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貫く芯をもった医学教育:フレキシブルなグローバルデザイン―別冊化に際して
 北村 聖
 東京大学大学院医学系研究科附属医学教育国際研究センター
 わが国の医学教育は,20世紀の知識中心の教育から自ら課題を発見し,その問題を解決する能力を身につけさすものへと大きく変わった.知識のみならず,技能や態度の教育も行われ,患者中心の医療を担う人材を養育するものに変化した.この変革の潮流が起こって10年あまりの今日,わが国の医学教育を振り返り現状を分析し,さらに今後を見通すことは,有意義なことと考え,本誌の連載にし,このたび別冊としてまとめることになった.
 これまで,学部教育においては,入学試験の改革,コアカリキュラムをはじめとした教育内容の厳選と多様化,それに伴うCBT,OSCEからなる共用試験実施など多くの改革が行われ,それぞれが解説されている.また,卒後では国家試験改革や2年間の臨床研修必修化が実施され,社会に大きなインパクトを与えた.そして現在進行形で専門医教育が制度とともに見直されている.これらもそれぞれ解説されている.ここで重要なのは,これらを貫く1本の芯のようなものを読者に感じていただきたい.感じるというより,しっかりと認識していただきたい.この貫く芯を言語化するのは難しいのであるが,“患者中心の医療の実践”であり,コンピテンスでいえば“プロフェッショナリズム”あるいは“医師としての価値観”であると考える.
 これを,学習者の立場からみると,貫くものと,それぞれの学習者の学習成果・アウトカムを早い段階で認識し,学部卒業,研修卒業などの節目,節目で達成度を認識するシステムが必要であると感じている.学部から生涯学習まで貫く生涯ポートフォリオの提唱につながるものと思う.
 わが国の医学教育の今後を考えるとき,医学やAI技術の進歩はもとより,国民や社会のニーズも変化していくなかで,医学教育はフレキシブルでなければならないと考える.すなわち,プロフェッショナリズムという貫く芯のまわりに,患者や社会の要請に対応した医療システムと医学教育システムが存在しないといけないと思う.医学教育改革に終わりはなく,つねに社会の変化に適応して柔軟に変化する医学教育が求められている.本誌を読み進めるにあたって“貫く芯”と“柔軟な変化”をキーワードとしてみると,またあらたな発見があると信じる.
 書き下ろし 貫く芯をもった医学教育:フレキシブルなグローバルデザイン―別冊化に際して(北村 聖)
1.医学教育の現状と課題―連載の序として
 (北村 聖)
 ・医学教育の歴史から
 ・医学教育のいま:医学教育改革
 ・医学教育を論じるにあたって
2.医学部の入学者選抜:何が求められ,何が起きているのか
 (大滝純司)
 ・大学の入学者選抜に求められるもの
 ・選抜方法の特性
 ・医学部入学者選抜の重要性
 ・選抜方法の検討
 ・医学部入学者選抜の国際比較
 ・地域枠入試の妥当性
 ・教育格差と医学部受験
 ・まとめ
3.医のプロフェッショナリズム教育
 (大生定義)
 ・プロフェッションとは何か
 ・プロフェッショナリズムとは
 ・卒前・卒後・生涯教育の実際
 ・プロフェッショナリズムの評価
4.医学部での準備教育を含めた行動科学・社会科学の教育
 (和泉俊一郎)
 ・準備教育の位置づけ:医学部カリキュラム改編の嵐のなかで
 ・医学部で“行動科学”がクローズアップされた経緯
 ・日本社会が要請する医師像の変化に教育現場は対応可能か
 ・臨床現場重視の視点から必須のものはなにか
 ・アウトカム基盤型教育が明確化するものはなにか
 ・行動科学の医学部教育における位置づけ
5.基礎医学の教育・研究の過去,現状,課題
 (坂井建雄)
 ・医学教育における基礎医学の位置づけ
 ・将来の基礎医学者をどう育てるか
 ・歴史からみた基礎医学教育
6.診療参加型実習と学外臨床実習
 (鈴木英雄・前野哲博)
 ・なぜ診療参加型実習が必要なのか
 ・診療参加型実習の実際
 ・学外臨床実習
 ・学生の質保証と医療行為,評価
7.地域に根ざした医学教育と医療・介護・福祉における多職種協働
 (松井俊和)
 ・地域医療の現状
 ・地域医療教育の特徴
 ・僻地医療教育の先進的な取組み
 ・都市部やその近郊での地域医療教育
 ・地域医療教育と多職種協働
 ・地域医療教育に関する環境の変化,本学での地域に根ざした医学教育に向けた準備
 ・今後の課題
8.医師国家試験―現状と課題
 (赤木美智男)
 ・医師国家試験の現状
 ・国家試験の問題点とこれからの国家試験
 ・これからの国家試験
書き下ろし 9.専門医教育―制度設計と教育実践
 (池田康夫)
 ・専門医制度の意義とその制度設計
 ・研修プログラム制による専門医の育成
 ・専門医資格の更新制度
10.シミュレーション教育―本学スキルスシミュレーションセンターの取組みを中心に―
 (首藤太一・栩野吉弘)
 ・SSCの概要と活用の実際
 ・Simulation Medical Education(SME)におけるteachingのコツ
 ・スキルスラボ運営の工夫
11.共用試験CBT,OSCEの現状と今後の課題
 (吉田素文)
 ・共用試験導入の目的と経緯
 ・トライアルから正式実施までの経緯
 ・正式実施の実施状況
 ・共用試験OSCEをめぐる課題と今後の展望
12.国際基準に基づく医学教育分野別認証評価
 (奈良信雄)
 ・海外諸国における医学教育分野別認証評価制度
 ・わが国における医学部教育分野別認証評価制度
 ・分野別認証評価制度のあり方
 ・進捗状況と今後の方針
13.女性医師キャリア教育の学習目標
 (木下牧子)
 ・女性医師の継続的社会参加を阻んでいるものは?
 ・修得すべき到達目標とは?
14.アウトカム基盤型教育―その系譜と実践
 (田邊政裕・朝比奈真由美)
 ・アウトカム基盤型教育の系譜
 ・アウトカム基盤型教育の実際
15.医学教育における評価
 (大西弘高)
 ・学習者評価
 ・プログラム評価
 ・プログラム評価の観点を踏まえた次世代の学習者評価システムの提案
 ・まとめ

 サイドメモ目次
  答えられなかった質問
  カブールの医学生
  医学部の“2023年問題”
  日本の“2025年問題”
  アルティセラ
  アヴィケンナ『医学典範』
  student doctor認定証
  知識の領域におけるタキソノミー
  禁忌肢
  ECFMG
  男女格差指数(gender gap index)
  202030
  institutional research(IR)
  assessmentとevaluation
  習得と修得