やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

別冊化にあたって
 中谷幸太郎
 東京女子医科大学医学部脳神経外科
 定位脳手術に起源をもつガンマナイフは歴史のある治療であり,臨床機器としては1980年代にアメリカへ,1990年代には日本へ導入された.それから20年以上が経過し,徐々にその治療症例数は増加して脳外科治療の一角を担うようになり,また治療データも段々と積み重ねられEBMに足るデータが揃いはじめている.
 今日ではテクノロジーの進歩によりさまざまな発展があり,医療現場は日々進歩している.スピードは年々早まっていることとIT技術の発展もあり,よくも悪くも情報が氾濫している.このような背景も影響してか,よい治療法であるものの,医療従事者にはいま一つ知られていないような印象がある.
 すこしでも理解を深めていただくために,この治療法を中心とした連載をはじめて,これを執筆している現在(2009年3月),早いもので約1年が経過した.この間にもさらに変化があり,とくに数年前から欧米で導入されはじめている最新機種ガンマナイフ“パーフェクション”がそれである.2008年,日本でも認可が下りたことから,その年末より徐々に導入されはじめている.この新機種の特徴は身体への治療時の負荷がより軽く,治療時間も短縮でき,さらに照射範囲が拡大されたことによるスムーズな治療に加え,頭頸部領域に対する治療といったあらたな可能性がある.
 この連載が別冊化されるにあたり,この最新型のガンマナイフも含めて定位放射線治療の領域に関する知識を紹介させていただき,今後の診療の役に立てていただけるよう願っている.

はじめに
 中谷幸太郎
 東京女子医科大学医学部脳神経外科
 日々発展していく医療のなかで,定位放射線治療(radiosurgery)の登場は脳神経外科手術の位置づけを変えた.それまでは難易度の高い手術でしか治療できないような脳腫瘍だけでなく,手術不可能とされた脳深部の腫瘍に対する治療も可能になったのである.なかでも全国でもっとも導入施設が多く,かつ症例経験も多いガンマナイフ治療は60年代後半に登場した治療機器であるが,徐々に装置の改良を行ったうえ,1990年代には段々と症例が増えていき,いまでも多くの症例を治療している.この間に画像診断を中心としたコンピュータネットワーク技術の進歩が治療の発展と密接に関係していることは,いうまでもないであろう.日本国内で導入されてから約20年が経ち,現在ではEBMに足る症例数と長期成績が得られて評価され,治療の安全性および良好な成績が確認されている.インターネットの普及によりガンマナイフやサイバーナイフといった名称は広く知れわたり,医療従事者だけでなく患者自身および家族に至るまで,よく調べたうえで来院されることも多くなった.その反面,一部の医療機関では治療の詳細を十分に理解されていない場合もまだ多く,この治療の恩恵を受ける機会を逃している患者もいるのが現状である.適応となる疾患は限られたものであるが,さらなる治療の可能性として新しい方法も試みられているうえ,機器の種類も増えてきており,つぎの時代へとさらに進歩していくことだろう.
 各稿を通じて現在のradiosurgeryの知識を再確認していただくとともに,関連する疾患や他の治療法も含めた総合的な知識を得ていただいたうえ,脳神経外科分野だけの一治療法としてだけではなく,もっと身近な治療として,日々の診療に役立てていただけるよう心より願っている.
 別冊化にあたって(中谷幸太郎)
 はじめに(中谷幸太郎)
第1章 概論
 1.Radiosurgeryの現況と展望(高倉公朋)
  ガンマナイフ
  ガンマナイフ機器の改良
  ガンマナイフ治療の適応
  その他の定位放射線治療装置
  今後の展望
 2.治療コンセプトと適応―Radiosurgeryの理解を深めてもらうために(中谷幸太郎)
  Radiosurgeryの特徴
  Radiosurgeryの治療適応
  治療決定をする際の補助的な要素
  Radiosurgeryの現状
 3.定位放射線治療の歴史と現況(小林達也)
  定位放射線治療の種類・定義
  ガンマナイフの出現―低侵襲,1回照射,正確無比の治療
  ガンマナイフおよび治療の変遷
  ガンマナイフ以外の定位放射線治療
  ガンマナイフおよび定位放射線治療に関する学術面の普及
 4.定位放射線治療のための各機器の特徴―最近の各定位放射線治療機器についての概説(森 美雅)
  脳病変の定位放射線治療機器
  脳以外の頭頸部,体幹部病変の治療機
  複数の種類の定位放射線治療機器を設置している病院での治療数
  いろいろな病変を治療するうえでの各機器の特徴
  今後の展望
 5.画像診断技術の進歩に伴う治療の発展―ガンマナイフ治療のあたらしい展開(井澤正博・林 基弘)
  あたらしいMRI Sequence
  拡散テンソルtractographyの臨床応用
  CTとMRIのfusion image
  腫瘍の再発と放射線壊死を鑑別するための画像診断
  各疾患のガンマナイフ治療計画における画像選定と有用性
  Co-registration機能を用いたあたらしいガンマナイフ治療
 6.Radiosurgeryに伴う合併症(長谷川俊典)
  ガンマナイフ治療後早期の合併症
  ガンマナイフ治療後の長期合併症
 7.定位放射線治療の放射線生物学的特徴(多湖正夫)
  定位放射線照射の放射線生物学
 8.放射線治療の医療経済評価―価値に見合った評価がなされているか(田倉智之)
  価値と対価の考え方
  診療技術の経済評価の体系
  放射線治療の医療経済評価の例
第2章 疾患別各論
 9.寡数個脳転移に対する定位放射線治療―予防的全脳照射を併用しないガンマナイフ単独治療成績(芹澤 徹)
  対象
  患者背景
  腫瘍制御率
  生存期間
  神経死予防率,ADL維持率
  新規病変出現と追加照射
  腫瘍再増大時の腫瘍再発と放射線障害の鑑別の必要性
 10.転移性脳腫瘍治療におけるパラダイムシフト―ガンマナイフ治療を中心に(山本昌昭)
  脳転移はどの時期に起こるか?
  脳転移は致死的疾患か?
  治療可能な病巣数は?
  病巣サイズと病巣数をどう考えるか?
  全脳照射との併用は必須か?
  髄膜播種にどう対処するか?
  手術とガンマナイフの併用
  ガンマナイフ治療が担癌患者の延命に寄与しているか?
 11.脳動静脈奇形に対するradiosurgeryの治療成績と今後の展望(甲賀智之・丸山啓介)
  脳動静脈奇形に対するradiosurgeryの効果
  Radiosurgeryによる脳動静脈奇形からの出血率の変化
  他の症状の改善
  Radiosurgeryに伴う合併症
  より安全な治療をめざして
 12.髄膜腫に対するガンマナイフ治療―より低侵襲な髄膜腫治療をめざして(岩井謙育)
  ガンマナイフの治療適応
  治療線量
  2期的ガンマナイフ治療
  手術とガンマナイフを組合せた治療
  長期治療成績と合併症
  髄膜腫に対するガンマナイフの治療指針
 13.ガンマナイフによる聴神経腫瘍の治療成績―腫瘍体積はどれほど成績に関与するか(福岡誠二・中村博彦)
  対象
  方法
  結果
  考察
  結論
 14.下垂体腫瘍に対するガンマナイフ治療―どこまで治療できるのか(木田義久)
  症例と方法
  結果
  下垂体腫瘍のradiosurgery
  今後の治療の方向性
 15.三叉神経痛に対する最新のガンマナイフ治療(田村徳子・林 基弘)
  三叉神経痛に対する治療方針と適応
  三叉神経痛に対するガンマナイフ治療概念
  三叉神経痛に対するガンマナイフ治療の実際
  ガンマナイフによる三叉神経治療成績
 16.不随意運動に対するガンマナイフ治療(落合 卓)
  脳深部刺激療法とガンマナイフの違い
  治療計画(視床Vimターゲット法)
  治療後経過
 17.脊椎・脊髄疾患に対する治療(佐藤健吾)
  方法・対象
  結果
  考察
 18.体幹部疾患に対する定位放射線治療(中川恵一)
  体幹部定位照射の定義
  体幹部定位放射線治療の歴史
  体幹部定位照射施行の現状
  体幹部定位放射線治療の成績
  体幹部定位放射線治療の課題と展望
第3章 医師にとっての定位放射線治療と将来
 19.脳神経外科医にとっての定位放射線治療(堀 智勝)
  下垂体腺腫
  頭蓋咽頭腫種
  聴神経腫瘍
  三叉神経痛
 20.放射線科医にとっての定位放射線照射―全脳照射との対比(青山英史)
  1回大線量照射の特殊性
  全脳照射の意義
  定位放射線照射の意義と問題
 21.定位放射線治療の現状とこれから(林 基弘)
  ここまでやれる定位放射線手術(ガンマナイフ)
  定位放射線手術(ガンマナイフ)のこれから

 サイドメモ目次
  IMRT(intensity modulated radiation therapy)
  ガンマナイフか,リニアック定位放射線治療か?
  IMRT
  Leksell Gフレーム,オンマイヤ
  定位放射線照射
  放射線による細胞生存曲線
  ガンマナイフ単独治療
  転移性脳腫瘍に対する予防的WBRTの効果
  ガンマナイフとリニアック
  RPA分類
  トラクトグラフィ
  頭蓋底髄膜腫に対する最近の治療の考え方
  サイバーナイフの構造(第四世代マシン)