やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 峯村信嘉
 三井記念病院総合内科・科長
 今やがん治療について免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor:ICI)を抜きにして語ることはひどく難しくなっていることを実感する.それとともに,ICIの副作用として生じている免疫関連有害事象(immune-related adverse events:irAE)が生じた患者への対応について,ICIを実際に用いているがん治療科の腫瘍医(オンコロジスト)のみならず,非腫瘍医のもとに相談がなされることも日々増えていることをさまざまな場面で目撃する.irAE重症筋無力症が疑われた際に,非腫瘍医(この場合は,普段がん診療に携わっていない神経内科医)宛にコンサルテーションがなされる,といった具合である.しかし,すぐに相談できる神経内科医がいつも身近にいるとは限らないといった状況は,いずれの臓器においても発生しうる.
 この際に最も頼りになるのは誰/何であろうか.もちろんirAEガイドラインに通じていることは必要であろう.また,共通言語としてのCTCAE(Common Terminology Criteria for Adverse Events)重症度分類の理解は欠かせないであろう.irAE病態特有の注意事項〔この場合は,irAE重症筋無力症様の病態を疑ったら筋毒性(特に心筋炎)のオーバーラップを除外すべきといった優先事項〕についての知識を前もって有しているのならば,なお望ましい.しかし最も頼りになるのは,irAEに通じた各臓器専門科エキスパートの「私だったらこういう理由でこの検査を行い,この治療に踏み切るでしょう」というアドバイスではないであろうか.
 この「irAEが疑われた際に,あの先生にすぐ相談できたらどんなにいいであろうか」と願う各先生方に各稿の執筆をお願いした次第である.あの方にも,ぜひこの方にも,と欲張って依頼させていただいた結果,本当に充実した特集号が出来あがった.快くお引き受けいただいた各先生方にこの場をお借りして心から感謝申し上げるとともに,本書を手に取ってくださるお一人おひとりにとって,またとなく有益な特集号になること間違いなしと信じています.
 はじめに(峯村信嘉)
総論
 がん専門医でなくとも知っておきたいirAEの機序と基本の考え方─2025年の時点では“誰に効果があるのか““誰に副作用が出るのか”がまだわかっていない(白井敬祐)
 irAEは従来のがん救急とどう異なるか?(望月俊明)
 irAEを疑ったときの最初の一手─主治医ではない医師が時間外外来,救急外来などで対応を迫られたとき(大山 優)
各論
 irAE皮膚障害(渡邊友也)
 irAE下痢・腸炎─こじらせると大変です(浜本康夫)
 内分泌irAEを見逃さないために(岩間信太郎)
 irAE肺臓炎実践マネジメント(井上貴子)
 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による神経関連有害事象(関 守信・鈴木重明)
 ICI関連心筋炎(田村祐大・田村雄一)
 非肝臓専門医が知っておくべきICI関連肝障害の診断と初期治療のポイント(伊藤隆徳・他)
 ICIによる胆管炎(横出正隆・他)
 ICI関連膵障害(ICI-PI)(長尾佳映・他)
 リウマチ性irAE─ICI使用中の患者が筋骨格系の疼痛を訴えたときのアプローチ(武田孝一)
 irAE腎障害(奥村祐太)
 血液学的irAEの診断と治療,およびirAE管理における血液内科医の役割(油田さや子)
 ICIによる眼のirAE─ぶどう膜炎を中心に(福島直樹・松宮 亘)

 次号の特集予告

 サイドメモ
  ICIによる肝障害の病理学的特徴
  リウマチ性irAEの内訳
  腎臓専門医へのコンサルテーションと急性腎障害(AKI)の評価尺度
  カルシニューリン阻害薬と相互作用を起こす食品
  眼の免疫寛容