やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 1.本書のねらいと特徴
 本書の主なねらいは,言語聴覚士を目指して勉強している皆さんが,臨床評価という非常に重要な活動の基礎4 4 を習得できるよう支援することです.
 本書は,単なるテキストとは違って,基礎的な解説を軸にして,理解をさらに深めるための【解説】を設け,しっかり基礎について納得していただけるようにしました.理解できないままの知識を頭に詰め込んでみても,臨床活動には何の役にも立たないからです.さらに,解説の内容が単なる机上の知識に終わってしまわないように,5 種類の《演習タスク》を設けました.原型は5 種類ですが,ご自分でオリジナル課題を設定し,何パターンものタスクとして行うことができますので,ぜひ,実際に何度もやってみてください.また,《演習タスク 6》として,練習問題とクイズを作成しましたのでご活用ください.
 本文中で初出の専門用語はゴシック体とし,英語による表記も併記しました.もし,知らない用語に出会ったら,ぜひご自分で調べて覚えてください.既知の用語であっても,意味や用法だけにとどまらず,英語表記までしっかり覚えてください.
 サイドメモを豊富につけておきましたが,これは知らない用語だらけで読み進めるのが嫌にならないように,というねらいによるものです.したがって,解説はごく簡単に済ませてありますので,わからない用語等については,サイドメモレベルの情報で満足せずにぜひご自分で調べるようにしてください.専門用語というものは,ただそれを知っているだけでは何の役にも立ちませんが,とりあえず知らなければ話にもならない,という性格のものですから,早いうちに習得してしまいましょう.
 このようなねらいや特徴を持つ本書は,言語聴覚士を目指す学生の方のみならず,すでに有資格者として就業しておられる方にとっても,多忙な日常業務のなかで,臨床評価の基礎を再確認するためのわかりやすい資料としてご活用いただけます.いかにも専門書という小難しい本を読んではみるものの,理解できないままで諦めてしまうより,まずは容易に理解できる本(本書のことです!)で手がかりを得て,次第にレベルアップしていく方がはるかに合理的です.
 ここで,あなたが,たとえば英会話を習得しようとしていると想像してみてください.もしも,何の目的意識もなく,受動的,消極的な姿勢のままであったならば,何十回レッスンを受けようと決してあなたの英会話のレベルが上がることはないでしょう.反対に,英語しか話せないあの人とどうしてもしっかりコミュニケーションをとりたい,という強い思いがあなたにあるとしたらどうでしょうか? 明確な目的意識がとても大切ですよね.
 言語聴覚士になるためのトレーニングについても同じことです.あなたは,おそらく言語聴覚士養成課程に在籍しておられるか,すでに有資格者となって勤務しておられる方でしょうから,言語聴覚士になる,あるいは言語聴覚士としてのレベルアップを目指す,という明確な目的意識は持っておられるはずです.だとすれば,あとは,あなた自身がご自分の臨床活動能力を高めるためのトレーニングに実際に取り組んでいくか否かで,目的が達成できるか否かが決まるのです.
 ぜひ,今の気持ちをキープしながら,以下を参考にして本書をうまく活用し,言語聴覚士を目指す,あるいは仕事の質を高める努力を継続していただきたいと思います.
 2.本書の読み進め方
 学生の方は,まず,養成課程での講義や検査演習の際のサブテキストとして本書をご活用ください.
 また,一般に検査等の実技面のトレーニングについては,養成課程での週間時間割表に組み込まれた講義や演習だけでは不十分なことが多く,自主的な学習がとても重要になってきますが,そのような自習の際の教材として本書をご活用ください.単に教員の指示どおりに何かの作業をこなすのではなく,明確な目的意識のもとで自立的かつ自律的に取り組む自習にとって,本書は非常に有益な教材となるはずです.
 すでに有資格者として働いておられる方の場合,仕事に対して変に慣れてしまっていることがないかどうか,臨床活動の原点の確認に本書をご活用いただければと思います.検査でも訓練でも,もちろん良い意味での慣れはとても重要ですが,日常業務においては,ともすると根拠がないまま儀式的なパターン化に陥ってしまい,無意味あるいは不合理,場合によっては危険な行為を,何気なく繰り返してしまいかねません.日常業務におけるこうした錆びつきをチェックし,臨床家としてよりハイレベルな仕事を目指していただきたいと思います.
 本書の構成は,目次に示すように,解説編と演習編に分かれています.まずは,(1)本文(【解説】含む)を通読(初読)する,(2)《演習タスク》を行う,(3)疑問点や新たな興味などに関連する本文の該当箇所を再読する,というオーソドックスな使い方をしていただければと思いますが,こうした基本的な読み進め方にこだわることなく,あなた自身の疑問や興味に応じて,独自の進め方やペースで活用していただくのがベストです.
 たとえば,【解説】を先に読んでから,該当する本文の解説を読むといった方法があります.あるいは,まず,《演習タスク》をいくつかやってみてから,本文の解説を読むといった方法もあります.こうしたプロセスを経て,あなたが本書の内容を物足りなく感じ始めたら,各種の専門書を使いこなせるだけの基礎的能力がついてきた証拠です.その後は,努力すればするほど,ご自分の力が高まることを実感できるようになるはずです.
 どうか最初に記したこと,つまり,あなた自身が明確な目的意識を持ち,自立的かつ自律的に,言語聴覚士になるための学習あるいは言語聴覚士としての臨床活動に取り組んでいくことの重要性を決して忘れないでいてください.
 最後に,本書の姉妹書を紹介させていただきます.『ベーシック言語聴覚療法 ─目指せ! プロフェッショナル─』という本で,本書と同じ医歯薬出版(株)から刊行されたものです.言語聴覚士とはどんな仕事かを知ろうとしている人,言語聴覚療法について専門的に学びつつある人,そして,すでに有資格者となって臨床活動を行っている人,それぞれにとってしみる内容が含まれています.ぜひ,本書とご併読いただければと存じます.
 なお,近年,「障害」という用語についての議論が高まっています.「障がい」「障碍」等の表記法を含めて,今後どのようにことばを用いていくべきか,言語聴覚士として常に注意を払っていかなくてはなりませんが,医学用語としては現時点では「障害」が一般的です.本書は,言語聴覚療法の超入門書という性格上,まず専門用語として一般的な表記を用いるべきだと判断し,「障害」と表記しています.
 2011 年12 月
 山田弘幸
 序

Chapter 1 解説編
Section 1 言語聴覚療法における評価・診断
 1.診断・評価・検査・測定の関係
  【解説1】診断に至るまでのプロセス
 2.言語聴覚士の臨床活動の流れ
  【解説2】初診時の臨床活動の流れ
 3.評価基準
  【解説3】聴力レベル,純音オージオグラム
  【解説4】平均聴力レベルの算出方法
Section 2 評価の手段としての検査・観察
 1.検査とは
 2.測定とは
  【解説5】測定とは
 3.数値化できない項目の測定
  【解説6】評定法
  【解説7】VASについて
Section 3 スクリーニング検査の重要性
 1.スクリーニング検査とは
 2.検査の感度と特異度
  【解説8】真の陽性・真の陰性,偽陽性・偽陰性
  【解説9】感度と特異度
Section 4 自覚的検査と他覚的検査
 1.主観的,客観的とは─感覚・知覚との関連
  【解説10】感覚はイメージである
 2.自覚的検査と他覚的検査
  【解説11】純音聴力検査における検査刺激と検出反応の関係
  【解説12】聴性誘発反応
  【解説13】加算法の原理,ABR波形
  【解説14】耳音響放射検査の原理
Section 5 妥当性と信頼性
 1.測定の妥当性
 2.測定の信頼性
Section 6 尺度と単位
 1.名義尺度,順序尺度,間隔尺度,比率尺度・比尺度
  【解説15】尺度について
 2.言語聴覚療法関連の単位(国際単位系)
  【解説16】国際単位系(SI)
Section 7 刺激と反応
 1.オープン・クエスチョンとクローズド・クエスチョン
  【解説17】オープン・クエスチョンとクローズド・クエスチョン
 2.選択反応における選択肢数とチャンス・レベル
  【解説18】チャンス・レベル
 3.反応の模倣と自発
 4.信号検出理論における刺激と反応の対応関係
  【解説19】信号検出理論
Section 8 感覚の測定法(精神物理学的測定法)
 1.感覚刺激と感覚イメージ
  【解説20】感覚イメージは主観的存在
 2.精神物理学的測定法:調整法,極限法,恒常法・恒常刺激法の基礎
  【解説21】精神物理学的測定法
Section 9 閾値の概念
 1.感覚閾値の基本的な定義
  【解説22】閾値・域値
 2.聴覚閾値とその測定法の基礎
 3.上昇系列刺激と下降系列刺激
 4.聴覚閾値の臨床的な定義
Section 10 認知情報処理
 1.感覚・知覚・認知の仕組みと機能の概要
  【解説23】感覚・知覚・認知
 2.認知とコミュニケーション機能との関係
 3.認知情報処理におけるボトムアップ処理とトップダウン処理
  【解説24】ボトムアップ処理とトップダウン処理
  【解説25】カクテル・パーティー現象
Section 11 観察と観察記録
 1.言語聴覚療法における観察
  【解説26】観察法
 2.観察者が観察対象に与える影響
 3.観察した事実の記載と解釈の記載
  【解説27】SOAP形式による経過記録の記載
Section 12 検査場面の枠組み
 1.検査場面
 2.検査者と被検査者
 3.検査環境
 4.検査器具・装置
  【解説28】偶然誤差と恒常誤差
  【解説29】誤差の相殺
Section 13 検査の流れ
 1.検査の流れ
 2.検査への導入
 3.検査の教示
 4.検査施行
 5.検査結果の説明
Chapter 2 演習編
Intro はじめに
 1.《演習タスク》のねらいおよび活用方法
 2.《演習タスク》の記録用紙等の使い方
演習タスク1 数唱によるAMS(聴覚的記憶範囲)課題
  ■タスクのねらい
  ■タスクの概要
  ■使用機器,刺激等
  ■実施方法の概要
  ■順唱課題の教示
  ■逆唱課題の教示
  ■実施手続き
  ■結果の記録,集計等
  ■留意点
演習タスク2 単語リスト記銘課題
  ■タスクのねらい
  ■タスクの概要
  ■使用機器,刺激等
  ■実施方法の概要
  ■『パワーポイント』による刺激作成例
  ■教示
  ■実施手続き
  ■結果の記録,集計等
  ■留意点
演習タスク3 ミューラー・リヤー錯視における錯視量
  ■タスクのねらい
  ■タスクの概要
  ■使用機器,刺激等
  ■実施方法の概要
  ■教示
  ■実施手続き
  ■結果の記録,集計等
  ■留意点
演習タスク4 オージオメータの基本操作
  ■タスクのねらい
  ■タスクの概要
  ■オージオメータの各部名称および機能
  ■使用機器,刺激等
  ■実施方法の概要
  ■留意点
演習タスク5 極限法(上昇系列法)による聴覚閾値の測定
  ■タスクのねらい
  ■タスクの概要
  ■使用機器,刺激等
  ■実施方法の概要
  ■教示
  ■実施手続き
  ■正しい検出反応の強化方法
  ■結果の記録,集計等
  ■留意点
  ■検査手続きに関する参考資料
演習タスク6 練習問題とクイズ
  ■タスクのねらい
  ■タスクの概要および進め方
  ■Q1 平均聴力レベル(4 分法,6 分法)(8 頁参照)を求める練習問題
  ■Q2 感度,特異度(19 頁参照)を求める練習問題
  ■Q3 尺度水準(34 頁参照)に関するクイズ
  ■Q4 SOAP形式(60 頁参照)における情報の種別に関するクイズ
  ■A1 平均聴力レベル(4 分法,6 分法)
  ■A2 感度,特異度
  ■A3 尺度水準
  ■A4 SOAP形式における情報の種別

 索引