やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序
 インプラント治療はこの数十年で飛躍的な進歩を遂げた.かつては限られた症例に対する治療法であったが,現在では欠損補綴の重要な選択肢として広く普及している.治療術式もCBCTによる3次元診断,デジタルプランニング,ナビゲーション手術システムの発展といった,デジタル機器とソフトウェアの進化により,治療の安全性と確実性が大きく向上した.しかしながら,治療技術が進歩した現在においても,インプラント治療の本質は変わらない.それは,単にインプラントを埋入することだけでなく,患者の失われた口腔機能を回復し,長期的に咬合支持を維持し,インプラントのみならず残存歯をも守ることである.
 我々 デンタルコンセプト21(DC21)のメンバーはこれまで長年にわたりインプラント治療に携わってきたが,本書のテーマである「臼歯部インプラント治療」には,特有の難易度の高さが存在する.いわば,前歯部とは異なる咬合力の大きさに代表される生体力学的問題と清掃性に伴う感染管理の問題である.さらに,問題を複雑化しているのが上顎洞,下歯槽神経など解剖学的な手術の制約と,上顎における骨密度の低さなどであろう.その中でも強く感じているのはインプラント治療の成功は手術当日には決まらないということであり,真の評価は10年後,20年後,あるいは30年後にこそ行われるべきで,予知性についての問題点を強調しておきたい.
 本書の内容・構成とその狙いは,臼歯部インプラント治療に焦点を当て,検査・診断から外科処置,補綴設計,咬合管理,長期メインテナンスまでを対象に,多くの臨床経験によって培われたクリニカルガイドについて余すことなくカバーしているところである.特に長期経過症例から得られた知見とEBM(Evidence-Based Medicine:科学的根拠に基づく医療)は,若い臨床家にとって有益なインプラント治療指針になるものと考えている.2025年に刊行した『前歯部インプラントクリニカルガイド 文献と治療実績から導く判断基準と臨床術式』と併読していただくことによって,より質の高いインプラント治療を体系的に会得できるものと確信している.本書の著者陣の総意としての願いである「安全で予知性の高いインプラント治療を広める」ための一助となり,患者の長期的な健康に貢献できれば幸いである.
 末筆ながら,本書のコラム執筆において素晴らしい原稿参加をいただいた教授陣に,心より感謝の意を表する.
 中村社綱
第1章 臼歯部インプラント治療の基本知見 成功条件と長期予後に関わる重要因子
 (中村社綱)
 I 臼歯部インプラントにおける成功と失敗の定義
 II 咬合再建の基本戦略
 III 臼歯部インプラント治療の実際
 IV 補綴装置とマテリアル
 V 長期経過におけるトラブルパターンと対応策
第2章 臼歯部インプラント治療のトリートメントアルゴリズム 臨床での判断基準と埋入位置の設計 (木津康博)
 I 臼歯部インプラント治療のトリートメントアルゴリズム
 II 即時(早期)埋入,待時埋入の判断基準
 III 即時荷重,待時荷重の判断基準
 IV 単一歯欠損・複数歯中間歯欠損・遊離端欠損におけるインプラント埋入位置の設計
 V 補綴装置の連結・非連結の判断基準
第3章 臼歯部インプラントの臨床術式 治療ステップの詳細と併発症への対応方法
 I 術式オプションの選択とその有用性(三好敬三)
 II 標準術式 検査・診断から手術,術後管理まで(北所弘行)
 III 臼歯部抜歯即時インプラントの埋入術式(下田 徹)
 IV 臼歯部骨造成術の併発症への対処(木津康博)
第4章 症例集 エキスパートによる咬合再建の実例
 One Abutment-One Time conceptによる下顎臼歯部の単独欠損症例(田中洋一)
 上顎両側臼歯欠損部において上顎洞を回避しインプラントの意図的傾斜埋入を行った症例(上杉崇史)
 Graftless Solutionsに基づいた臼歯部のOral Rehabilitation(川端一裕)
 d-CAISを用いて解剖学的リスクを回避した上顎臼歯部の骨造成症例(鎌倉 聡)

 Column
  臼歯部インプラント治療において「咬合支持回復」がもたらす臨床的価値 長期データから見た臼歯部インプラントの治療成績(山﨑 陽)
  歯科医師が知っておくべき臼歯部インプラント治療前の基礎知識 インプラント周囲炎予防のための注意事項と対処法(辰巳順一)
 臼歯部の骨造成に用いるグラフトマテリアルの特徴とその選択(松野智宣)
 インプラント手術時に注意すべき顎骨病変(山下佳雄)
 臼歯部インプラントに関連する形態学的背景(松尾雅斗)
 臼歯部インプラントのための咬合の基礎知識(古谷野 潔)