やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 看護教育課程において,看護過程は看護の方法のひとつと位置づけられており,看護の質向上および質保証のために必要不可欠なものとなっています.
 本書は,精神障害者の看護過程を初めて学ぶ看護学生を対象とし,全人的視点が明確であるゴードンの機能的健康パターンを活用した看護過程をわかりやすく学べる書籍を目的としました.
 精神障害者の看護過程を初めて学ぶ看護学生の傾向として,患者を病名のみで理解しようとする,身体とこころを別々のものとして観察しようとするなど,全人的な視点で患者を把握できないことがあげられます.全人的視点での患者理解とは,患者を病名で理解するのではなく,病気は患者の一部分という理解が必要であり,身体とこころは切り離されたものではなく,「人間は身体的,心理的,社会的側面が相互に作用しあっている統合体」という理解が必要です.ゴードンの機能的健康パターンは,初学者にこれらの側面のつながりを意識させながらの患者理解が可能であり,どの看護領域においても活用できます.
 本書は3章から構成されています.第1章では,精神看護とは何か,すなわち精神看護の定義や概念,構造について述べたうえで,精神看護における看護過程を解説しました.看護過程の展開では,精神障害者特有の情報収集やアセスメントのポイント,健康課題の抽出,計画,実施,評価まで示しました.さらに,全人的視点とは何かについて概説し,精神看護とのつながりについて検討しました.
 第2章では,全人的視点でとらえるうえで最も有効と考えられる枠組みとしてゴードンの機能的健康パターンについて概要を紹介し,精神看護におけるアセスメントのポイントおよびアセスメントガイドを示しました.
 第3章では,事例を用いて,患者の基本情報,アセスメント項目と視点,アセスメントから結論,関連図,課題抽出,看護計画までのプロセスを展開しました.事例には,代表的な精神障害である統合失調症,気分障害,アルコール依存症,摂食障害を選び,特に統合失調症の事例では,患者の回復過程がイメージできるように,急性期,慢性期,回復期の看護を展開しました.また,事例では入院中の看護だけでなく,社会とのつながり(継続治療と日常生活)を意識できるように工夫しました.
 本書は,精神看護学のテキストのほか,精神看護学実習にも活用できます.また看護師が病棟において学生を指導するときにも活用できると思います.本書が読者のみなさまのお役に立てば幸いです.
 最後に,このような書籍になるまで,忍耐強く付き合って下さいました医歯薬出版株式会社の編集担当者の惜しみない援助に深謝いたします.
 2014年3月
 著者らを代表して 白石壽美子
          武政奈保子
第1章 精神看護における看護過程
 1.精神看護とは(白石壽美子)
  1)精神看護の定義・概念
  2)精神看護の構造
   (1)対象の全人的理解
   (2)看護倫理
   (3)対象―看護師関係
   (4)専門職としての知識・技術
    専門職としての知識/専門職としての技術
   (5)対象の生活
    ICFの特徴
   (6)QOLの向上
 2.精神看護における看護過程(白石壽美子)
  1)看護過程の基本的な考え方
  2)看護過程の展開
   (1)第1段階 アセスメント
    情報収集/アセスメント
   (2)第2段階 看護診断
    統合・課題抽出・優先順位
   (3)第3段階 計画立案(目標・期待される成果設定・行動計画)
    目標(期待される成果)の設定/援助方法の設定
   (4)第4段階 実践(介入)
   (5)第5段階 評価
 3.全人的視点と精神看護(武政奈保子)
  1)WHOの精神保健の3側面からの精神看護の特徴
   (1)精神疾患の側面
    脳の機能的障害による症状の看護
   (2)精神障害の側面
    生活の質を向上する看護
   (3)メンタルヘルスの側面
    疾患の前兆,リスクを発見し,悪化を防ぐ看護
  2)こころの健康とストレス
    精神看護とストレス理論/脆弱さについての取り扱い/レジリエンスの概念
  3)精神看護でのコミュニケーション
    人間をコミュニケーションの主体とみる
  4)全人的視点と精神看護
第2章 精神看護における看護診断
 1.全人的視点とゴードンの機能的健康パターン(武政奈保子・茂木泰子)
  1)ゴードンの11の機能的健康パターンとNANDA-I看護診断
  2)ゴードンの機能的健康パターンの構造
   (1)「機能的健康パターン」の枠組み
   (2)ゴードンの分類法と全人的視点
   (3)理論的影響
    ロジャーズの生命過程モデルからの影響/ロイの適応モデル/
    ジョンソンの行動システムモデル/オレムのセルフケアエージェンシーモデル
  3)全人的看護を追及したゴードンの機能的健康パターン
 2.全人的視点による精神看護のアセスメントポイント(武政奈保子)
    ヘルスプロモーション/活動/休息/知覚/認知/自己知覚/役割関係/
    コーピング/ストレス耐性/生活原理/安全/防御
 3.ゴードンの11の機能的健康パターン分類を参考にした精神看護のアセスメントガイド(鹿澤京子・寳迫佳代子・藤木眞由美・安保敏枝・八田由利子・茂木泰子・武政奈保子・白石壽美子)
第3章 看護過程の実際―事例展開
 I.統合失調症をもつ人の看護過程(1)(急性期の場面)(鹿澤京子)
    Aさんの紹介/Aさんに関する情報/アセスメントから結論まで/看護診断リスト/
    関連図(#1 非効果的健康維持に関して)/看護介入(#1 非効果的健康維持に関して)/
    関連図(#2 社会的相互作用障害に関して)/看護介入(#2 社会的相互作用障害に関して)/
    Aさんの統合関連図/本事例のポイント
 I.統合失調症をもつ人の看護過程(2)(慢性期〜回復期の場面)(八田由利子)
    Aさんの紹介/Aさんに関する情報/アセスメントから結論まで/看護診断リスト/
    関連図(#1 レジリエンス促進準備状態に関して)/看護介入(#1 レジリエンス促進準備状態に関して)/
    関連図(#2 自尊感情慢性的低下に関して)/看護介入(#2 自尊感情慢性的低下に関して)/
    Aさんの統合関連図/本事例のポイント
 I.統合失調症をもつ人の看護過程(3)(回復期〜退院に向けた場面)(安保敏枝)
    Aさんの紹介/Aさんに関する情報/アセスメントから結論まで/看護診断リスト/
    関連図(#1 自己健康管理促進準備状態に関して)/看護介入(#1 自己健康管理促進準備状態に関して)/
    関連図(#2 レジリエンス促進準備状態に関して)/看護介入(#2 レジリエンス促進準備状態に関して)/
    Aさんの統合関連図/本事例のポイント
 II.気分障害をもつ人の看護過程(藤木眞由美)
    Bさんの紹介/Bさんに関する情報/アセスメントから結論まで/看護診断リスト/
    関連図(#1 自殺リスク状態に関して)/看護介入(#1 自殺リスク状態に関して)/
    Bさんの統合関連図/本事例のポイント
 III.アルコール依存症をもつ人の看護過程(急性期〜退院に向けた場面)(寳迫佳代子)
    Cさんの紹介/Cさんに関する情報/アセスメントから結論まで/看護診断リスト/
    関連図(#1 急性混乱に関して)/看護介入(#1 急性混乱に関して)/関連図(#2 肝機能障害リスク状態に関して)/
    看護介入(#2 肝機能障害リスク状態に関して)/関連図(#3 自己健康管理促進準備状態に関して)/
    看護介入(#3 自己健康管理促進準備状態に関して)/Cさんの統合関連図/本事例のポイント
 IV.摂食障害をもつ人の看護過程(藤木眞由美)
    Dさんの紹介/Dさんに関する情報/アセスメントから結論まで/看護診断リスト/
    関連図(#2 栄養摂取消費バランス異常:必要量以下に関して)/
    看護介入(#2 栄養摂取消費バランス異常:必要量以下に関して)/Dさんの統合関連図/本事例のポイント