はじめに
本書は,私が勤務する淑徳大学において,平成12年度前学期に担当した『宗教福祉論』(社会福祉学科必修科目.1,2年次生の履修者が多い)の講義録です.
私が本科目を担当するようになってから2年目のことでした.かつて,ながいこと『社会福祉史』の講義を担当し,また社会学科の必修科目『福祉思想論』を4年間担当した経験はありましたものの,本科目のように,宗教を踏まえながら,こんにちの社会福祉を論じるという難題を前に,開き直るより仕方がなかったというのが偽らざるところでした.
どちらかといえば,宗教への関心は薄く,しかもこれから社会福祉の基礎および専門の知識・技術を習得しようとする多くの受講生にとっては,社会福祉と宗教とのかかわりなど考えてもみなかったに違いないと思われます.一般の福祉系大学ではなじみの薄いこのような科目が本学で設置されているのは,「大乗仏教の精神」を建学の理念に掲げ,学祖が主唱された「宗教・教育・社会福祉の三位一体による人間開発・社会開発」の実現を期する私学であるからにほかなりません.
ところで本学では,ちょうどこの年からテレビ会議システムを利用した遠隔授業を始めました.教室での授業を静岡市内のサテライトキャンパス(社会福祉法人楽寿会・コミュニティホール)にテレビの画面を通してリアルタイムで提供するというものでしたが,そのうちの一つが『宗教福祉論』の授業でした.わざわざ私の授業を聞かれ,すべてを録音してくださっていた「楽寿会」の有馬良建副理事長は,講義の内容に関心を示され,後日,医歯薬出版株式会社の岸本舜晴氏と共に来学のうえ,本講義録の出版を勧めてくださったのでした.
未熟な私見の多い内容を読者にさらすことには,むろんためらいもありました.加えて,授業の過半が経過したところで実施した学内受講生を対象とする「授業アンケート」の結果では,学生の講義理解度は決して満足のいくものではなく,この種の講義のむずかしさを改めて痛感させられました.それでもあえてこのようなかたちで刊行に踏み切りましたのは,次の二つの理由からです.
一つは,担当授業の一里塚として,また授業点検・評価の一環として大方のご批判・ご助言をいただきたいとの思いからで,いま一つは,類書の少ないこの方面に,社会福祉関係者や仏教関係者の関心が少しでも向けられることを望んだからです.
ちなみに,平成12年度の『講義要覧』に掲載された本講義の「ねらい」「体系」「講義計画」「教材」は下記のとおりです(基本的枠組みは次年度以降にも受け継がれています.ただし,科目名称は13年度からの新カリキュラムで『仏教福祉論』に変更).本書の章立ては,その「講義計画」に基づいていますが,実際の講義は,ときに次週の授業にまで食い込んでしまうこともあって,それが本書各章の頁数の多寡に影響を及ぼしています.巻末には受講生代表による座談会の記録を収め,授業を振り返る縁といたしました.
2002年6月 長谷川匡俊
講義要覧:宗教福祉論A 2単位 前期 長谷川匡俊
【講義のねらい】
宗教福祉を「宗教に基づく福祉」の意ととらえ,主に建学の精神たる大乗仏教の立場から,仏教福祉がわが国の歴史のなかで果してきた役割と意義を明らかにし,かつその今日的な意味を問うことにしたい.
【講義の体系】
上記のねらいにしたがって,全体の構成は次の3つの柱からなる.
I.思想・理念と実践が切り結ぶ場としての歴史社会に展開した宗教福祉
II.仏教の思想・理念・世界観による現代福祉理念(価値)の基礎づけとその深化
III.高齢社会におけるターミナルケアと仏教福祉
【講義計画】
1.建学の理念と社会福祉改革の理念
2.日本の宗教福祉の源流I(儒教福祉)
3.日本の宗教福祉の源流II(キリスト教福祉)
4.日本の宗教福祉の源流III(仏教福祉(1))
5.日本の宗教福祉の源流IV(仏教福祉(2))
6.日本の宗教福祉の源流V(仏教福祉(3))
7.縁起の思想と「自立と連帯」
8.仏教の人間観と平等性の根拠
9.慈悲の思想―菩薩の誓願と同悲・共苦の心―
10.慈悲の思想―自他不二と福田サービス―
11.死への福祉I(仏教のターミナルケア(1))
12.死への福祉II(仏教のターミナルケア(2))
13.いのちの物質化・私有化の危機と仏教の生命観
【教 材】
1) 原典仏教福祉編集委員会:原典仏教福祉.北辰堂,1995.
2) 池田英俊・芹川博通・長谷川匡俊編:日本仏教福祉概論.雄山閣,1999.
本書は,私が勤務する淑徳大学において,平成12年度前学期に担当した『宗教福祉論』(社会福祉学科必修科目.1,2年次生の履修者が多い)の講義録です.
私が本科目を担当するようになってから2年目のことでした.かつて,ながいこと『社会福祉史』の講義を担当し,また社会学科の必修科目『福祉思想論』を4年間担当した経験はありましたものの,本科目のように,宗教を踏まえながら,こんにちの社会福祉を論じるという難題を前に,開き直るより仕方がなかったというのが偽らざるところでした.
どちらかといえば,宗教への関心は薄く,しかもこれから社会福祉の基礎および専門の知識・技術を習得しようとする多くの受講生にとっては,社会福祉と宗教とのかかわりなど考えてもみなかったに違いないと思われます.一般の福祉系大学ではなじみの薄いこのような科目が本学で設置されているのは,「大乗仏教の精神」を建学の理念に掲げ,学祖が主唱された「宗教・教育・社会福祉の三位一体による人間開発・社会開発」の実現を期する私学であるからにほかなりません.
ところで本学では,ちょうどこの年からテレビ会議システムを利用した遠隔授業を始めました.教室での授業を静岡市内のサテライトキャンパス(社会福祉法人楽寿会・コミュニティホール)にテレビの画面を通してリアルタイムで提供するというものでしたが,そのうちの一つが『宗教福祉論』の授業でした.わざわざ私の授業を聞かれ,すべてを録音してくださっていた「楽寿会」の有馬良建副理事長は,講義の内容に関心を示され,後日,医歯薬出版株式会社の岸本舜晴氏と共に来学のうえ,本講義録の出版を勧めてくださったのでした.
未熟な私見の多い内容を読者にさらすことには,むろんためらいもありました.加えて,授業の過半が経過したところで実施した学内受講生を対象とする「授業アンケート」の結果では,学生の講義理解度は決して満足のいくものではなく,この種の講義のむずかしさを改めて痛感させられました.それでもあえてこのようなかたちで刊行に踏み切りましたのは,次の二つの理由からです.
一つは,担当授業の一里塚として,また授業点検・評価の一環として大方のご批判・ご助言をいただきたいとの思いからで,いま一つは,類書の少ないこの方面に,社会福祉関係者や仏教関係者の関心が少しでも向けられることを望んだからです.
ちなみに,平成12年度の『講義要覧』に掲載された本講義の「ねらい」「体系」「講義計画」「教材」は下記のとおりです(基本的枠組みは次年度以降にも受け継がれています.ただし,科目名称は13年度からの新カリキュラムで『仏教福祉論』に変更).本書の章立ては,その「講義計画」に基づいていますが,実際の講義は,ときに次週の授業にまで食い込んでしまうこともあって,それが本書各章の頁数の多寡に影響を及ぼしています.巻末には受講生代表による座談会の記録を収め,授業を振り返る縁といたしました.
2002年6月 長谷川匡俊
講義要覧:宗教福祉論A 2単位 前期 長谷川匡俊
【講義のねらい】
宗教福祉を「宗教に基づく福祉」の意ととらえ,主に建学の精神たる大乗仏教の立場から,仏教福祉がわが国の歴史のなかで果してきた役割と意義を明らかにし,かつその今日的な意味を問うことにしたい.
【講義の体系】
上記のねらいにしたがって,全体の構成は次の3つの柱からなる.
I.思想・理念と実践が切り結ぶ場としての歴史社会に展開した宗教福祉
II.仏教の思想・理念・世界観による現代福祉理念(価値)の基礎づけとその深化
III.高齢社会におけるターミナルケアと仏教福祉
【講義計画】
1.建学の理念と社会福祉改革の理念
2.日本の宗教福祉の源流I(儒教福祉)
3.日本の宗教福祉の源流II(キリスト教福祉)
4.日本の宗教福祉の源流III(仏教福祉(1))
5.日本の宗教福祉の源流IV(仏教福祉(2))
6.日本の宗教福祉の源流V(仏教福祉(3))
7.縁起の思想と「自立と連帯」
8.仏教の人間観と平等性の根拠
9.慈悲の思想―菩薩の誓願と同悲・共苦の心―
10.慈悲の思想―自他不二と福田サービス―
11.死への福祉I(仏教のターミナルケア(1))
12.死への福祉II(仏教のターミナルケア(2))
13.いのちの物質化・私有化の危機と仏教の生命観
【教 材】
1) 原典仏教福祉編集委員会:原典仏教福祉.北辰堂,1995.
2) 池田英俊・芹川博通・長谷川匡俊編:日本仏教福祉概論.雄山閣,1999.
はじめに……長谷川匡俊
1 宗教福祉論と社会福祉改革の理念
1.これからの日本および日本人のあり方,生き方をめぐって
(1)中央教育審議会「幼児期からの心の教育の在り方について」答申
(2)「21世紀日本の構想」懇談会の報告
2.社会福祉基礎構造改革と福祉価値
(1)改革の理念・目的・方向
(2)福祉価値
3.社会福祉改革の理念と淑徳大学の学祖の実践と思想
(1)対等な関係の確立
(2)地域での総合的な支援
(3)多様な主体の参入促進
(4)質と効率性の向上
(5)福祉の文化の創造
2 日本の宗教福祉の源流 1(儒教福祉)
1.儒教とは
(1)孔子の教えにみる人間の生き方―福祉の原点を求めて
「仁」について 「愛」と「礼」 「仁」の広がりと政治
(2)孟子の教えにみる人間の生き方―福祉の原点を求めて
「仁・義・礼・智」の四徳 「仁」と「義」 「仁・義」を広める
2.日本の儒教福祉思想
(1)徳治主義
(2)近世における儒教福祉の思想
荻生徂徠 伊藤仁斎
(3)二宮尊徳の報徳思想
3 日本の宗教福祉の源流 2(キリスト教福祉)
1.キリスト教福祉の思想・理念
(1)カリタス(愛徳・聖愛)
(2)隣人愛
(3)苦しみのなかにある隣人のために働くことは,すなわちイエスに仕えることである
2.イエズス会の日本伝道と慈善
(1)慈善思想の特色
色身にあたる七の事 すぴりつにあたる七の事
(2)キリシタンの慈善活動
生命尊重 平戸と長崎の慈善組 ルイス・デ・アルメイダ
3.マザー・テレサの言葉と祈り
4 日本の宗教福祉の源流3(仏教福祉1)
1.社会福祉の構成要素
2.古代における仏教福祉の思想と実践
(1)聖徳太子
「世間虚仮 唯仏是真」 四天王寺の四箇院の創建伝承 『十七条憲法』にみられる平等の人間観 『三経義疏』にみられる慈悲・利他の精神
(2)行 基
民間福祉の始祖的な位置を占める 民衆教化と福利事業の一体的展開
(3)最 澄
(4)空 海
治水事業 綜芸種智院の創設
(5)空 也
民間布教と慈善救済の結合 無縁者の供養,囚人供養
(6)源 信
臨終行儀と看とりの互助組織
5 日本の宗教福祉の源流 4(仏教福祉2)
1.中世における仏教福祉の思想と実践
2.新仏教の開祖たちと福祉思想
(1)法 然
平等の人間観と「平等の慈悲」 絶対的受容 実践主体の倫理 日常生活の価値 実践の個別化
(2)親 鸞
実践主体の倫理 自力の救済と他力の救済 共同連帯
(3)道 元
福祉実践と仏道 発菩提心 「四摂法」への注目
(4)日 蓮
「法華経」の行者としての使命感 民衆との共感,共(代)受苦 個人福祉と社会(国家)福祉
(5)一 遍
捨聖の境涯 浄,不浄をきらはず
3.伝統仏教にみる福祉的実践
(1)重 源
(2)明 恵
(3)叡尊・忍性
6 日本の宗教福祉の源流5(仏教福祉3)
近世の仏教福祉
(1)近世仏教の評価をめぐって
(2)出家者の福祉実践と思想
鉄眼 了翁 浄土宗捨世派の信仰運動と利他的救済活動
(3)在家信者の福祉意識の形成と実践
白隠 往生伝にみる慈悲行のすすめと慈善 真宗の門徒教化と門徒の慈善
7 「縁起の思想」と「自立と連帯」
1.自立とは
2.「私たちの社会」にみる社会連帯
(1)友情=人間愛との融合
(2)母性愛=「社会的母性愛」へ(大乗的母性愛の開発)
(3)田子一民の『社会事業』にみられる社会連帯
3.阪神・淡路大震災ボランティアが語りかけてくるもの
(1)救援の主体的契機
(2)自己を活かすことと,他者を活かすことは別々のものか?
4.因縁生起(縁起)―仏教の根本思想
5.福祉の目標=浄仏国土・成就衆生
8 仏教の人間観と平等性の根拠
1.差別と平等
(1)差 別
(2)平 等
2.日本国憲法にみる人権
(1)憲法にみる人権
(2)人権の内容
身体の自由 精神の自由 人間らしい生存 自己実現と自己決定の権利
3.仏教の人間観と平等性
(1)釈尊は「生まれの差別」に基づいたカースト制度を認めなかった
(2)釈尊の教団
(3)仏教による平等の人間観に迫る2つの面
人間の「仏性」あるいは「如来蔵」に基礎づけられる平等性 人間の「凡夫性」に基礎づけられる平等性 人権を宗教的に問う 人間と自然界との連帯・平等
9 慈悲の思想―菩薩の誓願と同悲・共苦の心
1.福祉の実践主体と「慈悲」の心
(1)慈 悲
(2)四無量心
[慈] [悲] [喜] [捨]
(3)釈尊の前世物語(本生譚)にみら黷骼恃゚行
2.人間の慈悲から仏の慈悲へ
(1)相対的な慈悲から絶対的な慈悲へ
(2)大乗仏教の菩薩道(慈悲の体現者)
(3)限りなき慈悲と菩薩の誓願
3.『維摩経』にみる菩薩の「同悲・共苦」の精神
10 慈悲の思想―自他不二と福田サービス
1.慈悲の原理的基礎(自他不二)
(1)「自他不二」の倫理
(2)自分のことさえ満足にできもしないで,人さまのことでもあるまい
(3)慈悲の実践の理想的あり方
2.福田の思想
(1)「福田」とは
(2)福祉サービスにおける福田の思想
自己よりも他者のほうに重い意味づけ 「善根宿」の民俗的慣行に通じる サービスの供給者と利用者の関係におきかえて考える
11 死への福祉1-仏教のターミナルケア
1.「ゆりかごから墓場まで」というけれど
(1)生者の福祉+死者の福祉(死への福祉)
(2)「見えない死」「死の私事化」と「生命の断絶化」
2.永六輔著『大往生』に寄せて
3.ターミナルケア(terminalcare)
(1)「ケア」を考える
ケアとは 「ケア」の語義
(2)「ターミナルケア」を考える
「ターミナル」の語義 技術論より死の意味,死生観 時期と目的 担い手とケアの内容
12 死への福祉2-仏教のターミナルケア
1.「生・老・病・死」の四苦の解決と臨終の看とり
(1)仏教の原点
(2)臨終行儀
2.死にゆく人を送るとき
3.「看病の五法」に学ぶ
(1)不浄に処すとも厭わざれ
(2)毒を好まば諭すべし,なしと言えば苦を生ず
(3)ただ三宝に帰せしむべし
(4)悪口すとも答えざれ,又捨て去る事なかれ
(5)何程長病にても,退屈して早く死ねかしと思う事なかれ,思えば殺生罪になるなり
4.仏教のターミナルケアが目指すもの
(1)死後の世界への旅立ち(浄土への旅立ち)……スターティングケア
(2)死なない命の存在への目覚め
13 いのちの物質化・私有化の危機と仏教の生命観
1.いのちの物質化
(1)脳死による臓器移植
(2)クローン人間・遺伝子操作
2.いのちの私有化・私物化
(1)出生前診断
(2)虐待・援助交際
(3)いのちの相対化
3.仏教の生命観を考える
(1)私のいのちは大宇宙のいのちと一体である
(2)一人ひとりのいのちの尊厳性を支える「仏性」観
(3)私たちは仏の「本願」にあずかれる存在,仏に願われしもの
受講生座談会
索引
1 宗教福祉論と社会福祉改革の理念
1.これからの日本および日本人のあり方,生き方をめぐって
(1)中央教育審議会「幼児期からの心の教育の在り方について」答申
(2)「21世紀日本の構想」懇談会の報告
2.社会福祉基礎構造改革と福祉価値
(1)改革の理念・目的・方向
(2)福祉価値
3.社会福祉改革の理念と淑徳大学の学祖の実践と思想
(1)対等な関係の確立
(2)地域での総合的な支援
(3)多様な主体の参入促進
(4)質と効率性の向上
(5)福祉の文化の創造
2 日本の宗教福祉の源流 1(儒教福祉)
1.儒教とは
(1)孔子の教えにみる人間の生き方―福祉の原点を求めて
「仁」について 「愛」と「礼」 「仁」の広がりと政治
(2)孟子の教えにみる人間の生き方―福祉の原点を求めて
「仁・義・礼・智」の四徳 「仁」と「義」 「仁・義」を広める
2.日本の儒教福祉思想
(1)徳治主義
(2)近世における儒教福祉の思想
荻生徂徠 伊藤仁斎
(3)二宮尊徳の報徳思想
3 日本の宗教福祉の源流 2(キリスト教福祉)
1.キリスト教福祉の思想・理念
(1)カリタス(愛徳・聖愛)
(2)隣人愛
(3)苦しみのなかにある隣人のために働くことは,すなわちイエスに仕えることである
2.イエズス会の日本伝道と慈善
(1)慈善思想の特色
色身にあたる七の事 すぴりつにあたる七の事
(2)キリシタンの慈善活動
生命尊重 平戸と長崎の慈善組 ルイス・デ・アルメイダ
3.マザー・テレサの言葉と祈り
4 日本の宗教福祉の源流3(仏教福祉1)
1.社会福祉の構成要素
2.古代における仏教福祉の思想と実践
(1)聖徳太子
「世間虚仮 唯仏是真」 四天王寺の四箇院の創建伝承 『十七条憲法』にみられる平等の人間観 『三経義疏』にみられる慈悲・利他の精神
(2)行 基
民間福祉の始祖的な位置を占める 民衆教化と福利事業の一体的展開
(3)最 澄
(4)空 海
治水事業 綜芸種智院の創設
(5)空 也
民間布教と慈善救済の結合 無縁者の供養,囚人供養
(6)源 信
臨終行儀と看とりの互助組織
5 日本の宗教福祉の源流 4(仏教福祉2)
1.中世における仏教福祉の思想と実践
2.新仏教の開祖たちと福祉思想
(1)法 然
平等の人間観と「平等の慈悲」 絶対的受容 実践主体の倫理 日常生活の価値 実践の個別化
(2)親 鸞
実践主体の倫理 自力の救済と他力の救済 共同連帯
(3)道 元
福祉実践と仏道 発菩提心 「四摂法」への注目
(4)日 蓮
「法華経」の行者としての使命感 民衆との共感,共(代)受苦 個人福祉と社会(国家)福祉
(5)一 遍
捨聖の境涯 浄,不浄をきらはず
3.伝統仏教にみる福祉的実践
(1)重 源
(2)明 恵
(3)叡尊・忍性
6 日本の宗教福祉の源流5(仏教福祉3)
近世の仏教福祉
(1)近世仏教の評価をめぐって
(2)出家者の福祉実践と思想
鉄眼 了翁 浄土宗捨世派の信仰運動と利他的救済活動
(3)在家信者の福祉意識の形成と実践
白隠 往生伝にみる慈悲行のすすめと慈善 真宗の門徒教化と門徒の慈善
7 「縁起の思想」と「自立と連帯」
1.自立とは
2.「私たちの社会」にみる社会連帯
(1)友情=人間愛との融合
(2)母性愛=「社会的母性愛」へ(大乗的母性愛の開発)
(3)田子一民の『社会事業』にみられる社会連帯
3.阪神・淡路大震災ボランティアが語りかけてくるもの
(1)救援の主体的契機
(2)自己を活かすことと,他者を活かすことは別々のものか?
4.因縁生起(縁起)―仏教の根本思想
5.福祉の目標=浄仏国土・成就衆生
8 仏教の人間観と平等性の根拠
1.差別と平等
(1)差 別
(2)平 等
2.日本国憲法にみる人権
(1)憲法にみる人権
(2)人権の内容
身体の自由 精神の自由 人間らしい生存 自己実現と自己決定の権利
3.仏教の人間観と平等性
(1)釈尊は「生まれの差別」に基づいたカースト制度を認めなかった
(2)釈尊の教団
(3)仏教による平等の人間観に迫る2つの面
人間の「仏性」あるいは「如来蔵」に基礎づけられる平等性 人間の「凡夫性」に基礎づけられる平等性 人権を宗教的に問う 人間と自然界との連帯・平等
9 慈悲の思想―菩薩の誓願と同悲・共苦の心
1.福祉の実践主体と「慈悲」の心
(1)慈 悲
(2)四無量心
[慈] [悲] [喜] [捨]
(3)釈尊の前世物語(本生譚)にみら黷骼恃゚行
2.人間の慈悲から仏の慈悲へ
(1)相対的な慈悲から絶対的な慈悲へ
(2)大乗仏教の菩薩道(慈悲の体現者)
(3)限りなき慈悲と菩薩の誓願
3.『維摩経』にみる菩薩の「同悲・共苦」の精神
10 慈悲の思想―自他不二と福田サービス
1.慈悲の原理的基礎(自他不二)
(1)「自他不二」の倫理
(2)自分のことさえ満足にできもしないで,人さまのことでもあるまい
(3)慈悲の実践の理想的あり方
2.福田の思想
(1)「福田」とは
(2)福祉サービスにおける福田の思想
自己よりも他者のほうに重い意味づけ 「善根宿」の民俗的慣行に通じる サービスの供給者と利用者の関係におきかえて考える
11 死への福祉1-仏教のターミナルケア
1.「ゆりかごから墓場まで」というけれど
(1)生者の福祉+死者の福祉(死への福祉)
(2)「見えない死」「死の私事化」と「生命の断絶化」
2.永六輔著『大往生』に寄せて
3.ターミナルケア(terminalcare)
(1)「ケア」を考える
ケアとは 「ケア」の語義
(2)「ターミナルケア」を考える
「ターミナル」の語義 技術論より死の意味,死生観 時期と目的 担い手とケアの内容
12 死への福祉2-仏教のターミナルケア
1.「生・老・病・死」の四苦の解決と臨終の看とり
(1)仏教の原点
(2)臨終行儀
2.死にゆく人を送るとき
3.「看病の五法」に学ぶ
(1)不浄に処すとも厭わざれ
(2)毒を好まば諭すべし,なしと言えば苦を生ず
(3)ただ三宝に帰せしむべし
(4)悪口すとも答えざれ,又捨て去る事なかれ
(5)何程長病にても,退屈して早く死ねかしと思う事なかれ,思えば殺生罪になるなり
4.仏教のターミナルケアが目指すもの
(1)死後の世界への旅立ち(浄土への旅立ち)……スターティングケア
(2)死なない命の存在への目覚め
13 いのちの物質化・私有化の危機と仏教の生命観
1.いのちの物質化
(1)脳死による臓器移植
(2)クローン人間・遺伝子操作
2.いのちの私有化・私物化
(1)出生前診断
(2)虐待・援助交際
(3)いのちの相対化
3.仏教の生命観を考える
(1)私のいのちは大宇宙のいのちと一体である
(2)一人ひとりのいのちの尊厳性を支える「仏性」観
(3)私たちは仏の「本願」にあずかれる存在,仏に願われしもの
受講生座談会
索引