序
2015年9月に公布された公認心理師法が2017年9月に施行されると同時に,公認心理師法施行令および公認心理師法施行規則が制定・施行され,公認心理師となるために必要な科目(学部25科目,大学院10科目)等が定められた.そのなかで,心理学研究法と心理学統計法の2科目は,公認心理師の職責,心理学概論,臨床心理学概論,心理学実験とともに基礎科目に位置づけられている.
施行規則の作成過程で,心理学研究法と心理学統計法は当初,心理学研究法(統計法を含む)という1科目として扱われていた.しかし,基礎系も含む心理学の諸分野において,統計法はデータに基づいて批判的に考え判断するという科学にとって重要な力を育成するものであり,研究法の一部に位置づけられるほど矮小なものではなく独立させるべきであるという声が上がり,最終的に,心理学研究法,心理学統計法という2つの科目になった.科学を標榜する心理学としてこのような結論に至ったことは大変意義のあることである.
一方で,研究法と統計法は不可分であることも事実である.研究を進めるには分析が必要であり,その手法として統計分析が用いられるのであれば,研究法と統計法を一緒に学習することもまた意味のあることである.実際,心理学研究法と心理学統計法のシラバスには重複する部分が多く存在する.少なくとも,公認心理師の基礎教育段階においては,研究法を理解しながら統計法を学習することは,相互の関連性をより深く学ぶことにもつながり,相応の意義があると考えられる.
そこで編者らは,研究法を理解しながら統計法を学ぶことのできる教科書をつくることを考え,本書を編集した.全体の構成は次の通りである.まず序章で,研究法と統計法の概観と本書の目指すところを述べる.1,2章で研究法について解説し,3章でデータの構造について説明する.4,5章で記述統計,6章で構成概念の測定,7章と8章で統計的推測の基礎となる統計的推定と統計的検定の考え方について解説し,9〜12章で種々の統計的検定法,13〜15章で多変量データ解析法や新しい時代の研究法・統計法について説明する.
各章の冒頭には,学生の疑問に先生が答えるというかたちで,その章で扱う内容の導入を行うINTROを設けている.日常においてふと疑問に思ったり,もっと知りたいと思うことが,実はもう研究の入り口に立っているということを理解してほしいからである.また各章の執筆者には,心理学研究法および心理学統計法について,実際に使ってみたい,研究をしてみたいと読者が興味をもって学べるよう,臨床・発達・パーソナリティなどの事例を用いて,実践的な解説をしていただくようにお願いした.読者にとって馴染みやすい内容になっていれば幸いである.
本書は,心理学研究法,心理学統計法のどちらの教科書としても使用できるものであるが,2科目分の内容構成にはなっていないため,本書で両方の科目を学べると考えるのは適切ではない.本書で足りないところは他の成書を用いるなどして,学習を進めていただければと思う.
最後に,お忙しいなか時間を割いて原稿を書いてくださった執筆者の先生方,また本書の企画・刊行にあたって大変お世話になりました医歯薬出版の編集部ご担当者に感謝いたします.
2020年11月
編者を代表して
石井秀宗
2015年9月に公布された公認心理師法が2017年9月に施行されると同時に,公認心理師法施行令および公認心理師法施行規則が制定・施行され,公認心理師となるために必要な科目(学部25科目,大学院10科目)等が定められた.そのなかで,心理学研究法と心理学統計法の2科目は,公認心理師の職責,心理学概論,臨床心理学概論,心理学実験とともに基礎科目に位置づけられている.
施行規則の作成過程で,心理学研究法と心理学統計法は当初,心理学研究法(統計法を含む)という1科目として扱われていた.しかし,基礎系も含む心理学の諸分野において,統計法はデータに基づいて批判的に考え判断するという科学にとって重要な力を育成するものであり,研究法の一部に位置づけられるほど矮小なものではなく独立させるべきであるという声が上がり,最終的に,心理学研究法,心理学統計法という2つの科目になった.科学を標榜する心理学としてこのような結論に至ったことは大変意義のあることである.
一方で,研究法と統計法は不可分であることも事実である.研究を進めるには分析が必要であり,その手法として統計分析が用いられるのであれば,研究法と統計法を一緒に学習することもまた意味のあることである.実際,心理学研究法と心理学統計法のシラバスには重複する部分が多く存在する.少なくとも,公認心理師の基礎教育段階においては,研究法を理解しながら統計法を学習することは,相互の関連性をより深く学ぶことにもつながり,相応の意義があると考えられる.
そこで編者らは,研究法を理解しながら統計法を学ぶことのできる教科書をつくることを考え,本書を編集した.全体の構成は次の通りである.まず序章で,研究法と統計法の概観と本書の目指すところを述べる.1,2章で研究法について解説し,3章でデータの構造について説明する.4,5章で記述統計,6章で構成概念の測定,7章と8章で統計的推測の基礎となる統計的推定と統計的検定の考え方について解説し,9〜12章で種々の統計的検定法,13〜15章で多変量データ解析法や新しい時代の研究法・統計法について説明する.
各章の冒頭には,学生の疑問に先生が答えるというかたちで,その章で扱う内容の導入を行うINTROを設けている.日常においてふと疑問に思ったり,もっと知りたいと思うことが,実はもう研究の入り口に立っているということを理解してほしいからである.また各章の執筆者には,心理学研究法および心理学統計法について,実際に使ってみたい,研究をしてみたいと読者が興味をもって学べるよう,臨床・発達・パーソナリティなどの事例を用いて,実践的な解説をしていただくようにお願いした.読者にとって馴染みやすい内容になっていれば幸いである.
本書は,心理学研究法,心理学統計法のどちらの教科書としても使用できるものであるが,2科目分の内容構成にはなっていないため,本書で両方の科目を学べると考えるのは適切ではない.本書で足りないところは他の成書を用いるなどして,学習を進めていただければと思う.
最後に,お忙しいなか時間を割いて原稿を書いてくださった執筆者の先生方,また本書の企画・刊行にあたって大変お世話になりました医歯薬出版の編集部ご担当者に感謝いたします.
2020年11月
編者を代表して
石井秀宗
序文
序章 臨床統計学の目指すところ
(石井秀宗,滝沢 龍)
I.心理専門職と研究法・統計法
II.研究法の概観
III.統計法の概観
IV.なぜ研究法や統計法を学ぶのか
〈コラム〉データサイエンスと心理専門職
1章 臨床研究法の理解
(シュレンペル レナ,滝沢 龍)
INTRO
1.臨床研究法の理解に向けて
2.質的研究法とは
3.量的研究法とは
4.実践的研究法とは
5.精神生理学的研究法とは
6.研究倫理
7.1章のまとめ
〈1章Q & A〉
〈コラム〉エビデンス・レベル
2章 データの収集
(出野美那子,滝沢 龍)
INTRO
1.どのように方法を決めるのか
2.どのようにデータを抽出するか
3.研究デザインの種類:何回データを収集するのか
4.データ収集の技法:どのような手法があるのか
5.2章のまとめ
〈2章Q & A〉
〈コラム〉欠測値
3章 データの構造
(稲吉玲美,滝沢 龍)
INTRO
1.質的データと量的データ
2.変数の分類
3.独立変数と従属変数
4.対応のないデータと対応のあるデータ
5.3章のまとめ
〈3章Q & A〉
〈コラム〉ミクスト・メソッド(混合研究法)
4章 データの記述
(齋藤 信)
INTRO
1.データの記述
2.度数分布を表す図表
3.データにおける代表的な数値と散らばりの数値
4.データにおける代表値
5.データにおける散布度
6.4章のまとめ
〈4章Q & A〉
〈コラム〉偏差値の話
5章 量的変数間の関連の記述
(中村杏奈,滝沢 龍)
INTRO
1.2つの量的変数の関連をみること
2.量的変数の関連を図で表す:散布図
3.量的変数の関連を数値で表す:共分散,相関係数
4.相関を扱ううえでの注意点
5.相関係数に関する誤解
6.5章のまとめ
〈5章Q & A〉
〈コラム〉順位相関係数
6章 構成概念の測定
(谷 伊織)
INTRO
1.構成概念とは
2.観測変数と潜在変数
3.心理尺度
4.妥当性
5.信頼性
6.信頼性係数
7.信頼性と妥当性に関する議論
8.6章のまとめ
〈6章Q & A〉
〈コラム〉Big Fiveモデルの構成概念妥当性
7章 統計的推測(1) 統計的推定
(石井秀宗)
INTRO
1.なぜ統計的推測が必要か
2.データを確率事象として捉える
3.統計的推測における考え方
4.点推定
5.区間推定
6.7章のまとめ
〈7章Q & A〉
〈コラム〉自由度
8章 統計的推測(2) 統計的検定
(野村あすか)
INTRO
1.統計的検定を始める前に
2.統計的検定の方法
3.統計的検定における留意点
4.2群の平均値差の検定
5.8章のまとめ
〈8章Q & A〉
〈コラム〉有意水準はどのように決めるのですか?
9章 平均値の比較(1) 1要因分散分析
(川本哲也)
INTRO
1.分散分析とは
2.対応のない要因の場合の1要因分散分析
3.対応のある要因の場合の1要因分散分析
4.9章のまとめ
〈9章Q & A〉
〈コラム〉1要因分散分析におけるサンプルサイズ
10章 平均値の比較(2) 2要因分散分析
(天井響子,滝沢 龍)
INTRO
1.さまざまな実験計画
2.主効果と交互作用効果
3.2要因被験者間計画
4.2要因被験者内計画
5.2要因混合計画
6.10章のまとめ
〈10章Q & A〉
〈コラム〉3要因以上の分散分析は可能?
11章 ノンパラメトリック検定
(二村郁美)
INTRO
1.パラメトリック検定とノンパラメトリック検定
2.分布の位置の比較
3.比率の比較
4.11章のまとめ
〈11章Q & A〉
〈コラム〉二項検定
12章 分割表の分析
(山内星子)
INTRO
1.分割表
2.連関と独立
3.カイ2乗統計量
4.連関係数
5.ファイ係数
6.独立性の検定:カイ2乗検定
7.独立性の検定:フィッシャーの直接確率法
8.残差分析
9.シンプソンのパラドックス(疑似連関)
10.12章のまとめ
〈12章Q & A〉
〈コラム〉一致係数
13章 回帰分析
(浦野由平,滝沢 龍)
INTRO
1.回帰分析の考え方:単回帰分析を例に
2.独立変数が複数ある場合:重回帰分析の適用
3.回帰分析における注意点と対処
4.13章のまとめ
〈13章Q & A〉
〈コラム〉統計モデリングという考え方
14章 因子分析・構造方程式モデリング
(鈴木雅之)
INTRO
1.因子分析とは
2.因子分析の概要
3.確認的因子分析
4.探索的因子分析
5.構造方程式モデリング
6.14章のまとめ
〈14章Q & A〉
〈コラム〉 因子分析と心理学研究
15章 新しい時代の研究と統計
(伊藤大幸)
INTRO
1.エビデンスに基づく実践
2.再現性の危機
3.EBPと再現性問題がもたらすパラダイムシフト
4.15章のまとめ
〈15章Q & A〉
〈コラム〉ベイズ統計
付録 統計学で用いられる文字・記号(石井秀宗)
付表1 ギリシャ文字
付表2 統計記号
索引
序章 臨床統計学の目指すところ
(石井秀宗,滝沢 龍)
I.心理専門職と研究法・統計法
II.研究法の概観
III.統計法の概観
IV.なぜ研究法や統計法を学ぶのか
〈コラム〉データサイエンスと心理専門職
1章 臨床研究法の理解
(シュレンペル レナ,滝沢 龍)
INTRO
1.臨床研究法の理解に向けて
2.質的研究法とは
3.量的研究法とは
4.実践的研究法とは
5.精神生理学的研究法とは
6.研究倫理
7.1章のまとめ
〈1章Q & A〉
〈コラム〉エビデンス・レベル
2章 データの収集
(出野美那子,滝沢 龍)
INTRO
1.どのように方法を決めるのか
2.どのようにデータを抽出するか
3.研究デザインの種類:何回データを収集するのか
4.データ収集の技法:どのような手法があるのか
5.2章のまとめ
〈2章Q & A〉
〈コラム〉欠測値
3章 データの構造
(稲吉玲美,滝沢 龍)
INTRO
1.質的データと量的データ
2.変数の分類
3.独立変数と従属変数
4.対応のないデータと対応のあるデータ
5.3章のまとめ
〈3章Q & A〉
〈コラム〉ミクスト・メソッド(混合研究法)
4章 データの記述
(齋藤 信)
INTRO
1.データの記述
2.度数分布を表す図表
3.データにおける代表的な数値と散らばりの数値
4.データにおける代表値
5.データにおける散布度
6.4章のまとめ
〈4章Q & A〉
〈コラム〉偏差値の話
5章 量的変数間の関連の記述
(中村杏奈,滝沢 龍)
INTRO
1.2つの量的変数の関連をみること
2.量的変数の関連を図で表す:散布図
3.量的変数の関連を数値で表す:共分散,相関係数
4.相関を扱ううえでの注意点
5.相関係数に関する誤解
6.5章のまとめ
〈5章Q & A〉
〈コラム〉順位相関係数
6章 構成概念の測定
(谷 伊織)
INTRO
1.構成概念とは
2.観測変数と潜在変数
3.心理尺度
4.妥当性
5.信頼性
6.信頼性係数
7.信頼性と妥当性に関する議論
8.6章のまとめ
〈6章Q & A〉
〈コラム〉Big Fiveモデルの構成概念妥当性
7章 統計的推測(1) 統計的推定
(石井秀宗)
INTRO
1.なぜ統計的推測が必要か
2.データを確率事象として捉える
3.統計的推測における考え方
4.点推定
5.区間推定
6.7章のまとめ
〈7章Q & A〉
〈コラム〉自由度
8章 統計的推測(2) 統計的検定
(野村あすか)
INTRO
1.統計的検定を始める前に
2.統計的検定の方法
3.統計的検定における留意点
4.2群の平均値差の検定
5.8章のまとめ
〈8章Q & A〉
〈コラム〉有意水準はどのように決めるのですか?
9章 平均値の比較(1) 1要因分散分析
(川本哲也)
INTRO
1.分散分析とは
2.対応のない要因の場合の1要因分散分析
3.対応のある要因の場合の1要因分散分析
4.9章のまとめ
〈9章Q & A〉
〈コラム〉1要因分散分析におけるサンプルサイズ
10章 平均値の比較(2) 2要因分散分析
(天井響子,滝沢 龍)
INTRO
1.さまざまな実験計画
2.主効果と交互作用効果
3.2要因被験者間計画
4.2要因被験者内計画
5.2要因混合計画
6.10章のまとめ
〈10章Q & A〉
〈コラム〉3要因以上の分散分析は可能?
11章 ノンパラメトリック検定
(二村郁美)
INTRO
1.パラメトリック検定とノンパラメトリック検定
2.分布の位置の比較
3.比率の比較
4.11章のまとめ
〈11章Q & A〉
〈コラム〉二項検定
12章 分割表の分析
(山内星子)
INTRO
1.分割表
2.連関と独立
3.カイ2乗統計量
4.連関係数
5.ファイ係数
6.独立性の検定:カイ2乗検定
7.独立性の検定:フィッシャーの直接確率法
8.残差分析
9.シンプソンのパラドックス(疑似連関)
10.12章のまとめ
〈12章Q & A〉
〈コラム〉一致係数
13章 回帰分析
(浦野由平,滝沢 龍)
INTRO
1.回帰分析の考え方:単回帰分析を例に
2.独立変数が複数ある場合:重回帰分析の適用
3.回帰分析における注意点と対処
4.13章のまとめ
〈13章Q & A〉
〈コラム〉統計モデリングという考え方
14章 因子分析・構造方程式モデリング
(鈴木雅之)
INTRO
1.因子分析とは
2.因子分析の概要
3.確認的因子分析
4.探索的因子分析
5.構造方程式モデリング
6.14章のまとめ
〈14章Q & A〉
〈コラム〉 因子分析と心理学研究
15章 新しい時代の研究と統計
(伊藤大幸)
INTRO
1.エビデンスに基づく実践
2.再現性の危機
3.EBPと再現性問題がもたらすパラダイムシフト
4.15章のまとめ
〈15章Q & A〉
〈コラム〉ベイズ統計
付録 統計学で用いられる文字・記号(石井秀宗)
付表1 ギリシャ文字
付表2 統計記号
索引