やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 超高齢化社会と医療制度改革の波を受け,理学療法士を取り巻く環境も変遷してきました.対象疾患の拡大,ハイリスク患者への対応,入院期間の短縮などが進展するなかで,理学療法士には一定の成果が求められています.これをかなえるためには,理学療法の専門分化とエビデンス構築の推進,そしてチームでの役割を明確にしていく必要があります.そのためにも,理学療法の生涯教育を見据えたキャリアラダーと教育システム整備が喫緊の課題として待たれるところです.また,臨床実践能力を向上させるためには,臨床実習からのシームレスな教育と臨床実習指導者の質向上が不可欠といえます.
 そこで,新人理学療法士が理学療法全般の業務を理解し,さらにエビデンス構築に貢献できるような自身の成長を見据えたガイドラインが必要と考え本書を企画しました.本書は,東北大学病院リハビリテーション部で専門性に長けたスタッフの経験値を網羅し,初めて経験する疾患の理学療法や臨床的活動に対応できるよう編集しました.
 第1章では,筆者の臨床実習での取り組みを紹介し,病態を理解してもらうためのポイントを提示しています.とりわけ,指導者の視点と教育的介入の変遷を明示したことが,本書のコンセプトになっています.第2章では,専門領域ごとに疾患別理学療法を著しました.「理学療法を展開するための行動目標と指導のポイント」を表にまとめ,理学療法の流れを俯瞰できるようにしています.第3章1では,対応の難しい特殊領域の理学療法を紹介しています.第3章2では,理学療法士がかかわる代表的なチーム医療に必要な知識を整理しました.そして第3章3では,当部門で臨床研究を継続している博士らに,各専門領域での研究の進め方を解説してもらいました.第3章については,臨床経験3〜5年目の目標として意識してもらいたい項目になっています.
 本書には,少しでも患者の状態を改善させようと取り組んできたOB諸氏と当部門の診療を支えてくれているスタッフの思いが込められています.新人理学療法士に限らず,臨床実習生や臨床実習指導者,養成施設教員,そしてリハビリテーション専門医を目指す研修医にもお勧めします.大学病院の診療がベースとなっていますが,全領域をカバーしているため,あらゆる施設の診療に汎用できると考えています.単一疾患を扱う施設であっても,重複障害の患者に応用できることは多いはずです.本書をベースに各職場単位で対象疾患に合わせて内容を修正し,活用していただきたいと思います.そして,各行動目標は,学習者の能力と進捗に合わせ見直し,臨床に取り組まれるよう願います.
 最後に,東北大学病院リハビリテーション部を理想的な組織に発展させられ,今回の出版の機会をつくってくださったリハビリテーション部長の上月正博教授,ならび本企画に賛同いただいた執筆者一同,そして企画から編集にわたりご支援いただいた小口真司氏に深謝いたします.本書が,これから活躍される理学療法士に役立ち,理学療法の質向上に寄与できれば幸いです.
 2020年6月 佐藤房郎
第1章 総論
 臨床実践能力を高めるための指導と学習のポイント
第2章 各専門領域における標準的理学療法
 1.運動器疾患
  (1)変形性膝関節症
  (2)変形性股関節症
  (3)肩腱板断裂
  (4)脊柱後弯症
  (5)切断
  (6)義足
 2.中枢神経疾患
  (1)脳卒中急性期
  (2)脳卒中回復期
  (3)脳卒中維持期
  (4)脳腫瘍
  (5)正常圧水頭症
 3.内部障害
  (1)慢性閉塞性肺疾患,間質性肺炎
  (2)虚血性心疾患(心筋梗塞)
  (3)弁膜症(僧帽弁閉鎖不全症)
  (4)大動脈弁狭窄症
  (5)大血管疾患
  (6)PAD
 4.小児疾患
  (1)低出生体重児
  (2)新生児期の脳白質障害
  (3)てんかん
 5.がん患者
  (1)食道がん
  (2)頭頸部がん
  (3)肺がん
  (4)血液系がん
  (5)小児がん
 6.スポーツ外傷
  (1)投球障害(胸郭出口症候群)
  (2)前十字靱帯(ACL)損傷
  (3)アキレス腱断裂
第3章 エキスパート理学療法
 1.特異領域の理学療法
  (1)重症心不全
  (2)肺移植
  (3)LVAD
  (4)リンパ浮腫に対する複合的理学療法
  (5)難治性疼痛と異常知覚(幻肢痛)
 2.チーム医療
  (1)褥瘡対策チーム
  (2)NST
  (3)早期離床対策チーム
 3.研究への取り組み
  (1)運動器疾患領域での研究の進め方
  (2)中枢神経領域での研究の進め方
  (3)内部障害領域(呼吸器疾患)での研究の進め方

 索引