やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

巻頭言
 日本は急速な少子化に直面している.1970年代には200万人を超えていた年間出生数は,2024年には68.6万人にまで減少した.一方で,医療技術の進歩や周産期医療の充実により救命率が向上した結果,重度障害や医療的ケアを必要とする児の数は依然として一定数存在し,むしろ支援の必要度は増大している.このような背景のもと,小児リハビリテーションの役割はますます重要性を帯びている.
 小児リハビリテーションは,機能回復の枠を超え,児の発達を促進し,生活の質を高め,社会的統合を支える包括的実践である.その対象は医療機関や専門施設のみに留まらず,家庭,学校,地域社会を含む日常生活全般に及ぶ.したがって,医療・教育・福祉の縦割りを超えて連携を図り,切れ目のない持続可能な支援体制を構築することが不可欠である.
 近年のテクノロジーの進展は,小児リハビリテーションの可能性を大きく拡張している.視線入力装置やスイッチ操作を用いた支援技術は,最重度障害児においても主体的活動や意思表出を可能とし,自己効力感の形成を促す.これらの技術は単なる補助手段ではなく,リハビリテーションが本来的に目指す「自律性の獲得」を具体化するものである.また,こうした技術の活用は家族や支援者との関係性を変容させ,コミュニケーションの質を高める契機ともなる.
 寿命の延伸に伴い,支援の範囲は小児期に限定されず,成人期への移行を含む生涯発達支援・療育へと拡張している.小児リハビリテーションは発達促進に加え,成人期のQOL維持や二次障害予防までを包含するものであり,移行期医療の体制整備は喫緊の課題である.医療・教育・福祉が協働してライフコース全体を支える仕組みを構築することが求められる.
 一方で,対象疾患や必要とされる支援の広がりに比して,専門職の供給は十分ではない.小児リハビリテーションを専門とする医師,療法士,看護職,心理職はいまだ限られており,地域や施設による格差も大きい.したがって,人材育成は極めて重要な課題である.体系的な教育プログラムの開発,臨床研修や実地教育の充実,さらに学会・研究会を通じた学術的交流と情報共有が不可欠である.特に若手人材に対し,小児リハビリテーションの学術的魅力と社会的使命を明確に伝え,参入を促す取り組みが求められる.
 さらに,小児リハビリテーションは本質的に多職種協働を基盤とする領域である.専門職間の協働に加え,保護者や地域社会を巻き込んだ「支援共同体」を形成することが,持続可能な実践を実現するうえで重要である.そこには単に技術や知識を伝達する教育に留まらず,実践を通じた相互学習や専門職の成長を支える教育的循環の確立が求められる.
 超少子時代における小児リハビリテーションは,限られた社会的資源を最大限に活用し,すべての児が現在を充実して生き,未来に希望を見出せる社会を目指す営みである.本特集がその理念を再確認し,学術的発展と人材育成の推進に資する契機となることを強く期待する.
 (編者:小﨑慶介)
 巻頭言(小﨑慶介)
巻頭カラー 重度障害児の「今」を育み,「未来」を創るさまざまなテクノロジー(引地晶久)
第1章 「小児リハビリテーションの意義」
 超少子時代の日本における小児リハビリテーション診療の意義(芳賀信彦)
第2章 「小児リハビリテーションにおける評価」
 粗大運動発達(近藤和泉)
 神経発達症(橋本圭司)
第3章 「小児リハビリテーションの実践」
 痙縮への対応(根津敦夫)
 脳原性障害による肢体不自由児への対応(藪中良彦)
 四肢形成不全児のリハビリテーション―治療の実践と包括的支援(藤原清香)
 発達障害児への対応
  (1)ADHD/ASDのある子どものアセスメントと多職種連携(奥村香澄)
  (2)学習障害(大西正二)
  (3)発達性協調運動症(岩永竜一郎)
 感覚障害児への対応―視覚障害の場合(森本 壮)
 新たな治療薬導入による変化
  (1)筋ジストロフィー患者への新たな治療とリハビリテーション診療(原 貴敏)
  (2)脊髄性筋萎縮症(SMA)患者への新たな治療とリハビリテーション診療(木水友一)
 小児リハビリテーション(学校作業療法)と遊び・学び―インクルージョンの実践(仲間知穂)
 小児リハビリテーションにおける出口戦略(移行期)(奈倉道明)

 Column
  担い手の確保―作業療法士(大西麓子)
  小児理学療法の担い手の確保―どこでも誰もが専門性の高い理学療法を受けられるために(中 徹)
  担い手の確保―小児領域の言語聴覚士 大塚佳代子(工藤芳幸)
  障害のある子どもと家族(親・兄弟姉妹)を支えるリハビリテーション専門職の役割(里中綾子)