やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

シリーズの序
 本シリーズは当初,単独で出版された『イラストでわかる小児理学療法』『イラストでわかる人間発達学』,さらに『イラストでわかる発達障害の作業療法』が多くの方から支持されたことによりシリーズ化されることになりました.すなわち本シリーズは,多くの養成校の教科書として採用された実績によって作られた企画です.きっと,キャンパスでたくさんの学生が本書を抱えて歩いていることでしょう.
 本書は,編集の先生方に,「イラストでわかるシリーズ」の共通した内容である,理学療法士・作業療法士養成校の学生に合った内容で,「わかりやすい」・「興味がもてる」・「ポイントを絞った」を目標に,平易な文章でイラストを多用しコンパクトにまとめていただきました.加えて,具体的な内容については編集者の「伝えたい思い入れ」に従って構成していただきました.そのため,テキストによっては,若干,構成が異なる内容になっていると思います.
 監修にあたり,できるだけ読みやすくすることを心がけました.また,不適切な用語がありましたらご教授いただければうれしく思います.最後に,ご多忙のところ監修者のお願いをこころやすく聞き入れてくださいました編集者・著者の先生方,および出版に労をいとわずにご尽力をくださった医歯薬出版株式会社編集部担当者に深くお礼申し上げます.
 2019年5月
 監修者 上杉雅之


編集者の序
 “評価に始まり評価に終わる.”
 この一連の流れは,理学療法を実施するうえで最も基本的な行為であり,患者のもつ問題点や障害像の把握につながります.さらに提供した理学療法技術およびプログラムの効果判定と,治療によって解決できなかった新たな問題点への“気づき”にも結びつくでしょう.
 近年の診療報酬改正によって,運動器疾患に対する理学療法を提供する臨床現場では,時間的・経済的制約を受けながらも,効率的・効果的な理学療法サービスの提供が求められています.このような現状のなかで,円滑に理学療法を実践するうえで,医師をはじめ多職種からの情報収集や理学療法評価,問題点抽出,そして治療プログラム実践と効果検証までの“流れ“を身に着けておくことが求められます.このため“評価”を的確かつ適切に実践できる能力は重要です.
 本書では,理学療法を学ぶ学生や運動器疾患の初学者にとって,他部門から得るべき情報(診断に関わる検査・画像所見)と,理学療法士が行うべき評価を整理できるように工夫した構成としました.とくに“評価“にあたって,問診から始まり,視診・触診までの“流れ”のなかで,患者の主訴・ニードをしっかりと理解し,病態(炎症所見)や疾患特性などを把握するように心がけ,その後に,関節可動域(ROM)テストや徒手筋力検査(MMT),基本的動作や日常生活活動(ADL)などの機能・能力面に関する評価を実施するという基本的な“流れ”を理解してもらいたい.とくに臨床実習生は,患者と相対する際にはくれぐれも,ROMテストやMMTといった形式化された評価から始めないようにしてもらいたい.まずは患者の抱える身体的・精神的な障害像を理解することに努めるべきです.
 理学療法の実施にあたって,治療計画(プラン)と治療プログラムという2つの観点を念頭において項目立てを行いました.患者の目標達成に向けて段階的な治療計画を立てたうえで,各段階において適切な理学療法プログラムを提供することが重要です.この点を意識することが,患者のもつ問題点や障害像をより明確にするでしょう.また各疾患に対する理学療法では,リスク管理を踏まえたうえで,具体的な方法と実施上の注意点について詳細に解説してあります.これらの理学療法プログラムは,ぜひ身に着けてもらいたい基本的技術の1つです.プログラム個々のもつ目的や実施上の操作法(コツ)をしっかりと理解することが,応用的なプログラムの発展につながるものと確信しています.さらには,治療プログラムの内容を患者に説明できるレベルまで理解を深めることによって,臨床実習場面で臨床実習指導者(理学療法士)が実施している治療プログラムを解釈できる能力を身に着けることができると考えています.このようなことから理学療法における治療計画全体の流れを念頭におきつつ,理学療法プログラムのもつ意義をていねいに学習することを推奨したいと思います.
 これから理学療法士を目指す学生や理学療法士ルーキーとして臨床現場で活躍する皆さんにとって,「運動器疾患に対する理学療法」に関する基本的な考え方と各疾患における実践的な理学療法の礎として本書が役立つこと祈念するしだいです.
 編集にあたり,見やすさと読みやすさを心がけました.内容において細心の注意を払ったつもりですが,不適切な表現等がありましたらご教示いただけますとありがたく思います.最後に,ご多忙のところ,編集者のお願いを心やすくお聞き入れくださいました著者の先生方に深くお礼申し上げます.
 2020年12月
 編集者 横山茂樹
     甲斐義浩
 執筆者一覧
 シリーズの序(上杉雅之)
 編集者の序(横山茂樹,甲斐義浩)
第1章 運動器障害理学療法の概略
 (横山茂樹)
 エッセンス
 運動器障害とは
 運動器障害における組織損傷とその修復過程
  骨折
  軟骨損傷
  筋損傷
  軟部組織損傷(靱帯,腱,関節包など)
  末梢神経損傷
 理学療法の方針
  目標
  理学療法の基本戦略
 理学療法の実践
  ROM練習法の種類と手段
  筋力増強・維持運動の種類と手段
  基本動作・ADL練習
 確認してみよう!・解答
 先輩からのアドバイス
 トピックス
第2章 肩関節の運動器障害(1)腱板断裂
 (幸田仁志・甲斐義浩)
 エッセンス
 病態・障害像
  腱板の構造と機能
  腱板断裂の臨床像
 診断および治療方針
  問診
  視診
  触診
  画像所見
 理学療法評価
  疼痛評価
  関節可動域測定
  インピンジメントテスト
  筋力検査
  腱板の評価
  各種機能評価
 治療計画およびプログラム
  関節注射および投薬による保存療法
  理学療法による保存療法
  手術療法
  術後理学療法
 確認してみよう!・解答
 先輩からのアドバイス
 トピックス
第3章 肩関節の運動器障害(2)反復性肩関節脱臼
 (永松 隆)
 エッセンス
 病態・障害像
  肩関節脱臼とは
  肩関節の安定化機構
  反復性肩関節脱臼に関連する安定化機構の破綻
 診断および治療方針
  画像所見
  反復性肩関節前方脱臼に対する手術療法
 理学療法評価
  問診
  視診・触診
  疼痛検査
  一般的検査法
  肩甲骨運動の評価
  徒手的検査法:疾患に応じた特殊テスト
  反復性肩関節脱臼に使用する機能スコア
 治療計画およびプログラム
  術後1日〜2週
  術後3週目〜4週
  術後5週目〜6週
  術後7週目〜3カ月
  術後4カ月目〜6カ月
 確認してみよう!・解答
 先輩からのアドバイス
 トピックス
第4章 肘関節の運動器障害─スポーツ肘関節障害を中心に─
 (松井知之)
 エッセンス
 病態・障害像
  内側痛
  後方痛
  外側痛
 診断および治療方針
  理学的検査法
  画像検査
  治療方針の決定
 理学療法評価
  問診
  視診・触診
  一般的検査法
 治療計画およびプログラム
  患部外トレーニング
  患部への消炎処置
  ストレッチ
  筋力トレーニング
 確認してみよう!・解答
 先輩からのアドバイス
 トピックス
第5章 手関節と手指の運動器障害─橈骨遠位端骨折
 (武内孝祐)
 エッセンス
 病態・障害像
  橈骨遠位端骨折とは
  発生状況
 診断および治療方針
  分類
  治療方針
  合併症
 理学療法評価
  他部門からの情報収集
  問診
  視診
  触診
  疼痛
  関節可動域測定
  筋力検査
  感覚検査
  周径測定
  徒手的検査
  各種機能評価
 治療計画およびプログラム(術後プログラムを中心に)
  外固定装着の時期の理学療法(術後2週)
  外固定除去〜仮骨形成前の時期の理学療法(術後2〜8週)
  仮骨形成後の時期の理学療法(術後8週〜)
 確認してみよう!・解答
 先輩からのアドバイス
 トピックス
第6章 脊柱の運動器障害(1)頸部脊椎症
 (篠原 博)
 エッセンス
 病態・障害像
  病態
  障害像
 診断
  症状
  画像診断
 治療方針
  疾患別の保存療法および手術療法の選択
  保存療法
  手術療法
 理学療法評価
  医療情報収集・問診
  視診
  触診
  一般的検査法
  徒手的検査法(ストレステスト)
  日本整形外科学会頸髄症治療成績判定基準および頸部脊髄症評価質問票
 治療計画およびプログラム
  保存療法としての理学療法
  手術療法後の理学療法
 確認してみよう!・解答
 先輩からのアドバイス
 トピックス
第7章 背柱の運動器障害(2)腰椎椎間板ヘルニア
 (宮地 諒・宮ア純弥)
 エッセンス
 病態・障害像
  腰椎椎間板ヘルニアとは
  分類
  障害像
 診断
  問診
  理学所見(視診・触診)・神経学的検査
  画像・その他の検査
 治療方針
  薬物療法
  神経根ブロック療法
  手術療法
 理学療法評価
  問診
  視診・触診
  関節可動域
  筋力検査(徒手筋力検査法)
  感覚検査
  深部腱反射
  徒手的検査法
  機能スコア
 治療計画およびプログラム
  安静
  装具療法
  運動療法
 確認してみよう!・解答
 先輩からのアドバイス
 トピックス
第8章 脊柱の運動器障害(3)非特異的腰痛
 (安彦鉄平)
 エッセンス
 病態・障害像
 診断
  Red flags
  Yellow flags
  各種腰痛の特徴
 治療方針
 理学療法評価
  問診
  視診(姿勢観察・動作観察)
  神経学的検査
  自動運動テスト
  疼痛誘発軽減テスト
  他動運動テスト
  筋の評価(筋長検査・触診・筋力検査)
  補助的検査
  自己記入式質問紙検査
  結論・試験治療
 治療計画およびプログラム
  第1段階 目的:疼痛の軽減とROMの拡大
  第2段階 脊柱の安定化(モーターコントロール)
  第3段階 動作能力の向上
 確認してみよう!・解答
 先輩からのアドバイス
 トピックス
第9章 股関節の運動器障害(1)変形性股関節症
 (対馬栄輝)
 エッセンス
 病態・障害像
  病態
  障害像
 診断および治療方針
  診断の基準
  治療方針
 理学療法評価
  医療情報収集・問診
  観察・触察・疼痛の確認
  関節機能の評価
  理学的検査(徒手的検査法)
  股関節機能判定基準・健康関連QOL
 治療計画およびプログラム
 確認してみよう!・解答
 先輩からのアドバイス
 トピックス
第10章 股関節の運動器障害(2)大腿骨頸部骨折/転子部骨折
 (井上由里)
 エッセンス
 病態・障害像
  分類
  受傷の原因
  発生頻度
  症状
  特徴
 診断および治療方針
  骨折の程度による分類
  画像所見
  治療
 理学療法評価
  情報収集
  問診・視診・触診
  術後合併症を予防するための評価
  「心身機能・身体構造」の評価
  「活動」と「参加」の評価
  「環境因子」の評価
  心理的要因の評価
 治療計画およびプログラム
  「心身機能・身体構造」に対する理学療法
  「活動」に対する理学療法
  「環境因子」と「参加」に対するアプローチ
  機能的予後と転倒・脱臼の予防
 確認してみよう!・解答
 先輩からのアドバイス
 トピックス
第11章 膝関節の運動器障害(1)変形性膝関節症
 (内田茂博)
 エッセンス
 病態・障害像
 診断および治療方針
 評価・機能診断
  問診
  視診・触診
  疼痛評価
  関節機能検査
  筋機能検査
  姿勢アライメント
  歩行
  機能スコア・疾患特異的評価
 治療計画およびプログラム
  保存的治療
  観血的治療
 確認してみよう!・解答
 トピックス
第12章 膝関節の運動器障害(2)膝前十字靱帯損傷
 (根地嶋誠)
 エッセンス
 病態・障害像
  膝前十字靱帯の特性
  疫学
  受傷機転
  症状とメカニズム
  合併症および二次的損傷
 診断および治療方針
  診断
  治療方針
 理学療法評価
  問診・視診・触診
  一般的検査法
  徒手的検査法
  スポーツを考慮した評価と膝の機能評価
 治療計画およびプログラム
  理学療法の方針
  ACL再建術後の理学療法の流れ
  時期別理学療法プログラムの実施方法
  再発予防の基礎となるスクワット姿勢作り
 確認してみよう!・解答
 先輩からのアドバイス
 トピックス
第13章 足関節の運動器障害─足関節外側靱帯損傷
 (野田優希)
 エッセンス
 病態・障害像
  発生率
  損傷靱帯
  受傷機転
  リスクファクター
 診断および治療方針
  問診・視診・触診
  画像診断
  徒手的検査法
  治療方針
 保存療法に対する理学療法評価
  問診
  視診
  触診
  一般的検査法
  その他:機能スコア
 保存療法に対する治療計画およびプログラム
  急性期
  亜急性期
  回復期
 確認してみよう!・解答
 先輩からのアドバイス
 トピックス
第14章 関節リウマチ
 (野中紘士)
 エッセンス
 病態・障害像
  病態
  疫学
  病因とメカニズム
  経過
  症状
  関節症状
  関節外症状
  合併症
  その他
 診断および治療方針
  診断基準
  疾患活動性の評価
  関節破壊評価
  治療方針
 理学療法評価
  情報収集
  問診
  視診・触診
  疼痛
  ROM検査(関節柔軟性とエンドフィール含む)
  筋力検査
  形態測定
  感覚検査
  ADL評価
  動作の評価
  QOLの評価
  心理面の評価
 治療計画およびプログラム
  運動療法
  動作指導
  物理療法
  装具・補助具
 確認してみよう!・解答
 先輩からのアドバイス
 トピックス
第15章 末梢神経障害
 (木村智子)
 エッセンス
 病態・障害像
  末梢神経の構造と機能
  末梢神経障害の種類と分類
  末梢神経損傷による病態変化
 診断および治療方針
  臨床的評価
  電気生理学的評価
  自律神経機能評価
  整形外科的テスト
  画像診断
 治療計画およびプログラム
  保存療法
  手術療法(神経縫合術・神経移行術・機能再建術など)
 確認してみよう!・解答
 先輩からのアドバイス
 トピックス

 索引