やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

監訳者の序文
 本書の著者であるジークリンデ・マーチン女史は,30 年以上にわたって,脳性まひ児を含めた同様の運動障害を伴う小児疾患の理学療法を実践してきたベテランの理学療法士です.小児科領域における理学療法実践者としての貴重な経験をもとにして,同僚ら多くの小児科領域のセラピストの協力や,障害児本人および両親を含めた家族の理解と協力を得ながら,おもに障害児を育てる両親のために本書は編纂されました.
 本書の特徴は,脳性まひ児を含めた中枢神経系運動疾患の子どもに対して,運動スキルを獲得させるためのトレーニング方法が,実践的かつ具体的に説明されていることです.319 枚の治療場面などの写真と,9 枚のイラストが挿入されていて,全編が平易な説明文をもとに理解しやすい内容に構成されています.紹介されているスキルトレーニングは,仰向けにおける正中指向性の促進,うつ伏せでの頭部挙上と両手の支持能力,臥位から座位への起き上がり,多様な座位姿勢の保持や座位バランス練習,座位からの移乗動作,四つ這い姿勢の保持,四つ這い移動,両下肢の運動能力の改善,膝立ち,膝歩き移動,立ち上がり動作,しゃがみ動作,つかまり立ち,立位バランス練習,歩行器歩行練習,階段昇降練習,応用歩行練習など多岐にわたっています.
 障害児の家族が,子どもを担当する理学療法士の指導や助言のもとに,家庭で実践できるホームプログラムとして,すぐにでも活用することができます.また,乳幼児期から学齢期までの運動障害の子どもにかかわる療育関連の専門家をはじめとして,在宅の小児リハビリテーションにかかわる多くの人々にとって,脳性まひを含めた運動障害児のスキルを高めるトレーニングを,より的確に実践するための多くの示唆に富むヒントが示されているので,本書は大いに参考になると確信します.
 監訳にあたっては,原文に忠実に翻訳を行い,全編を通して文章や語句の統一を図り,可能なかぎり日本語としての読みやすさを追求し,なじみの少ない用語については日本語に原語を併記しました.また,読者の理解のために,一部に訳注を加筆しました.構文上の問題や不適切な語句などがあれば,広くご教示をいただければ幸いです.
 最後に,本書の出版にあたり快く翻訳にご理解とご協力をいただいた翻訳者各位,ならびに出版までの長期にわたって惜しみなくご尽力をいただいた医歯薬出版株式会社編集部の皆様に厚く御礼申し上げます.
 2015 年4 月
 監訳者 山川友康
     上杉雅之
 監訳者・訳者一覧
 監訳者の序文
 序文と謝辞
 緒言
第1章 発達の遅れと脳性まひ
 脳性まひ
  脳性まひのタイプ/ 脳性まひに関連したその他の問題
第2章 粗大運動の発達
 粗大運動の発達過程
 乳児の姿勢が運動発達に影響する
  仰向け/ うつ伏せ/ その他の姿勢
 脳性まひ児の運動発達
  発達経過を評価する
 よくある質問
第3章 運動発達の障害
 筋緊張
 異常運動パターン
  正常と異常の混合したパターン
 反射
  脳性まひによくみられる異常反射
 運動制御と協調性の欠如
 筋力低下
 異常な知覚認知
第4章 運動スキル学習の促進
 神経可塑性
 理学療法と運動学習
 運動学習
  運動学習の原則
 脳性まひ児に対する理学療法
  良い姿勢での体重支持/ 体重移動のコントロール/ 閉鎖性運動連鎖練習/ 関節の安定化/ 良肢位保持による関節の安定化/ 安定化のための一般的な手技/ 自己安定化/ 機能的スキルの指導
 脳性まひ児の「自立への道」
 よくある質問
第5章 筋肉と関節の柔軟性
 筋肉に起こりうる問題
 関節に起こりうる問題
  関節拘縮/ 関節の亜脱臼と脱臼
 筋肉と関節の問題を予防するための日々のストレッチング
 ストレッチングの方法
  腕のストレッチング/ 脚のストレッチング
 年長の子どものストレッチング
 よくある質問
第6章 頭部の挙上
 頭部のコントロールの重要性
 ニーナとの出会い
 頭部の挙上練習
  簡単な頭部の挙上練習
 日常生活で頭部の挙上を活用する
 よくある質問
第7章 仰向けのハッピーベビー
 ハッピーベビー練習
 仰向けで遊ぶ準備ができていますか
 よくある質問
第8章 うつ伏せの時間
 うつ伏せで遊ぶためのため必要条件
 遊びながらうつ伏せ練習
 次は何?
 ショーンのプッシュアップ練習
 両腕の支持練習
 両上肢の体重負荷
 よくある質問
第9章 転倒に対する防御
 床に触れたがらなかった男の子
 前方の保護伸展反応の促進
 側方の保護伸展反応の促進
  片まひ児のための特別な練習
 よくある質問
第10章 上手に座る
 エリーとの出会い
 子どもが座ることを手伝う
 介助座位
 腕で支えて自力座位
 腕の支持なしで座る
  両親からの提案/ 自立した床座位/ 年長の子どもの活動
 床の上に座るための他の方法
  正座/ 割り座/ あぐら座位/ 横座り
 座位の可変性
 ベンチや椅子での座位
 ベンチまたは車いすに座ること,そこから下りること
 よくある質問
第11章 起き上がることと四つ這い移動すること
 ジェニファーとの出会い
 四つ這いへ
 四つ這い移動
 起き上がることと姿勢を変えること
 すべてを行うこと
 よくある質問
第12章 脚の練習とつかまり立ち
 脚の運動の誘発
 脚の体操
 立位姿勢の介助
 脚への体重負荷練習
 両手でつかまり立ち
 手すり
 よくある質問
第13章 バランス
 脳性まひ児のバランス
 バランス練習
 座位のバランス練習
 膝立ちのバランス練習
 立位バランス
 手の支えで立位になり,立位から動く
 よくある質問
第14章 上肢の支持なし立位と歩行
 上肢を支持して歩く
  横歩き―家具を伝って歩く
 歩行器で歩く
  前方支持型歩行器/ 後方支持型歩行器/ 歩行トレーナー
 子どもの歩行器歩行を改善する方法
 少ないサポートで歩く
 杖で歩く
 上肢の支持なしで立つ
 片脚の介助立位
 弱いほうの脚のための特別な立位時間
 立位バランスの進歩
 筋力と俊敏な動き
 歩行
  歩行を促進する一般的な方法
 歩行の準備
 よくある質問
第15章 もっと上手に歩く
 歩行の機会
  屋内で/ 屋外や公共の場で歩く/ 階段を歩く
 バランスと協調性を改善する
 片脚で立つ
 子どもの歩き方
  つま先が内側を向かずに両足を近接させる/ 踵に体重負荷する
 よくある質問
第16章 筋力強化と遊び
 筋力強化練習
 楽しい遊び
第17章 脳性まひ児のための他の治療方法
 内科的治療
  経口投薬/ バクロフェン髄腔内投与療法/ ボツリヌス療法/ 選択的脊髄後根切断術
 連続的なギプス使用
 神経筋電気刺激療法
 下肢装具
  装具の種類/ 睡眠中の装具/ 装具の処方
 結論
 よくある質問
 参考文献

 付録
  子どものリハビリテーションのための治療器具
  一般的に入手可能な器具
  リハビリテーション治療器具の供給業者
 参考文献
 日本語索引
 外国語索引
 著者の紹介