やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 人口の高齢化や医療の発達により,障害をもった高齢者が増加しつつあり,医療や福祉におけるリハビリテーション(以下リハ)の役割はますます重要になってきました.これらの膨大な社会的ニーズに応えるためには,リハ科専門医ばかりでなく,かかりつけ医の積極的なリハ医療や福祉に対する取り組みが必要とされています.たとえば,寝たきりの最大原因である脳卒中の有病者数は180万人と推計されていますが,入院治療中の急性期発症者(年間30─40万人)を除けば,実に約150万人の患者が在宅あるいは施設で生活しており,彼らのほとんどがかかりつけ医によって内科的な全身管理,リハの指導や介入を受けている現状にあります.維持期リハのカギは,かかりつけ医が握っているといっても過言ではないでしょう.しかし,かかりつけ医の多くは医学部学生時代を含めてリハ医学に触れる機会はほとんどなく,在宅での訪問リハ処方やカンファレンスにおいては,療法士にお任せ状態になっていることも少なくないと聞き及んでいます.
 産業医科大学リハビリテーション医学講座では,医師向けの勉強会として1989年より「産業医科大学リハ医学セミナー」を開催してきました.1997年には,対象を医師ばかりでなく北九州のリハ医療関係者に広げ「北九州リハ医学セミナー」へと名称を変更,さらに2006年,「北九州リハ医会」へ改組しました.現在,この勉強会は,北九州市医師会の分科会としても認定され,かかりつけ医医師会員へのリハ医療の実践的知識や技能の習得の場ともなっています.また,ここで開催されたリハの基本的診察手技,障害判定法,基礎知識に関する教育講演の幾つかを,e─learning教材として北九州市医師会ホームページに公開するなど,かかりつけ医への研修・情報提供を行っています.
 本書は,このかかりつけ医研修の教育講演をテキストにできないかという要望に応え実現したものです.上記の研修に携わった先生方を中心に執筆をお願いし,かかりつけ医はもとより,在宅でのチーム医療に携わるリハ関連職種や学生・研修医などの初学者にもわかりやすい内容になっています.内容によっては重複している記載がありますが,臨床現場ですぐに役立てるよう各章の独立性を高め,どの章から読んでも理解できるように工夫しています.本書の活用により,維持期リハの効果的な実践につながれば幸いです.
 最後になりましたが,北九州市医師会ならびに北九州リハ医会の先生方,このアイデアを実現してくださった医歯薬出版に深謝致します.
 2009年5月
 蜂須賀研二
 佐伯 覚
1 実地医家とリハビリテーション
 1.かかりつけ医の視点から
 2.地域リハビリテーションと実地医家
 3.かかりつけ医機能とリハビリテーション
2 障害の捉えかた
 1.障害とは?
 2.国際生活機能分類(ICF)
 3.障害者の現状
3 医師と関連職種の役割
 1.チーム医療
 2.リハビリテーション関連職種の役割
 3.ケースカンファレンス(評価会議)とチーム医療の進めかた
4 廃用症候群の予防
 1.廃用症候群とは?
 2.筋力低下・関節拘縮の予防は?
 3.心肺機能低下の予防は?
 4.褥瘡の予防は?
5 問題点とゴール設定
 1.問題点の捉えかたは?
 2.ゴール設定とは?
 3.リハビリテーション処方箋の記載の仕方は?
 4.訪問リハビリテーション指示書の記載の仕方と読みかたは?
6 リハビリテーション治療の種類
 1.はじめに
 2.理学療法(PT)
 3.作業療法(OT)
 4.言語聴覚療法(ST)
7 筋力・関節可動域(ROM)の評価と指導
 1.徒手筋力テスト(MMT)とは?
 2.筋力強化訓練の方法・指導は?
 3.関節可動域検査とは?
 4.関節可動域訓練の方法と指導は?
8 日常生活動作(ADL)評価と指導
 1.ADLの評価項目は?
 2.Barthel indexとは?
 3.FIMとは?
 4.ADL訓練の内容は?
 5.在宅でのADL指導は?
9 高次脳機能障害の評価と指導
 1.高次脳機能障害とは?
 2.高次脳機能障害の評価は?
 3.失語症への対応は?
 4.失行・失認への対応は?
 5.記憶障害・遂行機能障害への対応は?
10 補装具の処方と適合
 1.補装具とは?
 2.補装具の支給制度は?
 3.補装具の支給の流れは?
 4.装具の処方と適合は?
 5.車いすの処方と適合は?
 6.義肢の処方と適合は?
11 摂食・嚥下障害の評価と指導
 1.摂食・嚥下障害の原因は?
 2.摂食・嚥下障害の病態は?
 3.スクリーニング方法は?
 4.VF・VEとは?
 5.口腔ケアのポイントは?
 6.訓練法は?
12 通院リハビリテーションのポイント
 1.通院リハビリテーションの目的は?
 2.通院リハビリテーションの対象患者は?
 3.通院リハビリテーションの具体的内容は?
 4.通院リハビリテーションのプログラムの一例
13 通所リハビリテーションのポイント(介護保険に基づく)
 1.地域リハビリテーションとは?
 2.通所リハビリテーション
 3.通所リハビリテーションの目的は?
 4.通所リハビリテーションの対象患者は?
 5.通所リハビリテーションの具体的内容は?
 6.通所リハビリテーションの症例
14 訪問リハビリテーションのポイント
 1.はじめに
 2.訪問リハビリテーションとは?
 3.訪問リハビリテーションの目的とは?
 4.訪問リハビリテーションの対象者とは?
 5.訪問リハビリテーションの具体的内容は?
 6.症例紹介
 7.おわりに
15 在宅医療で遭遇する頻度の高い疾患
 1.はじめに
 2.脳卒中
 3.変形性膝関節症
 4.慢性閉塞性肺疾患
 5.慢性心不全
 6.おわりに
16 地域連携パスの取り組み
 1.地域連携パスとは
 2.地域連携パスの考えかた
 3.地域連携パスのメリット
 4.地域連携パスの必要条件と手順
 5.保険診療での必須項目
 6.九州労災病院における地域連携パスへの取り組み
 7.おわりに
17 診断書記載のポイント
 1.はじめに
 2.主治医意見書
 3.障害程度区分認定医師意見書
 4.身体障害者診断書・意見書
 5.おわりに
18 リハの診療報酬体系・リハ関連法制度の概要
 1.リハの診療報酬体系
 2.リハ関連法制度の概要

 ・関連情報案内
 ・リハビリテーション用語集
 コラム
  要介護認定の現場より
  補装具製作の現場より
  地域リハビリテーションケース会議
  障害程度区分認定の現場より

 索引