やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 野出孝一
 佐賀大学医学部循環器・腎臓内科
 PPAR(peroxisome proliferator-activated receptor)は核内受容体のひとつであり,同じく核内受容体に属するRXRとヘテロ二量体を形成し,特異的な遺伝子配列PPREを認識結合することでPPARの標的遺伝子群の転写を制御する.PPARは3種のサブタイプ(α,δ/β,γ)が明らかにされ,なかでもPPARαとγに関しては研究が進み,脂質代謝や糖代謝との密接な関連が明らかとなった.さらに近年では,炎症や酸化ストレスの制御,動脈硬化の発症への関与が注目されている.当初,PPARはリガンド不明のオーファン受容体として同定されたが,特異的な外因性リガンドによりサブタイプの生理的役割の解明がなされてきており,PPARリガンドの研究はメタボリックシンドローム(metabolic syndrome)を対象としたあらたな治療薬開発につながる可能性を有している.
 本稿ではPPARの病態における新しい作用を解明するために,循環器領域や内分泌領域以外の領域からも,PPARの疾患における役割について,その分野の先端の研究をされている先生方に解説していただいた.核内受容体はステロイドホルモン受容体のように,最近では遺伝子発現を介した細胞機能修飾以外に急性効果も報告されている.また,従来のリガンドによる核内受容体活性化に加えて,他の核内受容体との相互作用や新しいリガンドも発見されている.したがって,核内受容体であるPPARは,他の核内受容体との連関により内分泌作用と他の領域の病態を連携している可能性がある.PPARのアイソフォームもα,γに加えて,δの生理学的な意義が解明されつつある.
 本別冊がPPARの分子生物学的機構のさらなる解明と将来の創薬としてのターゲットにつながることを,編者としては期待している.
 はじめに(野出孝一)
第1章 基礎病態
 1.PPARの構造(高田伊知郎・加藤茂明)
  ・PPARの構造
  ・PPARのリガンド依存的な転写活性化制御機構
  ・PPARの修飾
  ・細胞外シグナルによる PPAR機能の調節
 2.核内受容体 PPARδによる肥満と改善機構(酒井寿郎)
  ・転写因子sterol regulatory element binding protein(SREBP)
  ・転写因子peroxisome proliferator-activated receptor(PPAR)
  ・PPARδ異化作用を亢進させる脂肪燃焼センサー―栄養成分の燃焼によるあらたな生活習慣病への治療展望
  ・おわりに
第2章 PPARとメタボリックシンドローム
 3.PPARと膵(上野浩晶・中里雅光)
  ・PPARγとインスリン分泌
  ・PPARαとインスリン分泌
  ・急性膵炎とPPAR
  ・慢性膵炎とPPAR
  ・膵癌とPPAR
  ・おわりに
 4.PPARとインスリン抵抗性(窪田直人・門脇 孝)
  ・PPARの構造とアイソフォーム
  ・PPARγの個体における脂肪蓄積・インスリン感受性調節のメカニズム
  ・ヒトPPARγ2遺伝子多型と糖尿病
  ・PPARγの脂肪蓄積・インスリン感受性調節メカニズム
  ・PPARα
  ・PPARδ
  ・おわりに
 5.PPARと高脂血症(山下静也)
  ・PPARsの種類,分布と機能
  ・PPARαと脂質代謝
  ・PPARγおよび PPARδの脂質代謝における役割
  ・PPARα,PPARγアゴニストの高脂血症治療への応用
  ・おわりに
 6.PPARγと糖尿病治療(松木道裕・加来浩平)
  ・PPARγと糖尿病
  ・チアゾリジン薬の臨床応用
  ・おわりに
 7.PPARγと動脈硬化治療(松下哲也・野出孝一)
  ・PPARγと高血圧
  ・PPARγと脂質代謝異常
  ・直接効果
  ・おわりに
 8.PPARγと脂肪細胞分化(平井 静・河田照雄)
  ・脂肪細胞分化のマスターレギュレーター
  ・PPARγと脂肪細胞分化および病態発症との関連
  ・リガンドによる PPARγの活性化
  ・PPAR-コアクチベータ系
  ・PPARおよびコアクチベータ系の転写活性調節
 9.PPARと血管機能(倉林正彦)
  ・PPARα
  ・PPARγ
  ・PPARβ/δ
  ・おわりに
第3章 各疾患への最新アプローチ動向
 10.PPARと心疾患(高野博之・小室一成)
  ・心肥大
  ・虚血性心疾患
  ・その他の心疾患
  ・おわりに
 11.PPARとアレルギー疾患―PPARγと好酸球・気管支喘息を中心に(植木重治・茆原順一)
  ・好酸球におけるPPARsの発現
  ・PPARγリガンドとしての15d-PGJ2
  ・15d-PGJ2による好酸球機能制御
  ・治療濃度のPPARγアゴニストは好酸球機能を抑制する
  ・アレルギー性炎症に対するPPARγアゴニストの効果
  ・おわりに
 12.PPARと発癌―PPARαによる発癌の種差(須賀哲弥・渡邊隆史)
  ・薬物によるペルオキシソーム増殖の特性
  ・PPARとペルオキシソーム増殖
  ・ペルオキシソーム増殖薬による発肝癌の特性
  ・PPARと発癌
  ・薬物によるペルオキシソーム増殖・発癌の種差
  ・おわりに
 13.PPARと大腸癌(高橋宏和・中島 淳)
  ・大腸癌モデルマウスにおけるPPARγの役割
  ・大腸癌とβ-catenin
  ・大腸癌細胞におけるPPARγの活性阻害
  ・分子標的治療への応用
  ・おわりに
 14.PPARγとマスト細胞(千原一泰)
  ・PPARγとマスト細胞
  ・マスト細胞の増殖と分化
  ・マスト細胞の細胞増殖に対するPPARγの作用
  ・マスト細胞の分化と機能に対するPPARγの作用
  ・おわりに
 15.PPARと誘導型シクロオキシゲナーゼの関係(井上裕康)
  ・マクロファージにおけるPPARγによるCOX-2発現のフィードバック制御
  ・15d-PGJ2の問題点
  ・植物ポリフェノール類
  ・おわりに
 16.PPARと胃粘膜保護(内藤裕二・高木智久・吉川敏一)
  ・PPARγとサイトプロテクション
  ・PPARγの抗炎症作用
  ・胃粘膜におけるPPARγの発現
  ・PPARγの薬効解析のためのpharmacogenomics
  ・おわりに
 17.PPARと肝疾患(辻井正彦・鎌田佳宏・林 紀夫)
  ・脂肪肝
  ・非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:NASH)
  ・肝発癌
  ・おわりに
 18.PPARと神経疾患―脳梗塞,神経変性疾患,脳腫瘍,神経幹細胞を中心として(和田孝一郎・上崎善規)
  ・PPARの中枢での発現
  ・脳血管障害性疾患に対するPPARの作用
  ・神経変性疾患に対するPPARの作用
  ・脳腫瘍に対するPPARの作用
  ・神経再生・神経幹細胞とPPARγ
  ・おわりに
 19.PPARによる遺伝子治療(形山和史・和田孝一郎・眞弓忠範)
  ・炎症性腸疾患とPPARγ
  ・PPARγ発現アデノウイルスベクターによる遺伝子導入と腸炎に対する治療効果
  ・その他疾患への応用の可能性
  ・おわりに
 20.PPARと環境汚染物質の毒性―DEHPによるPPARαを介した生殖・発達毒性(森谷 隆・伊藤由起・那須民江)
  ・PPARαと環境化学汚染物質
  ・動物モデルにおけるPPARαとDEHPの生殖・発達毒性
  ・ヒトにおけるPPARαと DEHPの生殖・発達毒性
  ・おわりに

 ・サイドメモ目次
 大腸癌のchemoprevention(化学発癌予防)