やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 高本眞一
 東京大学大学院医学系研究科臓器病態外科学(心臓外科学)

 1950 年代から DeBakey,Cooleyらにより胸部大動脈瘤の手術が行われるようになったが,当初の成績は散々たる状態で,内科の教科書には胸部大動脈瘤は手術しても危険が大きいため手術しないほうがよいと書かれた時代もあった.しかし,その後,麻酔法の発達,術前術後管理の発達,種々の手術法の開発,人工血管の発達,脳脊髄保護法,心筋保護法の発達,輸血法の発達,種々の診断法の発達,種々の.器具の開発,これらが相まって大動脈外科は近年めざましく発達してきており,とくにわが国において手術成績の大幅な改善が認められた.一昨年(2007),第8回の大動脈疾患国際シンポジウムが東京で開かれ,わが国の研究が世界の注目を浴び,基礎も臨床も大動脈疾患に関しては世界をリードしていると考えられる.
 とくに近年著しく発展した Marfan症候群の遺伝子診断,大動脈瘤の実験的薬物療法,コンピュータを用いた瘤内の血流分析などは,今後の臨床への応用が期待されるところである.そのほか,画像診断,とくに Adamkiewicz動脈の精細な画像描出,大動脈解離における壁内血腫(IMH)に対する正確な理解,大動脈手術のデータベースによりリスク調整したアウトカム調査も世界に誇れるわが国発の業績である.
 治療においても大動脈弁輪拡張症に対する自己弁温存術は独自の改良が加えられ,また脳保護においても逆行性脳灌流のあらたな工夫が出てきた.ステントグラフトも世界に先がけて open stent療法が導入され,大動脈瘤のあらたな潮流となるものと期待される.
 本特集においては,各トピックをわが国における第一人者に執筆していただいた.読者にとって大動脈瘤の基礎と臨床の第一線を理解するのに有用であろうと考えている.これらの第一線の研究により,大動脈瘤の患者が大きな恩恵を受けることを望んでいる.さらに,今後ともわが国がこの領域において世界をリードしつづけることができることを期待したい.
 はじめに 高本眞一
基礎
 1.Marfan症候群とその類縁疾患の遺伝子解析 堺 温哉・松本直通
  Marfan症候群とは
  Marfan症候群とその類縁疾患の責任遺伝子
  日本人におけるコホート研究
  Marfan症候群における TGF-βシグナル系異常と薬物治療の可能性
 2.大動脈瘤に対する薬物療法開発の最前線 吉村耕一・他
  大動脈瘤診療における課題
  大動脈瘤の病態
  薬物療法開発に関する基礎的・臨床的研究
  大動脈瘤薬物療法の開発戦略
 3.大動脈瘤の薬物治療―核酸医薬を使った新規治療法の開発 三宅 隆
  動脈瘤の病態
  動脈瘤治療のストラテジー
  薬物療法の臨床試験
  核酸医薬を使った治療法の開発
  これからの課題
 4.計算科学が解き明かす大動脈基部のメカニクス―シミュレーションによる生体機能の解析 杉浦清了・久田俊明
  大動脈基部置換術と Valsalva洞機能についての研究
  ALE流体構造連成解析を用いたシミュレーション
  Valsalva洞形成の機能的意義
  新しい生体シミュレーションに向けて
画像診断
 5.大動脈瘤の画像診断 田波 穣・栗林幸夫
  CTA検査手順
  MRA検査手順
  大動脈瘤の画像診断
 6.Adamkiewicz動脈の非侵襲的画像診断 吉岡邦浩
  Adamkiewicz動脈の解剖
  侵襲的画像診断―血管造影
  非侵襲的画像診断―CT・MRI
治療方針・治療成績分析
 7.偽腔閉塞型大動脈解離の治療方針 加地修一郎
  偽腔閉塞型大動脈解離の定義と診断
  偽腔閉塞型大動脈解離の臨床像―偽腔閉塞型との違い
  偽腔閉塞型大動脈解離の治療
 8.大動脈手術のデータベース 本村 昇・高本眞一
  日本成人心臓血管外科手術データベース(JACVSD)
  JACVSDからみた大血管手術症例
  リスク calculator:JapanSCORE
外科療法
 9.弓部大動脈瘤の外科療法 荻野 均
  術前検査
  到達法
  脳保護法
  手術手技
  手術成績
 10.逆行性脳灌流法による弓部大動脈瘤の外科治療 上田裕一
  弓部全置換術術式
  左開胸による遠位弓部〜下行大動脈置換
  DHCAと RCPの適応と限界
 11.大動脈弁輪拡張症に対する自己弁温存大動脈基部置換手術 縄田 寛
  大動脈弁輪拡張症(AAE)とは
  自己弁温存大動脈基部置換手術(VSARR)の位置づけ
  VSARRの歴史と変遷
  AAEの診断と VSARRの術前評価
  手術適応の決定
  当科での具体的な術式(David-V変法/UT modification)
 12.胸腹部大動脈瘤に対する外科治療―補助手技,手術手技および脊髄侵襲 田林晄一
  補助手段
  手術方法
  脊髄保護
  最近の胸腹部大動脈置換術の成績
 13.急性大動脈解離に対する外科治療と問題点 岡田健次・大北 裕
  大動脈解離の分類
  大動脈解離の病態
  大動脈解離の治療戦略
  術式の実際
 14.感染性大動脈瘤の治療 山本哲史
  感染性大動脈瘤の診断
  感染性大動脈瘤の治療
 15.間欠的静脈圧増強逆行性脳灌流法 北堀和男・高本眞一
  選択的(順行性)脳循環法
  逆行性脳灌流法
  逆行性脳灌流法の問題点
  逆行性脳灌流法を発展させる
  実験的検討
  臨床での応用
  間欠的静脈圧増強逆行性脳灌流法の人工心肺操作
ステントグラフト
 16.腹部大動脈瘤のステントグラフト療法 重松 宏・他
  EVARの手術適応
  EVARの解剖学的適応
  EVAR施行の施設基準と実施医・指導医基準
  治療の実際
  治療成績
  わが国の現状
 17.胸腹部大動脈瘤に対する枝付きステントグラフト治療 大木隆生
  枝付きステントグラフト治療の方法
  枝付きステントグラフト治療の評価と課題
 18.胸部大動脈瘤に対するステントグラフト治療 倉谷 徹
  ステントグラフト
  胸部真性大動脈瘤に対する TEVAR
  その他の胸部大動脈瘤
 19.経大動脈ステントグラフト治療―胸部大動脈疾患に対するステント&オープンハイブリッド治療 加藤雅明
  Open stent graft法
  Debranching+(経大動脈)ステントグラフト内挿術

 サイドメモ目次;
  JNK抑制による大動脈瘤の退縮治療
  Multidetector-row CT(MDCT)
  Albert Wojciech Adamkiewicz(1850〜1921)
  Stepwise法を用いた遠位側吻合
  弓部大動脈瘤の病型
  弓部大動脈瘤手術の体外循環
  ワーファリン®
  モノフィラメント糸
  硬膜外腔冷却法
  Mycotic aneurysm
  Extraanatomic bypassとin situ血行再建
  同種組織(ホモグラフト)