はじめに
竹原徹郎
関西労災病院病院長
B型肝炎の治療は,1986年にインターフェロン療法,2000年に核酸アナログ製剤が臨床導入されて以来,20年以上にわたり核酸アナログを主軸として発展してきた.核酸アナログは,B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus:HBV)の生活環における逆転写過程を阻害することにより,ウイルス増殖を強力に抑制する.副作用が少なく,長期にわたって安定したウイルス制御が可能となったことで,肝不全死を回避するとともに,肝疾患の進展を抑制するという点で画期的な成果をもたらしてきた.
しかし,核酸アナログはウイルス遺伝子発現の鋳型となるHBV cccDNA(HBV covalently closed circular DNA;HBV共有結合閉鎖環状DNA)を除去することはできない.そのため,核内に残存するcccDNAからのウイルス遺伝子発現,すなわちHBs抗原やHBVコア関連抗原などの産生は持続する.したがって,HBV感染は終生持続し,多くの症例では核酸アナログの中止は困難であり,また,ウイルス増殖が十分に抑制されていても肝発癌リスクを完全に消失させることはできない.
一方,抗ウイルス治療の適応についても近年,大きく変化してきた.従来は古典的な免疫学的病期分類に基づいて治療適応が判断されてきたが,現在では肝発癌リスクを考慮した治療戦略が重視されている.すなわち,単に肝炎を鎮静化させることにとどまらず,将来の肝発癌リスクを最小限に抑えることがB型肝炎治療の重要な目標となっている.
このような背景のもと,近年のB型肝炎治療においては“functional cure(機能的治癒)”の達成が新たな治療目標として掲げられている.Functional cureとは,ウイルスを完全に体内から排除することはできなくても,治療終了後も疾患の再燃をきたすことなく,臨床的には治癒と同等の状態を維持できることを指し,B型肝炎ではHBs抗原の持続的陰性化がその代表的な指標とされている.この目標の実現を目指し,逆転写過程以外のウイルス増殖・遺伝子発現を標的とする治療や,HBV特異的免疫応答を回復・賦活化する治療など,多様な作用機序を有する新規治療薬の開発が精力的に進められている.その先陣を切るものとして,HBV RNAを標的としてウイルス遺伝子発現を抑制するアンチセンスオリゴヌクレオチド製剤bepirovirsenの臨床導入が極めて近い将来に期待されている.
本特集では,このようなB型肝炎治療を取り巻く現況をふまえ,現在の標準治療から,functional cureを目指した新規治療戦略まで,この分野を牽引する先生方に最新の知見をご執筆いただいた.本特集が,急速に進展するB型肝炎治療の現状と将来展望を理解する一助となれば幸いである.
竹原徹郎
関西労災病院病院長
B型肝炎の治療は,1986年にインターフェロン療法,2000年に核酸アナログ製剤が臨床導入されて以来,20年以上にわたり核酸アナログを主軸として発展してきた.核酸アナログは,B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus:HBV)の生活環における逆転写過程を阻害することにより,ウイルス増殖を強力に抑制する.副作用が少なく,長期にわたって安定したウイルス制御が可能となったことで,肝不全死を回避するとともに,肝疾患の進展を抑制するという点で画期的な成果をもたらしてきた.
しかし,核酸アナログはウイルス遺伝子発現の鋳型となるHBV cccDNA(HBV covalently closed circular DNA;HBV共有結合閉鎖環状DNA)を除去することはできない.そのため,核内に残存するcccDNAからのウイルス遺伝子発現,すなわちHBs抗原やHBVコア関連抗原などの産生は持続する.したがって,HBV感染は終生持続し,多くの症例では核酸アナログの中止は困難であり,また,ウイルス増殖が十分に抑制されていても肝発癌リスクを完全に消失させることはできない.
一方,抗ウイルス治療の適応についても近年,大きく変化してきた.従来は古典的な免疫学的病期分類に基づいて治療適応が判断されてきたが,現在では肝発癌リスクを考慮した治療戦略が重視されている.すなわち,単に肝炎を鎮静化させることにとどまらず,将来の肝発癌リスクを最小限に抑えることがB型肝炎治療の重要な目標となっている.
このような背景のもと,近年のB型肝炎治療においては“functional cure(機能的治癒)”の達成が新たな治療目標として掲げられている.Functional cureとは,ウイルスを完全に体内から排除することはできなくても,治療終了後も疾患の再燃をきたすことなく,臨床的には治癒と同等の状態を維持できることを指し,B型肝炎ではHBs抗原の持続的陰性化がその代表的な指標とされている.この目標の実現を目指し,逆転写過程以外のウイルス増殖・遺伝子発現を標的とする治療や,HBV特異的免疫応答を回復・賦活化する治療など,多様な作用機序を有する新規治療薬の開発が精力的に進められている.その先陣を切るものとして,HBV RNAを標的としてウイルス遺伝子発現を抑制するアンチセンスオリゴヌクレオチド製剤bepirovirsenの臨床導入が極めて近い将来に期待されている.
本特集では,このようなB型肝炎治療を取り巻く現況をふまえ,現在の標準治療から,functional cureを目指した新規治療戦略まで,この分野を牽引する先生方に最新の知見をご執筆いただいた.本特集が,急速に進展するB型肝炎治療の現状と将来展望を理解する一助となれば幸いである.
特集 B型肝炎─functional cureを目指して
はじめに(竹原徹郎)
B型肝炎治療の現在地(八橋 弘)
B型肝炎の治療対象/グレイゾーン─HCCリスクをふまえて(田畑優貴)
HBsAg・HBcrAgをめぐる課題(保坂哲也)
HBV RNAを標的とした新規低分子化合物の開発(渡邊丈久・他)
免疫賦活治療─新規経口TLR-7アゴニストの開発(考藤達哉)
治療ワクチン(吉田 理・日浅陽一)
Bepirovirsenの登場がもたらすB型肝炎治療のパラダイムシフト(黒崎雅之)
TOPICS
皮膚科学 病気を「起こす細胞」を「抑える細胞」に変換して,抗原特異的に天疱瘡を治療(向井美穂・高橋勇人)
アレルギー学 アレルギー性喘息と骨の減少─Piezoチャネルによる骨芽細胞の調節(高 瑋琦・他)
連載
医療にいかす行動経済学(29)
医療にいかす共同体メカニズム(大垣昌夫)
知っておくと役に立つ!臨床医のための臨床検査医学講座(17)
循環器疾患マーカーの検査(石井潤一)
ネオ免疫学 生命進化に学ぶ免疫学のパラダイムシフト(6)
抗体の比較免疫学─進化の軌跡と医療応用(新田 剛)
FORUM
分子生物学の臨床応用 “分子“から“疾患・患者”へ(16) iPS細胞技術が拓く慢性腎臓病に対する再生医療の新展開(藤岡優里・他)
次号の特集予告
はじめに(竹原徹郎)
B型肝炎治療の現在地(八橋 弘)
B型肝炎の治療対象/グレイゾーン─HCCリスクをふまえて(田畑優貴)
HBsAg・HBcrAgをめぐる課題(保坂哲也)
HBV RNAを標的とした新規低分子化合物の開発(渡邊丈久・他)
免疫賦活治療─新規経口TLR-7アゴニストの開発(考藤達哉)
治療ワクチン(吉田 理・日浅陽一)
Bepirovirsenの登場がもたらすB型肝炎治療のパラダイムシフト(黒崎雅之)
TOPICS
皮膚科学 病気を「起こす細胞」を「抑える細胞」に変換して,抗原特異的に天疱瘡を治療(向井美穂・高橋勇人)
アレルギー学 アレルギー性喘息と骨の減少─Piezoチャネルによる骨芽細胞の調節(高 瑋琦・他)
連載
医療にいかす行動経済学(29)
医療にいかす共同体メカニズム(大垣昌夫)
知っておくと役に立つ!臨床医のための臨床検査医学講座(17)
循環器疾患マーカーの検査(石井潤一)
ネオ免疫学 生命進化に学ぶ免疫学のパラダイムシフト(6)
抗体の比較免疫学─進化の軌跡と医療応用(新田 剛)
FORUM
分子生物学の臨床応用 “分子“から“疾患・患者”へ(16) iPS細胞技術が拓く慢性腎臓病に対する再生医療の新展開(藤岡優里・他)
次号の特集予告















