やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 関節を超音波で検査すると,滑液貯留,骨エロジオン,増生滑膜,リウマトイド結節,滑液嚢胞,腱浮腫などさまざまな病変がみえてくるのに驚かされた.これらの所見を超音波Bモード画像にまとめ,2002年にモノグラフとして出版した.
 その後,超音波ドプラ法を用いて滑膜の血流シグナルをカラー画像としてみてみると,滑膜血管の多寡や局在がよくみられて,滑膜炎病態がとらえられることが認識された.さらに,滑膜の細小血管の血管抵抗が血流速度波形から測定され,血管抵抗RI値と血流シグナル度との間にきわめて高い負の相関があることも見い出された.滑膜の血流シグナル度や血管抵抗値は関節腫脹やCRP値と並行して変化する.関節リウマチ患者の治療に最近用いられるようになったTNFα阻害薬などの即効性薬剤が示す関節病変の変化には,関節血流の病態が強く関係していると考えられる.関節血流を画像として描出するには,関節超音波ドプラ検査がきわめて有用な手技である.関節超音波ドプラ検査は,単に関節の画像診断に利用されるだけでなく,関節病変の病態理解に大いに役立つものである.
 本書で扱う主な項目は,以下のとおりである.
 1)関節滑液・滑膜のBモード画像
 2)滑膜血流シグナルの画像とそのgrading(度分類)
 3)血流シグナルの局在パターン
 4)血流シグナルと血管抵抗との関係
 5)膝関節とMCP(中手指節)関節の血流シグナルの違い
 6)治療による血流シグナルや血管抵抗値の変化
 これらの項目について,得られたカラードプラ画像を中心にアトラス形式でまとめてみた.鮮明で見やすい画像の選択と,わかりやすい解説に心がけたつもりである.関節超音波検査とその画像にはなじみのない方が多いので,メモ項目をはさんで読者の理解の助けに資した.
 関節超音波検査は,ヨーロッパ諸国に比し,わが国ではいまだ普及していない.本書を通して,多くのリウマチ医の方々や臨床検査技師の方々が関節超音波検査に興味をもたれ,関節病態の理解を深めていただくことができれば,著者らの望外の喜びである.
 本書の出版を快くお引き受け下さいました医歯薬出版株式会社に深く感謝申し上げます.また,本書の編集に当たり,数々のご教示をいただいた第一出版部桃井輝夫氏に心からお礼申し上げます.
 平成19年3月
 著者代表 粕川禮司
  序
I.関節超音波検査の歴史とその有用性
II.超音波検査法
 超音波Bモード法
  1-装置
  2-振動子とプローブ(探触子)
  3-超音波検査の表示法
  4-断層像の表示法
  5-わが国とヨーロッパ諸国での表示法の違い
  6-Bモード超音波画像の性状の表現法
  7-膝関節の解剖
  8-膝関節のスキャン部位とスキャンの実際
  9-膝関節の滑液画像と滑液貯留度
  10-膝関節の滑膜画像と滑膜増生度
  11-膝関節滑膜増生のパターン
  12-エコープリント用紙から焼き付け写真へ
 超音波ドプラ法
  1-ドプラ法
  2-装置と振動子
  3-膝関節とMCP(中手指節)関節のスキャン部位
  4-スペクトルドプラ像とカラードプラ像
  5-いろいろな血管の血流速度
III.関節リウマチ患者の関節滑膜血流
 滑膜炎の病理組織
 関節滑膜血流シグナルのパターン
 関節滑膜血流シグナルの半定量法
 関節滑膜血流シグナルの定量法
  1-デジタル画像分析器
  2-コンピュータ画像分析器
 関節滑膜血流シグナルの測定
  1-膝関節
  2-MCP関節
  3-関節血流シグナル度増加の意義
 膝関節滑膜血流シグナルの局在パターン
  1-滑膜血流シグナルの局在分類法
  2-関節包内型血流シグナル
  3-骨皮質上型血流シグナル
  4-表層型血流シグナル
  5-表層・深層混在型血流シグナル
 膝関節滑膜血流シグナルの局在パターンと臨床所見・超音波所見との関係
  1-Fioccoらの成績
  2-著者らの成績
  3-膝関節血流シグナル局在パターンと治療との関係
  4-滑膜血流シグナルの局在パターン相違の意義
 血管抵抗のスペクトルドプラ法による測定
  1-膝関節
  2-MCP関節
  3-血管抵抗値測定の意義
 膝関節とMCP関節血流シグナル度とRI値,PI値の同時測定
  1-膝関節とMCP関節のドプラ画像
  2-膝関節とMCP関節における血流シグナル度とRI値,PI値
  3-関節血流の測定に血流シグナル度を選ぶかRI値を選ぶか
IV.関節リウマチ治療効果のドプラ法による評価
 メトトレキサートの治療効果-関節血流シグナル度による評価-
 インフリキシマブの治療効果-関節血流シグナル度と血管抵抗値による評価-
 TNFα阻害薬の治療効果-膝関節とMCP関節の血流シグナル度と血管抵抗値による評価-
  1-臨床所見と膝関節,MCP関節の同時測定超音波ドプラ像
  2-血流シグナル度と臨床所見との相関
  3-血流シグナル度とRI値との相関
  4-膝関節と指関節の罹患率
 TNFα阻害薬治療効果の関節血流ドプラ法による評価
  1-世界における報告
  2-TNFα阻害薬の作用機序
V.関節・滑膜病変描出のためのドプラ法とMRI法との比較
VI.関節血流超音波ドプラ法-今後の展望
  文献
  索引
 
 MEMO
  血流シグナルをうまく出すコツ
  ドーム型ではPI値は低く出る
  血流速度波形をつくりやすいシグナルを見つけるコツ
  膝関節のどの部位で血流シグナルがよく見えるか
  neovascularity(新生血管)とangiogenesis(血管新生)の違い
  他の臓器で測定されている血管抵抗値
  関節リウマチ(RA)患者の滑膜血流と腫瘍血流との類似性
  血流シグナルが0の場合のRI値