やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

監訳者の序
 監訳者が本書に最初に出会ったのは,無学ながら療育園に就職が決まり,少しでもわかるような書籍を探しているときでした.青い本で手書きのイラストがたくさんあり,とても親しみを覚えました.また,内容では「脳性まひをもつ子ども(以下,CP児)を抱えた母親からの言葉に耳を傾けることの大切さ」が一番印象に残っています.そして,その言葉は臨床で多くのことを経験したいまでも,簡単なようで難しいことだと実感しています.それゆえ,本書はCP児を抱えた母親に対して執筆されたものですが,専門家に対してもとても大切なことを伝えてくれる,いわば“バイブル”のような書籍であると思います.
 新版になり,内容がより専門的になり,イラストもよりシャープになりました.しかし,本書のCP児への介入などの基本は変わらないと思います.第3版と比べて少し難しくなり心配になった読者もおられると思いますが,本書は実践書であるため最初から最後まで読む必要はありませんし,難しいと思った内容についてはあまり気にせず,いま,あなたにとって必要な内容を読み,すぐに実践することをお勧めします.また,わからないところは専門家に尋ねることで,本書は専門家と家族を結ぶ橋渡しにもなるでしょう.専門家でも一人前になるのに長い期間が必要な分野ですので,どうか焦らず,できるところからスタートしていただければ幸いです.
 本書はこれまで著名な先生方により翻訳されておりましたので,その後監訳者が引き継ぐことになり,その重責を感じながらの作業でした.監訳にあたりできるだけ従来の読みやすさを継続するように心がけました.不適切な用語がありましたらご教授いただければうれしく思います.最後に,ご多忙のところ監訳者のお願いをこころやすくお聞き入れてくださいました訳者の先生方,出版の労をいとわずにご尽力くださった医歯薬出版株式会社編集部に深くお礼申し上げます.
 2014年8月
 監訳者 上杉雅之


献呈
 Nancie Finnieは,実践的で機能的な広い観点から脳性まひの問題を捉えた最初のセラピストの1人です.1968年に出版された初版は,脳性まひをもつ子ども(以下,CP児)のマネジメントに関する書籍として歴史的名著となりました.Nancieは,CP児が両親や家族と生活をともにする環境,すなわち家庭におけるニーズを理解していました.そして,本書が時代の流れとともに風化されなかったことは彼女の偉大な貢献によるものであり,今日においても広く読まれ,多くの国々の言葉に翻訳されています.
 私は第4版の編集を任された
 この仕事に誇りを感じ,
 それが正しく行われたことを願っています.
 本書を晩年のNancie Finnieに捧げます.

 Nancie Finnie慈善団体(慈善登録番号1082707)
 Nancie Finnie慈善団体評議委員は,脳性まひのリハビリテーション分野の研究を希望する適切な資格のあるセラピストを募集しています.そして,英国の研究を支援するだけでなく,多くの学術的なプロジェクトをも支援しています.
 申請用紙は18 Nassau,Road,Barnes,London,SW13 9 QEにある事務所から入手できます.


序文
 Nancie Finnieの『脳性まひ児の家庭療育(原著名:Handling the Young Cerebral Palsied Child at Home)』(1970年代初期に出版)は,私が障害児の親になったときに最初に読み,その後宝物となった書籍です.障害児の誕生と診断は家族全体の挑戦となります.私たちは,Philip Larkinが新しい名づけ娘のために書いた詩のように「ただの普通の子」になってほしいとだけ望みました.しかし,中央アフリカで生活するようになり,生活は普通ではなくなりました.Nancieの本が私たち家族のバイブルとなると,突然,私たちの子どもは理解されるようになりました.私たちは,私たち家族を助けたいと思い,しばしば困惑していた多職種の専門家たちを支援する本書を手に入れ,その将来に価値を見出すようになりました.
 サイモンの誕生以降30年間,私たち家族の人生は変わりました.晩年のSheila Wolfendale教授の著書『家族と専門家の専門的同等性(原著名:the equivalent expertise of families and professionals)』にあるように,すべての子どもの未来にとって両親と協力することが重要であると考えられています.英国には,障害児の成長と発達のために重要な彼らの能動性や,両親の受け入れ/かかわり方を重要視した「Early Support Programme(早期支援プログラム)」があります.公共政策において,障害児は可能性を秘めているとみなされ,今の障害者を対象としたサービスと支援は,私の息子が幼いときに受けた多くの早期治療よりもむしろ,一般的に「Life chances(訳注:障害児・者の個人の人生の質を改善するための政治理論)」と結果を重要視しています.
 英国の大蔵省と教育・科学省(現・子ども・学校・家庭省)の“Aiming high*”(訳注:障害児と家族への支援を提供する政府のプログラム)に関する刊行物で紹介されているように,英国議会の公聴会のなかで,両親はサービスの一部を語っています.さまざまな評価のなかで,1人の母親は言います.「障害児の親になると,子どものことをジグソーパズルのように感じるものなのです.ピースはいつも組み合いません.もはやLilyやJohnの話ではなく,将来にわたって子どものすべてが家族にのしかかってきます」.だからこそ,私はこの最新版の出版を心より歓迎しています.本書は,脳性まひをもつ子どものケアと発達に親が参加する大切さを強調し,さらにその家族の生活に深くかかわるスタッフや学術的専門家に対しても貴重な情報を提供しています.
 前・障害児協会会長,前・障害者人権理事,そして現・英国首相常設委員会議長として,私は実践的かつ情動的なニーズを把握して家族をサポートする公共政策が推し進められることをうれしく思っています.私たちはいま,障害児が「Every Child Matters(訳注:2003年に開始された,英国政府による,障害児とその家族へのサービスに関する開発プログラムと重要な政策イニシアティブの1つ)」の5つの重要な成果を達成することができるだろう,そして達成するべきであると期待しています.しかし,診断を受けにきている家族や,「愛する子どもには期待しない」と語る家族にとって,このような美辞麗句がときどき現実とはかけ離れていることにもまた,私たちは気づいています.
 Aiming highが始まってから,英国政府はすべての子どもたちの最高の人生の始まりと,障害児とその家族の可能性を引き出すための継続したサポートを保証することを重要視するようになりました.「障害児とその家族は,その境遇固有の難しい状況に直面することがあり,彼らをサポートする公共サービスと特定のサービスの両面からその要望に沿った専門的な解答が求められる」ことを政府は認めています.初期のサービスが展開されているなかで,この最新版は非常にタイムリーです.両親は,自身の障害児がより良い結果を得るために率先して行動することを切望していますが,同時に個人的もしくは感情的な障壁ももっていて,高い質のサポートを得ずに行動することに躊躇しているかもしれません.
 本書初版が私自身や多くの人々にもたらしたように,最新版が多くの家族と専門家の生活を変える新しい“バイブル”となることを心より願っています.特別な子どもたちと,その両親・介護者らの“anordinary life”(普通の生活)のための「National Service Framework's Standard8ambition(訳注:英国の国民保健サービスのなかでもとくに老人や子どもを対象に,“普通の生活”を営むことを保証する保健サービスの8つの大事な指針)」を推し進める本書の序文の著者として,お招きいただいたことをうれしく思います.
 2008年7月
 Philippa Russell

 *「Aiming High for Disabled Children:Better Support for Families〔障害児たちのエイミング・ハイ 家族のより良い支援(2007年5月)〕」参照.これは,英国の大蔵省と教育・科学省(hm─Treasurys.gov.uk)にて入手可能である.


謝辞
 初めに,本書の新しい章の執筆にあたり快く専門知識と時間を提供してくださったすべての方々に感謝します.
 次に,出版にいたるまで辛抱強くサポートしてくれたエルゼビア社のHeidi Allen,Siobhan Campbell,Veronika Watkins,Glenys Norquay,Sukanthi Sukumarと,イラストを担当してくれたAnnabel Milneに感謝します.最後になりますが,執筆活動を助けてくれた孫娘Jessicaと継続的にサポートしてくれた夫Johnに感謝します.
 監訳者の序
 献呈
 共同著者
 序文
 謝辞
 序論
 本書の活用方法

第1章 両親と専門家間のコミュニケーション
 情報の交換
 CP児の能力を評価します
 子どもの生活における一般的な1日
 優先順位の設定とコミュニケーションの目的
 コミュニケーション手段としてのビデオ録画の使用
 療育プログラムにおける双方向コミュニケーション
第2章 病院の予約・評価・入院に対処するための準備
 予約と評価
 在宅訪問
 入院
 参考文献
 追加図書
第3章 脳性まひの医学的側面:原因,関連する問題,管理
 脳性まひの異なるタイプは?
 脳性まひの発症頻度は?
 脳性まひの原因は?
 診断
 合併症には何がありますか?
 運動障害の結果
 両親から受ける共通の質問
 参考文献
第4章 脳性まひ診断における種々の脳画像技術の役割
 神経画像処理方法
 脳性まひの診断における神経画像処理技術
 脳発達の異常と脳性まひ
 結論
 追加図書
第5章 脳性まひのてんかん
 定義と用語
 脳性まひにおけるてんかんの疫学
 てんかん発作と主要なてんかん症候群
 診断
 てんかんの推移
 痙攣発作が起こる場合,何をするべきでしょうか
 いつ,抗てんかん薬を始めるべきでしょうか
 薬物療法の目的を設定すること
 抗てんかん薬治療のモニタリング
 抗てんかん薬の認知的・行動的影響
 薬物療法の中断
 ケトン食療法
 ホメオパシー
 迷走神経刺激
 外科治療
 日常生活における必要な配慮とリスク
 参考文献
 役立つウェブサイト
第6章 両親の問題
 受容の問題
 順応
 羞恥,当惑,社会的孤立
 援助を受け入れること
 社会的受容:究極の目的
 最初の人間関係を確立すること
 変化する人間関係
 指導者としての母親
 遊び
 自立のスキル
 指導の原則
 今すぐ援助すること
 しつけ
 強情とかんしゃく
 食べ物の好き嫌い,トイレトレーニング,拒絶症
 そのほかの行動の問題
 過保護
 兄弟姉妹
 社会的行動
 結論
第7章 学習と行動─心理学者の役割
 健常児の学習過程
 重度のCP児の学習過程
 学習能力の評価
 学習への興味を促す
 重複障害児の学習
 視知覚障害児への援助
 注意障害児への援助
 コミュニケーションのさまざまな形態
 教育的集団
 公的な教育設備
 感情的要因
 世話を分担すること
第8章 感情的健康
 初期のころ
 年長の子どもの時期
 保育園や学校の準備
 自立の促しと学習への手助け
 遊び
 行動の問題
 助けを求めるとき
 就学前注意欠陥多動性障害(PS─ADHD)
 追加図書
 役立つウェブサイト
第9章 早期学習における両親の貢献−触って,見て,聞いてやり取りをして,対話を育む
 子どもはどのように学習するのか?
第10章 健常児と脳性まひ児の運動の理解
 運動
 筋活動の種類
 CP児
 原始反射(早期の年少の子どもの時期の反応)
 正常姿勢筋緊張
 姿勢反応または自律反応
 健常児とCP児の運動の違い
 CP児が行う異常な運動
 健常児の早期感覚運動発達の理解
第11章 ハンドリング
 手の使用
 お勧めしないハンドリングとその理由
 日課となっている活動中のハンドリング
 まとめ
第12章 睡眠
 睡眠の過程
 子どもにみられる睡眠の出来事
 睡眠に影響を及ぼしうる脳性まひに付随した症状
 昼寝
 ベッドルーム
 今後,子どもに起こりうる睡眠障害を防ぐスキル
 CP児の良い睡眠の機会の最適化
 参考文献
 追加図書
第13章 摂食
 成長期:哺乳もしくは哺乳瓶による哺乳
 飲み込みの仕組み
 初期の哺乳の問題のマネジメント
 離乳(半固形)食のスタート
 咬むスキルの発達
 栄養
 自分で食べる
 安全な嚥下
 栄養補充/非経口栄養
 便秘
 歯磨き
 唾液のコントロール
 まとめ
 参考文献
 追加図書
 役立つウェブサイト
第14章 抱っこと移動
 健常児
 CP児
 両親と介護者のための腰背部のケア
 抱き上げと移動動作
 謝辞
第15章 トイレトレーニング
 基礎的腸管機能
 基礎的膀胱機能
 腸管・膀胱機能の随意的コントロールの達成
 トイレトレーニング準備のチェック
 入門
 CP児への特別な配慮
 トイレトレーニングの失敗
 参考文献
第16章 入浴
 年少の子どもの入浴方法
 ベビーバスの選択
 入浴時間での触れ合い
 年長の子どもの入浴方法
 入浴椅子の選択
 親の腰背部痛の予防
 学びの場としての入浴時間
 自立への働きかけ
 参考文献
第17章 更衣動作
 CP児の衣服の着脱
 CP児の体位変換,姿勢保持と動作
 一般的な問題と解決策
 衣服
 一般ポイント
 参考文献
第18章 コミュニケーション
 脳性まひはコミュニケーション能力にどのような影響を与えるか
 早期の対話
 物で遊ぶ
 共同注意
 ジェスチャー
 言葉(speech)
 補助装置なしのコミュニケーション:サイン
 補助装置を用いてのコミュニケーション
 まとめ
 参考文献
 追加図書
第19章 手の機能と巧緻運動・活動
 手のスキルの発達
 手の正常発達段階
 異常な手の使い方
 手のスキルの促進
 補足的・代償的な戦略
 新たな治療
 まとめ
 参考文献
第20章 脳性まひをもつ子どもの粗大運動発達:いま私たちが知っていることは何でしょうか?そしてその知識はどのように役に立つのでしょうか?
 粗大運動分類システム(GMFCS)
 オンタリオ運動成長(OMG)曲線
 参考文献
第21章 椅子,バギー,カーシート
 概論
 評価
 一般の椅子の計測
 椅子
 テーブル
 まとめ
 バギー
 チャイルドシート
 参考文献
第22章 移動のための補助具
 うつ伏せでの移動
 座位での移動
 歩行器として使用できる丈夫な手押し車
 サポートを使用する場合
 バランストレーニング
 自立歩行
 参考文献
第23章 遊び
 健常児の遊び
 CP児の遊び
 集中力の重要性
 感覚運動の学習を伴う遊び
 終日の遊び
 粗大運動と遊びの統合
 自己の組織化
 遊びから機能への移行
 おもちゃの選択
 遊ぶときにすべきことと,してはいけないこと
 模倣遊び
 形の識別
 遊びをとおして運動スキルを促す方法
 参考文献
第24章 レジャーとフィットネス
 音楽と運動
 水泳
 乗馬
 まとめ
第25章 変形:成長と身長の伸びによって起こる問題
 変形
 運動,姿勢と筋活動
 理学療法検査(変形を見つけるために)
 変形の予防:私たちは,何を知っていますか?
 予防,マネジメントと治療
 変形と歩行
 まとめ
 参考文献
 追加図書
第26章 装具と脳性まひをもつ子ども
 用語
 装具の処方と作成の過程
 下肢装具
 体幹装具
 股装具
 上肢装具
 まとめ
 追加図書
第27章 痙縮
 経口投薬法
 ボツリヌス療法
 髄腔内バクロフェン投与療法
 選択的脊髄後根切断術
 整形外科的治療
 役立つウェブサイト
第28章 脳性まひの補完代替医療
 CAMって何でしょう?
 脳性まひにはどのようなCAMが使用されているのでしょうか?
 誰がCAMを利用するのでしょうか?
 CAMの最悪の形─インチキ医療
 CAMの利用による心配
 CAMについて両親,介護者および医療専門家へのアドバイス
 参考文献

 付録1 健常な運動の子どもにおける感覚運動発達の初期の5段階に関する概要
 付録2 健常児の粗大運動発達
 付録3 脳性まひをもつ子ども(CP児)に使用されている運動発達と運動機能の妥当性のある測定
 付録4 Gross Motor Function Classification System(GMFCS)を使用した0〜5歳児への介入計画
 付録5 セラピストが使用する用語集

 索引