やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2版の序
 子どもが抱える健康問題の原因,ケア,解決のどの点を取り上げてみても,家族の存在,関与を抜きにして看護を語ることはできません.
 本書は,既刊の『小児看護学1 系統的アプローチの実際』と『小児看護学3 家族への系統的アプローチの実際』を1冊にまとめたものです.小児の成長発達・社会化の過程,小児とともに変化する家族の成長や機能に着目し,小児・家族への系統的アプローチの実際を意図しました.
 第I章から第IV章までは総論,第V章から第VII章は各論にあたる内容で構成しています.総論では小児と現代家族の健康について,各論では小児家族看護を支える理論的枠組み,小児・家族看護の体系的・系統的アプローチの実際を身近に遭遇する事例をもとに展開しています.
 小児・家族看護学で用いられる枠組みとしては,(1)システム論的枠組み,(2)構造・機能的枠組み,(3)ニード論的枠組み,(4)相互作用論的枠組み,(5)発達論的枠組みを中心に用いています.看護の方略として広く用いられている看護過程は,個人,家族,集団,地域のいずれの場においても適用可能です.看護過程は,看護の系統的アプローチを意図した1つの方法であり,問題解決の基本的な過程であります.個人に働きかける場合でも家族の場合でも,その展開に基本的な違いはありません.しかし家族看護では,第1に家族全体に関わる問題を取り上げ,次に家族構成員個人に関わる問題に着手します.
 家族機能の変化・低下,家族と社会の関係性の希薄化・複雑化と,家族を取り巻く環境は変化し続けています.家族構成員1人に生じた健康問題は,他の家族構成員の生活をも一変するような影響をおよぼします.また,病んだ家族関係のなかで育つ不幸な子どもは,将来健康を逸脱するようなリスクを背負うことが危惧されます.家族を1つの単位として,成長・変化する家族を支援する家族看護の役割は高まる一方です.
 このような趣旨に沿ってまとめられた本書が,第1に看護学生にとって,知識と実践を統合するテキストとして活用され,特に「臨地実習の充実」に役立つことを希望し,第2に小児看護に携わるスタッフにとって,日々行っている看護の科学的根拠の確認や系統的・包括的アプローチの充実に活かされることを願っています.
 多様な問題を抱えながらも「信頼」と「敬愛」に満ちた本来の家族であるために,あるいは本来の家族を取り戻すために本書が少しでも役立つことができれば幸いに思います.
 2010年8月 残暑厳しい札幌にて
 著者代表 岡田洋子

はじめに
 看護教育におけるカリキュラムの改正および基礎教育の大学レベル化が進むなか,「看護教育の体系化」や「ゆとりあるカリキュラム」が叫ばれて10年が過ぎようとしています.
 看護学は学際的学問であり,教養科目・専門基礎科目など多くの関連領域の知識を必要とします.さらに看護学は実践科学であり,臨地実習の充実が求められています.看護専門科目は,従来の基礎・成人・母性・小児看護学といった柱立てに,さらに「老年看護学」,「地域看護学(在宅看護論を含む)」,「精神看護学」が新たに加わりました.学ぶ知識量は増加・高度化する一方で,現代学生の体験の乏しさが,実践科学に不可欠な臨地実習において特に指摘されています.
 このような状況の中で,小児看護学を担当する教員として,講義・実習を通して日々学生と接するなかで,学生が学んだ知識を実践(実習)に結びつけて系統的に考え,対象者にアプローチできるための方略を講じる必要性を痛感しておりました.そのような矢先,医歯薬出版から新しい視点,アイディアに基づくテキストの出版のお話があり,年来の懸案を解決する糸口を得た思いで本書をまとめたしだいです.
 本書の特徴は,第1章から第3章までは,小児看護学の体系化と系統的アプローチの「総論」にあたる内容で構成され,第4章と5章は,小児看護学の体系化と系統的アプローチの実際を展開する「各論」にあたる内容で構成されています.ここでいう看護学の体系化とは,看護を構成する部分を系統的に統一した全体(一定の原理で組織された知識の統一的全体)の構築をいいます.
 従来の看護教育では,小児の成長・発達,健康問題,看護の実際がそれぞれバラバラに教授・展開されてきた経緯があり,その現状に大きな変化はないといえますが,本書の第4章では,バラバラな知識ではなく,小児看護学で展開されているアセスメントの視点を次の枠組みで抽出し,その概略,看護への応用を述べています.
 (1)システム論的枠組み,(2)構造・機能論的枠組み(解剖・生理学),(3)ニード論的枠組み(ヘンダーソン,マズロー),(4)発達論的枠組み(エリクソン,ピアジェ,アギュララの危機理論),(5)相互作用論的枠組み(母子関係,家族関係,人間関係),(6)看護論.
 第5章では,本書の編集意図である小児看護学の体系化と系統的展開の実際を,事例を用いて,看護のプロセスを軸に学習内容を系統的に整理・展開し,特にヘルスアセスメントの実際を示しました.さらに最後の第6章では,小児看護におけるヘルスプロモーションと健康教育を取り上げ,今後の課題を提起しています.
 このような趣旨に沿ってまとめられた本書が,第1に看護学生にとって,知識と実践を統合するテキストとして活用され,特に「臨地実習の充実」に役立つことを希望し,第2に小児看護に携わるスタッフにとって,日々行っている看護の科学的根拠の確認や系統的・包括的アプローチの充実に活かされることを願っております.
 21世紀の小児看護が,複雑化する小児の健康問題を家族・社会といった広い視点から理解し,子どもの人権やインフォームドコンセントに十分配慮した「個別性」と「愛」に包まれた看護へと発展していくために,本書が少しでも役立つことができれば幸いです.
 1999年11月 雪舞う札幌にて
 著者代表 岡田洋子
序章 小児と家族を支える看護(岡田)
 1 小児看護の変遷と小児看護の役割
 2 家族看護学の歴史的発展
 3 小児と家族を支える看護の役割
I章 現代社会に生きる子どもと家族の今日的な健康問題(茎津)
 1 環境の変化と現代社会における子どもと家族の健康
  1)子どもの身体の変化と健康
   身体発育
   運動能力・体力の現状
   学校保健統計からみた疾病・異常
   子どもの生活と生活習慣病
  2)子どものこころの健康
   メディア社会に生きる子どもの発達と健康
   子どもの不定愁訴と小児慢性疲労症候群
   不登校
   子どものうつ病
  3)家族と子どもの健康
   家族を取り巻く環境と育児不安
   児童虐待
  4)子どもの不慮の事故
 2 思春期の子どもの健康問題
  1)思春期とは
  2)思春期の喫煙・飲酒・薬物
  3)思春期と性
   性行動・性意識と10代の妊娠・中絶
   若年者の性感染症
 3 現代社会と子どもの生・死
II章 小児の成長・発達とヘルスアセスメント
 1 成長・発達の概念(井上)
  1)成長・発達の定義と一般的原則
   成長・発達の一般的原則
   成長・発達に影響を与える要因
 2 小児の成長・発達(井上)
  1)小児の形態的成長
   身体のバランス
   体重
   身長
   頭部
   胸部
   生歯
   骨
  2)小児の機能的発達
   呼吸
   循環
   体温
   消化
   腎機能・水分代謝
   免疫
   神経
   運動機能
   感覚
   生殖器
  3)小児の心理・社会的発達
   愛着行動の発達
   思考・認知の発達
   自我の発達と発達課題
   情緒の発達
   言語の発達
   遊びの発達
 3 小児の生活と基本的生活習慣(統合された機能)(井上)
  1)小児の栄養と食事
   小児の栄養と食生活の意義
   小児の食事摂取基準
   小児各期の栄養と食事習慣
  2)小児の排泄
   小児の排泄に関する身体的特徴
   小児各期の排泄と排泄習慣
  3)小児の睡眠
   小児各期の睡眠と睡眠習慣
  4)小児の清潔
   小児の清潔に関する身体的特徴
   小児各期の清潔と清潔習慣
  5)小児の衣服と着脱
   小児(乳幼児)の衣服の条件
   小児各期の衣服と着脱
 4 成長・発達の評価(茎津)
  1)身体の発育評価
   指数を用いたもの
   基準値を用いた評価
  2)精神運動機能の発達評価
  3)発達評価の際に留意すべき点
 5 小児のヘルスアセスメント(茎津)
   面接(インタビュー)
   観察
   身体のアセスメント
III章 小児看護を支える基本理念(茎津)
 1 小児看護における関連法および保健施策
  1)子どもの権利条約
  2)児童憲章
  3)児童福祉法
  4)母子保健法
  5)児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)
  6)学校保健と学校保健安全法
  7)予防接種法
  8)健やか親子21
  9)社会と少年法
 2 小児医療と子どもの人権
  1)小児看護と倫理原則
   子どもを個人として尊重すること(自律)
   子どもにとって善いことであること,害を与えられないこと(善行)
   公平,公正であること(正義)
   真実であること(誠実)
   約束を守る(忠誠)
  2)子どものインフォームド・コンセントおよびインフォームド・アセント
  3)小児医療と倫理
IV章 家族看護とは(岡田)
 1 家族の定義
 2 家族看護の目的
  1)家族看護の対象
  2)家族看護の目標
 3 家族看護における倫理的問題
  1)家族看護と倫理的責任
  2)家族の意思決定とそのプロセス
  3)家族の意思決定を支える看護職の役割
   看護師の役割
   看護援助
  4)家族看護における倫理的意思決定の枠組み
V章 小児と家族の看護を支える理論的枠組みと看護過程
 1 システム(統合体)としてとらえる人間(岡田)
   構造・機能論からみた枠組み
   成長・発達論からみた枠組み
   相互作用論からみた枠組み
   ニード論からみた枠組み
 2 家族システムの階層性(岡田)
 3 小児と家族の看護を支える理論的枠組みとアセスメント(岡田)
   構造・機能論からみた枠組み
   家族発達論からみた枠組み
   相互作用論からみた枠組み
   ニード論からみた枠組み
 4 理論的枠組みにおけるアセスメントの視点(岡田)
   家族システムの階層性の実際
   家族看護を支える理論的枠組みと具体的アセスメントの実際
 5 小児と家族に焦点をあてた看護過程(茎津)
  1)家族に焦点をあてた看護における看護職の役割
   健康教育者・相談者
   保健医療チームのメンバー・コーディネーター
   身体的ケアの提供者であり家族・個人の代弁者
   家族に起きていることの発見者であり観察者
  2)看護過程のプロセス
   家族と個人の健康問題の明確化(アセスメント)
   計画・立案(目標設定・計画立案およびソーシャルサポート資源の活用)
   実施(介入)
   評価・修正
 6 系統的アプローチの展開例(岡田)
   患者紹介
   小児・家族のアセスメントの実際
   家族システムからみた全体像
   家族と患児が抱える看護問題の明確化
VI章 事例を用いた系統的アプローチの実際
 1 育児に不安を抱く家族(井上)
  1)事例紹介
  2)アセスメントの実際
   構造・機能論的枠組み
   家族発達論および相互作用論の枠組み
   ニード論の枠組み
  3)家族システムからみた全体像
  4)看護問題の明確化と看護
   Aの看護問題
   家族全体が取り組むべき看護問題
   実施する上での看護師の役割
  5)評価
 2 喘息発作で入退院を繰り返す4歳児とその家族(茎津)
  1)事例紹介
  2)アセスメントの実際
   構造・機能論的枠組み
   家族発達論および相互作用論の枠組み
   ニード論の枠組み
  3)家族システムからみた全体像
  4)看護問題の明確化と看護
   Bの看護問題
   家族全体が取り組むべき看護問題
   実施する上での看護師の役割
  5)評価
 3 3歳児に暴力をふるう父親をもつ家族(茎津)
  1)事例紹介
  2)アセスメントの実際
   構造・機能論的枠組み
   発達論および相互作用論の枠組み
   ニード論の枠組み
  3)看護システムからみた全体像
  4)看護問題の明確化と看護
   Cの看護問題
   家族全体で取り組むべき看護問題
   実施する上での看護師の役割
  5)評価
 4 悪性腫瘍で入院となった子どもと家族(岡田)
  1)事例紹介
  2)アセスメントの実際
   構造・機能論的枠組み
   家族発達論および相互作用論の枠組み
   ニード論の枠組み
  3)家族システムからみた全体像
  4)看護問題の明確化と看護
   Dの看護問題
   家族全体(同胞)で取り組むべき看護問題
   実施する上での看護師の役割
  5)評価
 5 1型糖尿病の学童期の子どもとその家族(茎津)
  1)事例紹介
  2)アセスメントの実際
   構造・機能論的な枠組み
   家族発達論および相互作用論の枠組み
   ニード論の枠組み
  3)家族システムからみた全体像
  4)看護問題の明確化と看護
   Eの看護問題
   家族全体が取り組むべき看護問題
   実施する上での看護師の役割
  5)評価
 6 不登校の中学校2年生男子とその家族(井上)
  1)事例紹介
  2)アセスメントの実際
   構造・機能論的枠組み
   家族発達論および相互作用論の枠組み
   ニード論の枠組み
  3)家族システムからみた全体像
  4)看護問題の明確化と看護
   Fの看護問題
   家族全体が取り組むべき看護問題
   実施する上での看護師の役割
  5)評価
 7 学童期にさしかかった自閉症児とその家族(岡田)
  1)事例紹介
  2)アセスメントの実際
   構造・機能論的枠組み
   家族発達論および相互作用論の枠組み
   ニード論の枠組み
  3)家族システムからみた全体像
  4)看護問題の明確化と看護
   Gの健康問題
   家族全体(同胞)が取り組むべき看護問題
   実施する上での看護師の役割
  5)評価
 8 繰り返す腹痛で検査入院中の12歳女児と家族(茎津)
  1)事例紹介
  2)アセスメントの実際
   構造・機能論的枠組み
   家族発達論および相互作用論の枠組み
   ニード論の枠組み
  3)家族システムからみた全体像
  4)看護問題の明確化と看護
   Hの看護問題
   Hと家族の看護問題
   実施する上での看護師の役割
  5)評価
 9 性感染症の中学校3年生女子とその家族(井上)
  1)事例紹介
  2)アセスメントの実際
   構造・機能論的枠組み
   家族発達論および相互作用論の枠組み
   ニード論の枠組み
  3)家族システムからみた全体像
  4)看護問題の明確化と看護
   Iの看護問題
   家族全体が取り組むべき看護問題
   実施する上での看護師の役割
  5)評価
 10 ネフローゼ症候群の3歳男児とその家族(岡田)
  1)事例紹介
  2)アセスメントの実際
   構造・機能論的枠組み
   家族発達論および相互作用論の枠組み
   ニード論の枠組み
  3)家族システムからみた全体像
  4)看護問題の明確化と看護
   Jの看護問題
   家族全体が取り組むべき看護問題
   実施する上での看護師の役割
  5)評価
 11 潰瘍性大腸炎の中学校3年の男児とその家族(井上)
  1)事例紹介
  2)アセスメントの実際
   構造・機能論的枠組み
   家族発達論および相互作用論の枠組み
   ニード論の枠組み
  3)家族システムからみた全体像
  4)看護問題の明確化と看護
   Kの看護問題
   家族全体が取り組むべき看護問題
   実施する上での看護師の役割
  5)評価
 12 VSD(心室中隔欠損症)の2歳女児とその家族(岡田)
  1)事例紹介
  2)アセスメントの実際
   構造・機能論的枠組み
   発達論および相互作用論の枠組み
   ニード論の枠組み
  3)家族システムからみた全体像
  4)看護問題の明確化と看護
   Lの看護問題
   家族全体が取り組むべき看護問題
   実施する上での看護師の役割
  5)評価
VII章 小児と家族を支える保健医療福祉対策と課題(草薙)
 1 小児の在宅看護
  1)在宅看護を必要とする子どもの特徴
  2)家族の特徴
  3)在宅看護の経過と支援
   導入期
   移行期
   継続期
  4)在宅看護を必要とする小児と家族の社会的支援
 2 小児の健康と社会支援システム
  1)具体的な支援対策
   国の施策・提言
   保育に関する支援事業
   子どもの心身問題への支援事業
  2)小児の健康支援の方向性
   ヘルスプロモーションと健康支援
   小児看護の展望―小児看護の課題