やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

監訳者の序
 本書は脳損傷者のためのリハビリテーションで世界的に有名なThe Oliver Zangwill Centre(OZC)のプログラムを紹介する書籍である.The Oliver Zangwill Centreの創立者であるB.Wilson先生は,日本のみならず世界的に有名な心理学者である.私がこの書籍と出会ったのは,2016 年のある国際学会でB.Wilson先生のセミナーに参加した時のことだった.セミナーで紹介された数々のハンドアウトが近いうちに書籍として出版されることをその時知った.出版されたその書籍“The Brain InjuryRehabilitation Workbook” を手に取ってみると想像以上に素晴らしいことがわかり,是非とも日本語に翻訳したいと思った.この度,読者の皆さんに本書をお届けできることは望外の喜びである.
 全人的で包括的なリハビリテーションという用語をよく目にする時代が来ているが,それを実現する方途を教えるために,その原理を体系的に,かつエビデンスに基づいて説明しているワークブックが本書以外にあるだろうか.しかもそこにはハンドアウトという形で臨床から得られた知恵の結晶がちりばめられているのである.
 本書をより効率的に活用していただくために,「第1 章 本書について」から読み始めることをお勧めする.第1 章でThe Oliver Zangwill Centre独自の臨床の基となる6 つのコンセプトについて説明されているからである.その後は読者の興味に従い,気になる章から読むのもよいであろうし,順番に読み進めていくのもよいだろう.第2 章から第10 章までに説明されている内容は,相互に関係しているので,結果的にはすべてに目を通すことになるだろう.例えば記憶障害について考える時には,注意の問題や疲労の問題についても考慮するべきだと説明されている.さらに言うならば,各章で説明されている様々な要因が単独の問題なのではなく,互いに関係しているとみることこそが臨床のコツなのだと本書では説明されている.
 翻訳するにあたって,各訳者は日本語として読みやすい文章を心がけたが,同時にできる限り原著に忠実な訳を目指した.英語の専門家の立場から目白大学教授の廣實義人氏にアドバイスを受けたことで,原著者たちの思いや知識,臨床経験をより正確に伝えることができたと感謝している.
 原著者たち同様,私たち訳者一同も,本書が脳損傷のサーバイバーのリハビリテーションに携わる多職種の専門家はもとより,専門職のチームのサポートを受けられずに孤軍奮闘している家族や介護者がいるならば,その人たちにとっても貴重な情報を提供する書籍となることを願っている.
 最後に,労を惜しまず編集に携わってくれた医歯薬出版の茂野靖子氏に深謝する.
 2018 年9 月
 廣實真弓
 訳者一覧
 監訳者の序
 ハンドアウトのダウンロードについて
 編者紹介
 寄稿者
 ハンドアウトのリスト
第1章 本書について
 (Barbara A.Wilson)
 1.リハビリテーションの原則
 2.本書が対象とする読者
 3.リハビリテーションにおける観点
 4.結論
第2章 脳の解剖と損傷メカニズム入門
 (Emily Grader and Andrew Bateman)
 1.臨床的リスク評価
 2.グループワーク
 3.解剖学
 4.損傷のメカニズム
 5.回復のステージ
 6.学習を強化する
 7.クライアントに医師への質問を準備してもらう
 8.まとめ
第3章 注意
 (Jessica Fish,Kathrin Hicks,and Susan Brentnall)
 1.理論的背景,モデル,神経構造
 2.注意の評価
 3.脳損傷後によくみられる注意の問題
 4.関連があるとみること
 5.リハビリテーション:そのエビデンス
 6.注意と注意の問題についてクライアントと検討する
 7.リハビリテーションストラテジー
 8.まとめ
 9.注意プロフィールを完成させる
 10.ケーススタディ
第4章 記憶
 (Jessica Fish and Susan Brentnall)
 1.理論的背景とモデル
 2.記憶の神経解剖学
 3.脳損傷後によくみられる記憶の問題
 4.関連があるとみること
 5.記憶の評価
 6.リハビリテーション:そのエビデンス
 7.記憶と記憶の問題をクライアントと検討する
 8.リハビリテーションストラテジー
 9.記憶プロフィールを完成させる
 10.まとめ
 11.ケーススタディ
第5章 遂行機能
 (Jill Winegardner)
 1.理論的背景とモデル
 2.遂行機能の神経解剖学
 3.リハビリテーション:そのエビデンス
 4.遂行機能と遂行機能障害をクライアントと検討する
 5.遂行機能の評価
 6.リハビリテーションストラテジー
 7.まとめ
 8.遂行機能プロフィールを完成させる
 9.ケーススタディ
第6章 コミュニケーション
 (Clare Keohane and Leyla Prince)
 1.理論的背景とモデル
 2.コミュニケーションの神経解剖学
 3.よくみられる問題
 4.認知コミュニケーションと社会的認知の評価
 5.関連があるとみること
 6.リハビリテーション:そのエビデンス
 7.コミュニケーションとコミュニケーションの問題をクライアントと検討する
 8.スキルとストラテジーを磨く
 9.まとめ
 10.ケーススタディ
第7章 疲労
 (Donna Malley)
 1.理論的背景とモデル
 2.疲労の神経解剖学
 3.関連があるとみること
 4.よくみられる問題
 5.疲労と疲労の影響の評価
 6.結果の評価
 7.リハビリテーション:そのエビデンス
 8.疲労マネージメントのストラテジー
 9.まとめ
 10.ケーススタディ
第8章 気分
 (Catherine Longworth Ford)
 1.理論的背景,モデル,エビデンス
 2.気分の神経解剖学
 3.関連があるとみること
 4.よくみられる問題
 5.感情と感情の問題についてクライアントと検討する
 6.リハビリテーションストラテジー
 7.まとめ
 8.気分プロフィールを完成させる
 9.ケーススタディ
第9章 脳損傷後に生じたアイデンティティの変容をみる
 (Fergus Gracey,Leyla Prince,and Rachel Winson)
 1.アイデンティティとは何か?
 2.アイデンティティは脳損傷によってどのような影響を受けるのか?
 3.リハビリテーション:そのエビデンス
 4.アイデンティティのモデル
 5.アイデンティティとアイデンティティの崩壊状態をクライアントと検討する
 6.認知的障壁やその他のバリアに対処すること
第10章 脳損傷後の家族の問題を考える
 (Leyla Prince)
 1.背景
 2.「家族」を定義する
 3.ニューロリハビリテーションにおける体系的アプローチ
 4.家族自体について知ること,家族のニーズを知ること
 5.家族の仕事は誰の役割?:家族療法と家族介入
 6.家族介入:共通理解を発展させること

 索引

 ハンドアウトのリスト
  ハンドアウト1.1 処方のテンプレート
  ハンドアウト2.1 脳損傷を理解しましょう:グループアンケート
  ハンドアウト2.2 ニューロン
  ハンドアウト2.3 脳の保護構造
  ハンドアウト2.4 脳の領域
  ハンドアウト2.5 脳の血液供給
  ハンドアウト2.6 脳損傷を理解しましょう:ポートフォリオを作り始めましょう
  ハンドアウト3.1 注意にかかわる脳領域:喚起システム
  ハンドアウト3.2 注意にかかわる脳領域:定位システム
  ハンドアウト3.3 注意にかかわる脳領域:実行システム
  ハンドアウト3.4 注意のモニタリング
  ハンドアウト3.5 持続的注意 対 選択的注意
  ハンドアウト3.6 転換的注意 対 配分的注意
  ハンドアウト3.7 どのように感じますか?
  ハンドアウト3.8 注意をそらす環境
  ハンドアウト3.9 選択的視覚性注意(1)
  ハンドアウト3.10 選択的視覚性注意(2)
  ハンドアウト3.11 視空間的注意
  ハンドアウト3.12 私の注意プロフィール
  ハンドアウト4.1 記憶にかかわる脳領域
  ハンドアウト4.2 どのように物事を覚えていますか?
  ハンドアウト4.3 メモリーダイアリー
  ハンドアウト4.4 記憶とは?
  ハンドアウト4.5 こんなことは…?
  ハンドアウト4.6 関連づける
  ハンドアウト4.7 チャンキングする
  ハンドアウト4.8 心の目
  ハンドアウト4.9 心の黒板
  ハンドアウト4.10 記憶の宮殿
  ハンドアウト4.11 記憶術
  ハンドアウト4.12 PQRST法
  ハンドアウト4.13 記憶システムを働かせる
  ハンドアウト4.14 私の記憶プロフィール
  ハンドアウト4.15 私の記憶システム
  ハンドアウト5.1 遂行機能にかかわる脳領域
  ハンドアウト5.2 遂行機能にかかわる他の脳領域
  ハンドアウト5.3 遂行機能とは?
  ハンドアウト5.4 どのような人が良好な遂行機能を必要としていますか?
  ハンドアウト5.5 どのように感じますか?
  ハンドアウト5.6 どのように感じますか?(つづき)
  ハンドアウト5.7 JFK空港のクリスマス
  ハンドアウト5.8 「立ち止まって/考える」の使用をモニターする
  ハンドアウト5.9 ゴールマネージメントフレームワーク(GMF)を使ってみましょう
  ハンドアウト5.10 キューカード
  ハンドアウト5.11 感情温度計
  ハンドアウト5.12 行動実験
  ハンドアウト5.13 私の遂行機能プロフィール
  ハンドアウト6.1 コミュニケーションスキル:ストレングスと課題
  ハンドアウト6.2 コミュニケーション行動のチェックリスト
  ハンドアウト6.3 コミュニケーション行動観察シート
  ハンドアウト6.4 言い換え
  ハンドアウト6.5 確認と要約
  ハンドアウト6.6 会話の開始
  ハンドアウト6.7 会話の維持と話者交替
  ハンドアウト6.8 会話の終了
  ハンドアウト6.9 社会的コミュニケーションスキル質問紙
  ハンドアウト6.10 コミュニケーションスタイル
  ハンドアウト7.1 脳損傷後の疲労のモデル
  ハンドアウト7.2 疲労とは?
  ハンドアウト7.3 疲労マネージメント質問紙
  ハンドアウト7.4 疲労の図式
  ハンドアウト7.5 スクリーニング用紙
  ハンドアウト7.6 疲労のトリガー
  ハンドアウト7.7 疲労ダイアリー
  ハンドアウト7.8 どのように感じますか?
  ハンドアウト7.9 私の疲労の信号
  ハンドアウト7.10 人に任せるための技術
  ハンドアウト7.11 週間予定表
  ハンドアウト7.12 様々なタイプのエネルギーの再充電
  ハンドアウト8.1 認知行動療法(CBT)のサイクル
  ハンドアウト8.2 考えること,感じること,行動すること
  ハンドアウト8.3 3つの感情システム
  ハンドアウト8.4 脳解剖学と感情
  ハンドアウト8.5 感情を理解する:新しい脳と古い脳
  ハンドアウト8.6 これまでに…?
  ハンドアウト8.7 気分ダイアリー
  ハンドアウト8.8 どのように対処しますか?
  ハンドアウト8.9 マインドフルネス
  ハンドアウト8.10 落ち着かせる呼吸法
  ハンドアウト8.11 慈愛イメージ法
  ハンドアウト8.12 漸進的筋弛緩法
  ハンドアウト8.13 エビデンスは?
  ハンドアウト8.14 私の気分プロフィール
  ハンドアウト9.1 リハビリテーションにおけるアイデンティティ変容のY型モデル
  ハンドアウト9.2 「デイジー型」の悪循環
  ハンドアウト9.3 個人的価値
  ハンドアウト9.4 家族の役割
  ハンドアウト9.5 私のモチベーション:私がすることをなぜ私はするの?
  ハンドアウト9.6 予測
  ハンドアウト9.7 職業の試行
  ハンドアウト9.8 職業の試行のための質問と観察事項
  ハンドアウト9.9 快適ゾーン
  ハンドアウト9.10 私は自分自身をどうみているの?