やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 山田正仁
 金沢大学大学院医学系研究科脳老化・神経病態学(神経内科学)
 アミロイドーシスは,種々の蛋白が脳,心,腎,消化管,末梢神経などの臓器や組織の細胞外に線維(アミロイド)として沈着する病的状態である.正常では可溶性の蛋白がミスフォールド(立体構造が変化)して凝集し,βシート構造を有する線維として沈着する(蛋白ミスフォールディング病).
 アミロイドーシスは,(1)あるアミロイド蛋白が全身の諸臓器に沈着する全身性アミロイドーシスと,(2)ある特定の臓器に限局した沈着を示す限局性アミロイドーシスに大別される.全身性アミロイドーシスはアミロイド蛋白の種類によって,AL,AA,トランスサイレチン(家族性アミロイドポリニューロパチー,老人性全身性アミロイドーシス),β2-ミクログロブリン(透析)アミロイドーシスほかに分類される.限局性アミロイドーシスの代表例は脳アミロイドーシスであり,そこには,アミロイドβ蛋白沈着を特徴とする Alzheimer病や脳アミロイドアンギオパチー,プリオン蛋白沈着を示すCreutzfeldt-Jakob病などが含まれる.アミロイドの沈着過程は,(1)前駆体蛋白の産生,(2)前駆体蛋白のアミロイド原性蛋白(モノマー)へのプロセッシング,(3)蛋白のミスフォールディングと凝集,の3段階からなる.(3)の凝集過程では,成熟した線維よりもオリゴマーなどの中間凝集体のほうがより強い細胞毒性を有することがAlzheimer病などでは報告されている.
 最近,アミロイドーシス/蛋白ミスフォールディング病の研究の進歩には,基礎・臨床の両面において著しいものがある.かつては根本的治療法がなかった本症に対し,“抗アミロイド療法”の研究開発と臨床応用が急速に進行している.
 本別冊ではアミロイドーシス研究のあらたな展開を,病型ごとに,さらにはアミロイドーシス全般にかかわる課題について,わが国を代表するエキスパートの方々に解説していただく.ひとりでも多くの医師,研究者,学生が本特集に興味をもって本領域の臨床・基礎研究に参入し,一刻も早く,本症に苦しむすべての患者が治療可能になるよう願ってやまない.
 はじめに(山田正仁)
ALアミロイドーシス
 1.ALアミロイドの性状とその産生形質細胞(河野道生)
  ・Igの産生と ERストレス
  ・遊離L鎖(FLC)
  ・Igの異化および L鎖の分解
  ・ALアミロイドの性状
  ・ALアミロイド沈着の機序および組織特異性
  ・ALアミロイドーシスにおける遊離L鎖(FLC)
  ・原発性ALアミロイドースにおける単クローン性形質細胞
 2.ALアミロイド線維形成およびアミロイド線維分解の機序(今井裕一・菅 憲広)
  ・蛋白質の構造―ネイティブ構造とモルテングロビュール(molten globule)
  ・アミロイド線維の基本型
  ・免疫グロブリンの産生機序
  ・免疫グロブリン量と軽鎖量
  ・ALアミロイド線維の形成部位
  ・形質細胞によるアミロイド線維の産生
  ・アミロイド線維の分解
 3.ALアミロイドーシスの治療―最近の進歩(島崎千尋)
  ・化学療法
  ・自家末梢血幹細胞移植併用大量化学療法
  ・同種造血幹細胞移植
  ・新規薬剤
AAアミロイドーシス
 4.AAアミロイドーシスの分子病態―SAAの構造,代謝とアミロイドーシス(山田俊幸)
  ・SAAの構造と代謝
  ・AAアミロイドーシスの病因
 5.マウス実験的AAアミロイドーシスにおけるアミロイドの沈着と吸収(星井嘉信・他)
  ・マウス実験的AAアミロイドーシス
  ・マウスAAアミロイド沈着の進行
  ・マウスAAアミロイドの吸収
  ・マウス実験的AAアミロイドーシスの治療
 6.AAアミロイドーシス合併関節リウマチ症例におけるアミロイド蛋白のターンオーバーと除去―トシリズマブ療法を中心に(奥田恭章)
  ・対象と方法
  ・開始時と最終評価時と全経過の平均SAA
  ・AAアミロイドーシス症状の推移
  ・消化管組織沈着の改善の評価―投与前と最終評価時の比較
  ・抗TNF阻害療法の有用性
 7.AAアミロイドーシスに対する新規治療法(吉崎和幸)
  ・生物製剤出現前までの治療
  ・生物製剤によるRA治療におけるAAアミロイドーシス
  ・AAアミロイド線維の前駆蛋白である血清アミロイドA(SAA)発現機序
  ・IL-6阻害によるSAA発現抑制
  ・ヒト化抗IL-6受容体抗体(トシリズマブ)治療によるAAアミロイドーシスの改善
  ・トシリズマブによる AAアミロイドーシスの臨床研究
トランスサイレチン(TTR)アミロイドーシス
 8.TTRアミロイド沈着の分子機構とその制御(関島良樹)
  ・TTRの発現,構造,機能,代謝
  ・TTRアミロイド沈着の分子機構
  ・TTRアミロイド沈着の制御
 9.家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)の分子疫学(本崎裕子・山田正仁)
  ・TTR型FAP
  ・わが国におけるFAPの疫学
  ・FAP Val30Met変異の臨床像
 10.家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)の肝移植とその他の治療(安東由喜雄)
  ・エビデンスとしての肝移植
  ・ドミノ肝移植
  ・対症療法
  ・TTRの4量体の安定化作用によるFAPの治療―NSAIDs誘導体,Cr3+
 11.老人性全身性アミロイドーシスの病態と診断(池田修一)
  ・疾患概念
  ・アミロイド構成蛋白
  ・病理組織像
  ・臨床症状
  ・診断
  ・鑑別疾患
  ・治療と予後
透析アミロイドーシス
 12.透析アミロイドーシス発症の分子機構(内木宏延)
  ・アミロイド線維の試験管内形成機構
  ・アミロイド共存分子とアミロイド線維形成・沈着の分子機構
 13.透析アミロイドーシスの臨床病態(高市憲明)
  ・透析アミロイドーシスの発症機序
  ・透析アミロイドーシスの臨床発症の要因
  ・透析アミロイドーシスの症状と診断
  ・透析アミロイドーシスの治療
 14.透析アミロイドーシスの予防と治療戦略(下条文武)
  ・透析アミロイドーシスの発症リスク
  ・予防対策と治療戦略
  ・透析膜のタイプ
  ・β2-m吸着カラム(リクセル(R))
  ・血液濾過透析
  ・手術的治療
  ・腎移植
脳アミロイドーシス
 15.脳アミロイドーシスに対するAβ免疫療法(東海林幹夫)
  ・免疫療法の発見
  ・免疫療法の機序
  ・AN1792 phaseII trial(Study 201)
  ・免疫療法の副作用
  ・神経原線維変化に対する効果は?
  ・免疫療法のあらたなる取り組み
 16.βアミロイドの産生・分解機序とその制御(三條伸夫)
  ・βセクレターゼ(β-secretase)
  ・γセクレターゼ(γ-secretase)と構成因子の機能
  ・γセクレターゼの活性調節とAD治療への応用
  ・Aβの分解酵素・クリアランスとその調節因子
 17.Aβ凝集機序とその制御(小野賢二郎・山田正仁)
  ・Aβ凝集
  ・In vitro実験系で効果が報告されている化合物
  ・In vivo実験系で効果が報告されている化合物
  ・臨床試験が行われている化合物
 18.脳アミロイドアンギオパチーの疫学と病態(廣畑美枝・山田正仁)
  ・CAAの疫学
  ・CAA関連脳内出血の疫学
  ・CAA,およびCAA関連病態の発生機序
 19.BRI遺伝子変異に伴う家族性認知症―典型的老人斑に乏しい,あらたなAlzheimer病のモデル(冨所康志・玉岡 晃)
  ・BRI2遺伝子
  ・BRI2蛋白の構造
  ・BRI2蛋白の局在
  ・APPプロセッシングの調節
  ・FBDの臨床像と病理所見
  ・FDDの臨床像と病理所見
  ・BRI遺伝子変異とアミロイド分子の生成
  ・FBDと FDDの組織化学
  ・体循環でのアミロイド分子の生化学
  ・患者脳でのアミロイド分子の生化学
  ・合成ペプチドによる検討
  ・BRI遺伝子変異に伴う家族性認知症の意義
アミロイドーシス全般の課題
 20.アミロイドーシスのモデル動物―病態の理解と治療法の開発をめざして(樋口京一・前田秀一郎)
  ・TTRアミロイドーシスのモデル動物
  ・TTRアミロイドーシス発症に関係する因子の解析
  ・マウス老化(AApoAII)アミロイドーシスのモデルマウス
 21.アミロイドーシスの分子イメージング(工藤幸司)
  ・アミロイドイメージングとそのストラテジー
  ・アミロイドイメージングPETプローブとしての[11C]BF-227
 22.アミロイドーシスの伝播―プリオン病以外のアミロイドーシスは伝播するのか?(樋口京一)
  ・モデル動物でのアミロイドーシスの伝播の発見
  ・AAアミロイドーシスの伝播
  ・アミロイドーシスにおける伝播の意義
 23.アミロイドーシスの理解に必要な最新の基礎知識20(浜口 毅・山田正仁)
 ・サイドメモ目次
  XBP1と形質細胞分化
  血清遊離軽鎖(FLC)
  SAAの遺伝子多型
  老人性全身性(心)アミロイドーシスがアメリカ黒人になぜ好発するのか?
  Photo-induced cross-linking of unmodified proteins(PICUP)
  メガナチュラル(MN)