やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 柔道整復師や鍼灸師が日常扱う運動器疾患は,筋・靭帯,関節に潜在する病態が複合的に影響して発生するケースが多いと思われます.発痛部位のみならず発痛部位以外の病態を勘案しながら一つずつ課題を解きほぐす作業が求められており,発痛部位を治療して一時的寛解が得られたとしても再発するケースもあり,歪み(strain)の集積した部位のみ治療しても解決には至らないと思われます.
 ところで,臨床家の皆さんが 治療対象にしている部位を検証しますと,いわゆる“力学的弱点“と思われる部位が多くを占めており,少なくとも15部位を考えております.15部位に共通する特徴としては,(1)活動の中で過負荷や無理な外力を受けやすい筋・靭帯,(2)筋・靭帯が重複している部位,(3)マルアライメントの影響を受けやすい筋・靭帯,(4)インナーマッスルとアウターマッスルの関係においてインバランスの影響を受けやすい部位,(5)剪断力を受けやすい関節などが挙げられます.このような環境下で微細な炎症と炎症後に生じる肥厚,短縮,線維化によって“線維間の滑走障害”を生みだし,あるいは滑走障害が原因となって関節症状が生じるものと考えられます.
 今回,運動器疾患を扱うにあたって15部位を取り上げ,それぞれについて,「重要性と視点」,「関連知識」,「手技」,「運動指導」に分けて説明を加えました.誰もが容易に臨床応用できるように,写真やイラストをたくさん挿入しております.
 拙著を読み進める中で,さらに具体的知識と手技に興味を持たれた方は,既刊の下記書籍を参考にして頂ければ幸いです.
 最後に実技の写真撮影に協力いただいた斉藤和利さん,東谷孝一さん,堂前泰彦さん,浅田茂信さん,中宮肇さん,斉藤豪さん,モデルで協力いただいた重久佳穂さん,また,出版にあたって医歯薬出版の関係各位に心よりお礼申し上げます.
 2023年3月
 竹内義享

 基礎編
 *目で見る運動機能検査法.南江堂.2005年.
 *四肢関節の触診法.医歯薬出版.2007年.
 *骨・関節の機能解剖. 医歯薬出版.2009年.

 臨床編
 *運動器疾患のみかたと保存的治療.医歯薬出版.2008年.
 *機能解剖学に基づく手技療法.医歯薬出版.2016年.
 *筋・骨格の機能評価.医歯薬出版.2019.
I 運動器疾患の基礎編
 1 上手な臨床家とは
   評価の意義
   評価の基礎
   手技の紹介(1)
   手技の紹介(2)
 2 力学的弱点部位と負の連鎖
   力学的弱点部位とは
   負の連鎖とは
   テンセグリティーからみえる負の連鎖
   アライメントのとらえ方
   胸椎後弯のとらえ方
 3 股関節の重要性
   股関節の役割(アライメントの調整)
   股関節の役割(力の分散)
 4 靱帯の役割
   靱帯の知識
 5 筋膜の特徴と機能
   筋膜の知識
 6 インナーマッスルとアウターマッスルの特徴と役割
   インナーマッスルとアウターマッスル間の代償作用
 7 抗重力筋の特徴
   抗重力筋のとらえ方
 8 筋短縮の評価
   筋短縮の考え方と影響
 9 筋の代償作用
   筋の代償作用
 10 ストレッチングの基礎
   ストレッチングの知識
 11 アライメント
   アライメントのとらえ方
   アライメントと臨床例
 12 骨形態からわかること
   肩甲骨を内・上方からみる
   寛骨と仙骨の関節面の位置と形態
   股関節の関節窩と骨頭周辺の形態
   膝関節面の形状(内側と外側の比較)
   距骨と足底の構造
   頸椎 椎間関節
   腰椎 椎間関節
   L2-L3とL5-S1椎間関節の形状の比較
 13 関節運動(包内・包外運動)
   包内運動の事例
   不動と経時的変化
 14 絞扼神経障害
   絞扼神経障害とは
   主な絞扼部位(上肢)
   主な絞扼部位(下肢)
 15 目指すは軟部組織
   軟部組織の知識 (1)筋硬結(muscle induration)
   軟部組織の知識 (2)腱鞘炎(tenosynovitis)
   軟部組織の知識 (3)関節包
   軟部組織の知識 (4)脂肪体
   軟部組織のアプローチ
 16 手技と自動運動の指導
   運動指導の例
 17 EBM
 18 クリニカルリーズニング
   クリニカルリーズニングの知識
 19 フレイル
   フレイルの基礎知識 (1)評価手段
   フレイルの基礎知識 (2)予防のための知識
II 臨床応用編
 1 15部位とは
 2 15部位の負の連鎖
 3 15部位の解説
  (1)股関節の機能障害
   股関節の機能と役割
   関連知識
   主な手技
   運動指導
  (2)後頭下筋群の短縮と上位頸椎の可動性低下
   上位頸椎と後頭下筋群の解剖と機能
   関連知識
   主な手技
   運動指導
  (3)僧帽筋(上部線維)と肩甲挙筋の代償作用
   僧帽筋(上部繊維:下行部)と肩甲挙筋の機能と役割
   関連知識
   主な手技
   運動指導
  (4)肩甲骨のマルアライメント
   肩甲骨の機能と役割
   関連知識
   主な評価と手技
   運動指導
  (5)上位胸椎の後弯
   上位胸椎の形状と役割
   関連知識
   主な手技
   運動指導
  (6)腰方形筋・腹横筋・広背筋の弱化と短縮
   腰方形筋,腹横筋,広背筋の機能と役割
   関連知識
   主な手技
   運動指導
  (7)椎間関節の機能障害
   腰椎椎間関節(腰仙関節:L5-S1含む)の特徴と機能
   関連知識
   主な手技
   運動指導
  (8)仙腸関節の機能障害
   仙腸関節の形状と機能
   関連知識
   主な手技
   運動指導
  (9)多裂筋と後仙腸靱帯の弱化
   多裂筋と後仙腸靭帯の機能と役割
   関連知識
   主な手技
   運動指導
  (10)インナーマッスルの弱化と短縮
   股関節インナーマッスルの特徴と役割
   関連知識
   主な手技
   運動指導
  (11)アウターマッスルの特徴と役割
   股関節アウターマッスルの代償作用
   関連知識
   主な手技(ストレッチング)
   運動指導
   簡易評価表(腰部用)の紹介
  (12)半膜様筋腱膜と腓腹筋内側頭間の滑走障害
   膝窩部(半膜様筋,腓腹筋内側頭,膝窩筋)の解剖と機能
   関連知識
   主な手技
   運動指導
  (13)下腿の回旋障害
   下腿の回旋と意義
   関連知識
   主な手技
   運動指導
  (14)距腿関節の機能障害
   距腿関節(距骨のすべり)の機能と役割
   関連知識(距踵関節を含む)
   主な手技
   運動指導
  (15)足部底屈筋の機能障害
   足趾底屈筋の機能と役割
   関連知識
   運動指導

 参考資料
 索引