やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 健康日本21,介護保険計画,ユニバーサルデザインの街づくりなど,ヒューマン・サービスの領域において,「住民自身の声を反映させる」質的な研究法へのニーズが高まっている.アンケート調査などの「量的な方法」と,グループインタビューなどの「質的な方法」の両方を一緒に行い,複数の側面からとらえることで,より精度の高い,ニーズに合致した情報の把握が可能となる.
 本書は,「グループインタビュー法の理論と実際」(川島書店)の続編ともいえるものである.前書は,グループインタビューの「全体的な概要」と「多様な適用事例の紹介」を中心とし,本書は特に「分析」に焦点を当てた.より多くの人が,科学的な根拠となる「質的な研究技術」としてグループインタビュー法を活用できるよう,「具体的な分析方法」を整理した.合わせて活用いただければ幸いである.
 グループインタビュー法は,もともと米国のマーケッティングの分野で1940年代に生まれた.クルト・レヴィンのグループダイナミクス理論を背景に,その後さまざまな分野で活用されるに至っている.欧米の多くの大学では,グループインタビュー技術の習得をカリキュラムに取り入れ,ヒューマンサービスのプロ技術の1つとして位置づけている.
 一方日本では,ヒューマンサービス領域で1970年代頃よりグループインタビュー法が用いられたものの,いまだ必ずしも技術が普及しておらず,十分に活用されているとは言いがたい状況である.
 すべての技術と同様,グループインタビュー法の活用には「コツ」がある.どのような形で活用することがより情報の精度を高め,有効な成果を得ることができるのか,本書では理論と実践に基づきわかりやすく解説した.
 本書の構成は,次のように大きく4部に分かれる.
 第1部はグループインタビュー法の概要である.「第1章グループインタビュー法とは」,「第2章グループインタビューの方法」でグループインタビュー法の全体像について紹介した.
 第2部はグループインタビューの分析法である.「第3章グループインタビュー分析とは」,「第4章分析のコツ」「第5章分析の焦点」,「第6章分析の過程」,「第7章分析の種類」,「第8章分析のホップ・ステップ・ジャンプ」で,グループインタビュー法の分析について,具体的な着目点をあげて整理した.
 第3部はグループインタビュー法実施の押さえどころである.「第9章グループインタビューについてのよくある質問」,「第10章グループインタビューの分析についてのよくある質問」で,グループインタビュー法に関するさまざまな質問について整理し,「おわりにグループインタビューを有効に活用するために」では今後の方向性を示した.
 第4部は,実際に活用する場合のモデル例である,グループインタビューの企画から報告にいたる具体例として,「健康日本21」のためのグループインタビューの実際例を掲載した.
 本書が,ヒューマンサービスに携わるすべての専門職,研究職,行政職,教育職,学生にとって,グループインタビュー法をひとつの「ワザ」として活用する一助となることを大いに期待するものである.
 平成13年9月 安梅勅江

謝辞

 日本のヒューマンサービス領域におけるグループインタビュー法の活用は,著者の恩師高山忠雄先生(東北文化学園大学教授)が,1970年代より開始しています.当時,身体の不自由な人びとの「なまの声」を体系的に整理できる質的な情報把握の方法として,数多くの成果をあげました.著者は先生にご指導をいただきながら,幅広い領域の研究にグループインタビュー法を活用し,発展させてきたものです.先生に心から感謝いたします.
 また,平山宗宏先生(日本子ども家庭総合研究所長),寺尾俊彦先生(浜松医科大学学長),津山直一先生(東京大学名誉教授),中村隆一先生(国立身体障害者リハビリテーションセンター総長),日暮眞先生(東京家政大学教授),牛島廣治先生(東京大学教授),多々良紀夫先生(淑徳大学教授),Donna Benton先生(南カリフォルニア大学教授),佐野鳩氏(元飛島村村長),金戸述氏(全国夜間保育園連盟会長)には,さまざまな場面でグループインタビューを発展させる機会をいただき深謝いたします.
 さらに,グループインタビュー法を共に活用しつつ,研究を重ねてきた石井享子氏,清水洋子氏,山本隆之氏,原田亮子氏,片山優子氏,柴辻里香氏,片倉直子氏,佐藤泉氏,仲村秀子氏,栃木県・岡山県・北九州市・仙台市・川崎市・浜松市・早島町・飛島村の職員の皆さまに御礼申し上げます.
 本書の出版には,医歯薬出版の担当者にハイセンスなご助言をいただき,大変お世話になりました.厚く御礼申し上げます.
 最後に,いつも影ながら支えてくれた両親と家族にこの場を借りて感謝します.
 平成13年9月 安梅勅江
Chapter 1 グループインタビュー法とは
 1 グループインタビュー法の定義
 2 グループダイナミクスとは
 3 グループインタビュー法の目的
 4 グループインタビュー法の特徴
 5 グループインタビュー法の理論的な展開
Chapter 2 グループインタビューの方法
 1 グループインタビューの設定
 2 グループインタビューの過程
 3 グループインタビュー実施にあたっての準備
 4 グループインタビューの依頼の仕方
 5 インタビュアーの役割のポイント
 6 インタビュアーの注意点
 7 インタビュアーのアシスタント,記録者,観察者の役割
Chapter 3 グループインタビュー法の分析とは
 1 科学的な分析とは-妥当性と信頼性-
  column 妥当性と信頼性について
 2 グループインタビュー法の分析の視点
Chapter 4 分析のコツ
 1 目的:目的は何か?
 2 到達点:どこまで明らかにしたいか?
 3 提供情報:だれに何を訴えたいか?
 4 強調点:どこに注目するか?
 5 活用法:実践のどこに生きてくるか?
 6 他の可能性:他の方法はないか?
Chapter 5 分析の焦点
 1 内容
 2 表現
 3 流れ
 4 内部一貫性
 5 頻度
 6 範囲
 7 強烈さ
 8 特異性
 9 表現されなかったこと
 10 新しいアイディア
Chapter 6 分析の過程
 1 研究デザインの段階
 2 報告デザインの段階
 3 インタビューガイド作成の段階
 4 インタビュー方法決定の段階
 5 インタビューの段階
 6 単純な記述の段階
 7 体系的な記述の段階
 8 次のインタビュー実施の段階
 9 複数インタビューの複合分析の段階
 10 報告作成の段階
Chapter 7 分析の具体的方法
 1 記述分析法
 2 内容分析法
 3 要旨分析法
 4 関係分析法
 5 非言語コミュニケーション分析法
Chapter 8 分析の具体例
 1 グループインタビュー実施時の記録
 2 一次分析
 3 二次分析
Chapter 9 グループインタビューについてよくある質問
 1 科学的といえるか
 2 主観的ではないか
 3 妥当性はあるのか
 4 代表性はあるのか
 5 偏りはないのか
Chapter 10 グループインタビューの分析についてのよくある質問
 1 どうやって情報をつかむのか
 2 質問項目ごとに分析するのか,テーマに沿って分析するのか
 3 表情などの非言語コミュニケーションをどう取り込んだらいいのか
 4 どれぐらいの数のグループが必要なのか
 5 主題から外れた内容についても整理しなければならないのか
 6 情報の一部を無視してもいいのか
 7 本当はだれがグループインタビューの分析を担当するのがいいのか
 8 インタビューの結果をどう生かせばいいのか

おわりに
参考文献
付録
 インタビューガイド
 逐語記録,観察記録,分析シート
 完成報告書
索引