やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 近年の医療介入の効果判定に際しては,患者側に立った患者立脚型の評価尺度,健康関連QOLを導入するという流れがある.その多くに介入前後の健康状態の比較によるアウトカムを評価するものが用いられている.アウトカムの評価は現在の医療評価の中心となる考えかたであり,「根拠に基づく医療(Evidence Based Medicine)」の流れに基づく質の高いエビデンスを創出するのに有用と考えられている.具体的には,共通の物差しを用いることにより,学会発表レベルの平準化を図り,多施設共同研究を可能にすることなどを通じて,医療プログラムや医学的介入の質,有効性を体系的・定量的に評価するうえで重要な手法となる.
 しかし物理・化学量を計測する検査結果では推し量れない人間の機能や能力を評価する場合には,適切な構成概念が想定され,計量心理学的な検討が終了していないと有効な評価尺度とはみなされない.外国で開発されたものを単に翻訳するだけでは役に立たないことを銘記すべきである.
 本書では各評価尺度の原資料を集め,開発者,開発時期・初出文献,特徴,必要な妥当性・信頼性などのチェック,普及度について,それぞれを可能な限り取り上げることに努めた.外国の書籍ではこうした一定のフォーマットでの紹介に加え,計量心理学的立場からの採点や被検者サイド・医療サイド双方にとっての使い勝手の容易さなどを加味して,各尺度の採点を行っているものもある.メタアナリシスなどで取り上げる論文の質的評価としてよく用いられている手法と同じものであろう.しかし,本書ではそこまでは踏み込まず,現状をきちんと把握し,リハビリテーション医療の領域で汎用されている各種の評価尺度を正しく理解し,使用することを目指した.すなわち,雑誌『Journal of Clinical Rehabilitation(臨床リハ)』の連載時に執筆をされた先生方に再度執筆をお願いすることを中心にして,目次案をつくっている.
 患者立脚型の評価尺度となれば,対象となる人々の文化的背景などもその価値観に色濃く反映され,その国民性を配慮したものが次々に開発されることになる.それらの流れに追いつくことは容易ではないが,対象となる評価尺度には臨床現場で多く使われているものを取り上げるようにした.上記の連載をベースに最新の知見を加え,書籍化にあたったものであり,今後の幅広い関連分野での参考になればと希望している.
 最後に,お忙しいなか執筆にあたられた諸先生方,出版業務に携わられた医歯薬出版編集部の関係各位に心より深謝を申し上げます.
 2009年8月
 国立障害者リハビリテーションセンター病院・研究所
 赤居正美
 はじめに(赤居正美)
総論
 評価尺度に求められるもの(赤居正美)
各論I 機能障害評価
 1 GCS・JCS・GOS・DRS(青木重陽)
 2 BDI-II・SDS(小嶋雅代)
 3 STAI(内田智子・関 啓子)
 4 POMS(松谷綾子・関 啓子)
 5 標準失語症検査(SLTA)・WAB失語症検査日本語版(関 啓子)
 6 標準高次視知覚検査(VPTA)・標準高次動作性検査(SPTA)(小西海香・三村 將)
 7 日本版CPM(山崎久美子)
 8 MMPI・ロールシャッハテスト(武山雅志)
 9 日本版ウェクスラー記憶検査(WMS-R)・日本版リバーミード行動記憶検査(RBMT)(本多留美・小山美恵・綿森淑子)
 10 Benton視覚記銘検査(BVRT)・三宅式記銘力検査・ROCFT・RAVLT(小西海香)
 11 WCST・Modified Stroop Test・TMT・かな拾いテスト(小西海香)
 12 BADS(田渕 肇)
 13 標準注意検査法(CAT)・標準意欲評価法(CAS)(斎藤文恵・三村 將)
 14 行動性無視検査(BIT)(関 啓子)
 15 WAIS・WISC(前川久男・山中克夫)
 16 MMSE・改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)(山中克夫)
 17 Johnson運動年齢テスト(MAT)(大城昌平)
 18 デンバー発達判定法(DENVERII)(大城昌平)
 19 ブラゼルトン新生児行動評価(NBAS)(大城昌平)
 20 新版K式発達検査(大城昌平)
 21 WeeFIM・PEDI・GMFM(近藤和泉・加藤譲司・細川賀乃子)
 22 田中ビネー知能検査(大城昌平)
 23 VAS・MPQ(長谷川 守・服部 卓)
 24 Vo2 max・Borg Scale(寺本信嗣)
 25 KPS Scale・ECOG Performance Status(川島正裕・寺本信嗣)
 26 エプワース眠気尺度(ESS)(寺本信嗣)
 27 BODE index(坂直樹)
 28 徒手筋力検査(MMT)・関節可動域(ROM)測定(立野勝彦・山崎俊明)
 29 Ashworth Scale・MAS・Pendulum Test(尾花正義)
 30 開眼片脚起立時間(北 潔・新村秀幸・糟谷明彦・浅井 剛)
 31 TUG Test・BBS(對馬 均・松嶋美正)
 32 生理的コスト指数(PCI)・6分間歩行試験(6MWT)(草野修輔)
 33 DASH(冲永修二)
 34 簡易上肢機能検査(STEF)・脳卒中上肢機能検査(MFT)(金成建太郎・近藤健男・道又 顕・出江紳一)
各論II 疾患別機能障害・重症度
 1 ASIA・Frankel・Zancolli(陶山哲夫)
 2 HHS(羽生忠正)
 3 SIAS・FM(村岡香織・辻 哲也)
 4 脳卒中スケール(mRS,NIHSS,JSS)(山田 深)
 5 SMTCP・GMFCS(近藤和泉・小野木啓子・藪中良彦)
 6 F,H-J分類(川島正裕・寺本信嗣)
 7 NYHA心機能分類・SAS(大宮一人)
 8 Hoehn and Yahr重症度分類・UPDRS(檜皮谷泰寛・近藤智善)
 9 Norris Scale・ALSFRS-R・ALSAQ-40(大生定義)
各論III ADL
 1 機能的自立度評価法(FIM)・バーセル指数(BI)(水野勝広・大田哲生)
 2 FAI(橋真紀・佐伯 覚・蜂須賀研二)
 3 CHART・CIQ(佐伯 覚・増田公香)
各論IV 包括的QOL
 1 SF-36(R)・SIP・NHP(鈴鴨よしみ・福原俊一)
 2 SEIQoL/SEIQoL-DW(大生定義)
 3 EQ-5D(池田俊也)
 4 HUI(能登真一・上村隆元)
各論V 疾患特異的QOL
 1 WOMAC(羽生忠正)
 2 AIMS2・HAQ(佐藤 元)
 3 ODI・RDQ(紺野慎一)
 4 JKOM・JLEQ(赤居正美)

 索引