やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 林田健太郎
 慶應義塾大学医学部循環器内科
 心構造疾患(structural heart disease:SHD)に対するインターベンションは,古くは僧帽弁狭窄症に対する経皮経静脈的僧帽弁交連裂開術(percutaneous transseptal mitral commissurotomy:PTMC)などが行われており,けっして目新しいものではない.しかし近年,大動脈弁狭窄症に対する経カテーテル大動脈弁留置術(transcatheter aortic valve implantation:TAVI)などの到来により,ふたたびあらたな時代の大きな波を迎えている.いまやSHDインターベンションは,冠動脈インターベンションや末梢動脈インターベンションと並ぶ第3の心臓カテーテル治療の分野となっている.
 SHDインターベンションの進歩は非常に急速であり,とくにTAVIに関してはつい先日まで外科手術が困難な症例のみが適応であったのに対し,2017年現在では中等度リスクに対する適応がすでに欧米で得られている.さらにまったく外科手術のリスクがない患者に対し,TAVIと外科手術の無作為割付試験が開始されているほどであり,まさに日進月歩の分野である.
 このような急速に発展している分野において,今回は臨床の最前線に立って自らが手技に携わっている先生方に執筆をお願いした.なかにはまだ日本で施行できない手技やデバイスも含まれているが,これまでの流れを鑑みると,きっと数年以内にわが国での臨床治験がはじまるはずであり,その概要を知っておくことは長期的な患者治療プランを策定する,あるいは若手の読者の先生方のキャリアプランを考えるうえで,きっと有用であると考えている.
 このように,up-to-dateな知識やglobal standardをいち早くアジアに取り入れつつ,海外とのデバイスラグの影響を最小化し,対等なパートナーとして日本からデータを発信していくために,著者らは2016年よりPCR Tokyo Valvesという弁膜症のカテーテル治療に特化した国際学会を開始した.2018年は3月30日から4月1日まで東京のJPタワーで開催されるので,もしこれからSHDインターベンションを開始,習得,発展されたい先生方はぜひふるってご参加いただきたい.きっと先生方に満足していただけるプログラムであることを確信している.
 本特集が少しでも先生方の日常臨床の一助となり,日本の患者に対するよりよい医療に貢献できていたら幸いである.
 はじめに(林田健太郎)
TAVI
 1.大動脈弁狭窄症(AS)重症度診断におけるピットフォール(片岡明久)
  ・大動脈弁狭窄症(AS)の症状のピットフォール
  ・病因と形態のアセスメントとピットフォール
  ・心エコー撮像,計測のピットフォール
  ・ASの重症度解釈のピットフォール
  ・低流量低圧較差重症ASのピットフォール
 2.エビデンスに基づいた大動脈弁狭窄症患者における治療選択―2017年AHA/ACC,ESC/EACTSガイドラインの改訂と最新のエビデンスに基づくTAVI(白川公亮・村田光繁)
  ・大動脈弁狭窄症に対する治療の選択肢
  ・現在までのエビデンスに基づくTAVIの適応
 3.TAVIにおけるリスク評価と適応の選択(志村徹郎・山本真功)
  ・外科手術リスクスコア(STS/EuroSCOREII)
  ・Frailty(フレイル)
  ・併存疾患
 4.大動脈二尖弁に対するTAVIの実際(山中 太)
  ・二尖弁の分類
  ・二尖弁に対するTAVIのエビデンス
  ・手技のピットフォールと至適デバイスの選択
 5.TAVI後の至適抗血栓療法とは?―TAVI後血栓症の視点から(柳澤 亮)
  ・TAVI後の抗血栓療法に関する無作為化比較対照試験(RCT)
  ・Update on Leaflet Thrombosis After TAVI in
  ・TAVI後の無症候性血栓症は,みつけたらすぐに治療が必要か
 6.TAVIはAS治療の第一選択となりうるのか:内科医の視点から(荒木基晴)
  ・克服すべき課題
  ・安全性と適応の拡大
  ・合併症・問題点
  ・人工弁の耐久性
  ・術後の抗血栓療法
  ・二尖弁への成績
 7.TAVIはAS治療の第一選択となりうるのか:外科医の視点から(渡邊 隼・田端 実)
  ・4つのRCTからみるTAVIの成績の現状
  ・TAVIの利点と課題
  ・SAVRの展望
  ・今後のAS治療
MitraClip
 8.MitraClipのこれまでのエビデンスと今後の展望(柳内 隆・松本 崇)
  ・EVEREST II試験
  ・欧米での現状
  ・わが国での現状
  ・今後の展望
 9.発生機序による僧帽弁閉鎖不全症(MR)の分類とMitraClipの作用機序―どのようなMRがMitraClipに適しているか(板橋裕史)
  ・僧帽弁閉鎖不全症(MR)の分類
  ・EVEREST試験で使用された患者選択基準の利用法と問題点
 10.MitraClip開始前に何を準備しておくべきか(天木 誠)
  ・僧帽弁閉鎖不全症(MR)の現状
  ・MitraClipの適応
  ・患者スクリーニング
  ・デバイス・手技の理解
  ・Implanterの準備
先天性・その他
 11.ASD/VSD/PDA closure―治療の適応と実際(原 英彦)
  ・心房中隔欠損症
  ・心室中隔欠損
  ・動脈管開存
 12.最近のBPA適応と治療成績(木村 舞・川上崇史)
  ・CTEPHの診断
  ・CTEPHの薬物療法
  ・CTEPHの外科的治療
  ・BPAの治療成績の変遷
  ・BPAの適応
  ・治療の実際
  ・近年のわが国における治療成績
 13.経皮的中隔心筋焼灼術(PTSMA)―治療の適応と実際(前川裕一郎)
  ・経皮的中隔心筋焼灼術(PTSMA)治療の適応
  ・治療法の選択
  ・治療の実際
  ・PTSMAの合併症
  ・治療成績
新しいインターベンション
 14.PFO closure―最新のエビデンスと今後の展望(金澤英明)
  ・経皮的卵円孔閉鎖術に関する無作為化臨床試験(RCT)とメタ解析
  ・経皮的卵円孔閉鎖術が必要なハイリスクPFOは?
  ・現在進行中の臨床試験と新しいデバイス
 15.左心耳閉鎖デバイス―最新のエビデンスと今後の展望(中島祥文)
  ・経カテーテル的左心耳閉鎖術の適応
  ・経カテーテル左心耳閉鎖デバイスの分類
  ・LAA occluder各デバイスのエビデンス
  ・手技の実際
  ・今後の展望
 16.腎デナベーション―最新の知見と今後の展望(石川 有・森野禎浩)
  ・難治性高血圧のリスク
  ・腎交感神経と高血圧
  ・腎デナベーションのエビデンス
  ・今後の課題と展望
 17.僧帽弁に対する新しいカテーテル治療―最新のエビデンスと今後の展望(大野洋平)
  ・経カテーテル僧帽弁治療デバイスの現状
  ・MitraClip(R)
  ・経カテーテル僧帽弁形成術
  ・経カテーテル僧帽弁留置術
  ・まとめ
 18.三尖弁カテーテル治療の最前線(纉c真吾)
  ・三尖弁の解剖
  ・三尖弁疾患
  ・三尖弁逆流に対する薬物療法,外科治療
  ・画像評価
  ・三尖弁カテーテル治療の実際

 サイドメモ
  連続の式
  日本人における低流量低圧較差重症ASの予後を考える
  わが国におけるTAVIの適応の現状
  バルーン拡張型人工弁か自己拡張型人工弁か
  ALTとは
  重度ASの治療時期
  Valve in valve
  機能性MRに対する外科手術の挑戦
  心房中隔穿刺の際の注意点
  卵円孔開存(PFO)とその関連疾患
  PFOが病因の奇異性脳塞栓症の患者数は?
  左心耳と心房細動と脳梗塞