やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 臨床化学は,人間の生命現象を分子レベルで理解することを基本に,それを追究するための物理化学的手法を学ぶことを目的としている.疾病は,なんらかの原因で,人体の正常活動の恒常性が崩れ,円滑な内部環境を保つことができなかったときに生じる.臨床化学検査の多くは,そのわずかな身体の変化をとらえて病態度の判定を数量化でき,リアルタイムに治療の方向性を定めるのにきわめて有効な手段である.
 今日の臨床検査の発展は技術革新による急速な自動分析装置の進展がもたらしたといっても過言ではない.それら発展には,多くの先人たちが測定法の開発・改良などにかかわり,大きく貢献した.実際の医療では,臨床化学検査は自動分析装置を用いて,限りなく完成された工程管理で行われている.そのため,検査技師は常にブラックボックス化された自動化装置を十分な性能で発揮させて検査する必要があり,それには,検体の取り扱い方,反応の機序,精度管理,機器保守管理,検査結果の評価など総合的な能力が要求される.言い換えれば,目に見えないブラックボックスの中で何が起こっているのか,想像する力を育まなければ,臨床化学の未来展望が開けない.現在,臨床検査学講座シリーズのなかの『臨床化学検査学』は,時代に即して,学生が何を学ぶべきであるのかが示されている.しかしながら,実習にかかわる内容が必要最小限であるため,各養成校では個々の実習書を必要とした.実習は問題発見能力や問題解決能力を育てるために大切であり,同時に,質の高いある一定の技術を身につけた臨床検査技師を輩出するには,養成校における標準的な実習内容の指針が重要なものになる.
 そこで今回,この『臨床化学検査学 実習書』では多くの臨床現場での経験をもち,教育の場で活躍されている先生がたを中心に執筆いただいた.本書は,実習単位を2単位(90時間)に設定し,1回(1項目)の実習授業時間を4時限として,完結できる内容である.また,実習内容を円滑に進めるために,学生人数を40人と設定し,必要な器具・試薬・機器を明示した.項目によっては,個人またはグループ班で試薬調製を行う場合,採血を行う場合など実習条件が異なることがあり,それぞれの学習目標に応じて作成されている.学生の到達目標は,将来に向けて基礎から応用が展開できるよう考えられており,検体採取の技術とその取り扱い,適切な器具の選択と取り扱い,試薬調製の技術,測定原理の理解と操作技術,結果を解釈する力の習得をねらいとしている.また,その基本技能は,臨地実習においても十分に役立つものと確信する.臨床化学の学内実習書として,多くの養成校で利用されることを願っている.また,さらに本書がよいものとなるには,読者諸氏からのご意見,ご指摘が必要である.多くのご叱正を頂戴できれば幸いである.
 2008年9月
 編者・執筆者を代表して 大西英文
 『臨床検査学実習書シリーズ(全10巻)』の発行にあたって
 序文
I 総論
 1 定量概念と比色法
  1 吸光光度分析:可視吸収スペクトル
II 採血法
 1 静脈採血/検体分離・保存
III 無機質
 1 鉄
 2 総カルシウム
 3 無機リン
IV 糖質
 1 グルコース
 2 アドバンスコース:経口ブドウ糖(グルコース)負荷試験
V タンパク質
 1 総タンパク
 2 アルブミン
 3 血清タンパク分画
VI 脂質
 1 トリグリセライド
 2 コレステロール
  1 コレステロール
  2 HDL-コレステロール(沈殿法)
VII 非タンパク性窒素
 1 尿素窒素
 2 クレアチニン
 3 尿酸
 4 ビリルビン
VIII 酵素
 1 酵素活性の測定
  1 アルカリホスファターゼのKm値測定
 2 乳酸デヒドロゲナーゼ
 3 アミノトランスフェラーゼ
  1 アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ
  2 アラニンアミノトランスフェラーゼ
 4 クレアチンキナーゼ
 5 アルカリホスファターゼ
 6 アミラーゼ
 7 LDアイソザイム分画
IX 総合実習
 1 実技試験―ビウレット法
X 実習計画モデル
 1 学内実習標準モデル

 1 実習に関する注意事項
  1 ガラス器具類の取り扱い
  2 廃液の処理
  3 事故の処置
 2 市販の酸・アルカリ濃度
 3 原子量表(2008)