やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 嚥下障害は難しいといわれるがその原因のひとつは,嚥下の様子―特に嚥下反射によって食塊が咽頭を通過して,食道から胃へ送られる様子―が外からみえないことに起因している.見えない嚥下を見えるようにする方法が嚥下造影(VF)と嚥下内視鏡(VE)である.嚥下障害の病態を把握して,治療方針をたてるためにはVFとVEが大変役に立つ.筆者らは1998年に医歯薬出版から『嚥下障害ビデオシリーズ』を出版し,そのなかの第1巻は「嚥下の内視鏡検査」であった.その後,2001年には第7巻として「嚥下造影と摂食訓練」を出し,好評で増刷を重ねている.最近は多くの施設でVFやVEが行われるようになり,実際の検査画像をご覧になっている方も多いと思われる.しかしながらVFやVEのみるべきポイントや興味ある所見を解説した本は少ない.
 本書は『嚥下障害ビデオシリーズ』では十分活用できなかった画像を中心に,筆者が長年臨床に携わるなかで集めてきたVFとVEの所見を駆使して,見えない嚥下を目で見えるように解説を試みたものである.テキストを読むだけでも,またDVDをみるだけでもわかるように構成してあるが,両者を併用していただければより理解が深まると思う.映像の大半は筆者自身が直接関与したものであるが,一部当院のメンバーが撮影したものを使用させていただいた.また,多くの症例は当院の嚥下チームが一体となって治療に携わっている.その意味では嚥下チームのメンバー全員が本書を支えてくれているといえる.特に大野友久先生にはPLPの写真提供とともにDVDにつき貴重なご助言をいただいた.また片桐伯真先生,黒田百合先生,北條京子さんはじめ当院STメンバーにはDVDを通してみてご意見をいただいた.またフットワークよく本書制作を推進して下さった医歯薬出版の皆様の協力なしに本書は完成できなかった.この場を借りて感謝申し上げます.
 本文は2003年に『Journal of Clinical Rehabilitation(臨床リハ)』に連載された「嚥下障害の評価―内視鏡を中心に」1―6)を核としてまとめたものである.第1章と第8章は新たに書き下ろしてある.連載当初より成書としてまとめるように依頼があったが,多忙にかまけてのびのびになっていた.DVDが付属する本は表紙裏などにディスクが貼り付けてあるが,筆者の経験では使い勝手が悪い.そこで思い切ってディスクと本を別にしていただいた.そのおかげで本のサイズを自由に決めることができ,『嚥下障害ポケットマニュアル』と同じサイズになった.どこへでも持ち運びが便利な本書で,嚥下障害への理解が深まり,少しでも臨床や研究のお役に立てば幸いである.
 1)藤島一郎:嚥下障害の評価―内視鏡を中心に.第1回 内視鏡による基本所見.臨床リハ 12(1):4―7,2003.
 2)藤島一郎,薛 克良:嚥下障害の評価―内視鏡を中心に.第2回 偽性(仮性)球麻痺の評価.臨床リハ 12(2):102―105,2003.
 3)藤島一郎,薛 克良:嚥下障害の評価―内視鏡を中心に.第3回 球麻痺の評価.臨床リハ12(3):194―197,2003.
 4)藤島一郎,薛 克良,稲生 綾:嚥下障害の評価―内視鏡を中心に.第4回 咽頭残留の評価.臨床リハ 12(4):292―295,2003.
 5)藤島一郎,薛 克良,高橋博達,稲生 綾:嚥下障害の評価―内視鏡を中心に.第5回 誤嚥・喉頭侵入の評価.臨床リハ 12(5):384―387,2003.
 6)藤島一郎,薛 克良,稲生 綾,高橋博達:嚥下障害の評価―内視鏡を中心に.第6回 種々の所見.臨床リハ 12(6):480―483,2003.
 聖隷三方原病院リハビリテーションセンター長
 藤島一郎
 2006年 7月 浜松にて
 序文
第1章 嚥下造影と嚥下内視鏡
 1 嚥下造影と嚥下内視鏡
 2 嚥下造影
 3 嚥下内視鏡
第2章 解剖,嚥下のメカニズム
 1 咽頭・喉頭の構造
 2 鼻咽頭閉鎖
 3 呼吸時の所見
 4 舌根部の動きと咽頭収縮
 5 嚥下時の所見
第3章 誤嚥・侵入
 1 唾液・分泌物の誤嚥・侵入
 2 ごく少量の誤嚥・侵入
 3 誤嚥物のみえる範囲,誤嚥量,深さ
 4 誤嚥のタイミング
 5 誤嚥物の喀出
第4章 咽頭残留
 1 咽頭全体に広がる残留
 2 VEの咽頭残留に対する感度と問題点
 3 残留の分類
 4 プリンの残留
 5 粥の残留
 6 液状食品の残留
 7 分泌物の貯留と咽頭の汚染
 8 咽頭残留の意義
第5章 偽性(仮性)球麻痺
 1 舌の運動障害
 2 咽頭への送り込み障害
 3 誤嚥・侵入
 4 咽頭残留
 5 鼻咽頭逆流
 6 ゼリーの丸飲み
 7 唾液貯留と横向き嚥下
 8 急性期の咽頭とチューブ
 9 著明に汚染された咽頭
第6章 球麻痺
 1 鼻咽頭閉鎖不全
 2 右ワレンベルグ症候群:下咽頭の所見
 3 声帯の動き
 4 嚥下時の咽頭収縮
 5 輪状咽頭筋のイメージ
 6 重度球麻痺患者の重力を利用した落とし込みによる嚥下
 7 喉頭気管分離術
第7章 種々の所見
 1 鼻腔内の出血と汚染
 2 咽頭の汚染
 3 頸部回旋による食塊通過
 4 チューブの問題
 5 軟口蓋挙上装置の効果
 6 声門閉鎖不全と声帯内転術
 7 著明な骨増殖による嚥下障害
 8 気管食道瘻
 9 カニューレのゆがみとone way valve
 10 腫瘍
 11 食道
 12 錠剤(模擬薬)の残留
 13 チューブの挿入
 14 笑いは大変よい嚥下訓練
第8章 症例紹介
 1 症例1偽性球麻痺
 2 症例2球麻痺
 3 症例3偽性球麻痺・球麻痺合併例
 索引
Column
 ファイバーの悪い持ち方と破損
 VEと麻酔―外国人の鼻は大きい?
 VF,VEができないとき
 球麻痺患者と唾液
 Passavant隆起は本当にあるか?
 VF,VEで誤嚥や残留がないのに肺炎になる症例
 摂食・嚥下障害患者の摂食状況の評価