真鍋一郎)
KeyWord アディポカイン,ヘパトカイン,カルディオカイン,慢性炎症
サイドメモ
アンメットメディカルニーズ
ドラッグリポジショニング
PRRsとPAMPs
IRFファミリー転写因子
骨形成因子(BMP)の多彩な作用と疾患
Amphiregulin
腹腔マクロファージ
抗菌ペプチド
上皮-免疫微小環境(EIME)
アトピー性皮膚炎の三位一体病態論
サイトカインの発見と病態解析
1.IL-1ファミリーサイトカインのすべて(善本知広)
KeyWord IL-1ファミリー,カスパーゼ-1,炎症性疾患,子宮内膜症
2.共通γ鎖(γc)サイトカイン(石井直人)
KeyWord 共通γ鎖(γc),IL-2,IL-7,IL-9,IL-15,IL-21
3.Common βファミリーサイトカイン─IL-3,GM-CSF,IL-5(宮島 篤)
KeyWord コロニー形成因子,造血,免疫,クローニング
4.IL-6ファミリーサイトカインの機能多様性(内田萌菜・他)
KeyWord IL-6,gp130,STAT3,NF-κB,炎症アンプ,ゲートウェイ反射
5.IL-10ファミリーによる免疫制御機構(河野正憲・他)
KeyWord IL-10,自己免疫疾患,CD4+LAG3+制御性T細胞(Treg)
6.I型,III型インターフェロンファミリー(岡晃教・新谷紀享)
KeyWord インターフェロン,自然免疫,ウイルス感染
7.IL-12ヘテロダイマーサイトカインファミリー IL-12,IL-23,IL-35(片平泰弘・他)
KeyWord ヘテロダイマーサイトカイン,IL-12,IL-23,IL-35
8.IL-17ファミリー分子の生体における役割(岩倉洋一郎)
KeyWord IL-17,サイトカイン,自己免疫,感染防御,腸管免疫
9.TGF-βファミリー─その多彩な作用と疾患との関連(宮園浩平)
KeyWord TGF-β,Smad,上皮間葉移行(EMT),免疫抑制,潜在型TGF-β
サイトカイン信号の制御と病態
10.JAK-STAT経路とその制御系(吉村昭彦・永井 直)
KeyWord サイトカイン受容体,チロシンキナーゼ,シグナル伝達,負の制御
11.mRNA安定化・不安定化を介したサイトカイン産生制御機構(田中宏樹・審良静男)
KeyWord mRNA安定性制御,RNA分解酵素,Regnase-1
免疫病とサイトカイン
12.各種サイトカインで誘導される2型免疫応答による組織線維化のしくみ(平原 潔・中山俊憲)
KeyWord 気道粘膜,IL-33,IL-25,TSLP,好酸球,記憶型Tpath2細胞,IL-5,Amphiregulin
13.B細胞によるサイトカイン産生と免疫制御(伊勢 渉)
KeyWord B細胞,サイトカイン,自己免疫疾患
14.制御性T細胞とサイトカイン(三上統久・坂口志文)
KeyWord 制御性T細胞(Treg),サイトカイン
15.コレラ毒素による炎症性サイトカインIL-1β産生誘導機構(佐々木 泉・改正恒康)
KeyWord コレラ毒素,腹腔マクロファージ,Pyrinインフラマソーム
16.疾患特異的マクロファージの機能的多様性─線維化に関わるマクロファージサブタイプ(佐藤 荘)
KeyWord 疾患特異的マクロファージ,自然免疫,線維症,アレルギー,メタボリックシンドローム
17.自然リンパ球とサイトカイン(渡部貴秀・澤 新一郎)
KeyWord 自然リンパ球,抗原非特異的,可塑性
生命現象とサイトカイン―病態との関連
18.サイトカイン・ケモカインと造血(長澤丘司)
KeyWord CXCL12,SCF,TPO,IL-7,骨髄
19.がんの微小環境とケモカイン(中島拓弥・松島綱治)
KeyWord がん微小環境,白血球浸潤,炎症,ケモカイン
20.炎症性腸疾患とサイトカイン(村上真理・竹田 潔)
KeyWord 炎症性腸疾患,サイトカイン,腸管免疫
21.皮膚疾患におけるサイトカインの役割(野村尚史・椛島健治)
KeyWord 乾癬,Th17サイトカイン,アトピー性皮膚炎,Th2サイトカイン,そう痒
22.多発性硬化症・視神経脊髄炎の病態とサイトカイン(山村 隆)
KeyWord 多発性硬化症(MS),視神経脊髄炎(NMO),GM-CSF,IL-6,抗IL-6受容体抗体
23.骨免疫学とサイトカインRANKL(浅野達雄・高柳 広)
KeyWord 破骨細胞,RANKL,関節リウマチ,がん骨転移
24.心血管代謝疾患とサイトカイン(大石由美子・真鍋一郎)
KeyWord アディポカイン,ヘパトカイン,カルディオカイン,慢性炎症
サイドメモ
アンメットメディカルニーズ
ドラッグリポジショニング
PRRsとPAMPs
IRFファミリー転写因子
骨形成因子(BMP)の多彩な作用と疾患
Amphiregulin
腹腔マクロファージ
抗菌ペプチド
上皮-免疫微小環境(EIME)
アトピー性皮膚炎の三位一体病態論














