はじめに
門松健治
東海国立大学機構糖鎖生命コア研究所
地球上には約870万種の生物が存在し,巨大なバイオマスを形成している.しかし,これほど多様な生命体を構成する分子は驚くほど共通している.核酸(DNA,RNA),タンパク質,糖鎖.これらは生命を編み上げる共通の分子群である.糖鎖はその一角をなすが,その構造の複雑性と多様性ゆえに,多くの研究者にとって取り組みにくい対象であった.しかし,質量分析をはじめとする測定技術やインフォマティクスの長足の発展により,糖鎖研究が現実的な研究対象となる時代に入った.
われわれの体を構成する約37兆個の細胞は,例外なく糖鎖の森に覆われている.インフルエンザウイルスや新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)などのウイルスが感染の最初に接するのは細胞表面の糖鎖である.細胞同士や細胞外マトリックスとの相互作用も糖鎖が仲介する.したがって,糖鎖に異常が生じると,先天性筋ジストロフィー,がん,神経疾患,免疫疾患など,多くの病態に関与する.
こうした背景から,糖鎖の医療応用は急速に進んでいる.年間売上が10億ドルを超えるブロックバスター医薬品にも糖鎖が利用されている.たとえば,スガマディクス(筋弛緩回復薬),ヒアルロン酸(皮膚充填材など),エノキサパリンナトリウム(抗凝固薬)などがあげられる.さらに薬物送達の分野では,ヒアルロン酸分解酵素が抗がん剤の徐放性投与に利用されている.また診断においても,膵がんのCA19-9,肝がんのAFP-L3,肝線維症のM2BPGi,前立腺がんのS2,3PSAなど,糖鎖を基盤とした疾患マーカーが実用化されている.しかし,これらの応用は生命における糖鎖の重要性を考えると,なお限定的と言わざるを得ない.
本特集の主眼は,糖鎖の臨床医学への貢献を伝えることにある.そのために疾患を軸とした構成とし,それぞれの領域で世界を牽引する研究者に執筆を依頼した.基礎的知識や基盤技術も含めて記述いただいている.本特集が読者の研究の一助となることを切に願う.
門松健治
東海国立大学機構糖鎖生命コア研究所
地球上には約870万種の生物が存在し,巨大なバイオマスを形成している.しかし,これほど多様な生命体を構成する分子は驚くほど共通している.核酸(DNA,RNA),タンパク質,糖鎖.これらは生命を編み上げる共通の分子群である.糖鎖はその一角をなすが,その構造の複雑性と多様性ゆえに,多くの研究者にとって取り組みにくい対象であった.しかし,質量分析をはじめとする測定技術やインフォマティクスの長足の発展により,糖鎖研究が現実的な研究対象となる時代に入った.
われわれの体を構成する約37兆個の細胞は,例外なく糖鎖の森に覆われている.インフルエンザウイルスや新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)などのウイルスが感染の最初に接するのは細胞表面の糖鎖である.細胞同士や細胞外マトリックスとの相互作用も糖鎖が仲介する.したがって,糖鎖に異常が生じると,先天性筋ジストロフィー,がん,神経疾患,免疫疾患など,多くの病態に関与する.
こうした背景から,糖鎖の医療応用は急速に進んでいる.年間売上が10億ドルを超えるブロックバスター医薬品にも糖鎖が利用されている.たとえば,スガマディクス(筋弛緩回復薬),ヒアルロン酸(皮膚充填材など),エノキサパリンナトリウム(抗凝固薬)などがあげられる.さらに薬物送達の分野では,ヒアルロン酸分解酵素が抗がん剤の徐放性投与に利用されている.また診断においても,膵がんのCA19-9,肝がんのAFP-L3,肝線維症のM2BPGi,前立腺がんのS2,3PSAなど,糖鎖を基盤とした疾患マーカーが実用化されている.しかし,これらの応用は生命における糖鎖の重要性を考えると,なお限定的と言わざるを得ない.
本特集の主眼は,糖鎖の臨床医学への貢献を伝えることにある.そのために疾患を軸とした構成とし,それぞれの領域で世界を牽引する研究者に執筆を依頼した.基礎的知識や基盤技術も含めて記述いただいている.本特集が読者の研究の一助となることを切に願う.
はじめに(門松健治)
抗体医療
抗体糖鎖制御による機能改変技術の進展と展望─構造均一化から次世代抗体医薬設計へ(眞鍋史乃)
免疫関連疾患に対する治療効果を示す抗糖鎖モノクローナル抗体(川島博人)
抗体医薬はなぜ皮下注射で使えるようになったのか─ヒアルロニダーゼの役割(飛澤悠葵)
免疫
乳がん転移を導くがん細胞―免疫細胞間シグナル(川西邦夫)
1細胞グライコーム解析が切り拓く腫瘍微小環境の理解(舘野浩章)
自然免疫で働くレクチン受容体による自己と非自己のリガンド認識機構(長江雅倫・山﨑 晶)
神経疾患
細胞外小胞スフィンゴ糖脂質がつなぐアルツハイマー病の病態理解と液性診断(湯山耕平)
難同定糖鎖ポリシアル酸と精神疾患との関わり(佐藤ちひろ)
神経機能・神経疾患に関わる糖鎖合成酵素の働きと制御メカニズム(木塚康彦)
糖鎖を標的にした神経膠腫(グリオーマ)の体液診断マーカー(北爪しのぶ・藤井正純)
腎・泌尿器疾患
糖尿病関連腎臓病の新規バイオマーカーとしての尿中糖鎖の意義(三瀬広記・他)
腎疾患のバイオマーカー探索を指向した迅速グライコプロテオミクス(中嶋和紀)
前立腺癌における糖鎖関連バイオマーカーの有用性(大山 力)
消化器疾患
肝線維化マーカーの高度化と発がんリスク予測への取り組み─M2BPGiからM2BP糖鎖シグネチャへ(久野 敦・溝上雅史)
肝線維化と糖鎖(坂本直哉・古川潤一)
消化器疾患の糖鎖バイオマーカー(三善英知)
炎症性腸疾患(IBD)とムチン糖鎖異常(奥村 龍)
先天性疾患
先天性GPI欠損症(IGD)─症例から明らかになったGPI研究最前線(村上良子・藤田盛久)
ヒトミルクオリゴ糖(HMOs)の機能と治療用HMO補充製剤への開発展望(浦島 匡・和田友香)
次号の特集予告
抗体医療
抗体糖鎖制御による機能改変技術の進展と展望─構造均一化から次世代抗体医薬設計へ(眞鍋史乃)
免疫関連疾患に対する治療効果を示す抗糖鎖モノクローナル抗体(川島博人)
抗体医薬はなぜ皮下注射で使えるようになったのか─ヒアルロニダーゼの役割(飛澤悠葵)
免疫
乳がん転移を導くがん細胞―免疫細胞間シグナル(川西邦夫)
1細胞グライコーム解析が切り拓く腫瘍微小環境の理解(舘野浩章)
自然免疫で働くレクチン受容体による自己と非自己のリガンド認識機構(長江雅倫・山﨑 晶)
神経疾患
細胞外小胞スフィンゴ糖脂質がつなぐアルツハイマー病の病態理解と液性診断(湯山耕平)
難同定糖鎖ポリシアル酸と精神疾患との関わり(佐藤ちひろ)
神経機能・神経疾患に関わる糖鎖合成酵素の働きと制御メカニズム(木塚康彦)
糖鎖を標的にした神経膠腫(グリオーマ)の体液診断マーカー(北爪しのぶ・藤井正純)
腎・泌尿器疾患
糖尿病関連腎臓病の新規バイオマーカーとしての尿中糖鎖の意義(三瀬広記・他)
腎疾患のバイオマーカー探索を指向した迅速グライコプロテオミクス(中嶋和紀)
前立腺癌における糖鎖関連バイオマーカーの有用性(大山 力)
消化器疾患
肝線維化マーカーの高度化と発がんリスク予測への取り組み─M2BPGiからM2BP糖鎖シグネチャへ(久野 敦・溝上雅史)
肝線維化と糖鎖(坂本直哉・古川潤一)
消化器疾患の糖鎖バイオマーカー(三善英知)
炎症性腸疾患(IBD)とムチン糖鎖異常(奥村 龍)
先天性疾患
先天性GPI欠損症(IGD)─症例から明らかになったGPI研究最前線(村上良子・藤田盛久)
ヒトミルクオリゴ糖(HMOs)の機能と治療用HMO補充製剤への開発展望(浦島 匡・和田友香)
次号の特集予告















