はじめに
小金澤禎史
筑波大学医学医療系神経生理学
“息をする“,“血がめぐる”.これらは,われわれが生きていくうえで欠かすことのできない生体現象である.そのため,呼吸の運動と血液の循環は,常に生体内の調節機構により精密にコントロールされている.特に,神経系は呼吸筋,心臓,血管などの呼吸器系・循環器系の機能を調節することにより,呼吸運動と血液循環を強力に調節している.呼吸と循環は体内の酸素飽和度や物質の運搬などを調節することを通して,体内のさまざまな臓器の機能をサポートしている.そのため,これらの異常は,生体の多くの機能を破綻させることにつながり,時として,命すらも脅かすことにつながる.
そこで,神経系は生体内の環境を維持するために,生体内外の環境変動をモニターし,呼吸と循環の適切な調節をたえず行っている.呼吸・循環調節にみられる生体の恒常性を維持する機構は,ホメオスタシスとよばれており,生体内外の環境変動により変化した酸素飽和度や血圧などを元の値に戻し,常に一定の状態を保つシステムとして知られている.ホメオスタシスによる呼吸・循環の調節は,状態を変化させないことで生体の機能を維持する.
一方で,生体は時として,内外の環境変動に適応するために,あえて元とは異なる状態へとその状況を変化させる必要がある.たとえば運動時には,それに先駆けて予測的に呼吸運動が促進するとともに心拍数と血圧が上昇し,運動中もこれら呼吸・循環の促進は継続する.すなわち,生体内外の環境変化に応じて,呼吸と循環は元とは異なる新たな状態へと積極的に変化することで,生体が置かれた状況に最適な機能を実現する.このような,異なる状態へと遷移することにより動的に最適化された制御を行う機構をアロスタシスとよぶ.
本特集では,生体内外のさまざまな環境変動に対して,呼吸・循環がホメオスタシスおよびアロスタシスによる制御を行うことで,生体の状況を最適化していることを紹介する.これにより,呼吸・循環の神経系による調節機構の多面的な理解につながるとともに,今後のさらなる包括的な理解への一助となることを期待する.
小金澤禎史
筑波大学医学医療系神経生理学
“息をする“,“血がめぐる”.これらは,われわれが生きていくうえで欠かすことのできない生体現象である.そのため,呼吸の運動と血液の循環は,常に生体内の調節機構により精密にコントロールされている.特に,神経系は呼吸筋,心臓,血管などの呼吸器系・循環器系の機能を調節することにより,呼吸運動と血液循環を強力に調節している.呼吸と循環は体内の酸素飽和度や物質の運搬などを調節することを通して,体内のさまざまな臓器の機能をサポートしている.そのため,これらの異常は,生体の多くの機能を破綻させることにつながり,時として,命すらも脅かすことにつながる.
そこで,神経系は生体内の環境を維持するために,生体内外の環境変動をモニターし,呼吸と循環の適切な調節をたえず行っている.呼吸・循環調節にみられる生体の恒常性を維持する機構は,ホメオスタシスとよばれており,生体内外の環境変動により変化した酸素飽和度や血圧などを元の値に戻し,常に一定の状態を保つシステムとして知られている.ホメオスタシスによる呼吸・循環の調節は,状態を変化させないことで生体の機能を維持する.
一方で,生体は時として,内外の環境変動に適応するために,あえて元とは異なる状態へとその状況を変化させる必要がある.たとえば運動時には,それに先駆けて予測的に呼吸運動が促進するとともに心拍数と血圧が上昇し,運動中もこれら呼吸・循環の促進は継続する.すなわち,生体内外の環境変化に応じて,呼吸と循環は元とは異なる新たな状態へと積極的に変化することで,生体が置かれた状況に最適な機能を実現する.このような,異なる状態へと遷移することにより動的に最適化された制御を行う機構をアロスタシスとよぶ.
本特集では,生体内外のさまざまな環境変動に対して,呼吸・循環がホメオスタシスおよびアロスタシスによる制御を行うことで,生体の状況を最適化していることを紹介する.これにより,呼吸・循環の神経系による調節機構の多面的な理解につながるとともに,今後のさらなる包括的な理解への一助となることを期待する.
特集 神経系による呼吸・循環調節─ホメオスタシスとアロスタシスによる制御
はじめに(小金澤禎史)
呼吸による脳機能制御の新たな視点─時間情報の制御因子としての役割(中村 望)
生体ガスによる呼吸パターンの維持機構(岡﨑実那子)
皮質視床ネットワークによる意図的な心拍数制御(吉本愛梨・池谷裕二)
日常生活における交感神経活動による動的な動脈圧調節─睡眠,運動から精神的ストレスまで(三木健寿・吉本光佐)
皮膚循環調節に関わる神経回路と神経薬理(大塚曜一郎)
外側手綱核が制御するストレス性循環調節機構(佐藤優真・小金澤禎史)
TOPICS
社会医学 公衆衛生大学院が目指すもの(鈴木康裕・山本尚子)
生理学 親しい人の顔を表現する線条体尾部の神経応答(國松 淳)
連載
ケースから学ぶ臨床倫理推論(25)
小児の輸血拒否─15歳未満の場合(掛江直子)
イチから学び直す医療統計(17)
医学研究におけるベイズ統計学(長島健悟・他)
医療分野におけるブロックチェーンとNFTの活用(7)
日本と世界におけるWeb3.0医療の最前線(水島 洋)
医師の働き方改革─取り組みの現状と課題(6)
オンコール体制の現状と課題(平松祐司)
FORUM
病院建築への誘い─医療者と病院建築のかかわりを考える(12)(亀谷佳保里)
人間社会の未来─専門家が予見する人類の行方(2) 日本社会と移民─変化する人口の見通しとその要因(是川 夕)
次号の特集予告
はじめに(小金澤禎史)
呼吸による脳機能制御の新たな視点─時間情報の制御因子としての役割(中村 望)
生体ガスによる呼吸パターンの維持機構(岡﨑実那子)
皮質視床ネットワークによる意図的な心拍数制御(吉本愛梨・池谷裕二)
日常生活における交感神経活動による動的な動脈圧調節─睡眠,運動から精神的ストレスまで(三木健寿・吉本光佐)
皮膚循環調節に関わる神経回路と神経薬理(大塚曜一郎)
外側手綱核が制御するストレス性循環調節機構(佐藤優真・小金澤禎史)
TOPICS
社会医学 公衆衛生大学院が目指すもの(鈴木康裕・山本尚子)
生理学 親しい人の顔を表現する線条体尾部の神経応答(國松 淳)
連載
ケースから学ぶ臨床倫理推論(25)
小児の輸血拒否─15歳未満の場合(掛江直子)
イチから学び直す医療統計(17)
医学研究におけるベイズ統計学(長島健悟・他)
医療分野におけるブロックチェーンとNFTの活用(7)
日本と世界におけるWeb3.0医療の最前線(水島 洋)
医師の働き方改革─取り組みの現状と課題(6)
オンコール体制の現状と課題(平松祐司)
FORUM
病院建築への誘い─医療者と病院建築のかかわりを考える(12)(亀谷佳保里)
人間社会の未来─専門家が予見する人類の行方(2) 日本社会と移民─変化する人口の見通しとその要因(是川 夕)
次号の特集予告















