やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 脳の画像をみることができ,日々の臨床に活用できる─.これが実現できれば,効率のよい介入ができるであろうことは想像に難くない.この病巣ならこういう症候が現れてしかるべき,ということを知っていれば,評価においてあたりがつけられるし,障害されること・保存されることを考慮した介入が可能になる.
 あらかじめ病巣を確認する機会があれば,症候を予測して患者さんをみることができる.たとえば,後大脳動脈領域に梗塞巣を確認できれば,視野障害や視覚失認があることが予測され,視覚について注意深く評価しようと思うだろう.もう少し知識があれば,舌状回や紡錘状回の病巣から相貌失認を予測できるかもしれない.
 一方,患者さんに会う前に画像を見られなくても,観察した内容から病巣を予測することもできる.箸を使って食事をしていた患者さんが「口にするまで何を食べているのかわからない」と言ったとする.目的に向かって手(箸)を伸ばすことを可能にするwhereの経路を含む頭頂葉にも,麻痺を起こすような領域にも損傷はないこと,一方で味覚によっては食物を同定できるが視覚では同定が困難なことは視覚失認のためと考えられ,後頭葉の病巣が推測できる.
 この予測をもとに,画像を見る.予測どおりでほくそ笑むかもしれないし,予想外の病巣でがっかりするかもしれない.しかし,違ったときでさえ,障害メカニズムの探求にとっては,かなりの有力情報を得たことになる.なぜこの障害が起きているのか,また,どんな介入が有用であるのかを考える出発点になるからだ.本書のなかで,浦野雅世先生はこれを「Evidence Based-Practiceの第一歩」と表現している.
 しかし,実際のところ,画像を見ることができ,さらに使えるようになることは難しい.ある程度の知識と経験が必要である.そこで本書は,臨床で脳画像の情報を活用するための実用書とすることを目指した.第1,2章では,基礎的な知識と脳部位の同定の仕方を石原健司先生に執筆していただいた.石原先生は本書のためにご自身の脳を撮像し,わかりやすく概説してくださった.第3章では,高次脳機能障害を呈した18事例を呈示し,病巣を想像しながら学べる構成とした.さらに第4章では,神経画像研究がリハビリテーションに与える影響について,グルーバルな視点と臨床の視点の双方から展望が述べられている.本書の刊行により,「画像はリハビリテーションに欠かせない情報だ」「臨床で画像をいかそう」と読者の皆様に思っていただければ,執筆者にとって,これに勝る喜びはない.
 末筆ながら,第4章のご執筆に加え,本書全体の内容・構成についてご指導いただいた三村 將先生に深謝いたします.また,刊行まで種々ご尽力くださった医歯薬出版編集部に感謝いたします.
 2006年11月
 筆者を代表して
 早川 裕子
・序文(早川裕子)
1 画像の読解に必要な基礎知識(石原健司)
  脳解剖の基礎知識/画像の基礎知識
2 基本的な画像の見かた―脳部位の同定(石原健司)
  脳溝および脳回の同定/水平断/冠状断/矢状断
3 事例で学ぶ画像の見かた(早川裕子 浦野雅世)
 症候と画像から検証する視点(浦野雅世)
 基本事例(早川裕子 浦野雅世)
  1 右半球損傷例(1)広範囲病変例
  2 右半球損傷例(2)皮質下病変例
  3 失行を生じた左頭頂葉皮質下病変例
  4 右手の道具の強迫的使用と左手の観念運動失行を呈した症例
  5 相貌失認,地誌的見当識障害を呈した症例
  6 クモ膜下出血後に記憶障害を呈した症例
  7 Wernicke失語症例
  8 Broca失語症例
  9 伝導失語症例
  10 セットの転換に困難をきたした症例
  11 計算障害,読み書き障害を主訴に来院した症例
 応用事例(早川裕子 浦野雅世)
  1 「洋服が着られない」と訴えのあった症例
  2 道具使用障害を呈した症例
  3 訓練の意欲はあるのに持続して取り組むことが難しかった症例
  4 右利き左半球広汎損傷で軽度失語症を呈した症例
  5 左片麻痺で失語症を呈した症例
  6 言語音・環境音の認知に障害をきたした症例
  7 発話障害にて発症し,徐々に症状の増悪をみた症例
4 画像の見かた・使いかたの概説(三村 將)
 画像の進歩とリハビリテーション臨床への応用(三村 將)130
・索引