はじめに
中村卓郎
東京医科大学医学総合研究所未来医療研究センター実験病理学部門
疾患病態の分子解析,特にゲノム解析技術の進歩によりゲノム変異の役割が明らかになる一方で,ゲノム変異に依存しない病因としてエピゲノム異常の重要性が浮かび上がってきている.エピゲノム異常を主要な病因とする疾患は,先天性代謝異常,神経筋細胞の機能異常,がん,老化関連疾患など多岐に及んでいて,各分野の専門家が病態解明と治療法開発に取り組んでいる.
エピゲノム異常はゲノム異常とは異なり,遺伝子とその産物の構造異常は通常発生しない.したがって,変異タンパク質を直接の標的とする分子標的治療は開発が困難である.一方,エピゲノム変異を誘発する転写因子や共役因子,クロマチン改変因子を狙った現状のエピゲノム治療薬の作用機序は,グローバルなエピゲノム異常の修復になりがちであるため,特異性と有効性が十分ではない.
ゲノム編集技術のめざましい進歩は医療分野だけではなく,農林水産業を含むライフサイエンスの幅広い分野で応用範囲を広げている.そのなかで,CRISPR-Cas9(clustered regularly interspaced short palindromic repeats-CRISPR-associated protein 9)に代表されるゲノム編集ツールの,ゲノムの特異的な部位にリクルートさせる技術を応用したエピゲノム編集も,近年,脚光を浴びるようになってきた.従来の薬物治療では十分に対応できないエピゲノム病態の克服を目標とするエピゲノム編集技術が必要である疾患群は数多く存在することから,新たな治療の選択肢として開発が望まれる.
エピゲノム編集の医療応用は現在,黎明期にあるが,本特集ではエピゲノム編集の基本技術の開発に携わっている研究者に最新のプラットフォームを説明していただくとともに,医療応用の基礎となるエピゲノム病態の概念に関する研究成果についても紹介する.応用面では,生体への導入に重要なデリバリー技術の開発状況を踏まえながら,対象となる具体的な疾患群を今後の可能性を含めて提示する.
エピゲノム編集治療の対象となる疾患には,これまで医療の恩恵を受けられなかった希少疾患が少なからず存在する.本特集が契機となって,これら難治・希少疾患の治療と病態解明が一段と進展することを希望するとともに,解説してくださった執筆者の皆さまと,貴重な機会を提供してくださった編集部の皆さまに感謝を申し上げる.
                        中村卓郎
東京医科大学医学総合研究所未来医療研究センター実験病理学部門
疾患病態の分子解析,特にゲノム解析技術の進歩によりゲノム変異の役割が明らかになる一方で,ゲノム変異に依存しない病因としてエピゲノム異常の重要性が浮かび上がってきている.エピゲノム異常を主要な病因とする疾患は,先天性代謝異常,神経筋細胞の機能異常,がん,老化関連疾患など多岐に及んでいて,各分野の専門家が病態解明と治療法開発に取り組んでいる.
エピゲノム異常はゲノム異常とは異なり,遺伝子とその産物の構造異常は通常発生しない.したがって,変異タンパク質を直接の標的とする分子標的治療は開発が困難である.一方,エピゲノム変異を誘発する転写因子や共役因子,クロマチン改変因子を狙った現状のエピゲノム治療薬の作用機序は,グローバルなエピゲノム異常の修復になりがちであるため,特異性と有効性が十分ではない.
ゲノム編集技術のめざましい進歩は医療分野だけではなく,農林水産業を含むライフサイエンスの幅広い分野で応用範囲を広げている.そのなかで,CRISPR-Cas9(clustered regularly interspaced short palindromic repeats-CRISPR-associated protein 9)に代表されるゲノム編集ツールの,ゲノムの特異的な部位にリクルートさせる技術を応用したエピゲノム編集も,近年,脚光を浴びるようになってきた.従来の薬物治療では十分に対応できないエピゲノム病態の克服を目標とするエピゲノム編集技術が必要である疾患群は数多く存在することから,新たな治療の選択肢として開発が望まれる.
エピゲノム編集の医療応用は現在,黎明期にあるが,本特集ではエピゲノム編集の基本技術の開発に携わっている研究者に最新のプラットフォームを説明していただくとともに,医療応用の基礎となるエピゲノム病態の概念に関する研究成果についても紹介する.応用面では,生体への導入に重要なデリバリー技術の開発状況を踏まえながら,対象となる具体的な疾患群を今後の可能性を含めて提示する.
エピゲノム編集治療の対象となる疾患には,これまで医療の恩恵を受けられなかった希少疾患が少なからず存在する.本特集が契機となって,これら難治・希少疾患の治療と病態解明が一段と進展することを希望するとともに,解説してくださった執筆者の皆さまと,貴重な機会を提供してくださった編集部の皆さまに感謝を申し上げる.
                             はじめに(中村卓郎)
転写調節・エピゲノム編集における転写制御因子とエピゲノム修飾酵素の最新動向
(宇吹俊一郎・佐久間哲史)
不活性型CRISPR-Casシステムを用いたエピゲノム編集ツール
(後藤空吾・他)
CRISPRoffシステムによるエピゲノム編集とその応用
(Suji Lee・Knut Woltjen)
エンハンサー同定と編集による疾患分子メカニズムの解析
(吉富啓之・他)
ゲノム・エピゲノム編集を最適化するガイドRNAの設計戦略
(川又理樹・鈴木淳史)
DNAメチル化編集によるインプリント制御機構の解析
(関田洋一・木村 透)
エピゲノム編集を用いた疾患モデル動物の創出
(畑田出穂・他)
エピゲノム編集プラットフォームを用いたゲノムワイドスクリーニング技術と疾患解析研究
(西淵剛平・遊佐宏介)
エピゲノム編集への応用を視野に入れたLNP型核酸デリバリーシステムの現状と将来
(西山伸宏)
エピゲノム遺伝子治療の現状と新規ベクター開発の可能性
(谷 憲三朗)
小児遺伝性疾患に対するエピゲノム編集アプローチの可能性
(内山 徹)
AMLに対するエピゲノム編集治療の開発
(角南義孝・中村卓郎)
網膜色素変性の新規治療法としてのエピゲノム編集の可能性
(藤田幸輔)
アルツハイマー型認知症に対するエピゲノム編集治療の可能性
(斉藤史明・田中園子)
X染色体関連疾患とエピゲノム編集─不活性化アレル再活性化の現状と課題
(目黒牧子・堀家慎一)
骨軟部肉腫のエピゲノム異常を標的としたエピゲノム編集治療の展望
(田中美和)
CRISPR活性化スクリーニングを活用した骨髄系腫瘍に対するデシタビン作用機序の解析
(藪下知宏・合山 進)
小児脳腫瘍における治療標的としてのエピゲノム編集─基礎研究が紡ぐ臨床応用への展望
(鄒 鶤・他)
次号の特集予告
サイドメモ
CRISPRiとCRISPRaのはじまり
エピゲノム編集における主要因子と修飾様式
RNAの5'末端
Non-canonical imprinting
DNAメチル化制御を利用した長期間のエピゲノム編集維持
遺伝子量補正とX染色体不活性化
DNAメチル化を見れば生物学的年齢がわかる
髄芽腫・上衣腫の分子亜群
                            転写調節・エピゲノム編集における転写制御因子とエピゲノム修飾酵素の最新動向
(宇吹俊一郎・佐久間哲史)
不活性型CRISPR-Casシステムを用いたエピゲノム編集ツール
(後藤空吾・他)
CRISPRoffシステムによるエピゲノム編集とその応用
(Suji Lee・Knut Woltjen)
エンハンサー同定と編集による疾患分子メカニズムの解析
(吉富啓之・他)
ゲノム・エピゲノム編集を最適化するガイドRNAの設計戦略
(川又理樹・鈴木淳史)
DNAメチル化編集によるインプリント制御機構の解析
(関田洋一・木村 透)
エピゲノム編集を用いた疾患モデル動物の創出
(畑田出穂・他)
エピゲノム編集プラットフォームを用いたゲノムワイドスクリーニング技術と疾患解析研究
(西淵剛平・遊佐宏介)
エピゲノム編集への応用を視野に入れたLNP型核酸デリバリーシステムの現状と将来
(西山伸宏)
エピゲノム遺伝子治療の現状と新規ベクター開発の可能性
(谷 憲三朗)
小児遺伝性疾患に対するエピゲノム編集アプローチの可能性
(内山 徹)
AMLに対するエピゲノム編集治療の開発
(角南義孝・中村卓郎)
網膜色素変性の新規治療法としてのエピゲノム編集の可能性
(藤田幸輔)
アルツハイマー型認知症に対するエピゲノム編集治療の可能性
(斉藤史明・田中園子)
X染色体関連疾患とエピゲノム編集─不活性化アレル再活性化の現状と課題
(目黒牧子・堀家慎一)
骨軟部肉腫のエピゲノム異常を標的としたエピゲノム編集治療の展望
(田中美和)
CRISPR活性化スクリーニングを活用した骨髄系腫瘍に対するデシタビン作用機序の解析
(藪下知宏・合山 進)
小児脳腫瘍における治療標的としてのエピゲノム編集─基礎研究が紡ぐ臨床応用への展望
(鄒 鶤・他)
次号の特集予告
サイドメモ
CRISPRiとCRISPRaのはじまり
エピゲノム編集における主要因子と修飾様式
RNAの5'末端
Non-canonical imprinting
DNAメチル化制御を利用した長期間のエピゲノム編集維持
遺伝子量補正とX染色体不活性化
DNAメチル化を見れば生物学的年齢がわかる
髄芽腫・上衣腫の分子亜群















