はじめに
戸井雅和
京都大学大学院医学研究科外科学講座乳腺外科学
現在開発中,あるいは今後開発が予定されている薬剤の大多数がいわゆる分子標的治療薬である.臓器別にみれば,血液,乳腺,消化管の腫瘍等では一標的複数治療薬の時代に入っている.すでに確立された治療法では治療の適性化と個別化,そして耐性への対応が最重要の課題であり,そのなかで新たな治療標的を模索し,新規治療法を開発することが一般的に行われるようになった.一見すると従来型の薬剤開発とあまり差がないように思えるが,対象となる主要な標的が定まっている場合の治療法開発の速度は驚くほど速い.HER2陽性乳癌に対する治療を例にとれば,抗HER2抗体trastuzumabが臨床導入されて以降,それまで最も予後不良であった乳癌サブグループが,むしろ予後良好の範疇に加えられるようになり,HER受容体tyrosine kinase阻害剤lapatinibの導入によって,乳癌のなかでも最も治癒率の高いサブグループになるのではないかという推測が現実味を帯びている.同時に,化学療法との併用を必要とする癌と必ずしも併用を必要としない癌との識別や,投与期間の検討,さらにはコストの問題等が,新規薬剤の開発による治療効果の追求とともに真剣に討議されるようになった.この数年間の変化には本当に目を見張るものがある.
このような分子標的治療法に関する治療の適性化,治療個別化の探求,効率性への配慮は,状況は異なるにしろ,各治療法,各領域で一斉に始まっている.したがって,臨床試験においても,単に抗腫瘍効果や生存に関する検討だけでなく,付随研究,なかでもproof of conceptに関わるようなtranslational researchを含む試験が,著しく増加している.理詰めの臨床試験が増えてきたとも言えるかもしれない.そのような観点から,様々な治療法開発の現状,最先端をみることはおおいに興味深いと考えられる.
戸井雅和
京都大学大学院医学研究科外科学講座乳腺外科学
現在開発中,あるいは今後開発が予定されている薬剤の大多数がいわゆる分子標的治療薬である.臓器別にみれば,血液,乳腺,消化管の腫瘍等では一標的複数治療薬の時代に入っている.すでに確立された治療法では治療の適性化と個別化,そして耐性への対応が最重要の課題であり,そのなかで新たな治療標的を模索し,新規治療法を開発することが一般的に行われるようになった.一見すると従来型の薬剤開発とあまり差がないように思えるが,対象となる主要な標的が定まっている場合の治療法開発の速度は驚くほど速い.HER2陽性乳癌に対する治療を例にとれば,抗HER2抗体trastuzumabが臨床導入されて以降,それまで最も予後不良であった乳癌サブグループが,むしろ予後良好の範疇に加えられるようになり,HER受容体tyrosine kinase阻害剤lapatinibの導入によって,乳癌のなかでも最も治癒率の高いサブグループになるのではないかという推測が現実味を帯びている.同時に,化学療法との併用を必要とする癌と必ずしも併用を必要としない癌との識別や,投与期間の検討,さらにはコストの問題等が,新規薬剤の開発による治療効果の追求とともに真剣に討議されるようになった.この数年間の変化には本当に目を見張るものがある.
このような分子標的治療法に関する治療の適性化,治療個別化の探求,効率性への配慮は,状況は異なるにしろ,各治療法,各領域で一斉に始まっている.したがって,臨床試験においても,単に抗腫瘍効果や生存に関する検討だけでなく,付随研究,なかでもproof of conceptに関わるようなtranslational researchを含む試験が,著しく増加している.理詰めの臨床試験が増えてきたとも言えるかもしれない.そのような観点から,様々な治療法開発の現状,最先端をみることはおおいに興味深いと考えられる.
はじめに(戸井雅和)
モノクローナル抗体
1.抗HER2抗体療法―乳癌の現状と将来展望(岩田広治)
・HER2遺伝子(HER蛋白)
・抗(HER2)モノクローナル抗体の分子機構
・抗HER2抗体の臨床
2.抗VEGF療法(乳腺)―原発性乳癌に対する治療応用が視野に(戸井雅和)
・乳癌の予後とVEGF
・ホルモンとVEGF
・抗VEGF療法
・再発乳癌での成績
・原発性乳癌における検討,臨床試験
3.抗VEGF療法(消化器)(布施 望・大津 敦)
・Bevacizumabの作用機序
・大腸癌
・膵癌
・胃癌
4.Vascular targeting agent(坂東裕子)
・Vascular disrupting agents(VDA)/vascular targeting agent(VTA),低分子薬剤
・Ligand-directed VTA
・VTA療法の治療効果モニタリング
5.抗CD22抗体の基礎と臨床― CD22分子とその抗体療法(照井康仁)
・CD22抗原
・抗CD22抗体
・CMC-544の臨床試験
6.骨転移に対するRANKL抗体:denosumab(高橋俊二)
・骨転移の機序
・RANKLの発見とその機能
・骨転移とRANKL
・骨転移の薬物治療
・ヒト型化RANKL抗体(denosumab)の開発
・RANKL抗体(denosumab)の副作用
低分子阻害剤
7.乳癌に対するラパチニブ(伊藤良則)
・投与方法と毒性
・臨床的有用性
・トラスツズマブ耐性克服
・ホルモン療法の耐性克服
8.EGFRチロシンキナーゼ阻害薬の現状― ゲフィチニブ,エルロチニブ(清水淳市・光冨徹哉)
・上皮成長因子受容体を標的とした小分子蛋白キナーゼ阻害剤
・単剤ゲフィチニブ,エルロチニブの第I・II相試験(用量設定)
・進行NSCLCの初回治療における化学療法との併用
・進行NSCLCの二・三次治療
・局所進行NSCLC化学放射線療法後の維持療法として
・NSCLCに対するその他の臨床試験
・NSCLCにおけるEGFR-TKIの効果予測
・耐性のメカニズム
・選択した患者に対する治療効果
・他の分子標的治療薬との併用
・間質性肺炎の問題
・NSCLC以外の癌種に対するEGFR-TKI
9.チロシンキナーゼ阻害剤:c-met(上野貴之・戸井雅和)
・c-met
・c-metとそのシグナル
・癌とc-met
・c-metを標的とした癌の治療
10.チロシンキナーゼ阻害剤:メシル酸イマチニブ―イマチニブ治療の現状と展望(西田俊朗)
・メシル酸イマチニブの構造と作用機序
・白血病
・GIST
・起性皮膚線維肉腫(dermatofibrosarcoma protuberans:DFSP)
11.マルチキナーゼ阻害剤:sunitinib(高張大亮・白尾國昭)
・Sunitinibの臨床薬理学的特徴
・Imatinib耐性GIST
・腎細胞癌
・その他の癌腫
12.NF-κBを標的とする抗癌剤(鈴木絵里子・梅澤一夫)
・NF-κBの構造と役割
・NF-κB阻害剤の探索とDHMEQの発見
・DHMEQの抗癌活性
・薬剤耐性とNF-κB阻害剤による克服
13.HDAC6選択的阻害薬―HDAC6選択的阻害薬の腫瘍細胞に対する効果(伊藤幸裕・他)
・HDAC6選択的阻害薬
・NCT-10,NCT-14のHDAC6選択性
・NCT-10,NCT-14の腫瘍細胞に対する効果
14.mTOR阻害剤(藤阪保仁・田村友秀)
・PI3K-Akt経路とmTOR
・分子標的としてのmTOR
・CCI-779
・RAD001
・AP23573
15.ステロイドサルファターゼ阻害剤(石田浩幸・他)
・ステロイドサルファターゼ(STS)
・乳癌におけるSTS
・STS阻害剤
・STX64の臨床効果
16.オーロラ阻害剤―染色体分配制御因子を標的とした新しい抗癌剤(達家雅明)
・オーロラキナーゼとは
・オーロラ阻害剤の開発
・その他のM期標的抗癌化合物
17.サバイビンを標的とした新しい分子標的薬剤:YM155(佐藤太郎・中川和彦)
・Patient and Method
・Results
18.HDAC阻害剤と併用療法(加藤雪彦)
・HDAC阻害剤の抗腫瘍効果
・HDAC阻害剤と他の薬剤との併用療法
19.FLT3阻害剤とJAK阻害剤―造血器腫瘍に対するチロシンキナーゼ阻害剤の有効性と開発状況(北村俊雄・等 泰道)
・FLT3阻害剤
・JAK阻害剤
20.あらたなABLチロシンキナーゼ阻害剤―イマニチブ耐性克服を目指して(木村晋也)
・ダサチニブ(BMS-354825,SPRYCEL(R))
・ニロチニブ(AMN107,TASIGNA(R))
・ボスチニブ(SKI-606)
・INNO-406(NS-187)
・T315Iによる耐性克服をめざした薬剤
・サイドメモ目次
抗PTHrP抗体
SH2ドメイン
CMLにおけるイマチニブ耐性機構
GISTにおけるイマチニブ耐性機構
省略記号一覧
Sunitinibの標的とシグナル伝達
ヒトアリルサルファターゼ
有糸分裂
染色体の構造
染色体の分配
体細胞分裂の過程
オーロラC
白血病のクラスIとクラスII遺伝子変異
モノクローナル抗体
1.抗HER2抗体療法―乳癌の現状と将来展望(岩田広治)
・HER2遺伝子(HER蛋白)
・抗(HER2)モノクローナル抗体の分子機構
・抗HER2抗体の臨床
2.抗VEGF療法(乳腺)―原発性乳癌に対する治療応用が視野に(戸井雅和)
・乳癌の予後とVEGF
・ホルモンとVEGF
・抗VEGF療法
・再発乳癌での成績
・原発性乳癌における検討,臨床試験
3.抗VEGF療法(消化器)(布施 望・大津 敦)
・Bevacizumabの作用機序
・大腸癌
・膵癌
・胃癌
4.Vascular targeting agent(坂東裕子)
・Vascular disrupting agents(VDA)/vascular targeting agent(VTA),低分子薬剤
・Ligand-directed VTA
・VTA療法の治療効果モニタリング
5.抗CD22抗体の基礎と臨床― CD22分子とその抗体療法(照井康仁)
・CD22抗原
・抗CD22抗体
・CMC-544の臨床試験
6.骨転移に対するRANKL抗体:denosumab(高橋俊二)
・骨転移の機序
・RANKLの発見とその機能
・骨転移とRANKL
・骨転移の薬物治療
・ヒト型化RANKL抗体(denosumab)の開発
・RANKL抗体(denosumab)の副作用
低分子阻害剤
7.乳癌に対するラパチニブ(伊藤良則)
・投与方法と毒性
・臨床的有用性
・トラスツズマブ耐性克服
・ホルモン療法の耐性克服
8.EGFRチロシンキナーゼ阻害薬の現状― ゲフィチニブ,エルロチニブ(清水淳市・光冨徹哉)
・上皮成長因子受容体を標的とした小分子蛋白キナーゼ阻害剤
・単剤ゲフィチニブ,エルロチニブの第I・II相試験(用量設定)
・進行NSCLCの初回治療における化学療法との併用
・進行NSCLCの二・三次治療
・局所進行NSCLC化学放射線療法後の維持療法として
・NSCLCに対するその他の臨床試験
・NSCLCにおけるEGFR-TKIの効果予測
・耐性のメカニズム
・選択した患者に対する治療効果
・他の分子標的治療薬との併用
・間質性肺炎の問題
・NSCLC以外の癌種に対するEGFR-TKI
9.チロシンキナーゼ阻害剤:c-met(上野貴之・戸井雅和)
・c-met
・c-metとそのシグナル
・癌とc-met
・c-metを標的とした癌の治療
10.チロシンキナーゼ阻害剤:メシル酸イマチニブ―イマチニブ治療の現状と展望(西田俊朗)
・メシル酸イマチニブの構造と作用機序
・白血病
・GIST
・起性皮膚線維肉腫(dermatofibrosarcoma protuberans:DFSP)
11.マルチキナーゼ阻害剤:sunitinib(高張大亮・白尾國昭)
・Sunitinibの臨床薬理学的特徴
・Imatinib耐性GIST
・腎細胞癌
・その他の癌腫
12.NF-κBを標的とする抗癌剤(鈴木絵里子・梅澤一夫)
・NF-κBの構造と役割
・NF-κB阻害剤の探索とDHMEQの発見
・DHMEQの抗癌活性
・薬剤耐性とNF-κB阻害剤による克服
13.HDAC6選択的阻害薬―HDAC6選択的阻害薬の腫瘍細胞に対する効果(伊藤幸裕・他)
・HDAC6選択的阻害薬
・NCT-10,NCT-14のHDAC6選択性
・NCT-10,NCT-14の腫瘍細胞に対する効果
14.mTOR阻害剤(藤阪保仁・田村友秀)
・PI3K-Akt経路とmTOR
・分子標的としてのmTOR
・CCI-779
・RAD001
・AP23573
15.ステロイドサルファターゼ阻害剤(石田浩幸・他)
・ステロイドサルファターゼ(STS)
・乳癌におけるSTS
・STS阻害剤
・STX64の臨床効果
16.オーロラ阻害剤―染色体分配制御因子を標的とした新しい抗癌剤(達家雅明)
・オーロラキナーゼとは
・オーロラ阻害剤の開発
・その他のM期標的抗癌化合物
17.サバイビンを標的とした新しい分子標的薬剤:YM155(佐藤太郎・中川和彦)
・Patient and Method
・Results
18.HDAC阻害剤と併用療法(加藤雪彦)
・HDAC阻害剤の抗腫瘍効果
・HDAC阻害剤と他の薬剤との併用療法
19.FLT3阻害剤とJAK阻害剤―造血器腫瘍に対するチロシンキナーゼ阻害剤の有効性と開発状況(北村俊雄・等 泰道)
・FLT3阻害剤
・JAK阻害剤
20.あらたなABLチロシンキナーゼ阻害剤―イマニチブ耐性克服を目指して(木村晋也)
・ダサチニブ(BMS-354825,SPRYCEL(R))
・ニロチニブ(AMN107,TASIGNA(R))
・ボスチニブ(SKI-606)
・INNO-406(NS-187)
・T315Iによる耐性克服をめざした薬剤
・サイドメモ目次
抗PTHrP抗体
SH2ドメイン
CMLにおけるイマチニブ耐性機構
GISTにおけるイマチニブ耐性機構
省略記号一覧
Sunitinibの標的とシグナル伝達
ヒトアリルサルファターゼ
有糸分裂
染色体の構造
染色体の分配
体細胞分裂の過程
オーロラC
白血病のクラスIとクラスII遺伝子変異








