やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 荒井秀典
 国立長寿医療研究センター
 超高齢社会を迎えたわが国において,高齢者診療は明確な転換期にある.従来の“単一疾患をいかに治療するか“という臓器別医療の枠組みから,“複数の慢性疾患や老年症候群を抱えながら,いかに生活機能と尊厳を支えるか”という包括的視点への転換が不可避となっている.マルチモビディティはもはや例外ではなく常態であり,その臨床像の重心に位置するのが,フレイルおよびサルコペニアである.これらは単なる身体機能低下の指標ではなく,生命予後,再入院,要介護化,QOL,さらには医療・介護需要を規定する横断的リスク基盤として理解されるべき概念である.
 フレイルやサルコペニアは,心不全,糖尿病,慢性腎臓病,慢性呼吸器疾患,認知症,骨・関節疾患など,多様な慢性疾患と双方向に影響しあい,疾患特異的治療の効果や安全性に影響を与える.とりわけ高齢期においては,疾患の重症度指標以上に,生理的予備能の低下や脆弱性の進展がアウトカムを規定する場合が少なくない.しかし現行の医療提供体制は,依然として疾患別ガイドラインを中心に構築されており,フレイル・サルコペニアを軸にマルチモビディティを横断的に統合する体系は十分に確立されているとは言い難い.
 マルチモビディティ診療では,生理的予備能と機能予後をふまえた治療目標の再設定,ポリファーマシーの適正化,患者・家族との意思決定共有,多職種連携の強化が不可欠である.高齢者総合機能評価(Comprehensive Geriatric Assessment:CGA)を基盤に,疾患制御中心モデルから機能維持・回復モデルへと視座を転換することこそ,これからの高齢者診療の新常識である.
 本特集は,“高齢者を全人的に診る”という老年医学の基本理念に立脚し,マルチモビディティという現実に対して,どのように臨床判断を行い,どのように多職種連携や社会資源を活用すべきかを具体的に示すことを念頭に置いて企画した.複雑化する高齢者診療を読み解く一助となれば幸いである.
特集 高齢者診療の新常識:マルチモビディティにおけるフレイル・サルコペニア管理を考える
 はじめに(荒井秀典)
 フレイル・サルコペニアの定義・診断アップデート(杉本 研)
 マルチモビディティにおけるフレイル・サルコペニア管理の重要性(新村 健)
 フレイルとマルチモビディティ─慢性炎症,腸内細菌叢の役割を考える(内藤裕二・髙木智久)
 マルチモビディティにおけるフレイル・サルコペニア対策
 ポリファーマシーのマネジメント(竹屋 泰)
 マルチモビディティにおけるフレイル・サルコペニア対策
 地域の通いの場の活用(清野 諭・野藤 悠)
 マルチモビディティにおけるフレイル・サルコペニア対策
 デジタルヘルス・AIを活用した予防から評価・介入まで(山本浩一)
 マルチモビディティにおけるフレイル・サルコペニア対策
 栄養療法(前田圭介)
 マルチモビディティにおけるフレイル・サルコペニア対策
 運動・身体活動のポイント(笹井浩行)
 マルチモビディティにおけるフレイル・サルコペニア対策
 ロコモティブシンドロームとマルチモビディティ(吉村典子)

TOPICS
 社会医学 オピオイド危機から人々を救う画期的鎮痛薬(豊本雅靖・萩原正敏)
 脳神経外科学 転移性脳腫瘍患者に対する全身薬物療法(井内俊彦)

連載
医療にいかす行動経済学(15)
 皮膚科における諸問題を行動経済学で考える(安田正人)

知っておくと役に立つ!臨床医のための臨床検査医学講座(3)
 知っておきたい腹部血管・血行動態異常:超音波による評価(紺野 啓)

FORUM
 分子生物学の臨床応用 “分子“から“疾患・患者”へ(2) 新生HDL産生過程の可視化から考える動脈硬化症の創薬開発(小段篤史・他)

 次号の特集予告