やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 溝上雅史
 国立国際医療センター国府台病院肝炎・免疫研究センター,名古屋市立大学大学院医学研究科肝炎・免疫連携大学院分野
 ウイルス性肝炎を引き起こす肝炎ウイルスは現在までA型からE型までの5種類の存在が確認されているが,慢性化し肝硬変や肝癌へ進展するのはB型肝炎とC型肝炎であり,世界的にそれぞれ約4億人,2億人の人達がその原因ウイルスの持続感染者で,公衆衛生的に大きな問題となっている.
 B型肝炎を引き起こすB型肝炎ウイルス(HBV)は1965年に発見され,1980年代には疫学的・臨床的・ウイルス学的特徴は“すべて“明らかにされ,その研究者達は“絶滅危惧種”と危ぶまれたが,1990年ごろからgenotypeの存在とその地理的分布の違いからくる臨床的意義が明らかになったことと各種の経口抗HBV薬が開発されたことで,HBVの概念そのものが大きく変化した.その結果,治療そのものも急速に進化したが,新しく薬剤耐性の問題が出現し大きな問題となっている.そこで,現在第一線で治療にあたっている先生方に,自分の苦悩を念頭においた“現時点における治療”の解説をお願いした.
 一方,C型肝炎ウイルス(HCV)は1989年に発見され,輸血後肝炎のほとんどを占めた非A非B型肝炎ウイルスの原因ウイルスであることが明らかにされ,その抗体や遺伝子測定法を導入することで,わが国では今や輸血後肝炎はほぼ制圧されるところとなった.しかし,過去に感染し,現在肝炎や肝硬変や肝癌に苦しんでいる約150万人の人たちについては,インターフェロン+リバビリン治療は進んだとはいえ,HCV genotype1高ウイルス量の患者は約半数しか治癒させることができないのが現状である.そこで,現時点におけるHCVの基礎的研究の状況や各種C型肝疾患治療の現状や,今後の新規薬剤や治療の見込みについても,わが国における第一線の先生方に解説をお願いした.
 今回,お願いした先生方すべてが期待に応えていただき,本別冊を読まれるすべての読者諸兄の期待に応えることができたと密かに自負している次第である.
 はじめに(溝上雅史)
B型肝炎
1.B型肝炎―基礎研究と臨床の接点(田中靖人・杉山真也)
 ・B型肝炎の自然経過
 ・HBV遺伝子型と臨床像
 ・HBV遺伝子型と基礎研究
 ・免疫不全下でのHBV感染と肝障害
 ・免疫不全下でのHBV感染実験(in vivo)
2.In vitro,in vivoにおけるHBVの薬剤感受性評価と臨床への応用―ヒト肝細胞キメラマウスを用いた基礎研究とその応用(柘植雅貴・茶山一彰)
 ・ヒト肝細胞キメラマウスの作製
 ・In vivoにおける HBV感染・複製系の確立
 ・In vitroにおける HBV複製系の確立
 ・培養細胞由来 HBV粒子を用いたキメラマウスへの感染
 ・In vitroおよび in vivoにおける HBVの薬剤感受性評価
 ・In vitro,in vivo薬剤感受性評価系の臨床への応用
 ・今後の展望
3.核酸アナログ時代におけるインターフェロン(IFN)治療の適応と限界(進藤道子)
 ・HBe抗原陽性例におけるIFN治療の成績,適応,限界
 ・HBe抗原陰性例でのIFN治療
4.ラミブジン長期投与の実態―継続かvs.中止か(南 祐仁)
 ・ラミブジン投与の位置づけ
 ・わが国でのラミブジン投与の実態
 ・ラミブジンの投与方法―現時点でラミブジンを使用する意義
 ・ラミブジン長期投与―継続か中止か
5.B型慢性肝炎に対するエンテカビルの長期治療成績と耐性変異ウイルスの出現率に関する最新の知見(小橋春彦)
 ・エンテカビルの長期使用成績
 ・エンテカビル長期投与と薬剤耐性化
 ・抗ウイルス効果と耐性化からみたエンテカビルの適応
6.核酸アナログ耐性の分子メカニズム(今関文夫)
 ・B型肝炎ウイルスの遺伝子構造と複製機構
 ・なぜ,B型肝炎ウイルスの駆除が難しいのか
 ・なぜ,耐性ウイルスができやすいのか
 ・なぜ,耐性ウイルスが出現するのか
 ・耐性ウイルス出現例に対する対策
7.B型肝炎再活性化とその対策(田中榮司)
 ・非活動性キャリアにおける再活性化
 ・HBVキャリアにおける再活性化対策
 ・De novo B型肝炎
 ・De novo B型肝炎の実態と対策
8.肝細胞癌根治後の再発における HBV DNA量の影響,再発予防に対する抗ウイルス薬の関与(中馬 誠・髭 修平)
 ・肝細胞癌発症におけるHBV DNA量の関与
 ・肝細胞癌発症抑制に関する抗ウイルス薬の関与
 ・肝癌再発におけるHBV DNA量の関与
 ・肝癌再発に対する抗ウイルス薬の関与
 ・肝癌再発に関する自検例
 ・肝癌再発に関するHBV DNA量の関与と機序
 ・肝癌再発抑制に関する抗ウイルス薬の機序
C型肝炎
9.C型肝炎ウイルスの基礎研究と臨床の接点(脇田隆字)
 ・HCVの発見と臨床に与えたインパクト
 ・HCVゲノム解析による抗ウイルス薬開発
 ・レプリコンの開発とウイルス増殖機構の解析
 ・ウイルス培養系の開発
10.C型肝炎ウイルス変異に基づく治療戦略(坂本 穣・榎本信幸)
 ・インターフェロンの治療効果に関連した遺伝子変異
 ・ISDR
 ・コアアミノ酸変異
 ・ISDRとコアアミノ酸変異を組み合わせた効果予測と治療戦略
 ・テーラーメード治療の可能性
11.ALT正常 HCVキャリアの治療適応を考える(熊田 卓・豊田秀徳)
 ・ALT正常(基準値内)症例の自然経過
 ・ALT正常(基準値内)症例の治療成績
12.高齢者 C型肝炎に対するペグインターフェロン・リバビリン併用療法(平松直樹・林 紀夫)
 ・OLFにおける治療成績
 ・Peg-IFNα2b/リバビリン併用療法の適応
13.ペグインターフェロン・リバビリン併用療法の難治要因―難治要因における宿主自然免疫の関与も含めて(朝比奈靖浩)
 ・PEG-IFN・リバビリン併用療法の治療効果に関与する要因
 ・治療中の抗ウイルス効果と難治要因
 ・C型肝炎ウイルスと自然免疫
 ・自然免疫系遺伝子の肝内発現プロファイルと抗ウイルス効果
 ・宿主自然免疫系における難治要因のメカニズム
14.酸化ストレスの抑制は C型肝炎の肝発癌を抑制しうるか?(吉岡奈穂子・日野啓輔)
 ・C型肝炎における酸化ストレス亢進機序
 ・C型肝炎の肝発癌に酸化ストレスがどのように関与しているか
 ・酸化ストレス抑制からみた肝発癌阻止のためのstrategy
15.データマイニングを用いた治療効果予測(八橋 弘)
 ・データマイニングとは?
 ・C型慢性肝炎に対するインターフェロン,ペグインターフェロン/リバビリン併用療法の治療効果にかかわる因子
 ・C型慢性肝炎に対するPegIFN/リバビリン併用療法の治療成績
 ・データマイニング(決定木法)を用いた IFNの治療効果予測
 ・データマイニング解析と変数選択法を用いた重回帰分析によるSVR率の予測式
 ・データマイニング解析結果の解釈と問題点
16.新規治療の現状:プロテアーゼ阻害剤(鈴木文孝)
 ・プロテアーゼ阻害剤
17.新規治療の現状:SPT阻害剤―宿主因子を標的にしたHCV増殖抑制(小原道法)
 ・宿主因子をターゲットとした抗HCV薬の可能性
 ・HCV複製を抑制する化合物としてのSPT阻害剤の同定
 ・HCV感染モデル動物であるヒト肝型キメラマウスとSPT阻害剤の抗 HCV効果
18.HCV増殖・培養系を用いた抗ウイルス化合物の大規模スクリーニング(坂本直哉)
 ・HCV増殖・培養系
 ・HCVレプリコン系
 ・シクロスポリンAによるHCV増殖抑制
 ・抗ウイルス薬剤・化合物の大規模スクリーニング
19.肝癌治療後の抗ウイルス療法(西口修平・山本晃久)
 ・発癌予防の概念
 ・IFNの発癌抑制機序
 ・IFNの再発抑制効果
 ・IFNの投与対象と投与法

 ・サイドメモ目次
  HBVの薬剤耐性変異
  ラミブジン耐性とエンテカビル耐性
  アルファベットによるアミノ酸名の表記
  HBV cccDNA
  レプリコン
  基準値とcut-off値(臨床判断値)
  NSEに基づいた抗ウイルス療法の治療適応の考え方
  PEG-IFN・リバビリン併用療法中の自然免疫系分子の経時的発現