やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 本書「コグニサイズ指導マニュアル」は,認知症予防を目的とした運動プログラムを,できるだけ包括的にわかりやすい内容でご紹介したいという思いから企画しました.本書を手にした皆さんは,認知症に関して問題意識を感じ,できれば予防したいと願われていることでしょう.認知症を完全に予防・治癒させる画期的な薬が開発されるまでは,健康的な生活習慣の確立により認知症の危険性を減少し,少しでも発症時期を遅らせることが,現時点ですぐにできる認知症予防ではないかと思います.
 健康的な生活習慣のなかには,運動や身体活動の向上,それに伴う認知的活動や社会的交流が含まれ,それらが認知機能の向上に有益であることは多くの介入試験から明らかとなっています.そのなかでも,特に運動プログラムは実施しやすく,認知機能向上効果が短期間で期待でき,認知症以外の多くの疾病予防にとっても有益であることから,推奨レベルの高い予防法として認知されています.
 実際に,認知症予防を目的とした介護予防事業などで運動によるプログラムが推進されていますが,個々のプログラムは多彩で,効果が高いものもあれば,そうでないものもあるかと思います.せっかく実施するのであれば,高い効果が期待できるプログラムを提供したいものです.また,運動プログラムといっても,実際に介護予防教室を運営するためには,運動内容,時間,強度の選択,運動の組み合わせ,事故管理など,決めなければいけないことが多くあります.また,論理的にプログラムを構成して対象者に適切なサービスを提供するためには,認知症予防に関する基礎的な知識の習得も必要で,行ったプログラムが効果を発揮したかどうかを確認するたことも必要となります.
 本書のタイトルにある「コグニサイズ」は,運動しながら認知課題を行い,脳の活性化を効率的に促進する認知症予防を目的とした運動方法です.すでに多くの自治体でコグニサイズを導入いただいており,愛知県,神奈川県,千葉県では県単位での導入が進んでいます.コグニサイズが受け入れられたことはいくつかの理由があると思いますが,最大の要因は,皆で笑いながら楽しく実施できる点が大きいのではないかと考えています.もちろん楽しいだけではなく,科学的に認知機能の向上や脳萎縮の抑制効果をきちんと実証しています.ただ,これは予防全般にいえることですが,継続しなければどんな正しい予防法も効果を出すことはできません.
 本書を手にしていただいた指導者の皆さんには,ぜひここで紹介されるプログラムをさらに楽しく実施できるように検討しながら,取り組んでいただきたいと思います.そして,このプログラムを実施することによって,対象者のひとりでも多くの方々が地域でいきいきと暮らせる支援をいただきたいと願っています.
 令和2年2月2日
 国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学センター長
 島田裕之
STEP 1 認知症予防の基礎的理解
  1 認知症予防の意義(島田裕之)
  2 認知症とMCIの有病率(土井剛彦)
  3 認知症の危険因子と保護因子(堤本広大)
  4 MCIと生活機能障害(李 相侖)
STEP 2 認知症予防を目的としたアセスメント
  1 認知症リスクの一次スクリーニング(中窪 翔)
  2 認知機能検査(「 成琉)
  3 運動機能検査(牧野圭太郎)
  4 アンケート調査(石井秀明)
STEP 3 認知症予防プログラムの実践
 プログラム内容
  1 準備体操(ストレッチ)(李 相侖)
  2 有酸素運動(千葉一平)
  3 筋力トレーニング(金 a智)
  4 コグニサイズ(中窪 翔)
  5 ホームエクササイズ(栗田智史)
  6 認知トレーニング(片山 脩)
  7 行動変容技法(原田健次)
 プログラム構成
  8 多面的プログラム(「 成琉・片山 脩・牧野圭太郎)
  9 運動中心のプログラム(千葉一平)
  10 地域での実践例(佐藤健二)
  11 コグニサイズ作成例(杉本大貴)

 プログラム実施のQ&A(堤本広大)