やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

監修者の序
 神奈川リハビリテーション病院は,昭和48年,神奈川県が医療と福祉の連携の実践の目的で2つの病院と6つの福祉施設よりなる総合リハビリテーションセンターを発足させ,その中核として活動してきた.そして開設以来30年間にわたり,整形外科の一つのテーマとして小児から成人に至る股関節疾患の治療を行ってきた.とくに昭和53年,村瀬鎮雄先生が就任されてから筆者や他の整形外科医とリハスタッフの協力体制のもと,手術とリハビリテーションが一貫して行える病院を目指してきた.
 変形性股関節症に対する手術法は,初期は大腿骨骨切り術,臼蓋形成術,キアリ骨盤骨切り術,関節固定術,筋解離術と人工関節置換術などであったが,昭和58年,寛骨臼回転骨切り術を導入以来,人工関節手術,筋解離術を3本柱として対処してきた.その手術件数は現在までに,人工関節手術1,670例,寛骨臼回転骨切り術1,520例,筋解離術250例に達した.
 この間,変形性股関節症に対する手術法の変遷や工夫とともに後療法も大きく変わり,専門的で十分なリハビリテーション医療を提供する目的で,初期はおおむね入院期間が3カ月であったのが,現在はその半分になっている.また,股関節手術後はギプス固定が常識であったが現在はまったく行われていない.
 この間に蓄積された「股関節症のリハビリテーション」のノウハウのエッセンスを,系統立ててまとめたいという気運が理学療法科のスタッフのなかで盛り上がり,2年ほど前から退院される患者さんを対象にした継続的なリハビリテーション講座を始めた.昨今,患者さんの病気に対する知識の向上には目を見張るものがあり,自己責任のなかでことを決定しようとする動きが活発であり,手術法の選択や手術の時期,さらに手術後の自己管理の一貫としてリハビリテーションの継続の必要性を認識するに至っている.そこで,この講座の内容を中心に本にまとめたいとの提案を受けたことや,患者さんからの要望もあり本書を刊行することになった.
 本書の執筆が始まった2004年は明るい話題はスポーツ界に多く,アテネ・オリンピックにおける日本選手のメダルラッシュ,夏の甲子園高校野球選手権の深紅の大優勝旗が初めて津軽海峡を渡り北海道にその喜びをもたらし,さらにイチロー選手のアメリカ・メジャーリーグ最多安打数の更新があった.他方,社会情勢においてはイラク問題の重荷や,相次ぐ台風の本土上陸による暴風雨災害,新潟県中越地震災害,スマトラ沖大地震など地球の脅威に今さらながら驚き,年度を代表する言葉に「災」が選ばれたほどであった.
 このような状況下で理学療法科スタッフ諸君は,精力的に原稿を書き上げてくれたこと,また医歯薬出版編集部の方々ほか,多くの方々のご協力により本書を刊行することができたことに改めて感謝の意を捧げたい.
 本書は,できるだけ平易な言葉を用い,多くの股関節症の人たちにもわかりやすい内容を心がけたが,患者さんだけでなく理学療法士や若い医師の股関節症に対する理解の一助になれば幸いである.
 2005年1月
 勝又壮一
監修者の序
第1章 股関節の仕組みと働き(勝又壮一)
 1.股関節の仕組み
  A.寛骨臼・臼蓋/B.関節唇(臼蓋唇)/C.関節腔・関節液/D.大腿骨頭靱帯(円靱帯)/E.関節包/F.関節軟骨
 2.股関節の働き
  A.体重の支持と可動性/B.股関節の運動
第2章 変形性股関節症とは(勝又壮一)
 1.変形性股関節症の原因
 2.変形性股関節症の症状
  A.股関節痛/B.運動障害/C.跛行/D.下肢長差
 3.変形性股関節症の進展とそのX線像の推移
 4.変形性股関節症の治療
  A.保存治療/B.手術治療
 5.変形性股関節症の臨床成績の評価
第3章 リハビリテーションの考え方(土屋辰夫)
 1.望ましくない典型 その1―運動不足と肥満
 2.望ましくない典型 その2―運動過剰と不適切なスポーツ
 3.適度な運動と体重のコントロール
 4.痛みとの付き合い
 5.股関節を守る5つの原則
  A.体重を減らす/B.筋力をつける/C.可動域を増やす/D.日常生活を工夫する/E.疲れる前に休む
第4章 筋力を強化する(金 誠熙)
 1.股関節の筋肉
 2.股関節屈筋群の筋力強化法
  A.腹直筋の強化/B.腹斜筋の強化/C.股関節屈筋群の強化
 3.股関節伸筋群の筋力強化法
 4.股関節外転筋群の筋力強化法
 5.複合運動
  A.股関節屈曲に伴う複合運動/B.股関節伸展に伴う複合運動
第5章 関節を柔軟にする(小泉千秋)
 1.股関節ストレッチ
  A.股関節の動き/B.なぜ関節が動かなくなるのか/C.ストレッチとは/D.なぜストレッチが必要なのか
 2.具体的なストレッチの方法
  A.ポジショニング/B.股関節のリラクセーション/C.股関節屈曲ストレッチ/D.股関節伸展ストレッチ/E.股関節外転ストレッチ/F.股関節内転ストレッチ/G.複合運動:開排ストレッチ/H.体幹ストレッチ/I.大腿前面ストレッチ/J.大腿後面ストレッチ/K.足関節ストレッチ
第6章 歩行機能を改善する(土屋辰夫)
 1.歩行の基礎知識
  A.歩行運動/B.歩幅と歩隔と足尖角/C.歩行中の関節の動き/D.歩行中の筋の働き/E.歩行中の股関節に加わる力
 2.股関節症によくみられる歩行とその対策
  A.自分自身の歩き方を知る/B.股関節症によくみられる歩行のパターン/C.「出っ尻歩き」の原因と対策/D.「横揺れ歩行」の原因と対策
 3.歩行練習の実際
  A.歩行時間と距離/B.歩き方/C.歩く前のウォーミングアップ/D.靴にはこだわる
第7章 日常生活活動を改善する(下田宏登)
 1.ADLの考え方
 2.ADLができるための条件
  A.関節の動きがよい/B.筋力が強く柔軟/C.不安がない/D.代償的な方法を知る
 3.ADLの実際
  A.基本動作/B.生活に関連した動作/C.家事動作
第8章 水中運動のすすめ(小泉千秋)
 1.水中運動
  A.水の特性/B.水中運動の利点/C.当院での水中トレーニング
 2.水中トレーニングの実例
  A.基本姿勢/B.立位姿勢/C.ストレッチ/D.体幹回旋運動/E.骨盤運動/F.立位体重移動/G.ステップ動作/H.歩行
第9章 痛みへの対処(星 昌博)
 1.痛みの基礎知識
  A.痛みの分類/B.股関節の痛みの仕組み/C.股関節以外の痛みの仕組み
 2.痛みへの対処法
  A.股関節の痛み/B.殿部の痛み/C.腰の痛み/D.膝の痛み/E.足の痛み
第10章 手術後のリハビリテーション(金 誠熙)
 1.術前理学療法
 2.術後理学療法
  A.ベッド臥床期/B.ベッド離床期/C.荷重期
付録1 社会資源の紹介(下田宏登)
 1.身体障害者手帳
 2.更生医療
 3.傷病手当金
 4.高額療養費の委任払い制度あるいは貸付制度
 5.介護保険制度
 6.駐車場の利用
付録2 食事療法(土屋辰夫)
 1.肥満
 2.必要摂取エネルギーと食品
 3.骨を元気にする運動とカルシウムの摂取
参考文献
あとがき
索引