はじめに
これまでに,医歯薬出版から刊行した「基本からわかる看護疫学入門」「基本からわかる看護統計学入門」は,幸いなことに,教科書・参考書としては好評をもって受け入れられました.看護系では苦手とされやすい分野を,図表を多用してわかりやすさを追求しながらも,レベルを落とすことなく充実した内容とすることを心がけました.今回は,より実践的な研究方法の書籍を求める声に応え,基本的な考え方に重点を置いた内容としました.本書の特徴は,筆者自身が長年にわたり実際に研究活動と研究指導を保健医療のさまざまな領域でリアルタイムで行っている経験を活かし,現実的かつ具体的な内容としたことです.
本書の読者対象としては,卒業研究や院内研究でこれから看護研究を始めようとする初心者の方や,看護研究の経験はあるけれど要点がつかみきれなかったという人を念頭に置いています.研究経験がほとんどないまま臨床現場から大学院に入学した修士課程の学生でも十分に参考になると思います.また,量的な研究の指導をする立場になったけれども,自信が持てないという教員にも有用でしょう.
看護研究の本はたくさんありますが,その多くは,研究の理想的な姿を記述したものです.非常に崇高な理念が語られ,ストイックな雰囲気に包まれています.しかし,実際の研究活動は,それほど理路整然としたものではなく,もっと雑然としたものです.研究テーマなどは思いがけないことで決まることも多く,また,時間や経費との兼ね合いで内容も変わります.さらに,論文として研究成果を発表する際には査読者との駆け引きも生じるなど,もっと生々しい活動です.こうした状況は,研究生活の途上にある人間でないとなかなかわかりにくいものです.
本書では,量的な看護研究の基本となる部分を踏まえながらも,通常の看護研究の本では語られにくい部分を中心に研究の進め方を解説しました.全体の構成としては,まず,量的な看護研究の概要を実際にポイントになることを中心に解説しています.その後は,データの基本的な分析の方法とその注意点について書いています.ここで用いているデータは,実際に筆者が利用したデータをヒントに,解説に沿った形に一部加工したものです.最後に,研究結果をまとめる際に,現実との兼ね合いをどのように考え,対処すればよいかについて触れています.この部分は,研究の質を評価する場合,あるいは公表する場合のポイントになりますが,従来の看護研究のテキストで解説されることがなかった部分です.
本書に書いてある基本事項をしっかりと身に付けておけば,たいていの場面で困ることはないでしょう.一通り読まれた後,少し気楽に量的な看護研究に取り組む気持ちになっていただければ本書の目的は達成されたと思います.本書を足がかりに上記の疫学や統計学の本でさらに詳しく学んでみるとよいでしょう.
最後に,いつもお世話になっている医歯薬出版第一出版部の編集担当者の方々に厚くお礼申し上げます.わかりやすい教材にするためのレイアウトやさまざまな工夫にご尽力いただきました.また,図表の作成・文章校正など煩雑な作業の大半は山梨大学の大間敏美さんにお願いいたしました.同僚で在宅看護学講座の彦聖美講師には,直接指導する機会があった元大学院生として,本文を何度も通読していただき的確なコメントを頂きました.ご協力に感謝申し上げます.
2011年6月
大木秀一
これまでに,医歯薬出版から刊行した「基本からわかる看護疫学入門」「基本からわかる看護統計学入門」は,幸いなことに,教科書・参考書としては好評をもって受け入れられました.看護系では苦手とされやすい分野を,図表を多用してわかりやすさを追求しながらも,レベルを落とすことなく充実した内容とすることを心がけました.今回は,より実践的な研究方法の書籍を求める声に応え,基本的な考え方に重点を置いた内容としました.本書の特徴は,筆者自身が長年にわたり実際に研究活動と研究指導を保健医療のさまざまな領域でリアルタイムで行っている経験を活かし,現実的かつ具体的な内容としたことです.
本書の読者対象としては,卒業研究や院内研究でこれから看護研究を始めようとする初心者の方や,看護研究の経験はあるけれど要点がつかみきれなかったという人を念頭に置いています.研究経験がほとんどないまま臨床現場から大学院に入学した修士課程の学生でも十分に参考になると思います.また,量的な研究の指導をする立場になったけれども,自信が持てないという教員にも有用でしょう.
看護研究の本はたくさんありますが,その多くは,研究の理想的な姿を記述したものです.非常に崇高な理念が語られ,ストイックな雰囲気に包まれています.しかし,実際の研究活動は,それほど理路整然としたものではなく,もっと雑然としたものです.研究テーマなどは思いがけないことで決まることも多く,また,時間や経費との兼ね合いで内容も変わります.さらに,論文として研究成果を発表する際には査読者との駆け引きも生じるなど,もっと生々しい活動です.こうした状況は,研究生活の途上にある人間でないとなかなかわかりにくいものです.
本書では,量的な看護研究の基本となる部分を踏まえながらも,通常の看護研究の本では語られにくい部分を中心に研究の進め方を解説しました.全体の構成としては,まず,量的な看護研究の概要を実際にポイントになることを中心に解説しています.その後は,データの基本的な分析の方法とその注意点について書いています.ここで用いているデータは,実際に筆者が利用したデータをヒントに,解説に沿った形に一部加工したものです.最後に,研究結果をまとめる際に,現実との兼ね合いをどのように考え,対処すればよいかについて触れています.この部分は,研究の質を評価する場合,あるいは公表する場合のポイントになりますが,従来の看護研究のテキストで解説されることがなかった部分です.
本書に書いてある基本事項をしっかりと身に付けておけば,たいていの場面で困ることはないでしょう.一通り読まれた後,少し気楽に量的な看護研究に取り組む気持ちになっていただければ本書の目的は達成されたと思います.本書を足がかりに上記の疫学や統計学の本でさらに詳しく学んでみるとよいでしょう.
最後に,いつもお世話になっている医歯薬出版第一出版部の編集担当者の方々に厚くお礼申し上げます.わかりやすい教材にするためのレイアウトやさまざまな工夫にご尽力いただきました.また,図表の作成・文章校正など煩雑な作業の大半は山梨大学の大間敏美さんにお願いいたしました.同僚で在宅看護学講座の彦聖美講師には,直接指導する機会があった元大学院生として,本文を何度も通読していただき的確なコメントを頂きました.ご協力に感謝申し上げます.
2011年6月
大木秀一
第1章 看護研究の基本的な考え方と進め方
1 看護研究って何だろう
「まねる」ことの大事さ
構え過ぎないで始めてみましょう
研究を進めるうえで考えなくてはいけないこと
量的な研究には2つのタイプがあります
Column1-1 見方を変える
Column1-2 卒業研究の経験
2 お試し版量的看護研究のすすめ
研究テーマを決定しよう(興味・課題の整理と情報収集)
研究計画書は必要か?
倫理申請のポイントは?
データを収集してみよう
統計解析が待っています
口頭発表をします
論文作成で完成です
研究を相談するときのマナー
研究と科学哲学や実践は別だと割り切りましょう
POINT 学術論文作成における基本事項
Column1-3 研究テーマがいつどこで役に立つかはわからない
Column1-4 ビジネス書に学ぶ
第2章 統計の種類と予備知識
1 統計の基礎
なぜデータを集めて統計を取るのだろう?
データ・変数・分布とは
間違った苦手意識を取り除こう
データの分析方法をパターン化してみる
統計学に振りまわされないで
データばかりに目を向けすぎないこと
実際に数え上げることの大事さ
Column2-1 統計解析と看護アセスメントは似ています
2 記述統計と推測統計の違い
記述統計と推測統計の違いを知っていますか
記述統計とは
推測統計とは
推測統計(検定)に対する誤解
3 データの種類
質的データと量的データ
データをとる際の「ものさし」…尺度の種類
データの変換
4 データ分析の基本
分析する順序を間違えないように気を付けよう
まずはデータを分析しやすい状態にする…クリーニング
データをわかりやすくまとめる方法…図表化と数値要約
連続データは山型に分布する
正規分布の平均値と標準偏差
平均値が役に立たない?
第3章 身に付けておきたい統計解析のエッセンス
1 正規分布する1つの量的な変数の分析
データの全体像をとらえる
山型の分布を作ることが目標!
POINT 図示と数値要約にあたって
分布の特徴を捉える!…基本統計量の算出
標準偏差の性質
POINT 標準偏差とヒストグラムを照らし合わせてみよう!
究極のヒストグラムがモデル曲線です
おわりに
2 正規分布しない1つの量的な変数の分析
歪んだり,山が2つあったりするヒストグラム
注目すべき統計量
こんな理由でも分布が歪む
POINT 箱ひげ図
まずヒストグラムで特徴を見ることが大事
おわりに
3 1つの質的な変数の分析
度数分布表を作り,グラフ化する
グラフ化をする際の注意点
おわりに
POINT パレート分析
4 2つの質的な変数の分析
2つの変数の扱い方
2つの質的な変数の「関連」
クロス表の縦と横,相対度数
POINT グラフで表現する場合には
それぞれを別々に分析しても「関連」は予想できない
「関連」の考え方
関連がない「独立」という状態
観測度数と期待度数のずれがポイント
関連の指標 ……χ2値
クロス集計の利用の仕方
おわりに
5 2つの量的な変数の分析
2つの量的な変数の「相関」
散布図の読み方
相関係数で数値要約する
POINT 相関係数の意味
直線的な関係と回帰直線
相関係数ばかりに頼らない!…曲線的あるいは非直線的な関係
相関係数を求める際に注意する点
おわりに
POINT 「相関関係」「関連」と因果関係の混同
6 順序尺度の分析
順序尺度の特殊性
順序尺度の集計
順序尺度の合計点
2つの順序尺度の関係
おわりに
Column3-1 本当に複雑な分析が必要か(基本的な集計の例)
7 その他の単純集計と一歩進んだ分析
量的な変数と質的な変数を分析するには
3つ以上の変数を分析するには
データ分析の考え方のまとめ
おわりに
Column3-2 本当に複雑な分析が必要か(既存データの有効活用の例)
8 t検定 平均値の差の検定
2つの集団の平均値の差を調べることができます
平均値の差の検定(t検定)をする際の注意点
平均値の差の検定(t検定)の流れ
検定の例を見てみましょう
ウエルチ(Welch)の検定
検定統計量(T値)の式をよく見て意味を正しく理解しましょう
おわりに
9 χ2検定 関連についての検定
2つの質的な変数の独立性を調べることができます
χ2検定をする際の注意点
4分クロス表の独立性の検定
χ2検定の具体例(4分クロス表での検定)
χ2検定と調査対象数の関係は?
対応がある質的な2標本の関連…マクネマー検定
検定をするまでもないクロス表
おわりに
10 ノンパラメトリック検定法
ノンパラメトリック検定とは
順序尺度の検定
U検定
ノンパラメトリック検定でも無作為抽出は必要です
ノンパラメトリック検定でも万能ではありません
データの分布・測定尺度の変換と検定
おわりに
POINT 検定とは
POINT 仮説検定の限界…正しく理解するために
第4章 人間を対象とした量的研究での注意点
1 統計解析の理想と現実のギャップ
母集団って何?
無作為抽出とは?
結果の一般化って?
実際には
2 統計解析を超えた問題…誤差とバイアス
調査結果と真実
誤差について
バイアスの種類
研究全体の流れからみたバイアスへの対処法
Column4-1 調査では回収率アップを目指そう!
3 信用できる研究とは
どれだけ真実を反映しているか?どれだけ結果が安定しているか?…信頼性と妥当性
信頼性と妥当性,どちらを先に対処する?
研究ではまず調査対象に対して正しい結果を得ることが大切です
調査対象数について
人間対象だということを忘れずに
出版バイアスと言語バイアスについて
統計解析についての考え方
統計学のあいまいさ
おわりに
POINT 査読者から見た論文作成における注意点
POINT エクセルの活用
Column4-2 エクセルを使って統計解析の基本技術を身に付ける方法
索引
巻末 統計解析チェックリスト
1 看護研究って何だろう
「まねる」ことの大事さ
構え過ぎないで始めてみましょう
研究を進めるうえで考えなくてはいけないこと
量的な研究には2つのタイプがあります
Column1-1 見方を変える
Column1-2 卒業研究の経験
2 お試し版量的看護研究のすすめ
研究テーマを決定しよう(興味・課題の整理と情報収集)
研究計画書は必要か?
倫理申請のポイントは?
データを収集してみよう
統計解析が待っています
口頭発表をします
論文作成で完成です
研究を相談するときのマナー
研究と科学哲学や実践は別だと割り切りましょう
POINT 学術論文作成における基本事項
Column1-3 研究テーマがいつどこで役に立つかはわからない
Column1-4 ビジネス書に学ぶ
第2章 統計の種類と予備知識
1 統計の基礎
なぜデータを集めて統計を取るのだろう?
データ・変数・分布とは
間違った苦手意識を取り除こう
データの分析方法をパターン化してみる
統計学に振りまわされないで
データばかりに目を向けすぎないこと
実際に数え上げることの大事さ
Column2-1 統計解析と看護アセスメントは似ています
2 記述統計と推測統計の違い
記述統計と推測統計の違いを知っていますか
記述統計とは
推測統計とは
推測統計(検定)に対する誤解
3 データの種類
質的データと量的データ
データをとる際の「ものさし」…尺度の種類
データの変換
4 データ分析の基本
分析する順序を間違えないように気を付けよう
まずはデータを分析しやすい状態にする…クリーニング
データをわかりやすくまとめる方法…図表化と数値要約
連続データは山型に分布する
正規分布の平均値と標準偏差
平均値が役に立たない?
第3章 身に付けておきたい統計解析のエッセンス
1 正規分布する1つの量的な変数の分析
データの全体像をとらえる
山型の分布を作ることが目標!
POINT 図示と数値要約にあたって
分布の特徴を捉える!…基本統計量の算出
標準偏差の性質
POINT 標準偏差とヒストグラムを照らし合わせてみよう!
究極のヒストグラムがモデル曲線です
おわりに
2 正規分布しない1つの量的な変数の分析
歪んだり,山が2つあったりするヒストグラム
注目すべき統計量
こんな理由でも分布が歪む
POINT 箱ひげ図
まずヒストグラムで特徴を見ることが大事
おわりに
3 1つの質的な変数の分析
度数分布表を作り,グラフ化する
グラフ化をする際の注意点
おわりに
POINT パレート分析
4 2つの質的な変数の分析
2つの変数の扱い方
2つの質的な変数の「関連」
クロス表の縦と横,相対度数
POINT グラフで表現する場合には
それぞれを別々に分析しても「関連」は予想できない
「関連」の考え方
関連がない「独立」という状態
観測度数と期待度数のずれがポイント
関連の指標 ……χ2値
クロス集計の利用の仕方
おわりに
5 2つの量的な変数の分析
2つの量的な変数の「相関」
散布図の読み方
相関係数で数値要約する
POINT 相関係数の意味
直線的な関係と回帰直線
相関係数ばかりに頼らない!…曲線的あるいは非直線的な関係
相関係数を求める際に注意する点
おわりに
POINT 「相関関係」「関連」と因果関係の混同
6 順序尺度の分析
順序尺度の特殊性
順序尺度の集計
順序尺度の合計点
2つの順序尺度の関係
おわりに
Column3-1 本当に複雑な分析が必要か(基本的な集計の例)
7 その他の単純集計と一歩進んだ分析
量的な変数と質的な変数を分析するには
3つ以上の変数を分析するには
データ分析の考え方のまとめ
おわりに
Column3-2 本当に複雑な分析が必要か(既存データの有効活用の例)
8 t検定 平均値の差の検定
2つの集団の平均値の差を調べることができます
平均値の差の検定(t検定)をする際の注意点
平均値の差の検定(t検定)の流れ
検定の例を見てみましょう
ウエルチ(Welch)の検定
検定統計量(T値)の式をよく見て意味を正しく理解しましょう
おわりに
9 χ2検定 関連についての検定
2つの質的な変数の独立性を調べることができます
χ2検定をする際の注意点
4分クロス表の独立性の検定
χ2検定の具体例(4分クロス表での検定)
χ2検定と調査対象数の関係は?
対応がある質的な2標本の関連…マクネマー検定
検定をするまでもないクロス表
おわりに
10 ノンパラメトリック検定法
ノンパラメトリック検定とは
順序尺度の検定
U検定
ノンパラメトリック検定でも無作為抽出は必要です
ノンパラメトリック検定でも万能ではありません
データの分布・測定尺度の変換と検定
おわりに
POINT 検定とは
POINT 仮説検定の限界…正しく理解するために
第4章 人間を対象とした量的研究での注意点
1 統計解析の理想と現実のギャップ
母集団って何?
無作為抽出とは?
結果の一般化って?
実際には
2 統計解析を超えた問題…誤差とバイアス
調査結果と真実
誤差について
バイアスの種類
研究全体の流れからみたバイアスへの対処法
Column4-1 調査では回収率アップを目指そう!
3 信用できる研究とは
どれだけ真実を反映しているか?どれだけ結果が安定しているか?…信頼性と妥当性
信頼性と妥当性,どちらを先に対処する?
研究ではまず調査対象に対して正しい結果を得ることが大切です
調査対象数について
人間対象だということを忘れずに
出版バイアスと言語バイアスについて
統計解析についての考え方
統計学のあいまいさ
おわりに
POINT 査読者から見た論文作成における注意点
POINT エクセルの活用
Column4-2 エクセルを使って統計解析の基本技術を身に付ける方法
索引
巻末 統計解析チェックリスト








