やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 我々がいま住んでいる社会は高齢社会であり,さらに高齢者の割合が増す超高齢社会に突入しようとしている.本格的な超高齢社会で起こるであろう状況の全体像を正確に把握することは容易ではない.しかし,我々に課せられているのは,何とか人類の英知を集めてさまざまなレベルで超高齢社会に対応していかなければならないということである.この未知への対応でおそらく重要なことは,その社会に住む一人ひとりの人間がいかに生き甲斐をもち,幸せに生活することができるようにするかということである.そのためには,高齢者も若者も互いの年代の壁を超えて,ともに生きる社会をどのようにつくっていくかについて知恵を出し合い,手を携えていかなければならないのである.
 そのような社会をつくっていくためにも,我々は社会における,そして同時に自分の身近にいる高齢者と向き合い,高齢者を理解しようとすることからはじめる必要がある.理解するとは,高齢者とはどのような人なのか,どのような心身の特徴をもち,何を考え,どのような生活をしているのか,できるだけありのままに捉えようとすることである.
 本書では,このような高齢者の理解につながるよう,高齢者の実体をありのままに捉えるにはどのようにしたらよいのか,その方法を提示したいと思う.また,その捉え方に基づいた看護援助のあり方を具体的に示すようにした.本書は,著者の“生活とは何か”という長年の疑問に端を発している.生活を理解すること,さらにそれを健康と関連づけて捉えることは,看護の本質に関わることであり,高齢者の看護においてなおいっそう重要なことであると考えている.老年看護学を学習する学生,探求する実践家,教育者・研究者にとって,役立つものがあれば幸甚である.
 本書の作成には長い長い年月を要した.共同執筆者,編集者の皆様に多大なるご迷惑をおかけしたことを心からお詫びしたい.本書がようやく世に出られることに安堵し,喜んでいる.
 2012年9月
 太田喜久子
第1章 高齢者の健康生活とは(太田喜久子)
 1 高齢社会に生きる高齢者
  1)高齢社会
  2)生涯発達からみた高齢者
   (1)エリクソン,EHによる発達課題
   (2)ペック,Rによる発達課題
 2 高齢者を理解する視点
  高齢者はどのような存在か
   (1)独自の,二つとない生き方をしてきた歴史をもつ
   (2)自立と依存のバランス状態にある
   (3)徐々に機能衰退するプロセスにある
   (4)生命へ向き合う
   (5)その人なりの人生の統合を行う
 3 高齢者の健康生活状態の捉え方−健康生活モデル
  1)『健康生活モデル』の意味
  2)生活とは何か
  3)高齢者の『健康生活モデル』
   (1)『健康生活モデル』の構造
   (2)『健康生活モデル』の構成要素
   (3)構成要素間の関係
  4)高齢者の『健康生活モデル』の捉え方
   (1)健康生活の全体性
   (2)健康生活の個別性
   (3)健康生活の継続性−生活環境,場による変化と継続性
 4 健康生活の全体と健康による変化
  1)『健康生活の全体』を変容させるもの
   (1)経年的変化
   (2)生活の場,生活環境の変化
   (3)健康レベルによる変化
  2)健康レベルによる変化と看護援助の方向性
 5 高齢者の健康生活モデルによる全体像の把握例
  1)Aさんの『健康生活の全体』
   (1)核になるもの
   (2)生きている
   (3)暮らしている
   (4)より豊かに生きる
  2)Aさんの健康生活の全体像
第2章 生活と場(水野敏子)
 1 生活環境の特徴,変化と健康生活への影響
  1)生活環境からみた生活の成り立ち
   (1)環境とは
   (2)地域の特徴と生活
   (3)生活環境と健康生活
 2 生活の場と看護ケアの特徴
  1)自宅
   (1)家族形態による特徴
   (2)住居の形態による特徴
   (3)在宅での看護ケアの特徴
  2)ケア機能をもつ生活の場―高齢者の自立度が高い場合
   (1)有料老人ホーム,高齢者専門賃貸住宅
   (2)軽費老人ホーム(ケアハウス)
   (3)養護老人ホーム
   (4)ケア機能をもつ生活の場における看護ケアの特徴
  3) ケア機能をもつ共同生活の場―高齢者の自立度が低い場合
   (1)特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)
   (2)老人保健施設(介護老人保健施設)
   (3)グループホーム
   (4)小規模多機能
   (5)施設での看護ケアの特徴
  4)治療,生活のための場
   (1)一般専門病院
   (2)病院での看護ケアの特徴
第3章 健康生活モデルに基づく看護援助の方法
 1 健康生活モデルと看護援助(太田喜久子)
  1)援助するための基本的な観点
   (1)生きてきた歴史
   (2)自立と依存
  2)健康生活モデルを用いた看護援助の流れ
   (1)段階1:高齢者の『健康生活の全体』の把握
   (2)段階2:援助を要することの明確化
   (3)段階3:優先度の検討
   (4)段階4:援助方法の選定
   (5)段階5:援助の実施
   (6)段階6:総合的な評価
 2 高齢者への基本的援助技術(粟生田友子)
  1)ケアの基本となる姿勢
   ケアする人の態度
  2)展開の要素
   (1)高齢者との関係性
   (2)専門職としての知識と機能
  3)求められる基本的技術
   (1)健康状態の変化に対処する技術
   (2)健康状態を維持・増進する技術
   (3)周囲からのサポートと環境を調整する技術
   (4)心地よい関係を構築する技術
   (5)自己価値を強化し意味づける技術
第4章 高齢者の健康生活状態の特徴,変化と看護援助
 1 息をする(南川雅子)
  1)加齢による変化
   (1)肺そのものの変化
   (2)呼吸に関わる筋肉や骨の変化
   (3)肺胞・気道クリアランスの変化
  2)機能変化がもたらす生活への影響
   (1)息切れ(運動時)
   (2)呼吸困難感(運動時以外)
  3)機能変化への援助
   (1)胸郭を広げる
   (2)ガス交換機能の維持・増進
   (3)呼吸困難感への対応
  4)起こりやすい病的な変化と援助
  A.肺炎
  B.慢性閉塞性肺疾患
  C.呼吸不全(循環器に関係するもの)
 2 食べる,飲む(南川雅子)
  1)加齢による変化
   (1)運動機能の変化
   (2)咀嚼・嚥下機能の変化
   (3)感覚的な変化
   (4)体構成成分の変化
  2)機能変化がもたらす生活への影響
   (1)活動のためのエネルギーや水分の摂取不足
   (2)生きる意欲への影響
  3)機能変化への援助
   (1)嚥下を容易にするための姿勢を保持する
   (2)食塊を形成するための適度な湿り気と量
   (3)食べる雰囲気とタイミング
   (4)好みの重視
  4)起こりやすい病的な変化と援助
  A.脱水
  B.摂食・嚥下障害
 3 排泄する(水野敏子)
  1)加齢による変化
  A.排尿に関わる機能の変化
   (1)腎臓・膀胱の変化
   (2)尿道周囲の筋・支持組織の変化
   (3)認知機能の変化
  B.排便に関わる機能の変化
   (1)腸管・筋力の変化
   (2)咀嚼・消化機能の変化
   (3)感覚の変化
  2)機能変化がもたらす生活への影響
  A.排尿機能の変化による生活への影響
  B.排便機能の変化による生活への影響
   (1)便秘による生活への影響
   (2)下痢による生活への影響
  3)機能変化への援助
   (1)排尿の問題に対応した治療と援助
   (2)便秘への援助
   (3)下痢への援助
  4)起こりやすい病的な変化と援助
  A.尿失禁
  B.前立腺肥大症
 4 眠る(粟生田友子)
  1)加齢による変化
   (1)中枢神経系の退行性変化
   (2)全身の活動性の低下
   (3)睡眠を妨げる疾患
   (4)薬剤による影響
   (5)心理的なストレス
  2)機能変化がもたらす生活への影響
   (1)睡眠の質の変化
   (2)生活リズムの変調
   (3)生活活動全体への影響
  3)機能変化への援助
   (1)入眠を促し,睡眠時間を確保する工夫
   (2)活動の維持:適度な運動量とのバランス
   (3)生活リズムの調整
   (4)心配事の解消,ストレスの発散
   (5)身体的な苦痛の除去:痛み
  4)起こりやすい病的な変化と援助
  A.不眠:眠れない状態
  B.夜間せん妄:眠らない状態
 5 動く(粟生田友子)
  1)加齢による変化
   (1)骨・関節・筋の加齢変化
   (2)刺激反応性の低下と反応の遅延
  2)機能変化がもたらす生活への影響
   (1)移動方法の変化
   (2)転倒リスクの増大:バランス能力の低下,筋力の低下
   (3)活動耐性の低下と身体の各機能への影響
  3)機能変化への援助
   (1)移動の方法への援助
   (2)環境の調整
   (3)活動耐性の維持
   (4)痛みへの対処
   (5)生活の質(活動の質)の維持
  4)起こりやすい病的な変化と援助
  A.運動機能障害
  B.腰痛症
  C.変形性関節症:変形性膝関節症,変形性股関節症
  D.大腿骨頸部骨折およびその他の骨折
  E.廃用症候群,寝たきり
  F.中枢・神経障害:脳卒中片麻痺,パーキンソン病
  G.関節リウマチ
 6 見る(粟生田友子)
  1)加齢による変化
   (1)視覚機能の変化
  2)機能変化がもたらす生活への影響
   (1)視覚の変調による生活の変化
   (2)視覚情報の処理過程の変調
  3)機能変化への援助
   (1)眼鏡による視力の調整
   (2)視覚変調に合わせた行動,動作,生活環境の調整:時間をかけてゆっくりと行動するよう教育する
   (3)コミュニケーション
  4)起こりやすい病的な変化と援助
  A.白内障
  B.緑内障
  C.加齢黄斑変性症(網膜黄斑変性症)
  D.糖尿病網膜症
  E.脳血管障害による半側空間無視・半盲
 7 話す・聞く(コミュニケーション)(粟生田友子)
  1)加齢による変化
  A.話す
   (1)言語を組み立てる機能の低下
   (2)音声を発する機能の低下
   (3)精神機能・活動性の低下
  B.聞く
   (1)聴力の低下(難聴)
   (2)全般的なコミュニケーション変化
  2)機能変化がもたらす生活への影響
   (1)コミュニケーションの停滞と混乱,不足
   (2)精神機能・活動性のさらなる低下
  3)機能変化への援助
   (1)コミュニケーションの工夫
   (2)補聴器の使用
   (3)環境の調整
  4)起こりやすい病的な変化と援助
   失語症
 8 皮膚を保つ(粟生田友子)
  1)加齢による変化
   (1)皮膚表面の変化
   (2)外皮系の機能的な変化
   (3)末梢神経の退行性変化(末梢神経の刺激受容体の数の減少)
  2)機能変化がもたらす生活への影響
   (1)乾燥による掻痒感(かゆみ)
   (2)触覚の鈍麻による巧緻性の変化
   (3)温度に対する順応性の変化
   (4)皮膚の剥離:治癒遅延,内出血斑
   (5)爪の変形・肥厚・巻き爪
  3) 機能変化への援助
   (1)スキンケア
   (2)体温調節:衣服の選択と環境調整
   (3)温熱刺激からの保護
   (4)下肢の末梢循環を助ける運動と保温
  4)起こりやすい病的な変化と援助
  A.褥瘡
  B.知覚麻痺
  C.白癬症
 9 記憶する・考える(認知)(粟生田友子)
  1)加齢による変化
   (1)記憶の変化(覚える,思い出す,忘れるなど)
   (2)知能の変化(理解・思考)
   (3)感情・気分の変化(こころ)
   (4)行動の変化
  2)機能変化がもたらす生活への影響
   (1)活動の質の変化
   (2)人との交流機会・活動量の減少
   (3)生活上のリスクの増大
  3)機能変化への援助
   (1)記憶,理解力,意欲などの変化
   (2)環境の調整
  4)起こりやすい病的な変化と援助
  A.認知症
  B.高次脳機能障害
 10 こころ(粟生田友子)
  1)加齢による変化
   (1)脳の加齢変化とこころの変化
   (2)心理社会的な要因とこころの状態
  2)機能変化がもたらす生活への影響
  3)機能変化の援助
   (1)関心を寄せて見守る
   (2)こころの変化を受け入れて関わる
   (3)環境の調整
  4)起こりやすい病的な変化と援助
   うつ
第5章 豊かな生涯を全うするための援助
 1 交流を促す援助(粟生田友子)
  1)老年期の喪失体験
  2)高齢者のQOLに影響するもの
  3)老年期における人との交流の特徴
   (1)老年初期における人との交流の変容
   (2)身体機能の衰えによる人との交流の変容
   (3)終焉を迎えるまでの人との交流
  4)交流の場
  5)交流の機会を維持するための支援
   (1)地域情報の提供
   (2)交流のきっかけを作り,交流を続けられる支援
   (3)交流の場における具体的な関わり
   (4)心理的援助
 2 介護が必要な高齢者と家族への援助(浅川典子)
  1)介護が必要な高齢者と家族の状況
   (1)高齢者の家族形態の変化
   (2)介護が必要な高齢者のいる世帯
   (3)介護者の状況
   (4)同居している介護者の介護状況
   (5)高齢者虐待
  2)介護が必要な高齢者と家族を支えるしくみ
   (1)介護保険制度の下での介護サービス利用
   (2)判断能力が不十分な高齢者の権利を擁護するしくみ
 3 その人らしい最期を迎えるための援助(水野敏子)
  1)終末期の定義
  2)高齢者の終末期の特徴
  3)その人らしい最期を迎えるための看護に関する倫理的問題
  4)その人らしい最期を迎えるための看護におけるケアのポイント
   (1)人生の終焉へ向かう時期
   (2)死亡直前期
   (3)臨死期
  5)家族への看護
   (1)家族へのデスエデュケーション
   (2)家族の決定を支持する
   (3)別れの場の設定
   (4)介護家族の生活への配慮
  6)高齢者に多くみられる終末期の症状と看護
   (1)疼痛
   (2)呼吸困難
   (3)食欲不振・体重減少
   (4)便秘
   (5)せん妄
   (6)不安
第6章 健康生活を維持するための治療的看護援助
 1 薬物療法(湯沢八江)
  1)薬物療法と看護活動
  2)薬とは
  3)処方薬の種類と注意点
   (1)注射
   (2)外用薬
   (3)内服薬
  4)処方薬以外の薬や食品と注意点
   (1)一般販売医薬品
   (2)漢方薬
   (3)健康ドリンク・食品
  5)服薬への看護援助
   (1)服薬事故の防止
   (2)服薬の支援
 2 手術療法(南川雅子)
  1)手術療法の目的
  2)高齢者の周手術期の特徴
   (1)身体の諸器官の予備力が低下するために,ストレスに対する反応性が低下する
   (2)創傷治癒が遅延する
   (3)感覚器の機能低下に伴い,外界からの情報を得にくい
   (4)環境の急激な変化に対応しにくく,せん妄様症状をきたしやすい
   (5)手術によって著しくQOLの低下をきたすことがある
  3)高齢者の周手術期の看護援助
   (1)術前訓練と早期離床
   (2)異常の早期発見
   (3)創傷治癒の促進
   (4)正しい情報を得るための援助
   (5)せん妄様症状の改善
  4)手術療法が高齢者の健康生活を阻害する場合とその対策
   (1)医学的適応
   (2)高齢者の意思
   (3)QOL
   (4)退院後の生活環境
  5)緊急手術の場合
 3 感染対策(湯沢八江)
  1)感染が起こる時
  2)高齢者にみられる感染症
   (1)内因性感染症
   (2)外因性感染症
   (3)薬剤耐性型感染症
   (4)血液媒介型感染症
  3)基本となる感染対策
   (1)予防
   (2)感染症発生時
  4)高齢者の感染症対策
   (1)高齢者自身が心がけること
   (2)看護職が行う援助
  5)高齢者にみられる感染症への看護援助
   (1)結核
   (2)疥癬
   (3)MRSA
 索引