特集 がん患者の運動器マネージメント─がんであっても歩けることの重要性
特集にあたって
急速な少子高齢化による疾病構造の複雑化に伴い,リハビリテーション医学・医療が対象とする疾患や障害は,運動器障害,脳血管障害,循環器や呼吸器等の内部障害,摂食嚥下障害,小児疾患,がん等,幅広い領域に広がっており社会の期待は大きい.中でも,がん患者の新規罹患数は年間100万人を超え,出生数をはるかに超えるようになり,新たに生まれてくる人より新たにがんに罹患する人のほうが多くなっている.診療技術が向上し,がんの治療成績は大きく改善しており,長期生存可能な担がん患者が増加している.がんとともに生きる期間が以前と比べて格段に延長しており,がんを慢性疾患としてとらえる疾患概念の変化も起きている.ただ,ひとたびがんと診断されると,多くの人が,がんの治療は他の疾患よりも優先され,何とか根治しようとすべてのことを投げうっても治療に専念する風潮がある.本来,膝の手術をしようと思っていたのにがん治療を優先してしまうのは,よくみられることではないかと思う.また,がん治療にあたって,その治療を主に担うのは原発担当科の主治医であり,その原発担当科は運動器のことには関心がなく,多くのがん患者の運動器障害が不適切に放置されているのが現状である.
実際の診療現場では,がん患者は一般的に高齢者であり,既に歩行能が低下し,もともと痛いところがたくさんある.さらに,がんの転移が痛いとは限らないこともあり,骨転移があっても長期間生存可能な時代,疼痛の治療・診断には運動器管理も重要となってくる.また,がん患者では日常生活活動(ADL)の評価にPerformance Status(PS)が用いられているが,PSはがん治療方針の決定に非常に重要な役割を担っている.PSでは歩行が可能かどうかが大きな分かれ道となっており,歩行ができないとがんの治療適応外と判断されてしまうこともある.がんとともに生きる期間が以前と比べて延長した昨今,加齢変化に加え,がんが移動機能にどう影響しているのかに着目するべきではないかと考えられ,今から5年前にがんロコモが提唱された.がんあるいはがんの治療により運動器の障害が起き,移動機能が低下した状態をがんロコモと定義し,がん患者での運動器マネージメントの重要性すなわちロコモ対策を訴え,近年ようやく多くの領域で認識されるようになった.がん患者での運動器マネージメントによってがん患者が動ける・歩けることで,患者のADLと生活の質(QOL)は大きく向上する.一方で,がん患者のロコモが進行すると治療継続が困難となり,日常生活ができなくなり介護が必要となってしまう.そこで本特集では,「がん患者の運動器マネージメント─がんであっても歩けることの重要性」をテーマとした.いずれのテーマもがんロコモの最前線の専門家に執筆いただいており,本特集が読者のがんロコモに対する理解を深め,その重要性を認識していただける一助となれば幸いである.
(編集委員会 企画担当:緒方直史)
特集にあたって
急速な少子高齢化による疾病構造の複雑化に伴い,リハビリテーション医学・医療が対象とする疾患や障害は,運動器障害,脳血管障害,循環器や呼吸器等の内部障害,摂食嚥下障害,小児疾患,がん等,幅広い領域に広がっており社会の期待は大きい.中でも,がん患者の新規罹患数は年間100万人を超え,出生数をはるかに超えるようになり,新たに生まれてくる人より新たにがんに罹患する人のほうが多くなっている.診療技術が向上し,がんの治療成績は大きく改善しており,長期生存可能な担がん患者が増加している.がんとともに生きる期間が以前と比べて格段に延長しており,がんを慢性疾患としてとらえる疾患概念の変化も起きている.ただ,ひとたびがんと診断されると,多くの人が,がんの治療は他の疾患よりも優先され,何とか根治しようとすべてのことを投げうっても治療に専念する風潮がある.本来,膝の手術をしようと思っていたのにがん治療を優先してしまうのは,よくみられることではないかと思う.また,がん治療にあたって,その治療を主に担うのは原発担当科の主治医であり,その原発担当科は運動器のことには関心がなく,多くのがん患者の運動器障害が不適切に放置されているのが現状である.
実際の診療現場では,がん患者は一般的に高齢者であり,既に歩行能が低下し,もともと痛いところがたくさんある.さらに,がんの転移が痛いとは限らないこともあり,骨転移があっても長期間生存可能な時代,疼痛の治療・診断には運動器管理も重要となってくる.また,がん患者では日常生活活動(ADL)の評価にPerformance Status(PS)が用いられているが,PSはがん治療方針の決定に非常に重要な役割を担っている.PSでは歩行が可能かどうかが大きな分かれ道となっており,歩行ができないとがんの治療適応外と判断されてしまうこともある.がんとともに生きる期間が以前と比べて延長した昨今,加齢変化に加え,がんが移動機能にどう影響しているのかに着目するべきではないかと考えられ,今から5年前にがんロコモが提唱された.がんあるいはがんの治療により運動器の障害が起き,移動機能が低下した状態をがんロコモと定義し,がん患者での運動器マネージメントの重要性すなわちロコモ対策を訴え,近年ようやく多くの領域で認識されるようになった.がん患者での運動器マネージメントによってがん患者が動ける・歩けることで,患者のADLと生活の質(QOL)は大きく向上する.一方で,がん患者のロコモが進行すると治療継続が困難となり,日常生活ができなくなり介護が必要となってしまう.そこで本特集では,「がん患者の運動器マネージメント─がんであっても歩けることの重要性」をテーマとした.いずれのテーマもがんロコモの最前線の専門家に執筆いただいており,本特集が読者のがんロコモに対する理解を深め,その重要性を認識していただける一助となれば幸いである.
(編集委員会 企画担当:緒方直史)
特集 がん患者の運動器マネージメント─がんであっても歩けることの重要性
特集にあたって(緒方直史)
がん患者の運動器管理の重要性(平畑昌宏 河野博隆)
がん運動器マネージメントに必要ながん医療の基礎知識(堅山佳美 中田英二・他)
がん治療におけるリハビリテーション診療(酒井良忠)
がんロコモ(森岡秀夫 吉山 晶・他)
骨転移患者のリハビリテーション治療(篠田裕介)
がん患者における鑑別すべき運動器疾患(永野靖典)
連載
巻頭カラー デザインが拓くリハビリテーションの未来
4.継手付き体幹装具 Trunk Solution(勝平純司 山口滉大・他)
ニューカマー リハ科専門医
(紙本貴之)
知っておきたい神経科学のキィワード
18.運動誘発電位の基礎と臨床応用(補永 薫)
リハビリテーションと薬剤
26.リハビリテーションのセッティング別の薬剤管理:(4)在宅(豊田義貞)
リハビリテーション治療中のリスクに備える医療機器管理
7.心疾患治療中の機器管理(白石裕一 山端志保・他)
リハビリテーション医療における安全管理の一工夫
I.急性期病院における安全管理:5.災害対策と院内の保安業務・設備管理(小室克夫)
認知症の基礎知識とリハビリテーション
2.認知症の救急医療(身体疾患の併発)(鵜飼克行 松井千恵・他)
リハビリテーション診療におけるEvidence-Based Practice
4.Evidence-Based Practiceにおける批判的吟味(山本良平)
リハビリテーション医学・医療の歴史秘話“あの時なにが?”
8.日本腎臓リハビリテーション学会(山縣邦弘)
開催案内
バックナンバー
投稿規定
特集にあたって(緒方直史)
がん患者の運動器管理の重要性(平畑昌宏 河野博隆)
がん運動器マネージメントに必要ながん医療の基礎知識(堅山佳美 中田英二・他)
がん治療におけるリハビリテーション診療(酒井良忠)
がんロコモ(森岡秀夫 吉山 晶・他)
骨転移患者のリハビリテーション治療(篠田裕介)
がん患者における鑑別すべき運動器疾患(永野靖典)
連載
巻頭カラー デザインが拓くリハビリテーションの未来
4.継手付き体幹装具 Trunk Solution(勝平純司 山口滉大・他)
ニューカマー リハ科専門医
(紙本貴之)
知っておきたい神経科学のキィワード
18.運動誘発電位の基礎と臨床応用(補永 薫)
リハビリテーションと薬剤
26.リハビリテーションのセッティング別の薬剤管理:(4)在宅(豊田義貞)
リハビリテーション治療中のリスクに備える医療機器管理
7.心疾患治療中の機器管理(白石裕一 山端志保・他)
リハビリテーション医療における安全管理の一工夫
I.急性期病院における安全管理:5.災害対策と院内の保安業務・設備管理(小室克夫)
認知症の基礎知識とリハビリテーション
2.認知症の救急医療(身体疾患の併発)(鵜飼克行 松井千恵・他)
リハビリテーション診療におけるEvidence-Based Practice
4.Evidence-Based Practiceにおける批判的吟味(山本良平)
リハビリテーション医学・医療の歴史秘話“あの時なにが?”
8.日本腎臓リハビリテーション学会(山縣邦弘)
開催案内
バックナンバー
投稿規定














