やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 坂本哲也
 帝京大学医学部救急医学講座
 1974年以降,1980年,1986年,1992年と心肺蘇生ガイドラインを改定してきたAmerican Heart Association(AHA)は,2000年にはEuropean Resuscitation Council(ERC)を中心とする各国・地域の組織と協同して設立したInternational Liaison Committee on Resuscitation(ILCOR)とともに世界共通の国際ガイドライン2000を作成した.この国際ガイドライン2000は日本語にも翻訳され,わが国の心肺蘇生の現場や教育に大きな影響を与えた.
 つぎの2005年の改訂ではILCORがInternational Consensus on Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care Science With Treatment Recommendations(CoSTR)2005を作成し,ILCORに所属する各組織はこのコンセンサスに従い,それぞれの国や地域の実情に合わせたガイドラインを策定することになった.当時,わが国はILCORの正式加盟国として未承認であったので,CoSTR2005の作成に十分な働きをすることができなかった.
 今回の2010年の改訂においては岡田和夫会長の尽力により,日本蘇生協議会(JRC)の所属するResuscitation Council of Asia(RCA)がILCORに2006年に正式加盟したことによりCoSTR2010の作成段階から20人以上の日本人がCoSTR2010のworksheet著者を担当するなど,国際協力による作成プロセスに貢献することができた.また,CoSTR2010が発表前の非公開の時期から,これに基づくガイドラインの検討を行うことができるようになった.2010年5月にJRCと日本救急医療財団はJRC(日本版)ガイドライン2010をガイドライン作成合同委員会による共同作業によって作成することに合意し,2010年10月18日にILCORがCoSTR2010を発表するのと同時に,JRC(日本版)ガイドライン2010のドラフト版を公開した.その後,2011年10月に確定版が公開され,JRC蘇生ガイドライン2010の書名で出版された.
 本特集ではJRC(日本版)ガイドライン2010の概要について,CoSTR2010と本ガイドラインに深くかかわった先生方に解説していただいた.東日本大震災への対応で多忙のなか,執筆にあたっていただいた著者の先生方,とりわけ岡田和夫会長と共同議長の丸川征四郎先生に心から深謝いたします.本特集がJRC(日本版)ガイドライン2010普及の一助となり,ひとりでも社会復帰に至る人が増えることを祈念します.
 はじめに(坂本哲也)
総論
1.JRC立ち上げからILCOR,CoSTR2010まで(岡田和夫・他)
 ・1960年からILCOR立ち上げまでの世界の潮流
 ・ヨーロッパでの蘇生をめざす胎動―ILCORの誕生から2000ガイドラインまで
 ・日本蘇生協議会(JRC)の設立
 ・JRCのILCORへの参加
 ・アジア蘇生協議会(Resuscitation Council of Asia:RCA)創設とILCOR加盟
 ・CoSTRからGuidelinesの道
2.JRC(日本版)ガイドラインの作成プロセス(丸川征四郎・畑中哲生)
 ・ガイドライン2010作成の背景
 ・ガイドラインの理念
 ・ガイドライン作成合同委員会
 ・ガイドライン作成の手順
 ・ガイドラインの公開
3.ガイドライン2005からのおもな変更点(森村尚登・他)
 ・救命の連鎖
 ・CPR実施者別アルゴリズム
 ・BLSに関するおもな変更点
 ・ALSに関するおもな変更点
 ・教育と普及にかかわるおもな変更点
4.わが国における心肺蘇生の現状と今後の展望(石見 拓)
 ・病院前救急医療体制と院外心停止例の救命率の現状
 ・AED普及の現状とその効果
 ・バイスタンダーCPRの現状
 ・二次救命処置(advanced cardiac life support:ALS)
 ・院内心停止の現状
各論
5.一次救命処置―良質な胸骨圧迫こそが救命のカギ(中川 隆)
 ・救命の連鎖
 ・心肺蘇生(CPR)の対応手順
 ・心肺蘇生のおもな変更点とその科学的背景
 ・通信指令員による口頭指導
6.心停止に対する二次救命処置―G2010での変更点とそのポイント(真弓俊彦)
 ・二次救命処置(ALS)でのアルゴリズム
 ・安全迅速な電気ショック(変更なし)
 ・気道管理
 ・呼気終末二酸化炭素(EtCO2)波形モニター
 ・薬剤
 ・可逆的な原因の検索と是正
 ・チーム蘇生
 ・蘇生後症候群(PCAS)への対応
 ・職場でのシミュレーション
7.【改訂】心拍再開後の集中治療および予後判定―低体温療法の効果とその限界(黒田泰弘)
 ・心拍再開後の集中治療
 ・心拍再開後の予後判定
8.気道確保と蘇生器具(早川峰司)
 ・基本的な気道確保
 ・高度な気道確保
 ・声門上気道デバイス
 ・呼気二酸化炭素検知器
 ・器械による心肺蘇生
9.不整脈の治療(船崎俊一)
 ・心停止中の不整脈治療
 ・心停止前後の不整脈治療
10.小児の一次救命処置(太田邦雄)
 ・一次救命処置の統一と小児一次救命処置(PBLS)
 ・小児一次救命処置(PBLS)アルゴリズム
 ・マニュアル式除細動器
11.小児の二次救命処置(新田雅彦)
 ・小児の二次救命処置におけるおもな変更点
 ・変更点の解説
12.新生児蘇生(和田雅樹)
 ・作成の経過
 ・GL2010
 ・出生直後の児の状態の評価項目
 ・ルーチンケア
 ・初期処置
 ・初期処置後の評価
 ・呼吸の補助
 ・胸骨圧迫と人工呼吸
 ・薬剤投与
 ・蘇生後のケア
 ・その他の項目
 ・蘇生の差し控え
 ・蘇生教育
13.急性冠症候群(ACS)(瀬尾宏美)
 ・ACSの初期診療アルゴリズム
 ・診断
 ・初期治療
 ・再灌流療法に関する治療戦略
 ・薬物追加療法
 ・ACS診療に関するシステムへの介入
 ・自己心拍再開後のPCI
14.神経蘇生の策定経緯と概要(永山正雄)
 ・神経救急蘇生の必要性
 ・神経蘇生GL2010策定の経緯
 ・神経蘇生GL2010の特徴
15.蘇生の教育と普及(漢那朝雄・石見 拓)
 ・心肺蘇生ガイドラインの特徴―教育・訓練対象者
 ・市民への教育に関して
 ・心停止傷病者に対する病院前救護体制の役割
 ・医療従事者に特化した話題
 ・倫理的問題と法的問題

 サイドメモ目次
  2010年は近代蘇生法導入から50年
  JRC Guidelinesの意義
  ウツタイン様式
  アミオダロンは急速静注投与してよいのか
  脈拍の確認
  胸骨圧迫の深さ
  除細動のエネルギー量
  CPRコール
  一般小児科医や救急医には馴染みが少ない先天性心疾患の蘇生が,なぜガイドラインに加えられたか?
  日本版新生児蘇生法(NCPR)
  “モバイル・テレメディシン”による病院前トリアージ