やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2版改訂にあたって
 第1版を2006年に出版して以来2011年までの5年間で,家族看護学を取り巻く状況は大きく変化した.2007年には日本家族看護学会を設立した杉下知子東大名誉教授が逝去され,同年12月にはカルガリー式家族看護モデル発祥のカルガリー大学家族看護ユニットが25年の歴史を閉じた.一方で,国際的にはInternational Family Nursing Association(IFNA)が組織され,日本では初の家族支援専門看護師が誕生,カリキュラムの中に家族看護論/学を位置づける新設大学や,家族支援専門看護師のコースをもつ大学院が着実に増加するなど,新しい歴史がつくられている.そうしたなかで,さらに多くの家族看護学の著作が世に出され,患者のみならず家族もケアの対象とする,あるいは家族を一単位として支援する家族看護の考え方や実践は,着実に看護の現場に根付きつつある.これは,家族看護学の一つの形としてカルガリー式家族看護モデルの教育・実践に取り組んできた筆者としては大変嬉しいことである.
 しかしながら,昨今の看護の専門分化の流れのなかで,家族支援専門看護師でなくとも,家族支援は当然のケアとして含まれるようになってきたことも事実であり,いま再び,家族支援の根本とは何か,家族看護に特有の技術,理論的/概念的基盤は何かということが以前に増して問われるようになっている.本書は,日本の一般的な家族や,家族をめぐる諸制度についての諸説にページを割くのではなく,学習者それぞれが自分の家族について振り返り,今目の前にいる患者家族を「観察者として」どのように「観る」のか,「看護職」として,どのように「看る」のか,それを自ら想像し創造できるようにすることを第一の目的としている.したがって,昨今の家族をめぐる一般的な議論については,Webの情報検索システムや書籍を用いて調べるグループワークが前提であり,第2版においても,その点に変更はない.
 第2版における最も大きな変更点は,ジェノグラム・エコマップの表記法の整理・統一である.これは,将来の電子記録化に向けた挑戦であり,ライトらの原著には含まれない点である.本書においてもまだ十分に整理しきれていない部分もあるが,この5年間,様々な状況,対象に対しジェノグラム・エコマップを活用する取り組みのなかで,必要最低限に絞り込んだものである.また,この5年間で海外ではいくつかの主要な家族看護のテキストが改訂されており,内容が大きく変化したものもある.したがって,本書では参考・引用した文献について改訂を確認し必要に応じて補足した.
 本書が学としての基盤をもちながら,家族看護を確実に実践できるものとして学習する一助として役立つことを願っている.
 2011年2月 小林奈美

はじめに
 1992年,東京大学と千葉大学に日本で初めての家族看護学講座が創設されたとき,私は東京大学の学生だった.それから十数年,それぞれの大学における講座の創設者であった杉下知子先生,鈴木和子先生をはじめ,多くの先生方の尽力によって日本の家族看護学は順調に発展してきた.北米の主たる教科書が翻訳され紹介される一方で,臨床の場で蓄積されてきた実践事例や研究をもとに,日本独自の理論開発も行われてきた.そして今日,多くの大学の看護系学部,看護短期大学・専門学校などで,さまざまな背景をもった指導者により家族看護の教育が行われている.
 私が,カナダカルガリー大学のライト(L.M.Wright)博士,リーヘイ(M.Leahey)博士の著書,『Nurses and Families』に出会ったのは1994年だった.その当時は邦訳がなかったので,第2版の原著を読んだが,家族と看護師のかかわりをこれほど見事にシンプルに説明する方法があったのか,と強い衝撃を受けたことを記憶している.その後,幾度の幸運に恵まれ,カルガリー大学のライト博士,ベル(J.M.Bell)博士のもとで学ぶ機会を得ることができた.
 「家族看護学」の応用範囲は広く,多様な理論的背景や考え方に基づく「家族看護論」が存在する.また家族看護モデルの多くは,家族社会学,家族心理学,家族療法といった分野の理論を応用しており,初学者には難解な部分も多い.特に,家族療法の考え方を基礎としてカルガリー大学で開発されてきた家族アセスメント/介入モデルは,教えるのが難しいという教員も少なくない.しかし,私は思うのである.教えるのは難しいかもしれないが,学ぶことを支援するのはそれほど難しくないのではないか,と.
 本書は,家族看護の初学者が,看護職として「家族をどのように考えるか」を学習することに主眼をおいてまとめたものである.カルガリー式家族看護モデルを中心に,理論とアセスメント/介入モデルの関係を平易に解説し,演劇制作というグループワークの学習方法を用いることによって理解を深められるように組み立てている(「本書の概要と活用法」参照).
 本書をまとめることができたのは,私に学びの機会を与え,支援し続けてくださっている3人の師,カルガリー大学名誉教授L.M.Wright博士,準教授J.M.Bell博士,そして東京大学名誉教授の故杉下知子博士の導きがあってのことである.深く感謝申し上げたい.そして,快く執筆協力してくださった諸先生方,ユニークな講義に熱心に参加してくれる鹿児島大学の学生,臨床体験を共有してくださっているナカノ訪問看護ステーションのスタッフに心から感謝申し上げる.最後に,いつもエネルギーを与え続けてくれる私の家族と同僚,辛抱強く原稿を待ってくださった医歯薬出版看護書籍編集担当各位に感謝したい.
 2005年12月 小林奈美
1部 「家族」とは?:「家族」という関係性をもった集団への看護
 1 人生における家族の存在
  「家族」という不思議な関係
  誰が家族?どこまでが家族?
  家族体験:家族の物語を生きる個人に特有の体験
  エクササイズ1-1
   自分の家族史を振り返り,さらに将来を考えてみよう.
   あなたの今までの人生を振り返り,これからの人生プランを立ててみよう.
    コラム1-1 家族看護学の先駆者による「家族」の定義
 2 家族と情報
  情報とコミュニケーション
  家族だから共有できる情報と家族だから明かせない情報
  家族と病名告知
  家族における意思決定
  エクササイズ1-2
   家族だから話せたこと,家族だから話せなかったこと,自分の体験を振り返ってみよう.そのとき,考えたこと,そのときの気持ちを思い出して物語風に書いてみよう.
 3 家族と健康
  健康な家族
  家族の発達段階と発達課題
  家族と病
  家族を取り巻く環境の変化
 4 看護職としての業務と家族からの期待
  「家族看護」とは?
  「家族を看護する」技術のレベル-ジェネラリストとスペシャリスト
  家族看護のジェネラリスト-看護師,助産師,保健師として期待されること
  エクササイズ1-3
   自分の家族が病気やけがをした体験を振り返ってみよう.家族にどのような影響があっただろうか?
 5 家族に向き合うための準備:「家族」の物語と「あなた」のなかの物語
  看護をするのは「あなた自身」
  「家族」の存在に気づくこと
  家族の物語を「聞く」ということ
  エクササイズ1-4
   あなたのなかにある「家族観」と「物語の好み」を整理しておこう.
    コラム1-2 家族の視点からみた療養環境
2部 カルガリー式家族看護モデル
 1 家族看護に関する代表的な家族アセスメント・介入のための統合モデルと特徴
  I)フリードマンの家族アセスメントモデル
  II)ハンソンの家族アセスメント・介入モデルと家族ストレス-ストレングス尺度
  III)渡辺式家族アセスメントモデル
 2 カルガリー式家族システム看護モデルの概要
  I)カルガリー式家族アセスメント/介入モデル(CFAM/CFIM)
   (1)考え方の基本と理論的背景(ポストモダニズム システム理論 サイバネティクス コミュニケーション理論 変化理論 認知の生物学)
    コラム2-1 CFAM/CFIMの理論構造の背景にあるもの
   (2)アセスメントの技法とポイント
    1)CFAM/CFIMのアセスメントの特徴
    2)ジェノグラムとエコマップの書き方(ジェノグラムの書き方の基本 エコマップの書き方の基本 ジェノグラム・エコマップの実践適用 ジェノグラム・エコマップを練習するうえでの注意点)
    3)カルガリー式家族アセスメントモデル(CFAM)(構造アセスメント 発達アセスメント 機能アセスメント)
   (3)アセスメントと介入をつなぐ土台としてのCFIM
    1)円環パターンの基本構造(CPD)
    2)施療的介入としての問いかけ
    3)その他の介入技術
    4)家族面接の技術
    コラム2-2 カルガリー大学における家族看護教育の実際
    5)15分以内でできる家族インタビュー
    6)臨床実践における留意点
    コラム2-3 カルガリー大学家族看護ユニットが開催するエクスターンシップ
  II)イルネスビリーフモデル
   【Part1】ビリーフ:問題の核心(ビリーフ 核心となるビリーフ:(1)家族と病についてのビリーフ (2)施療的な変化と施療者についてのビリーフ)
   【Part2】上級実践のためのマクロムーブ(大きな動き)((1)ビリーフが変化するための素地をつくる (2)病のビリーフを見つける (3)膠着したビリーフを変化させる (4)変化を見つけ,肯定し,前向きなビリーフを定着させる)
  III)三位一体モデル
   苦悩 スピリチュアリティ 宗教
    コラム2-4 Thank you,Kye…20カ月の命を在宅で看取った家族とそれを支え続けた小児緩和ケアチームの事例チームワークによる家族システムアプローチの紹介
3部 グループワークで理解を深めよう
 1 苦悩する家族の物語:苦悩の場面を自作自演する過程で学ぶこと
  なぜ,演劇制作なのか?
  病と苦悩と家族の関係
  CFAMとCFIM
  「創造力」と「想像力」を養う
 2 グループワークの効果を高めるために
  グループメンバーの人数と構成
  メンバーの構成による成果の違い
  グループワークの流れ
  効果的に進める工夫
  準備するもの
   グループワーク時に必要なもの 演劇用に必要なもの
 3 ファシリテーターの役割と注意点
  教員や指導者が全体に対して行うこと グループのファシリテーターとして行うこと 進行上の注意点
 4 グループメンバーとテーマの決定
  学習の目標 課題 テーマの例 グループワークの実際懇親
   やってみよう
 5 「家族」を考え,テーマに関する「家族の苦悩」の場面を設定する
  学習の目標 課題 課題提示の例 グループワークの実際
   やってみよう
 6 登場人物である家族を設定する
  学習の目標 課題 助言 グループワークの実際
   やってみよう
 7 ストーリーとセリフをつくる
  学習の目標 課題 助言 グループワークの実際
   やってみよう
 8 演じることと,その振り返り
  学習の目標 課題 助言 グループワークの実際
   やってみよう
 9 物語の擬似家族への問いかけシミュレーション
  学習の目標 課題 助言 花子さんの家族に対する円環的問いかけの例
   やってみよう
4部 関連図書紹介,Q&A
 ・関連図書紹介
  家族看護モデルに関する専門書の紹介(フリードマン家族アセスメントモデル ハンソン家族アセスメント・介入モデルとFS3I カルガリー式家族看護モデル 鈴木・渡辺の家族看護モデル) 家族看護関係の主要な雑誌 その他の家族看護学に関する参考図書 家族看護学周辺領域の参考図書
 ・Q&A
  Q1:天涯孤独の高齢者に家族看護は必要ですか?
  Q2:家族と患者の意思(利益)が対立したとき,看護職としてどうすればよいですか?
  Q3:「面接」でなければ,家族システム看護実践はできないのでしょうか?
  Q4:政策提言も家族看護でしょうか?
  Q5:家族システム看護には看護計画は必要ないのでしょうか?EBN(Evidence Based Nursing)やクリニカルパスとの関係はどのように考えたらよいですか?
  Q6:家族ケアを実践したいのですが,同僚や職場の理解が得られない場合はどうしたらよいでしょうか?
  Q7:家族看護の専門家は必要?
  Q8:家族支援のために職種の違いを超えた協働に必要なことは何ですか?
  Q9:演劇製作を通して行うグループワークの特色は何ですか?普通のロールプレイとは何が違いますか?