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顎顔面先天異常の矯正歯科治療

森山啓司 編著
定価 27,500円 (本体 25,000円+税10%)
  • 総頁数:244頁 / カラー
  • 判型:A4判
  • 発行年月:2026年10月
  • ISBN978-4-263-45713-9
  • 注文コード:457130

顎顔面先天異常を有する患者に対する矯正歯科治療を豊富な症例で解説

内容紹介

・顎顔面先天異常患者に対する矯正歯科治療の成果をまとめた大著です.
・口唇口蓋裂や形成異常を主徴とする疾患や染色体異常などの希少な疾患における,貴重な症例を供覧します.
・「機能と形態の調和を通じて,人間の健康と福祉に寄与しようとする医療としての矯正歯科の原点」(はじめに)をお読みください.


《本書「はじめに」より》
 先天異常は,しばし患者本人のみならず,その家族,さらには医療者にとっても大きな試練となる.数ある先天異常のなかでも,顎顔面領域の異常は特別な意味をもたらす(…)先天異常を有する患者は,成長の過程で自身の外見と内的自己像,すなわちボディイメージ[body image]との不一致に悩むことは少なくない.顔貌や口腔形態の差異は,他者との比較を通じて強く意識され社会との心理的距離を生み出す要因となる(…)
 一方で,適切な医療介入を通じて,かつて劣等感の源であった部位が,やがて『自分の体の中で誇れる部分』へと昇華されることがある(…)顎顔面先天異常患者に対する治療において矯正歯科が担う役割は,歯列や咬合の改善という技術的側面を超え,患者の人生観や自己認識に深く関与する点にこそ本質がある」

序文

推薦のことば
 顎顔面頭蓋領域に先天異常を有する患者の治療は,関連する多様な専門領域の緊密な連携のもと,長い年月にわたる治療計画に基づいて進められる必要がある.
 1981年は,国際連合により「国際障害者年」と定められた年である.我が国においては,懸案であった口唇口蓋裂に対する矯正治療に保険が導入されるなど,医療の世界でも大きな変化がみられた.各種先天異常に対する社会の認識も大きく変化してきた時代であったと言える.
 東京医科歯科大学(現 東京科学大学)では,1980年に歯学部歯科矯正学第二講座の設置が認可され,1981年1月1日付で講座および診療科の活動がスタートした.同講座は,口唇裂・口蓋裂をはじめ,顎顔面頭蓋領域に先天異常を有する患者の矯正治療を主体として担当することになった.
 顎顔面頭蓋領域に先天異常を有する患者の治療にあたっては,患者が抱える身体的,精神的苦痛への対応のみならず,長期にわたる加療および管理が求められる.本書には,長期にわたって加療,管理されてきた症例の中から,その一部が紹介されており,それぞれの先天異常の中でも比較的典型的で,特徴的な症状を示す症例が取り上げられている.
 先天異常を有する症例では,異常の部位や程度などにも多くの変異がみられ,その確定診断に苦慮することも少なくない.また,疾患の治療にあたっては,治療に対する反応も患者個々人によって異なり,必ずしも一様な経過をたどるとは限らない.以上のような点を踏まえ,本書が活用されることを望みたい.
 本書の編集,取りまとめにあたられた森山啓司教授をはじめ現教室員の方々,これまでほぼ半世紀にわたって患者の治療,管理にかかわってこられたすべての教室員のご努力に敬意を表するとともに,その成果の一端が結晶した本書が,この分野に携わる医療関係者の方々にとって何らかの指針となることを願い,推薦のことばとしたい.
 黒田敬之


はじめに
 先天異常は,しばしば患者本人のみならず,その家族,さらには医療者にとっても大きな試練となる.数ある先天異常のなかでも,顎顔面領域の異常は特別な意味をもたらす.Samuel Pruzanskyは,「顔は人が社会と向き合うための窓であり,そこには視覚,聴覚,発語に関わる器官が集約されている.人はそれらを介して外界から情報を受容し,また自己の意思や感情を表現する.さらに顔は健康状態や情緒,人格を映し出す場であり,個人を象徴する最も顕著な身体的特徴でもある.それゆえ,顔面とその諸器官に及ぶ先天異常は,意思疎通をはじめとする人間の根源的な機能にも深く関わる」と述べている.この言葉は,顎顔面先天異常が単なる医学的問題にとどまらず,人間の尊厳や社会との関係性をも問いかける存在であることを端的に示している.
 先天異常を有する患者は,成長の過程で自身の外見と内的自己像,すなわちボディイメージ(body image)との不一致に悩むことが少なくない.顔貌や口腔形態の差異は,他者との比較を通じて強く意識され,社会との心理的距離を生み出す要因となる.さらに,これらの問題は経年的に固定化,あるいは悪化することも多く,患者の自己肯定感や社会参加に長期的な影響を及ぼす.
 一方で,適切な医療介入を通じて,かつて劣等感の源であった部位が,やがて「自分の体の中で誇れる部分」へと昇華されることがある.その変化は単に形態の改善にとどまらず,患者が自らを肯定し,自信を獲得していく過程そのものである.顎顔面先天異常患者に対する治療において矯正歯科が担う役割は,歯列や咬合の改善という技術的側面を超え,患者の人生観や自己認識に深く関与する点にこそ本質がある.
 臨床の現場において,矯正歯科医はしばしば,治療の真の意義を患者から気づかされる.治療結果を目の当たりにした患者の表情や言葉は,矯正歯科治療が単なる専門技術ではなく,人間の尊厳を支える医療であることを静かに,しかし最も強い言葉で我々に語りかけてくれる.
 かつてEdward H.Angleは,
 “Orthodontia is that science which has for its object the prevention and correction of malocclusion of the teeth.”
 と述べ,矯正歯科を咬合異常の予防と治療を目的とする科学として定義した.この簡潔な定義の背後には,機能と形態の調和を通じて人間の健康と福祉に寄与しようとする,医療としての矯正歯科の原点がある.
 価値観の多様化する現代社会において,先天異常患者に向き合う矯正歯科治療は,医療の本質とは何かを私たちに問い返す.本書に掲載された症例の多くは,稀少性が高く,重篤であり,治療も困難を極め長期に及ぶ.したがって,これらは,患者本人の努力はもちろんのこと,家族の協力,さらには多くの医療機関や医療従事者の連携なしには到底成し得ない治療の軌跡である.また,本書の編纂は,一人ひとりの患者とそのご家族からの深いご理解とご承諾を得て実現したものであり,ここに心からの感謝と敬意の念を表したい.
 本書の刊行にあたり,東京科学大学病院(旧東京医科歯科大学歯学部附属病院)矯正歯科外来において,先天異常患者の矯正歯科治療の進歩・発展に多大なる情熱を注ぎ続けられ,筆者をこの領域の医療に導いてくださった恩師の黒田敬之名誉教授,ならびに故・大山紀美榮名誉教授に厚く御礼申し上げたい.さらに,筆者がその後輩の一人として多くのご薫陶を賜った故・三浦不二夫名誉教授に対して,衷心より敬意と感謝の念を表する.あわせて,先天異常の臨床,研究,教育に共に邁進してきた教室員諸氏,集学的治療にご協力をいただいた関係医療機関の多くの皆様への感謝の念は尽きない.また,医歯薬出版株式会社の関係各位による本書の趣旨へのご理解とご賛同,ならびに弛まぬご支援への深謝をここに明記したい.
 本書が,先天異常患者に対する矯正歯科治療を通じて,顎顔面の形態・機能の回復のみならず,人間の尊厳と社会的自立を支える医療のあり方を考える契機となれば幸いである.
 森山啓司

目次

第1編 総論
I 顎顔面先天異常を有する患者に対する矯正歯科治療
 (小川卓也,小林起穗)
 (1)顎顔面先天異常が成長発育に及ぼす影響
 (2)顎顔面先天異常を有する患者に対する矯正歯科治療の目的と意義
 (3)多職種連携と矯正歯科の役割
II 顎顔面先天異常の基礎知識
 (小川卓也,小林起穗)
 (1)疫学:顎顔面先天異常の発症頻度
 (2)分類
 (3)病因論
III 治療計画立案と全体の流れ
 (小川卓也,小林起穗)
 (1)治療計画立案のプロセス
 (2)治療目標と治療方針
 (3)成長段階に応じた治療体系
 (4)治療後管理と長期予後
IV 健康保険の療養給付の対象となる疾患について
 (辻 美千子,小林起穗)
 (1)「別に厚生労働大臣が定める疾患」について
 (2)「その他 顎・口腔の先天異常」について
第2編 症例
I 口唇・顎・口蓋の形成異常
 口唇裂・口蓋裂
   症例1 左側口唇口蓋裂を伴い前歯部の反対咬合を呈する成長期症例(上園将慶)
   症例2 左側口唇口蓋裂の一卵性双生児不一致症例(森山啓司,東堀紀尚)
II 歯の形成異常を主徴とする疾患
 (1)6歯以上の非症候性部分無歯症
   症例1 前歯部開咬を呈する成長期症例(小川卓也)
   症例2 過蓋咬合を呈する成長期症例(小川卓也)
 (2)症候性部分無歯症
  2-1 EEC症候群
   症例 多数歯の先天性欠如および上顎歯列弓の狭窄を呈する成長期症例(森山啓司,小林起穗)
  2-2 色素失調症
   症例 骨格性下顎前突症を呈する成人症例(小笠原 毅)
 (3)原発性萌出不全
   症例 顎変形症(下顎前突および顔面非対称)を呈する成人症例(小林起穗)
III 頭蓋・顎顔面の形成異常を主徴とする疾患
 (1)鎖骨頭蓋骨異形成症
   症例 乳歯の晩期残存,永久歯の萌出遅延および複数の埋伏過剰歯を伴い骨格性下顎前突症を呈する成長期後期症例(辻 美千子)
 (2)アペール症候群
   症例 長期に及ぶ矯正歯科的管理と複数回にわたる形成外科手術により咬合および機能改善を図った症例(辻 美千子)
 (3)第一第二鰓弓症候群
   症例 咬合平面の左右的傾斜と下顎偏位を呈する成人症例(仁木佑紀)
 (4)ピエール・ロバン症候群
   症例 叢生を呈する成長期症例(辻 美千子,小林起穗)
 (5)ケルビズム
   症例 反対咬合を呈する成人症例(東堀紀尚)
IV 骨格の異常を主徴とする疾患
 (1)骨形成不全症
   症例 下顎前突および臼歯部開咬を呈する成人症例(東堀紀尚)
 (2)軟骨無形成症
   症例 骨格性下顎前突症を呈する成人症例(辻 美千子)
 (3)低ホスファターゼ症
   症例 叢生を呈する成長期症例(森山啓司,小林起穗)
V 染色体異常を主因とする症候群
 (1)ダウン症候群(21 トリソミー)
   症例 叢生を呈する成長期症例(小林起穗)
 (2)18p欠失症候群
   症例 知的発達症を伴い著しい叢生を呈する成長期症例(辻 美千子,小林起穗)
VI 成長・発育異常を主徴とする症候群
 (1)ベックウィズ・ヴィーデマン症候群
   症例 巨舌を伴い前歯部開咬および反対咬合を呈する成長期症例(小川卓也)
 (2)ヌーナン症候群
   症例 下顎の後方位および前歯部開咬を呈する成長期症例(小川卓也)
 (3)ラッセル・シルバー症候群
   症例 叢生および過蓋咬合を呈する成長期症例(森山啓司,小林起穗)
VII 結合組織の異常を主徴とする症候群
 (1)マルファン症候群
   症例 叢生,過蓋咬合および上顎前突を呈する成長期後期症例(森山啓司,小林起穗)
 (2)エーラス・ダンロス症候群
   症例 叢生を呈する成長期症例(森山啓司,小林起穗)
 (3)スティックラー症候群
   症例 口蓋裂および叢生を呈し長期にわたり矯正歯科的管理を行った症例(辻 美千子)
 (4)ウィリアムズ症候群
   症例 過蓋咬合および上顎前突を呈する成長期症例(森山啓司,小林起穗)
VIII 筋の異常を主徴とする疾患
 (1)先天性ミオパチー
   症例 ネマリンミオパチーを伴い叢生を呈する成長期症例(小川卓也)
 (2)筋ジストロフィー
   症例1 ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィーを伴い叢生および開咬を呈する成人症例(小川卓也)
   症例2 ベッカー型筋ジストロフィーを伴い開咬および下顎前突を呈する成人症例(小川卓也)
 (3)パリー・ロンバーグ症候群
   症例 顔面非対称を呈する成人症例(森山啓司,小林起穗)

 参考文献
 索引

著者所属/略歴 ※本書が刊行された当時のものです.現在とは異なる場合があります.

【著者略歴】
森山啓司【もりやまけいじ】
1986年 東京医科歯科大学歯学部歯学科卒業
1990年 東京医科歯科大学大学院歯学研究科修了
1998年 徳島大学歯学部歯科矯正学講座教授
2004年 徳島大学大学院口腔顎顔面矯正学分野教授
2007年 東京医科歯科大学(現 東京科学大学)大学院医歯学総合研究科顎顔面矯正学分野教授,現在に至る

小川卓也【おがわたくや】
1998年 東京医科歯科大学歯学部歯学科卒業
2002年 東京医科歯科大学大学院歯学研究科修了
2019年 東京医科歯科大学(現 東京科学大学)大学院医歯学総合研究科顎顔面矯正学分野准教授,現在に至る

東堀紀尚【ひがしほりのりひさ】
2000年 東京医科歯科大学歯学部歯学科卒業
2004年 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科修了
2019年 東京医科歯科大学(現 東京科学大学)大学院医歯学総合研究科顎顔面矯正学分野講師,現在に至る

小林起穗【こばやしゆきほ】
1999年 徳島大学歯学部歯学科卒業
2003年 徳島大学大学院歯学研究科修了
2010年 東京医科歯科大学硬組織疾患ゲノムセンター特任助教
2013年 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科顎顔面矯正学分野助教
2024年 東京医科歯科大学(現 東京科学大学)大学院医歯学総合研究科顎顔面矯正学分野歯学部内講師,現在に至る

辻 美千子【つじみちこ】
1993年 東京医科歯科大学歯学部歯学科卒業
2002年 東京医科歯科大学助手
2004年 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科顎顔面矯正学分野助教
2024年 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科顎顔面矯正学分野歯学部内講師
2025年 東京科学大学非常勤講師,現在に至る

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