序
リハビリテーションにおける治療は,運動麻痺,認知機能障害など,障害そのものの回復を促す“回復的アプローチ”と,残存機能・補助具の活用,環境調整による代償などにより,機能障害が不変でも日常生活を送りやすくする“代償的アプローチ”に大別されます.これまで成人の脳においては,可塑的変化の可能性は極めて限られていると考えられ,リハビリテーションの重点は機能障害そのものの回復より,代償的アプローチによっていかに失われた機能を補い,日常生活上の制約を軽減するかにおかれてきました.しかしながら,近年,神経科学の分野から,成熟した脳においても従来考えられていたよりはるかに大きな可塑性があることが報告され,中枢神経系の可塑的変化を促す治療戦略に対する関心が高まりつつあります.
このような流れを背景に,近年,リハビリテーション分野においても,神経科学的知見や原理にもとづく評価や治療が積極的に試みられるようになりました.一方では,神経科学が急速かつ広汎な発展を遂げるなか,最先端の動向を正しく,かつ包括的に理解することはますます困難になりつつあります.そこで,本書では運動を中心に最新の神経科学のエッセンスをキィワード形式で解説することにより,初学者や忙しいリハビリテーション医療者が神経科学の成果を日常臨床にいかし,またリハビリテーションの立場から新たな神経科学研究にチャレンジするための一助となることを念頭に企画されました.
筆者はいずれも神経科学の最前線で基礎研究や先進的臨床に精力的に取り組んでおられる方々で,リハビリテーション医療者にとって重要と思われる神経科学上の知見について,基礎的事項と最先端の動向をわかりやすく解説していただきました.
本書は,3つの章から構成されています.1章「神経科学の基礎」では,脳・脊髄を中心とした運動に関わる神経領域,計算論的な運動制御理論,学習と可塑性の原理を,2章「病態・機能の評価」では,多様な検査法・評価法の使い分け,電気生理学的評価,神経イメージング,動作解析を,3章「リハビリテーション治療の今と未来」では,各種のニューロモデュレーション手法,神経薬理学,ロボティクス,上肢機能・歩行機能回復のためのリハビリテーション治療手技,意欲・モチベーション,再生医療,そして,国家プロジェクトとして進められているリハビリテーション神経科学研究の最新動向を取り上げました.非常に限られた執筆期間で,また限られた頁数のなかで,最先端の情報のエッセンスをわかりやすく,かつ魅力的にまとめてくださった筆者の皆様に心から御礼申し上げます.
本書が,神経科学の最新動向とそのリハビリテーション臨床への応用の可能性についての理解を深め,日々の臨床における取り組みを一層進化・深化させる一助となることを願っています.また,これまで治療が困難とされてきた神経機能障害の回復を志向した基礎・臨床研究に,リハビリテーション臨床家が果敢に挑戦されるきっかけとなれば,監修者として望外の喜びです.
2015年3月
監修・編者を代表して
里宇 明元
リハビリテーションにおける治療は,運動麻痺,認知機能障害など,障害そのものの回復を促す“回復的アプローチ”と,残存機能・補助具の活用,環境調整による代償などにより,機能障害が不変でも日常生活を送りやすくする“代償的アプローチ”に大別されます.これまで成人の脳においては,可塑的変化の可能性は極めて限られていると考えられ,リハビリテーションの重点は機能障害そのものの回復より,代償的アプローチによっていかに失われた機能を補い,日常生活上の制約を軽減するかにおかれてきました.しかしながら,近年,神経科学の分野から,成熟した脳においても従来考えられていたよりはるかに大きな可塑性があることが報告され,中枢神経系の可塑的変化を促す治療戦略に対する関心が高まりつつあります.
このような流れを背景に,近年,リハビリテーション分野においても,神経科学的知見や原理にもとづく評価や治療が積極的に試みられるようになりました.一方では,神経科学が急速かつ広汎な発展を遂げるなか,最先端の動向を正しく,かつ包括的に理解することはますます困難になりつつあります.そこで,本書では運動を中心に最新の神経科学のエッセンスをキィワード形式で解説することにより,初学者や忙しいリハビリテーション医療者が神経科学の成果を日常臨床にいかし,またリハビリテーションの立場から新たな神経科学研究にチャレンジするための一助となることを念頭に企画されました.
筆者はいずれも神経科学の最前線で基礎研究や先進的臨床に精力的に取り組んでおられる方々で,リハビリテーション医療者にとって重要と思われる神経科学上の知見について,基礎的事項と最先端の動向をわかりやすく解説していただきました.
本書は,3つの章から構成されています.1章「神経科学の基礎」では,脳・脊髄を中心とした運動に関わる神経領域,計算論的な運動制御理論,学習と可塑性の原理を,2章「病態・機能の評価」では,多様な検査法・評価法の使い分け,電気生理学的評価,神経イメージング,動作解析を,3章「リハビリテーション治療の今と未来」では,各種のニューロモデュレーション手法,神経薬理学,ロボティクス,上肢機能・歩行機能回復のためのリハビリテーション治療手技,意欲・モチベーション,再生医療,そして,国家プロジェクトとして進められているリハビリテーション神経科学研究の最新動向を取り上げました.非常に限られた執筆期間で,また限られた頁数のなかで,最先端の情報のエッセンスをわかりやすく,かつ魅力的にまとめてくださった筆者の皆様に心から御礼申し上げます.
本書が,神経科学の最新動向とそのリハビリテーション臨床への応用の可能性についての理解を深め,日々の臨床における取り組みを一層進化・深化させる一助となることを願っています.また,これまで治療が困難とされてきた神経機能障害の回復を志向した基礎・臨床研究に,リハビリテーション臨床家が果敢に挑戦されるきっかけとなれば,監修者として望外の喜びです.
2015年3月
監修・編者を代表して
里宇 明元
序文(里宇明元)
1章 神経科学の基礎
1 運動に関わる脳・神経領域
運動に関わる神経領域(星 英司)
運動に関わる下行路と脊髄神経回路(関 和彦)
2 運動制御理論
計算論的な運動制御理論(小池康晴,春日翔子)
3 学習と再学習に関わる脳領域
(1)概念としての可塑性原理
ヘッブ学習(植木美乃)
Use-dependent plasticity(宮井一郎)
強化学習(南部 篤)
メタ可塑性(美馬達哉)
(2)可塑性の実態
神経再生に関わる可塑性の分子基盤(岡野ジェイムス洋尚)
分子レベル,細胞レベル(肥後範行)
脊髄レベル(當山峰道,伊佐 正)
大脳皮質レベル(西村幸男)
行動レベル(山ア由美子,入來篤史)
4 運動学習理論
運動学習の潜在性(野崎大地)
教師あり学習と強化学習(野崎大地)
臨床的視点からみた運動学習(長谷公隆)
2章 病態・機能の評価
1 検査法・評価法の使い分け
各種検査法・評価法の使い分け(正門由久)
2 神経機能・構造の評価法
(1)電気生理学的評価
筋電図(藤原俊之)
磁気刺激(藤原俊之,補永 薫)
脳波(牛山潤一)
ECoG(平田雅之)
MEG(平田雅之)
(2)神経イメージング
MRIと脳形態・容積測定(花川 隆)
拡散MRIとトラクトグラフィー(花川 隆)
fMRI(新藤恵一郎)
PET(亀山征史,村上康二)
NIRS(井上芳浩,三原雅史)
統合イメージング(花川 隆)
(3)動作解析
動作解析の基本(長谷公隆)
動作解析(上肢)(大高洋平)
動作解析(立位・歩行)(長谷公隆)
3章 リハビリテーション治療の今と未来
1 ニューロモデュレーション
各種治療の使い分けと適応判断(宮井一郎)
tDCS,tACS(新藤恵一郎)
rTMS,QPS(望月仁志,宇川義一)
電気刺激(山口智史,藤原俊之)
DecNef,DecNeS(柴田和久,佐々木由香,渡邊武郎,川人光男)
連合刺激(植木美乃)
神経活動依存的刺激(西村幸男)
2 神経薬理学
運動神経における神経薬理学(生駒一憲)
3 ロボティクス
動作支援ロボットシステム(森本 淳)
4 上肢関連
各種治療の使い分けと適応判断(藤原俊之)
運動イメージ(新藤悠子)
運動錯覚(金子文成)
ミラーセラピー(金子文成)
CI療法(道免和久)
促通反復療法(川平和美,下堂薗 恵)
両側上肢訓練(水野勝広)
Task-oriented training(水野勝広)
筋電図バイオフィードバック療法(辻 哲也)
HANDS therapy(藤原俊之)
機能回復型BMI(新藤恵一郎)
ロボティクス(和田 太)
ボツリヌス療法(大田哲生)
5 下肢・歩行関連
各種治療の使い分けと適応判断(長谷公隆)
ペダリング運動(山口智史)
筋電図バイオフィードバック療法(赤星和人)
FES(山口智史)
トレッドミル訓練(服部憲明)
部分免荷(補永 薫)
ロボティクス(和田 太)
ボツリヌス療法(川上途行)
6 意欲・モチベーション
意欲・モチベーションとリハビリテーション(宮井一郎)
7 再生医療
神経疾患患者に対する再生医療の現状(田口明彦)
8 脳神経倫理
脳神経倫理−現状と展望(佐倉 統)
9 わが国におけるリハビリテーション神経科学研究の最新動向
脳科学研究戦略推進プログラムにおけるBMI研究(里宇明元)
NEDO未来医療プロジェクトにおける革新的リハビリテーション機器開発(牛場潤一)
索引
1章 神経科学の基礎
1 運動に関わる脳・神経領域
運動に関わる神経領域(星 英司)
運動に関わる下行路と脊髄神経回路(関 和彦)
2 運動制御理論
計算論的な運動制御理論(小池康晴,春日翔子)
3 学習と再学習に関わる脳領域
(1)概念としての可塑性原理
ヘッブ学習(植木美乃)
Use-dependent plasticity(宮井一郎)
強化学習(南部 篤)
メタ可塑性(美馬達哉)
(2)可塑性の実態
神経再生に関わる可塑性の分子基盤(岡野ジェイムス洋尚)
分子レベル,細胞レベル(肥後範行)
脊髄レベル(當山峰道,伊佐 正)
大脳皮質レベル(西村幸男)
行動レベル(山ア由美子,入來篤史)
4 運動学習理論
運動学習の潜在性(野崎大地)
教師あり学習と強化学習(野崎大地)
臨床的視点からみた運動学習(長谷公隆)
2章 病態・機能の評価
1 検査法・評価法の使い分け
各種検査法・評価法の使い分け(正門由久)
2 神経機能・構造の評価法
(1)電気生理学的評価
筋電図(藤原俊之)
磁気刺激(藤原俊之,補永 薫)
脳波(牛山潤一)
ECoG(平田雅之)
MEG(平田雅之)
(2)神経イメージング
MRIと脳形態・容積測定(花川 隆)
拡散MRIとトラクトグラフィー(花川 隆)
fMRI(新藤恵一郎)
PET(亀山征史,村上康二)
NIRS(井上芳浩,三原雅史)
統合イメージング(花川 隆)
(3)動作解析
動作解析の基本(長谷公隆)
動作解析(上肢)(大高洋平)
動作解析(立位・歩行)(長谷公隆)
3章 リハビリテーション治療の今と未来
1 ニューロモデュレーション
各種治療の使い分けと適応判断(宮井一郎)
tDCS,tACS(新藤恵一郎)
rTMS,QPS(望月仁志,宇川義一)
電気刺激(山口智史,藤原俊之)
DecNef,DecNeS(柴田和久,佐々木由香,渡邊武郎,川人光男)
連合刺激(植木美乃)
神経活動依存的刺激(西村幸男)
2 神経薬理学
運動神経における神経薬理学(生駒一憲)
3 ロボティクス
動作支援ロボットシステム(森本 淳)
4 上肢関連
各種治療の使い分けと適応判断(藤原俊之)
運動イメージ(新藤悠子)
運動錯覚(金子文成)
ミラーセラピー(金子文成)
CI療法(道免和久)
促通反復療法(川平和美,下堂薗 恵)
両側上肢訓練(水野勝広)
Task-oriented training(水野勝広)
筋電図バイオフィードバック療法(辻 哲也)
HANDS therapy(藤原俊之)
機能回復型BMI(新藤恵一郎)
ロボティクス(和田 太)
ボツリヌス療法(大田哲生)
5 下肢・歩行関連
各種治療の使い分けと適応判断(長谷公隆)
ペダリング運動(山口智史)
筋電図バイオフィードバック療法(赤星和人)
FES(山口智史)
トレッドミル訓練(服部憲明)
部分免荷(補永 薫)
ロボティクス(和田 太)
ボツリヌス療法(川上途行)
6 意欲・モチベーション
意欲・モチベーションとリハビリテーション(宮井一郎)
7 再生医療
神経疾患患者に対する再生医療の現状(田口明彦)
8 脳神経倫理
脳神経倫理−現状と展望(佐倉 統)
9 わが国におけるリハビリテーション神経科学研究の最新動向
脳科学研究戦略推進プログラムにおけるBMI研究(里宇明元)
NEDO未来医療プロジェクトにおける革新的リハビリテーション機器開発(牛場潤一)
索引