まえがき
みなさん,高次脳機能障害と聞くとどんなイメージがあるでしょうか.教科書を読んでもモヤっとした感じがある,実際の患者さんは教科書通りにはいかない…,なんだか難しいイメージがありませんか.
高次脳機能障害は,複数の神経が関わる障害です.発症や損傷を受けた部位だけでなく連絡する部位にも影響が及び,患者さんは様々な症状を重ねもつことになります.加えて,環境の影響や患者さんの元の性格なども無視できず,患者さんは一人ひとりが様々に異なる状況を呈することになります.このため,高次脳機能障害の臨床ではパターン化した対応が難しく,患者さんへの対応に苦慮することにつながります.
私たちが所属する神奈川リハビリテーション病院は,神奈川県総合リハビリテーションセンターのなかにあり,高次脳機能障害の支援拠点機関に指定されています.当院には多くの高次脳機能障害の患者さんが入院する,いわば高次脳機能障害病棟があります.ここでは年間100名を超える高次脳機能障害の患者さんが入院し,その約60%が脳外傷による患者さんです.
当病棟には,発症・受傷から1〜2ヵ月で転院してくるケースが多いのですが,この時期の患者さんは注意障害や記憶障害が重く,病識も乏しく,周囲への配慮なども難しいことが少なくありません.病棟の看護師たちは,そうした状況に直面するなかで,患者さんの行動や状態をみながら柔軟な対応を進めています.ここでは教科書的内容だけでは役に立たず,臨床の経験を通して高い調整力をつけていくことが求められます.この「柔軟な調整力」こそが,本書でお伝えしたいテーマです.
こうした調整を現場で実践していくことは,簡単なことではありません.当病棟でもチームで試行錯誤を繰り返しながら,少しずつノウハウを積み重ねてきました.行動観察,チームで対応するための方法,基盤となる安定した生活のつくり方,家族への配慮など.これらを患者さん一人ひとりの状況に応じて,丁寧に進めていく必要があります.本書ではケースを通し,患者さんたちの“その後”を紹介していますが,30年あまり高次脳機能障害の患者さんをみるなかで,こうした対応により患者さんが落ち着き,次のステップに進められる効果を感じてきました.あわせて,これらの対応法は,高次脳機能障害と類似する疾病(認知症,発達障害など)においても有用であると考えています.
本書では,現場で用いている様々な工夫を,ケースと病棟でのエピソードを紹介しながら,わかりやすく解説することに努めました.臨床で悩みを抱える看護師にとって実用的な一冊となることを願い,二人の看護師を案内役として登場させています.若手看護師ナナさんが様々な患者さんと出逢い,先輩看護師カナコさんたちからアドバイスを受けながら,多くのことを学んでいきます.本書は,主に臨床看護師に向けた内容となっていますが,高次脳機能障害の患者さんをみる際のコツを紹介しているため,臨床で関わる医師,作業療法士,言語聴覚士,理学療法士,さらには福祉関係者,患者さんご家族にも参考にしていただけると思います.
本章の付録に掲載したストラテジーリスト(対応の工夫リスト)は,当病棟の看護師たちの経験をもとに作成しました.このストラテジーは,患者さんの状況や対応する人による工夫に応じて,今後さらに追加・バージョンアップされていくものと考えます.皆さんも自分なりのストラテジーを考えながら,本書を活用していただけることを願っています.
2025年夏
神奈川リハビリテーション病院高次脳機能障害支援チーム
みなさん,高次脳機能障害と聞くとどんなイメージがあるでしょうか.教科書を読んでもモヤっとした感じがある,実際の患者さんは教科書通りにはいかない…,なんだか難しいイメージがありませんか.
高次脳機能障害は,複数の神経が関わる障害です.発症や損傷を受けた部位だけでなく連絡する部位にも影響が及び,患者さんは様々な症状を重ねもつことになります.加えて,環境の影響や患者さんの元の性格なども無視できず,患者さんは一人ひとりが様々に異なる状況を呈することになります.このため,高次脳機能障害の臨床ではパターン化した対応が難しく,患者さんへの対応に苦慮することにつながります.
私たちが所属する神奈川リハビリテーション病院は,神奈川県総合リハビリテーションセンターのなかにあり,高次脳機能障害の支援拠点機関に指定されています.当院には多くの高次脳機能障害の患者さんが入院する,いわば高次脳機能障害病棟があります.ここでは年間100名を超える高次脳機能障害の患者さんが入院し,その約60%が脳外傷による患者さんです.
当病棟には,発症・受傷から1〜2ヵ月で転院してくるケースが多いのですが,この時期の患者さんは注意障害や記憶障害が重く,病識も乏しく,周囲への配慮なども難しいことが少なくありません.病棟の看護師たちは,そうした状況に直面するなかで,患者さんの行動や状態をみながら柔軟な対応を進めています.ここでは教科書的内容だけでは役に立たず,臨床の経験を通して高い調整力をつけていくことが求められます.この「柔軟な調整力」こそが,本書でお伝えしたいテーマです.
こうした調整を現場で実践していくことは,簡単なことではありません.当病棟でもチームで試行錯誤を繰り返しながら,少しずつノウハウを積み重ねてきました.行動観察,チームで対応するための方法,基盤となる安定した生活のつくり方,家族への配慮など.これらを患者さん一人ひとりの状況に応じて,丁寧に進めていく必要があります.本書ではケースを通し,患者さんたちの“その後”を紹介していますが,30年あまり高次脳機能障害の患者さんをみるなかで,こうした対応により患者さんが落ち着き,次のステップに進められる効果を感じてきました.あわせて,これらの対応法は,高次脳機能障害と類似する疾病(認知症,発達障害など)においても有用であると考えています.
本書では,現場で用いている様々な工夫を,ケースと病棟でのエピソードを紹介しながら,わかりやすく解説することに努めました.臨床で悩みを抱える看護師にとって実用的な一冊となることを願い,二人の看護師を案内役として登場させています.若手看護師ナナさんが様々な患者さんと出逢い,先輩看護師カナコさんたちからアドバイスを受けながら,多くのことを学んでいきます.本書は,主に臨床看護師に向けた内容となっていますが,高次脳機能障害の患者さんをみる際のコツを紹介しているため,臨床で関わる医師,作業療法士,言語聴覚士,理学療法士,さらには福祉関係者,患者さんご家族にも参考にしていただけると思います.
本章の付録に掲載したストラテジーリスト(対応の工夫リスト)は,当病棟の看護師たちの経験をもとに作成しました.このストラテジーは,患者さんの状況や対応する人による工夫に応じて,今後さらに追加・バージョンアップされていくものと考えます.皆さんも自分なりのストラテジーを考えながら,本書を活用していただけることを願っています.
2025年夏
神奈川リハビリテーション病院高次脳機能障害支援チーム
プロローグ
第1章 高次脳機能障害の患者さんに現れやすい状況
1.高次脳機能障害とは
2.高次脳機能障害の患者さんの実際
第1章のまとめ
第2章 患者さんへの対応の基本を知ろう
1.行動観察の重要性
2.行動観察の進めかた
3.安定した生活の構築
4.ストラテジー(対応の工夫)とは
5.実際のケースで考えてみましょう
6.包括的な対応
1.高次脳機能障害の患者さんと薬
2.環境調整
第2章のまとめ
第3章 チームで支える支援アプローチ
1.チームアプローチの重要性
2.チームアプローチの方法とコツ
1.キーワードを使おう(複雑で見えにくい障害に対応するために)
2.ケースカンファレンス
3.「みる」「考える」「やる」のループに「皆でやる」を追加する
3.チームアプローチのために必要な共通語
1.行動観察の記録
2.検査
3.神経心理学的検査について
4.フォーミュレーション
4.危機介入について
第3章のまとめ
第4章 長い視点でみる対応ー将来を見据えて
1.高次脳機能障害の患者さんのアウトカム(予後)とその難しさ
2.高次脳機能障害のリハビリテーションの考えかた
1.患者さんの行動のコントロールとそのための「気づき」
2.気づきを高めるための工夫
3.基盤となる安定した生活の重要性
4.高次脳機能障害のリハビリテーションの概念図
3.患者さんたちのその後
1.患者さん(ケース)のその後
2.就労・復職支援
第4章のまとめ
第5章 家族支援
1.家族支援で理解しておくこと
2.実際の家族対応
1.気づきの段階を意識すること
2.家族の理解のために
3.家族のリラクゼーションや安心のために
1.身体的負担
2.精神的負担
3.経済的負担
4.将来に関する負担
4.家族セッション(“トーク&トーク”)
5.家族からの質問への回答例
第5章のまとめ
エピローグ
付録 ストラテジーリスト(対応の工夫リスト)
怒っているとき
我慢ができないとき
自発性がないとき
道に迷う・部屋に戻れないとき
こだわっているとき
病識がないとき
不安を訴えるとき
対応全般
コラム
コラム(1) 高次脳機能障害と認知症
コラム(2) 原疾患による高次脳機能障害の相違
コラム(3) 高次脳機能障害の患者さんの話を「傾聴する」こと
コラム(4) PDCAサイクルとOODAループ
コラム(5) 初めの頃は
コラム(6) 離院・離棟について
コラム(7) 雑談の有用性
コラム(8) 高次脳機能障害と画像検査
コラム(9) 自己の気づき(self-awareness)の構造
第1章 高次脳機能障害の患者さんに現れやすい状況
1.高次脳機能障害とは
2.高次脳機能障害の患者さんの実際
第1章のまとめ
第2章 患者さんへの対応の基本を知ろう
1.行動観察の重要性
2.行動観察の進めかた
3.安定した生活の構築
4.ストラテジー(対応の工夫)とは
5.実際のケースで考えてみましょう
6.包括的な対応
1.高次脳機能障害の患者さんと薬
2.環境調整
第2章のまとめ
第3章 チームで支える支援アプローチ
1.チームアプローチの重要性
2.チームアプローチの方法とコツ
1.キーワードを使おう(複雑で見えにくい障害に対応するために)
2.ケースカンファレンス
3.「みる」「考える」「やる」のループに「皆でやる」を追加する
3.チームアプローチのために必要な共通語
1.行動観察の記録
2.検査
3.神経心理学的検査について
4.フォーミュレーション
4.危機介入について
第3章のまとめ
第4章 長い視点でみる対応ー将来を見据えて
1.高次脳機能障害の患者さんのアウトカム(予後)とその難しさ
2.高次脳機能障害のリハビリテーションの考えかた
1.患者さんの行動のコントロールとそのための「気づき」
2.気づきを高めるための工夫
3.基盤となる安定した生活の重要性
4.高次脳機能障害のリハビリテーションの概念図
3.患者さんたちのその後
1.患者さん(ケース)のその後
2.就労・復職支援
第4章のまとめ
第5章 家族支援
1.家族支援で理解しておくこと
2.実際の家族対応
1.気づきの段階を意識すること
2.家族の理解のために
3.家族のリラクゼーションや安心のために
1.身体的負担
2.精神的負担
3.経済的負担
4.将来に関する負担
4.家族セッション(“トーク&トーク”)
5.家族からの質問への回答例
第5章のまとめ
エピローグ
付録 ストラテジーリスト(対応の工夫リスト)
怒っているとき
我慢ができないとき
自発性がないとき
道に迷う・部屋に戻れないとき
こだわっているとき
病識がないとき
不安を訴えるとき
対応全般
コラム
コラム(1) 高次脳機能障害と認知症
コラム(2) 原疾患による高次脳機能障害の相違
コラム(3) 高次脳機能障害の患者さんの話を「傾聴する」こと
コラム(4) PDCAサイクルとOODAループ
コラム(5) 初めの頃は
コラム(6) 離院・離棟について
コラム(7) 雑談の有用性
コラム(8) 高次脳機能障害と画像検査
コラム(9) 自己の気づき(self-awareness)の構造














